龍の尾亭<survivalではなくlive>版

いわきFCのファンです。
いわきFCの応援とキャンプ、それに読書の日々をメモしています。

『トム・フランクリン『ねじれた文字、ねじれた路』早川書房を読んだ。

2012年01月26日 22時36分26秒 | 大震災の中で

一週間のうちにアメリカのリステリをたまたま三冊読んだけれど、これが圧倒的に一押しです。

メディア日記龍の尾亭にも感想を書きましたのでよろしかったらそちらも。

http://blog.foxydog.pepper.jp/?eid=980341

推理小説としては別に驚天動地のトリックがあるわけではなく、むしろ話の柄は小さい。
南部の田舎町で起きた少女失踪事件に関わった中年の治安官サイラスの話だ。
少年時代野球少年だった主人公サイラスは、内気な本好きのラリーと親しく遊ぶ仲だったが、事情があって疎遠になる。

その後、ラリーは少女失踪事件の被疑者となり、証拠不十分で立件はされなかったものの、それ以降二人は20年以上話をすることもなかった。

ところがその南部の田舎町にまた少女失踪事件が発生し、ねじれたままだった二人の運命が再度ねじれた形で絡み合ってくる……というのがお話の大枠。

動きも少なくて暗い感じかな、と危惧してよみはじめたら、なんのなんの。

簡潔で具体的な描写を積み重ねつつ、豊かで繊細な心の陰翳な揺らぎを的確に浮かび上がらせていく緩みのない文体に即刻ノックアウト。
一気に読み切ってしまいました。

余計な心情描写は抑制されているのに、読者に痛いほどストレートに気持ちが響いてくる。

手練れっていうのはいるものです。

そういう意味ではハードボイルド的な叙情っぽくもあるのかな?

また、南部の田舎町でのイザコザですからむろんそこはフォークナーっぽくもある。
さらに、田舎を駆け回るトム・ソーヤーとハックルベリー・フィン的なところをちょっと押さえてたりもするし。


二人の主人公、治安官サイラスと少女失踪事件被疑者ラリーの視点が交互に出てきますが、語り自体はいたってシンプル。

そういう今では語りのテクニック満載な『二流小説家』と並べて読む機会があったのは、またこれは幸せかもしれません。

全く違ったタイプの現代アメリカミステリですから。

とにかく『ねじれた文字、ねじれた路』は、中年の本好き男には泣ける本だと思いますよ。