あさぎりの おくてのやまだ かりそめに うきよのなかを おもひぬるかな
朝霧の おくての山田 かりそめに 憂き世の中を 思ひぬるかな
紀貫之
朝霧が立ち込める晩稲の山田の刈り取りが始まっている。その「刈り初め」を見るにつけ、「かりそめ」の儚いこの憂き世のことを思ったことよ。
詞書には「思ひにはべりける年の秋、山寺へまかりける道にてよめる」とあります。「思ひ」は喪、「おくて」は「置く(て)」と「晩稲」の掛詞、「かりそめ」は「刈り初め」と「かりそめ」の掛詞です。歌の配列からして亡くなった友則の喪かとも思われますが、その点は定かではありません。