一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

CSR、倒産法制、"Empty Pocket"問題など(構造計算書偽造問題 その3)

2005-11-22 | あきなひ
構造計算書偽造問題については、
構造計算書偽造問題について
マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)
でふれたのですが、今回特に被害・リスクの大きいマンション購入者については

①マンションの瑕疵を理由に契約解除して売主から売買代金を回収するのが手っ取り早い
②工作物責任のリスクを考えると一刻も早くしたほうがよい

ということがいえると思います。

しかしここで問題になるのは「マンション分譲業者は契約解除に応じるだけの資金力があるか?」という点です。

分譲マンション業者は

  ① 土地を購入(代金支払い)
       ↓
  ② 建物を建築(建築費支払い)
       ↓
  ③ 一般分譲(投下資金+利益回収)

を繰り返す商売をしています。①から③までは(規模にもよりますが)1年~1年半くらいで、銀行からの借り入れを運転資金にしながら資金の回転を早くして収益性をあげよう、という構造になっていると思います(なので、今回のような「仕事が速く工事の手間もかからない設計をする設計事務所」が重宝がられたのでしょう)

これは見方によっては自転車操業なわけです。
となると

 A 自己資金がない
 B 銀行の追加融資が受けられない

という状態になると、契約を解除されても返す代金がないので倒産してしまうわけです。

今回の売主のプロフィールは調べてませんが、構造計算書の偽造に荷担しておらず、今後も事業を続けていこうという会社であれば、CSR(企業の社会的責任)またはブランド失墜の回避のために自ら率先して買戻しを申し出るはずだと思います。

しかし、買い戻すにも自己資金がない場合は、銀行に頼るしかないわけですが、融資を依頼された銀行としては
 イ 会社が構造計算書偽造に荷担していて免許停止になる可能性
 ロ 建築会社、設計会社の資力が乏しいため求償できずに買い戻し費用がそのまま持ち出しになる可能性
 ハ ブランドイメージが維持できずに、今後の収益が悪化する可能性
というあたりをリスクとして考えます。

銀行は自分の株主に対する責任もあるので、倒産リスクのある企業にあえて融資をしていきなり倒産した場合には株主代表訴訟にもなりかねません(そこにあえて資金投入するのが銀行のCSRとまでは言えないと個人的には思います)。


となると、現時点でマンション分譲業者の自己資金がない場合は銀行の融資も受けられず
、契約解除をしても業者の倒産によって代金が戻ってこない、ということが残念ながら現実的なシナリオなのではないかと思います。


また、業者が倒産した場合には法律にのっとって債権の優先順位が決められ、担保をとっていない債権者は大きく債権カットされてしまいます。
考えられるとすれば民事再生の再生計画の中で、住民の買い戻し費用や耐震回収費用を優先的に支払うように債権者間の同意を取りつけることくらいだと思います。ただ、この場合も銀行等の債権者が被害者救済のために自分の債権回収を犠牲にする、という判断を迫られる事になります。
※ここは素人考えなので、他に手段があるかもしれませんが


資力のある大企業(Deep Pocket)が関係者にいる場合は理屈をつけてそこに負担をさせるという、という解決もある(もちろん大企業の側から見てそれが公正か、CSRの限度を超えていないかという問題はあります)のですが、関係者の財政基盤が弱い場合(いわば"Empty Pocket"状態でしょうか)には民事上の世界では実効性のある救済は難しいという問題があります。


そうすると、行政が公的資金で救済する、という選択肢もありますが、一私企業の悪事を公的資金で救済するには、(アスベスト問題などと比べても)事件の規模や一般性などが少し不足している感じもします。
たとえば築年数が古く老朽化したマンションの建て替え費用の補助との比較の問題になると思います。


あとは、業界団体が保険に加入するような制度をつくり、今回だけ遡及適用する、とかいう方法がありますか(保険料率の問題やらモラルハザードの問題があるのでダメか・・・)


うーん、なかなか難しそうですね・・・(すみません、尻切れトンボで)
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マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)

2005-11-22 | あきなひ

一昨日の記事toshiさんの記事でご紹介いただき、恐縮至極のあまり調子に乗ってお礼のコメントで

「責任」といってもいろんな切り口があるので、被害者救済と再発防止、業界や行政の信頼回復に向けての解決の全体像(おさまり)をイメージする必要があると思います。

などと申し上げた手前、もう少しいろんな視点から考えてみようと思います。

これはろじゃあさんが取り上げられている、欠陥マンションの購入者が万が一マンションが地震で倒壊して近隣に損害を与えた場合に、自らが工作物責任を負うリスクがあるという問題です。

工作物責任とは次の規定(民法717条)のことをいいます。

 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

これは土地の工作物(当然建物も含まれます)に瑕疵があった場合には、所有者は自分がその欠陥について故意・過失がなくても責任を負うことになります(無過失責任)。
そして瑕疵とは一般的には工作物が本来備えるべき安全性を欠いていること、と言われています。
では建物が自然災害である地震に対してどの程度の耐震性を有していれば瑕疵ではないか、が問題になります。

これに関して有名なものでは昭和53年の宮城県沖地震の際に以下のような事件が起きました。

Aは自宅の周りにコンクリートブロック塀を作ろうとBに発注した。しかしBはブロック塀に鉄筋を入れないなどの手抜き工事をした。Aはそれを全く知らずに数年後に宮城県沖地震(震度6)があり、ブロック塀の下敷きになって小学生Cが死亡した。
Cの両親はAに工作物責任に基づく損害賠償請求をした。

これに対して判決(仙台地判昭和56年5月8日)は

① 宮城県沖地震は過去に発生したことのない震度6の地震であった。そのような地震にまで耐える安全性を備える必要はないし、震度5程度で倒れる程度の塀であったという証明もないので設置の瑕疵はない。
② 法令上はブロック塀の改修の義務はないので保存の瑕疵もない

としてAの責任を認めませんでした(裁判例の詳しい解説はこちらをごらんください)


しかし今回は、構造計算の再計算によって「震度5でも倒壊のおそれあり」と判定されてしまったのですから、上の裁判例の考えでも設置の瑕疵はある事になってしまい、万が一の倒壊の場合には、住民は損害賠償責任を負うことになってしまいます。
※ちなみに「保存の瑕疵」については、現行の建築物の耐震改修の促進に関する法律でも改修努力義務までしか定められていないのでこちらは大丈夫だと思います。

理屈で言うとなんともやりきれない話ではあります。

万が一損害賠償責任を負った場合は、原因者である売主や施工会社などに責任追及できますがその場合は一般の不法行為責任の追及になるので、相手方の故意・過失を立証しなければいけない、というこれまた厳しい問題があります。

ということなので、工作物責任を回避するには一刻も早く契約解除してしまうのが一番なのですが、業者が倒産してしまいそうな場合などの問題もあります。

そのへんについては改めて。


PS こう考えてみると、失火責任法(※)との責任のアンバランスは際立つ感じがしますね。
(※)「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」という一文だけの法律で、火事で他人に与えた被害は故意・重過失(故意と同程度の過失)でなければ損害賠償責任を負わない、というものです。
でも、賃貸マンションで火事を起こしたりした場合は、賃貸借契約上の債務不履行責任を問われてしまいます(このネタはマンガ『ミナミの帝王』にもありましたね)ので、くれぐれも火の元にはお気をつけ下さい。

コメント (4)
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