あすしらぬ わがみとおもへど くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ
明日知らぬ わが身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ
紀貫之
明日の命も知れないわが身と思うものの、日の暮れるまでの間、今日はあの人のことが悲しく思われるのだ。
本歌と次の 0839 共通の詞書に「紀友則が身まかりける時よめる」とあり、友則の死を悼んでの詠歌であることがわかります。言うまでもなく紀友則は古今集の撰者の一人であり、本来その中心人物であったとされていますが、その友則の死に際しての歌が当の古今集に採録されているということになります。この点の解釈としては、①友則は古今集編纂の途中で亡くなったという説 ②この両歌(0838、0839)は古今集完成後に増補として追録されたという説 の両説があり、古今集には他にも古今集が完成したとされる延喜5年(905年)より後に詠まれた歌が10首ほど採録されていることから、②の説が有力ではないかと考えられています。