明治32年4月1日に施行された
旧国籍法では、どのような重国籍者への
制限があったかというと、
第5条 外国人ハ左ノ場合ニ於テ日本ノ国籍ヲ取得ス
1 日本人ノ妻ト為リタルトキ
2 日本人ノ入夫ト為リタルトキ
3 日本人タル父又ハ母ニ依リテ認知セラレタルトキ
4 日本人ノ養子ト為リタルトキ
5 帰化ヲ為シタルトキ
そもそも第5条により、この様に事実上の重国籍を
容認していた条文が見られることから、
重国籍者に対する制限は、極めて少ないと言えます。
第20条 自己ノ志望ニ依リテ外国ノ国籍ヲ取得シタル者ハ日本ノ国籍ヲ失フ
第20条ノ2 勅令ヲ以テ指定スル外国ニ於テ生マレタルニ因リテ其国ノ国籍ヲ取得シタル日本人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ日本ノ国籍ヲ留保スルノ意思ヲ表示スルニ非サレハ其出生ノ時ニ遡リテ日本ノ国籍ヲ失フ
第20条、第20条ノ2にあるように、
自らの意思で外国国籍を得た者や
国籍留保の意思を表示しなかった場合には、
日本国籍を離脱しなければならないのは、
現行の国籍法と全く同じです。
第18条 日本人カ外国人ノ妻ト為リ夫ノ国籍ヲ取得シタルトキハ日本ノ国籍ヲ失フ(大正5年法律第27号により本条改正)
(明治32年法律第66号)
旧第18条 日本ノ女カ外国人ト婚姻ヲ為シタルトキハ日本ノ国籍ヲ失フ
一方、日本人女性が外国人夫と
婚姻した場合にも、
日本国籍を喪失していましたが、
これは、婚姻して、夫の国籍を
取得した場合にのみに喪失すると
改正されています。
第24条 満十七年以上ノ男子ハ第19条、第20条及前三条ノ規定ニ拘ハラス既ニ陸海軍ノ現役ニ服シタルトキ又ハ之ニ服スル義務ナキトキニ非サレハ日本ノ国籍ヲ失ハス
また、徴兵制度のあった
旧帝国憲法の下であったことから、
婚姻や養子によって日本国籍を獲た者のうち、
兵役義務を果たさなかった者の日本国籍は
喪失するとされていました。
しかし、多くの移民の場合に当てはまる
出生によって外国籍を獲た重国籍者は
対象外でありました。
第25条 婚姻ニ因リテ日本ノ国籍ヲ失ヒタル者ガ婚姻解消ノ後日本ニ住所ヲ有スルトキハ法務総裁ノ許可ヲ得テ日本ノ国籍ヲ回復スルコトヲ得
面白いのは、外国人夫と婚姻して
外国籍を獲ることによって、
日本国籍を失った日本人女が、
婚姻解消後、日本に住所に有するときは、
法務総裁(現在の法務大臣)の許可により、
日本国籍の回復が出来たという条文です。
ところが、現行の新国籍法では、
日本人が婚姻による理由で外国籍を獲て、
一旦日本国籍を離脱した場合には、
自らの意思で日本国籍を離脱した者と同じく、
帰化による国籍取得しか道が無く、
元日本国籍を有していた者に対して、
配慮が足りないというか、旧国籍法に比べて、
冷たい法律になっている感があります。
このように、旧国籍法は現行の国籍法より、
合理的であり、かつ、新国籍法より
完成された法律であったと私は思っています。
第16条 帰化人、帰化人ノ子ニシテ日本ノ国籍ヲ取得シタル者及ヒ日本人ノ養子又ハ入夫ト為リタル者ハ左ニ掲ケタル権利ヲ有セス
1 国務大臣ト為ルコト
2 枢密院ノ議長、副議長又ハ顧問官ト為ルコト
3 宮内勅任官ト為ルコト
4 特命全権公使ト為ルコト
5 陸海軍ノ将官ト為ルコト
6 大審院長、会計検査院長又ハ行政裁判所長官ト為ルコト
7 帝国議会ノ議員ト為ルコト
ただし、帰化者やその子、或いは、養子、
更には婚姻によって日本国籍を獲た
外国人夫等に対しては、
国家の要職に就くことを禁止しており、
この点では、現行国籍法にも
第16条 2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。
と外国公務員に就任し、国籍選択の
趣旨に反すると認めるときは、
法務大臣が国籍喪失の宣言ができる。
との曖昧な表現での記載がありますが、
旧国籍法の方が至って明瞭・明白な記載です。
従って、本来ならば外国政府の元首となった
ようなペルーのフジモリ大統領に対して、
日本国籍喪失を当然に宣言すべきでしょうが、
この曖昧な文言により出来なかったのでないのか?
と想像してしまいます。
帰化した者や移民二世などに対して、
国家の要職である大統領や大臣などに
就任できない規定を設けている国々は
今現在でも多数あり、むしろ現行の新国籍法
における大きな欠点の一つかもしれません。
以上のように、優れた旧国籍法から、
欠陥だらけで、憲法違反と
指摘される条文の多い新国籍法へ、
なぜ戦後に改悪されてしまったのか?
