かみなつき しぐれにぬるる もみぢばは ただわびびとの たもとなりけり
神無月 時雨に濡るる もみぢ葉は ただわび人の たもとなりけり
凡河内躬恒
十月の時雨に濡れて赤く染まった紅葉の葉は、まさに嘆き悲しむ人の血に赤く染まったたもとそのものなのであるよ。
詞書には「母が思ひにてよめる」とあります。「思ひ」は「喪」の意。紀友則の死を悼む撰者二人(紀貫之、壬生忠岑)の歌に続いての、もう一人の撰者である躬恒の歌ですが、こちらは自身の母の死に際しての詠歌ということですね。躬恒もまた、友則への贐(はなむけ)の歌も詠んでいるのが自然だと思いますが、何故か現在に伝わってはいません。