うつせみは からをみつつも なぐさめつ ふかくさのやま けぶりだにたて
空蝉は からを見つつも なぐさめつ 深草の山 煙だに立て
僧都勝延
蝉の抜け殻を見るように、亡き人の亡骸を見て心を慰めていた。深草の山よ、葬られてその亡骸もない今、せめて煙だけでも立てておくれ。
詞書には「堀河の太政大臣、身まかりける時に、深草の山にをさめてけるのちによみける」とあります。「堀河の太政大臣」とは、藤原良房の子、基経のこと。基経の没年は891年ですので、この歌が詠まれたのもその同じときでしょう。「深草の山」は藤原家の墓所のあたり、「煙」は火葬の煙ですね。本来悲しい煙ですが、せめて亡き人を偲ぶよすがとしたいという思いを詠んでいます。
作者の僧都勝延(そうづ しょうえん)は延暦寺の僧。基経の臨終に立ち会っていたのでしょうか。古今集への入集はこの一首のみです。