「カトリック元町教会」の道路を挟んで向かいに、小さな碑と解説板があります。
函館出身の文学者、「亀井勝一郎」氏の生誕の地です。
東京帝国大学文学部美学科に入学するも、所謂「マルクス・レーニン主義」に傾倒して「共産主義青年同盟」に加わって活動し、大学を自主退学した後には治安維持法違反容疑で札幌のアジトで検挙されるなどしましたが、「非合法的政治活動には向後一切関与しない」との転向上申書を書いて釈放された後、プロレタリア文学評論家としての再出発を経て文学者としての活動を初めました。
その後には親鸞に傾倒し、仏像の美しさにも魅かれるなど、芸術の美を愛する文学者と、それを罪として仏への祈りに救いを求める信仰者との葛藤を中心課題とした作品を展開し、「いかに生くべきか」という問いかけを根底とした人生論的な文調が、若い人の精神的な指標となったとも言われています。
この碑には、亀井氏の幼少の頃からの思い出が文章として刻まれていますが、注目したいのは次の部分です。
「要するに世界中の宗教が私の家を中心に集まっていたようなもの」とあります。
どういうことかと言いますと、
少し大きめにしてみましたが、生誕の地碑の側に、フランスから伝わった「カトリック元町教会」、ロシア正教会の「函館ハリストス正教会」、イギリスから伝わって来た「日本聖公会函館聖ヨハネ教会」と、三つの宗派の教会が揃っています。この他にも、この地図からは外れてしまいますが、カトリック元町教会の北側には、アメリカから伝わった「日本基督教団函館教会」もあります。
それだけではありません。碑の東側には「東本願寺函館別院」がありますし、聖ヨハネ教会の南西には稲荷大明神まであります。これだけ狭いエリアに、これだけの宗教施設が存在しているというのは、世界的にも珍しいとされており、ガイドの際にも、必ずこの点には言及するようにしています。
一昨日のガイドでは、昨日の記事でも書いたお客様から、「違う宗派の教会が狭いエリアに固まっているということは、信者の争奪戦があったってことなのかな」という問いが投げかけられました。これに対しては、憶測で言うのもまずいと思ったので、「どうなんでしょうね・・・。そこはよく分かりません。」とはっきり答えましたが、実際のところはどうだったのでしょうね。気になります。