みしひとも こぬやどなれば さくらばな いろもかはらず はなぞちりける
見し人も 来ぬ宿なれば 桜花 色もかはらず 花ぞ散りける
以前仲睦まじくした人も訪れなくなったわが家なのに、桜は変わらぬ色に咲き、そして散っていくのであるよ。
うつろう人の心を、何も変わらずに訪れる春との対比で嘆ずる構図は 207、790 にも見られます。貫之にとって、ひとつの固定的なテーマなのかもしれませんね。790 は百人一首にも採録され、古今集(0042)にも入集した、最も著名な貫之歌と言えるでしょうか。
ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
(貫之集790 では第三句が「ふるさとの」とされています。)