AI・RPAの導入でシニアが担う仕事は先細る一方で、この仕事は「何を根拠に行っているのか」「なぜこういう処理を行うのか」「どのような理由でいつからこのやり方を導入したのか」――こうした事項は「今は働ないオジサン」のように実際のオペレーションを行った者にしか分からない。最近の若手は外部業者にそのプロセスを外注化しているため、実際にやった経験がないことが多い。単なる「外部ベンダーへの指示者」となり、担当業務の原理・原則・原点を理解していない。AI時代こそ人間がその根拠とされる事実をきちんと押さえておく「6ゲン主義」(三現主義の現場・現物・現実に原理・原則・原点を加えたもの)が求められる。自らのキャリアを振り返り、自分の強みを理解していれば活躍の場は広がるだそうです。必要とされる絶対数は減るでしょうが、確実に必要な仕事です。要はどんな立場に追い込まれても、知恵と勇気さえあれば乗り越えられるということです。
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日本製鉄、JFEスチールなど鉄鋼大手4社の労使は昨春、2021年度から定年を60歳から65歳に延長することで合意した一方、同時に全世代の賃金体系を変えることも決めている。
賃金カーブの全体的な見直しなくして定年だけを延長することはできないのである。しかもこの場合、ターゲットとなりやすいのは人員構成上のボリュームゾーンになっている特定の世代だ。すなわちおおむね50~54歳のバブル入社世代と、46~49歳の団塊ジュニア世代だ。年齢が高くなるほど賃金が上がる年功賃金がまだまだ残る現状では、高年齢層の割合が増えるほど人件費が企業に重くのしかかるのだ。
「長寿命社会が到来したので定年延長しましょう」と簡単にはいかないのである。ミドルを中心とした社員の人生設計にも大きく影響してしまうのだ。
賃金抑制にとどまらない。一部企業が着々と進めているのが、主に45歳以上を対象とし、前述の二つの世代の人員削減を狙った早期退職募集だ。
注目すべきは、好業績の大手企業が行っている点だ。東京商工リサーチの調査によると、上場企業が2019年1~11月に行った早期・希望退職募集は1万人を突破した。2018年1~12月の約3倍の人数であり、2020年も多くの企業が「黒字リストラ」を実施することが明らかになっている。
人員削減は、業績悪化時に行うとの考えは過去の話になっている。定年年齢よりもずっと早い段階で、いまの会社を離れるべきか否かの重大決断を迫られることだってあり得るのだ。
▽シニアに働く場はあるか
幸運にも長年勤めてきた会社に残り続けられたとしても油断はできない。シニアが担える仕事が今後も社内にあるとは限らないからだ。人工知能(AI)や事務作業をソフトウエアに代行させるロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の導入が急加速している。三井住友フィナンシャルグループをはじめとしたメガバンク各社がRPAを活用し、数千人、数万人相当の業務効率化を図ろうとしているのが、その象徴だ。
データ入力や経理といったホワイトカラーの典型的な仕事も今や外注化や外部への部門売却が当たり前になった。シニアが担う業務は、どんどん「なくなっていく」と考えていた方がよさそうだ。
職場で行き場に困ったシニアが、単純作業要員としてこき使われたり、パワハラ系若手上司の下でメンタルを病んでしまったりする事例も、筆者は多く見てきた。
▽キャリア、自ら決める覚悟を
ここまでサラリーマンにとって厳しい現実を見てきた。先の読めない時代にあって、多くのシニアやミドルが抱く不安を突き詰めると「いつまでこの会社で働けるのか」であろう。こうした不安を解消するには発想の転換が必要だ。すなわち「自分の定年は自分で決める」意識を持つことである。国や会社が決めたレールに乗り続けるのではなく、自分のキャリアは自分で決める覚悟を持つべきなのだ。
実際、今回の改正案でも、雇用に限らず65歳以降は、サラリーマンも独立して自律的に働けるよう企業に対して支援することを求めている。経済産業省が2017年に公表した報告書も、企業の役割について「『雇い続けることで守る』から、『社会で活躍し続けられるよう支援することで守る』」に変容が求められていると指摘している。
筆者もそうであるが、多くの人が新卒一括採用で企業の一員となり、その企業で60歳の定年を迎え、年金により余生を送るモデルを想定してきた。しかし長寿命化でリタイア後の経済的な下支えだった厚生年金の65歳支給への後ろ倒し(さらなる後ろ倒しの可能性もあり)もあり、人生100年時代に合った新たなモデルが必要になってきている。国や企業の動向に左右されない、自律的なキャリアデザインが一人一人に求められている。
AI時代こそ人間がその根拠とされる事実をきちんと押さえておく「6ゲン主義」(三現主義の現場・現物・現実に原理・原則・原点を加えたもの)が求められる。自らのキャリアを振り返り、自分の強みを理解していれば活躍の場は広がるだろう。
また、今のミドル・シニア層は、日本企業のメンバーシップ型雇用の中で転勤・転属によりさまざまな職種、部署で実務経験を積んできた。元リクルート出身で杉並区中学校の校長を務めた藤原和博氏の提唱する「複数の専門性を掛け合わせてレア人材」になるために必要な専門性が既に獲得できているのである。多くの人が気付いていないのだが、獲得したノウハウをいま一度磨き上げることで誰でも「レア人材」になれる可能性があるのだ。
注意すべきは、セカンドキャリアでは「実務経験」と「人柄」が重視されるという点だ。履歴書に書くための資格取得を考えてしまいがちだが、今までの経験と関係のない資格を取っても転職や新しい仕事にはつながらないと考えていた方が良い。
2019年10月出版の拙著「知らないと後悔する定年後の働き方」で、ミドル・シニアのための実践的なキャリアデザイン術(キャリアの棚卸し、キャリアの方向性の見極め方等)を紹介している。興味ある方はご一読いただければと思う。
日本の男性の健康寿命は72・14歳(2016年データ)。健康寿命とは、日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命を維持し、自立した生活ができる生存期間を言う。満員電車で長時間通勤を70歳までいやいや続け、ようやく引退。「さて百名山登山と、のんびり温泉巡りだ」と張り切っても、その期間はわずか2年ということも現実になる。キャリアの節目(役職定年、定年など)に一度じっくり時間をとり自らのキャリアを見つめ直すタイミングを設けることをおススメしたい。「妖精さん」「働かないオジサン」とお荷物扱いされている暇はない。若手・ミドル・シニアが世代間で断絶することなく「ワンチーム」でスクラムを組み、お互いの得意分野を生かして「誰もが働けるうちは働く」社会をつくっていくことこそ、超高齢社会の目標とする姿ではないだろうか。(人事コンサルタント=木村勝)
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