という謎が多く残ります。
それは、当時の政治情勢と深い関わりが
あったことが推測されるのです。
(以下、次回)
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旧国籍法では、どのような重国籍者への
制限があったかというと、
第5条 外国人ハ左ノ場合ニ於テ日本ノ国籍ヲ取得ス
1 日本人ノ妻ト為リタルトキ
2 日本人ノ入夫ト為リタルトキ
3 日本人タル父又ハ母ニ依リテ認知セラレタルトキ
4 日本人ノ養子ト為リタルトキ
5 帰化ヲ為シタルトキ
そもそも第5条により、この様に事実上の重国籍を
容認していた条文が見られることから、
重国籍者に対する制限は、極めて少ないと言えます。
第20条 自己ノ志望ニ依リテ外国ノ国籍ヲ取得シタル者ハ日本ノ国籍ヲ失フ
第20条ノ2 勅令ヲ以テ指定スル外国ニ於テ生マレタルニ因リテ其国ノ国籍ヲ取得シタル日本人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ日本ノ国籍ヲ留保スルノ意思ヲ表示スルニ非サレハ其出生ノ時ニ遡リテ日本ノ国籍ヲ失フ
第20条、第20条ノ2にあるように、
自らの意思で外国国籍を得た者や
国籍留保の意思を表示しなかった場合には、
日本国籍を離脱しなければならないのは、
現行の国籍法と全く同じです。
第18条 日本人カ外国人ノ妻ト為リ夫ノ国籍ヲ取得シタルトキハ日本ノ国籍ヲ失フ(大正5年法律第27号により本条改正)
(明治32年法律第66号)
旧第18条 日本ノ女カ外国人ト婚姻ヲ為シタルトキハ日本ノ国籍ヲ失フ
一方、日本人女性が外国人夫と
婚姻した場合にも、
日本国籍を喪失していましたが、
これは、婚姻して、夫の国籍を
取得した場合にのみに喪失すると
改正されています。
第24条 満十七年以上ノ男子ハ第19条、第20条及前三条ノ規定ニ拘ハラス既ニ陸海軍ノ現役ニ服シタルトキ又ハ之ニ服スル義務ナキトキニ非サレハ日本ノ国籍ヲ失ハス
また、徴兵制度のあった
旧帝国憲法の下であったことから、
婚姻や養子によって日本国籍を獲た者のうち、
兵役義務を果たさなかった者の日本国籍は
喪失するとされていました。
しかし、多くの移民の場合に当てはまる
出生によって外国籍を獲た重国籍者は
対象外でありました。
第25条 婚姻ニ因リテ日本ノ国籍ヲ失ヒタル者ガ婚姻解消ノ後日本ニ住所ヲ有スルトキハ法務総裁ノ許可ヲ得テ日本ノ国籍ヲ回復スルコトヲ得
面白いのは、外国人夫と婚姻して
外国籍を獲ることによって、
日本国籍を失った日本人女が、
婚姻解消後、日本に住所に有するときは、
法務総裁(現在の法務大臣)の許可により、
日本国籍の回復が出来たという条文です。
ところが、現行の新国籍法では、
日本人が婚姻による理由で外国籍を獲て、
一旦日本国籍を離脱した場合には、
自らの意思で日本国籍を離脱した者と同じく、
帰化による国籍取得しか道が無く、
元日本国籍を有していた者に対して、
配慮が足りないというか、旧国籍法に比べて、
冷たい法律になっている感があります。
このように、旧国籍法は現行の国籍法より、
合理的であり、かつ、新国籍法より
完成された法律であったと私は思っています。
第16条 帰化人、帰化人ノ子ニシテ日本ノ国籍ヲ取得シタル者及ヒ日本人ノ養子又ハ入夫ト為リタル者ハ左ニ掲ケタル権利ヲ有セス
1 国務大臣ト為ルコト
2 枢密院ノ議長、副議長又ハ顧問官ト為ルコト
3 宮内勅任官ト為ルコト
4 特命全権公使ト為ルコト
5 陸海軍ノ将官ト為ルコト
6 大審院長、会計検査院長又ハ行政裁判所長官ト為ルコト
7 帝国議会ノ議員ト為ルコト
ただし、帰化者やその子、或いは、養子、
更には婚姻によって日本国籍を獲た
外国人夫等に対しては、
国家の要職に就くことを禁止しており、
この点では、現行国籍法にも
第16条 2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。
と外国公務員に就任し、国籍選択の
趣旨に反すると認めるときは、
法務大臣が国籍喪失の宣言ができる。
との曖昧な表現での記載がありますが、
旧国籍法の方が至って明瞭・明白な記載です。
従って、本来ならば外国政府の元首となった
ようなペルーのフジモリ大統領に対して、
日本国籍喪失を当然に宣言すべきでしょうが、
この曖昧な文言により出来なかったのでないのか?
と想像してしまいます。
帰化した者や移民二世などに対して、
国家の要職である大統領や大臣などに
就任できない規定を設けている国々は
今現在でも多数あり、むしろ現行の新国籍法
における大きな欠点の一つかもしれません。
以上のように、優れた旧国籍法から、
欠陥だらけで、憲法違反と
指摘される条文の多い新国籍法へ、
なぜ戦後に改悪されてしまったのか?
という謎が多く残ります。
それは、当時の政治情勢と深い関わりが
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