構造計算書偽造問題について
マンションの購入者と倒壊の責任リスク(構造計算書偽造問題 その2)
でふれたのですが、今回特に被害・リスクの大きいマンション購入者については
①マンションの瑕疵を理由に契約解除して売主から売買代金を回収するのが手っ取り早い
②工作物責任のリスクを考えると一刻も早くしたほうがよい
ということがいえると思います。
しかしここで問題になるのは「マンション分譲業者は契約解除に応じるだけの資金力があるか?」という点です。
分譲マンション業者は
① 土地を購入(代金支払い)
↓
② 建物を建築(建築費支払い)
↓
③ 一般分譲(投下資金+利益回収)
を繰り返す商売をしています。①から③までは(規模にもよりますが)1年~1年半くらいで、銀行からの借り入れを運転資金にしながら資金の回転を早くして収益性をあげよう、という構造になっていると思います(なので、今回のような「仕事が速く工事の手間もかからない設計をする設計事務所」が重宝がられたのでしょう)
これは見方によっては自転車操業なわけです。
となると
A 自己資金がない
B 銀行の追加融資が受けられない
という状態になると、契約を解除されても返す代金がないので倒産してしまうわけです。
今回の売主のプロフィールは調べてませんが、構造計算書の偽造に荷担しておらず、今後も事業を続けていこうという会社であれば、CSR(企業の社会的責任)またはブランド失墜の回避のために自ら率先して買戻しを申し出るはずだと思います。
しかし、買い戻すにも自己資金がない場合は、銀行に頼るしかないわけですが、融資を依頼された銀行としては
イ 会社が構造計算書偽造に荷担していて免許停止になる可能性
ロ 建築会社、設計会社の資力が乏しいため求償できずに買い戻し費用がそのまま持ち出しになる可能性
ハ ブランドイメージが維持できずに、今後の収益が悪化する可能性
というあたりをリスクとして考えます。
銀行は自分の株主に対する責任もあるので、倒産リスクのある企業にあえて融資をしていきなり倒産した場合には株主代表訴訟にもなりかねません(そこにあえて資金投入するのが銀行のCSRとまでは言えないと個人的には思います)。
となると、現時点でマンション分譲業者の自己資金がない場合は銀行の融資も受けられず
、契約解除をしても業者の倒産によって代金が戻ってこない、ということが残念ながら現実的なシナリオなのではないかと思います。
また、業者が倒産した場合には法律にのっとって債権の優先順位が決められ、担保をとっていない債権者は大きく債権カットされてしまいます。
考えられるとすれば民事再生の再生計画の中で、住民の買い戻し費用や耐震回収費用を優先的に支払うように債権者間の同意を取りつけることくらいだと思います。ただ、この場合も銀行等の債権者が被害者救済のために自分の債権回収を犠牲にする、という判断を迫られる事になります。
※ここは素人考えなので、他に手段があるかもしれませんが
資力のある大企業(Deep Pocket)が関係者にいる場合は理屈をつけてそこに負担をさせるという、という解決もある(もちろん大企業の側から見てそれが公正か、CSRの限度を超えていないかという問題はあります)のですが、関係者の財政基盤が弱い場合(いわば"Empty Pocket"状態でしょうか)には民事上の世界では実効性のある救済は難しいという問題があります。
そうすると、行政が公的資金で救済する、という選択肢もありますが、一私企業の悪事を公的資金で救済するには、(アスベスト問題などと比べても)事件の規模や一般性などが少し不足している感じもします。
たとえば築年数が古く老朽化したマンションの建て替え費用の補助との比較の問題になると思います。
あとは、業界団体が保険に加入するような制度をつくり、今回だけ遡及適用する、とかいう方法がありますか(保険料率の問題やらモラルハザードの問題があるのでダメか・・・)
うーん、なかなか難しそうですね・・・(すみません、尻切れトンボで)