ながれては いもせのやまの なかにおつる よしののかはの よしやよのなか
流れては 妹背の山の 中に落つる 吉野の川の よしや世の中
よみ人知らず
流れ流れて滝となって落ちる吉野川に、「妹」と「背」に隔てられている妹背の山。いやはや世の中の男女の仲とは、所詮そのようなものだ。
「妹背の山」、「妹」は女、「背」は男を象徴しており、その間を分かつように落ちる吉野川から、ままならない恋も「それが恋というもの、人生というもの」との達観を詠んだ詠歌。叶わぬ恋に悲観して死をもが頭をよぎると詠んた 0827 に対し、いやいや失恋ごときで命を絶とうなどと思うものではない、あの妹背の山でさえ吉野川に間を隔てられているのだからと説いているようにも思えます。理屈ではどうにもならない恋をする、と歌った 0469
ほととぎす なくやさつきの あやめぐさ あやめもしらぬ こひもするかな
ほととぎす 鳴くや五月の あやめぐさ あやめも知らぬ 恋もするかな
から始まった恋歌の章、思うにまかせないのが恋というものという本歌で締め括りです。360首ありましたのでほぼ1年間続いた恋歌のご紹介も今日でお仕舞。明日からは巻第十六「哀傷歌」の章となります。