一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

構造計算書偽造問題について

2005-11-20 | あきなひ

既にいろいろ報道されていますが、自分なりの整理ということでまとめてみました。

1.設計事務所がなぜ偽造したのか
僕の記憶では設計会社は普通建築費の何%とか、または人工(にんく)計算で作業量に応じて報酬が決まる事が多いと思うので、「建築コストを下げるためにやった」というのは普通考えにくいです。
建築会社が設計施工を請け負って、コスト削減のために構造計算をやる事務所に因果を含めた、とか、施主自体が偽装を強要したというのがいちばんありそうなところだと思います。
なので

強度偽装マンション、半分以上が同じ建築主
(2005年11月19日(土)3:00 読売新聞)
耐震強度偽造、建築主は5社に集中 施工も特定業者
(2005年11月20日 (日) 12:09)

というのは、さもありなん、という感じではあります。

2.住民は泣き寝入り、というわけではない
テレビや新聞では「自分のマンションだったと聞いて途方に暮れる住民」という報道が多いように見受けられましたが、今日明日の大地震は確かに心配ではありますが、今回のとばっちりをすべて受けて泣き寝入り、というわけではありません。

分譲マンションであれば住宅の品質確保の促進等に関する法律で新築住宅の売主は、引渡し時から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の隠れた瑕疵について瑕疵担保責任を負うことになっていますので、売買契約の瑕疵担保責任を追求して、修補不能(多分改修工事程度ではできないんじゃないかと思いますが)であれば契約解除ができます。

また、賃貸マンションであれば、とっとと出て行ってしまえばいいですし、貸主の債務不履行責任を追及すれば、引越し代くらいは取り戻せると思います。

国も住宅性能の向上に向けていろいろな施策を実施しているのですから、そういうところにも少し言及した報道があってもよかったかな、と思います。

新たに都内2棟倒壊の恐れ 代金全額返済へ
(2005年11月20日 (日) 18:11 共同通信)

福岡市の不動産会社シノケンは20日、姉歯建築設計事務所(千葉県市川市)が建築確認に使う構造計算書を偽造していたシノケン関連4棟のうち、東京都港区と新宿区のマンション計2棟が、震度5強程度の地震で倒壊する恐れがあると発表した。
オーナーに販売した後、賃貸されており、シノケンは売買契約を白紙化し、代金を全額返済する方針。

というのは施主・売主としても当然の対応だと思います。
発表を遅くすると、自分もグルだという印象が強まってしまいますし、買戻しをしてから設計会社に責任追及をしていくしかないと思います。

京王のホテルの営業休止も同様の文脈でやむをえないと思いますし、客商売だけあってすばやい対応をしたと思います。

実際上は設計会社にそれほどの財産があるわけでもないでしょうから、収支的には大打撃でしょうけど。

3.指定確認検査機関の問題
建物を建てる場合には、建築確認申請をして、確認を受けなければなりません。この建築確認の事務は従来役所がやっていたのですが、建築基準法の改正により民間の「指定確認検査機関」に建築確認申請を出して確認を受けることも出来るようになりました。
現在、㈱東日本住宅評価センター、とイーホームズ㈱という2社が指定を受けています。
今回の偽造もイーホームズの通報により発覚したものです。

ではなぜ今まで気づかずに21棟もが確認を受けられたのか、ということについては

東日本住宅評価センター と イーホームズ のサイト

に詳しく載っています。

簡単にいうと、確認申請には国土交通省の認定した構造計算プログラムに沿って計算した計算書を添付するのですが、一部の数字をプログラムを利用せずに入力した場合に表われる表示を見逃していたことにあるようです。
※これについては、イーホームズは計算の一部を「個別計算」する方法自体は違法ではないので「見落としという過失はない」と主張しています。
※東日本住宅評価センターは「改ざんを発見出来なかったことに関して、指定確認検査機関としての責任を感じております。」と表明しています。

ただ、両機関とも「大臣認定プログラムによる計算は正しいということを信じたことに過失はない」という前提に立っているように思います(東日本住宅評価センターの再発防止策には「再発防止に関しましては、構造計算プログラムの性能・仕様についての認識を深め、構造計算書のヘッダー表示の確認等を徹底してまいります」とあります。)

ということは、指定確認検査機関は必要な書類が揃っていることを確認するだけの仕事なのでしょうか。

「建築基準法に基づく指定資格検定機関等に関する省令」には

(確認検査の方法)
第二十三条  法第七十七条の二十四第一項 の国土交通省令で定める方法は、次の各号に掲げる確認又は検査に応じ、それぞれ当該各号に定めるものとする。
イ 建築基準法施行規則 (昭和二十五年建設省令第四十号。以下「施行規則」という。)別記第二号様式の第二面 から第五面 までに記載すべき事項のほか、次の(1)から(12)までに掲げる事項が記載された図書及び(13)に掲げる図書をもって行うこと。

とあります。この図書のひとつに構造計算書があるわけなのです。
「図書をもって」確認または検査する、というのは図書の有無を検査するのではなく、図書が適正に作成されているか否かを確認する事も含まれると思います。

大臣認定プログラムのウラをかかれた、というところを強調して「だから仕方ないんだもん」風なトーンは、結局民間委託といっても役所の天下り先の確保のための施策だったのか、などと勘ぐりたくなってしまうところもちょっとあります。

特にこの手の「所定の許認可を受けた民間会社が〇〇できる」というのは、民営化の効率性をもたらすのでなく、単に新たな寡占・利権をもたらすだけ、ということがよくありますので。

指定確認検査機関に今回の件で民事上の損害賠償責任まで負わせるのは難しいと思いますが、検査機関として(理想的な)役所に期待されると同等のレベルの仕事を求められているという自覚を持っていただきたいと思います。

コメント (4)
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