一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

J-Reit全体の"prospect"でもあるような

2008-09-06 | あきなひ

プロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社に対する行政処分について
(平成20年9月5日 金融庁)

2.法令違反行為等の概要は以下のとおりです。
○不適切な利益相反管理態勢
当社は、資産運用委託契約を受託しているプロスペクト・レジデンシャル投資法人(以下「当投資法人」という。)の資産の運用において、利害関係者からの取得となる不動産の鑑定評価を依頼する際に、利益相反防止の観点から問題となる、
①売主の売却希望価格と同額以上で概算評価額の算定を行うよう依頼する行為等の不動産鑑定業者の独立性を損なう不適切な働きかけ
②複数の業者に売却希望価格を提示して概算評価を依頼し、希望価格以上の価格が提示されない場合には、当該価格以上又はそれに近似する価格が提示されるまで、不動産鑑定業者を追加して概算評価額の算定を依頼する不適切な不動産鑑定業者選定プロセス等を行っていた。

証券取引等監視委員会の勧告が6月17日にあってからずいぶん日にちが経ってからの処分ですが、勧告内容とほぼ同じです。
これを受けて
金融庁による業務改善命令に関するお知らせ
(プロスペクト・レジデンシャル投資法人 プロスペクト・レジデンシャル・アドバイザーズ株式会社連名)

ご指摘を受けた、利害関係者取引において複数の業者に概算評価を依頼するなど物件取得時の不動産鑑定業者依頼・選定プロセスの問題については、利害関係者からの物件取得における不動産鑑定機関を財団法人日本不動産研究所の1機関に限定し、同機関が算定した鑑定評価額以下で購入することとし、完全に透明なプロセスとします(なお、利害関係者以外からの物件取得における不動産鑑定機関も財団法人日本不動産研究所を含む5機関に限定します)。

何社にも発注して「いいとこ取り」をするのがいけないと言われたからといって、何も発注先を特定の一社に絞らなくてもいいと思います(「財団法人」というお墨付きが大事なのかもしれません。)。
今回の業務改善命令も、鑑定業者選定プロセスの問題点は、「売主希望価格以上又はそれに近似する価格が提示されるまで、不動産鑑定業者を追加して概算評価額の算定を依頼する」というところが不適切と言われたわけで、常に一社に絞れとは言っていません。
鑑定評価も人間の行う行為なので、一定の範囲に収まるとしても結果に幅がある以上「完全に真っ白な鑑定業者選定プロセス」というのを事後的に疑ってかかってきた人を完全に説得するのは難しいわけですが、上の対策はちょっと過剰反応のように思います。
処分公表の当日にとりいそぎ出す必要まではないように思います。


これを受けて他のJ-Reitも金融庁怖さに「右へならえ」をすると、実質的に利害関係者取引においては財団法人日本不動産研究所の公定価格でしか行わない、ということになってしまいかねませんが、それは逆に健全でないようにも思います。
現在J-Reitが値崩れを起こしている中で、スポンサー企業(=利害関係者)の信用力や物件供給力によって利回りに差がついていますが、スポンサー企業が上場企業の場合、自らの株主にも善管注意義務を負う以上、日本不動産研究所のいわば公定価格でしか売れない関係J-Reitへの売却を選択できない、ということになってしまわないでしょうか。

上の対策も金融庁と協議した結果だとすると、またぞろ「官製不況」などということになりかねないような・・・


ここで思考実験。

1 今回利害関係者「からの」取得なので高い鑑定評価のチェリーピッキングが問題になりましたが、J-Reitが売主の場合は、運用会社は逆にできるだけ高く売る忠実義務があるので、逆に何社かに鑑定評価を出させて、その一番高い金額で売却をするという行為をしなければいけないようにも思うのですが、どうなんでしょうか。

2 市況が急落しそうなときに物件を早く売却しようとして数社の買主候補に対して入札をしたが、そのとき取った唯一の鑑定評価(取引事例などにはタイムラグがあります)を最低落札価格として入札価格がそれに届かなければ売却を断念しなければいけないのでしょうか。
(注)金融商品取引業者向けの監督指針では

Ⅵ-2-5-3 不動産関連ファンド運用業者の業務に係る評価項目
(1)不動産の取得及び売却の際のデューディリジェンス態勢に係る評価項目
③ エンジニアリング・レポート(以下「ER」という。)及び鑑定評価書の作成を委託及び受領する場合には、以下の点に留意することとする。
ホ.デューディリジェンスの結果を踏まえ取得・売却価格を算定する際、ER及び鑑定評価書の記載内容等を活用しない場合には、採用した数値等の妥当性を検証するとともに、その根拠を記録保存することとしているか。

と、かならずしも鑑定価格だけに縛られる必要はないような書きぶりですが、「採用した数値等の妥当性・・・の根拠」をどんな検査官が来ても大丈夫なように準備する、ということは事実上不可能です。
あえてそれにチャレンジして金融庁から処分されるリスクを取るよりは、投資家のためにはベストとは思えないが運用会社の安全を最優先にする、という方に流れるでしょう。

この先は、外部運用型のReitのエージェンシーコスト問題になりますが、外部運用型+運用会社の監督という制度設計がうまく機能するかが(特にこの逆風下で)問われると思います。
(個人的には運用会社を子会社に持ち、J-Reitへの物件供給を主目的とした不動産ファンド運用会社の上場を認めた時点で制度的にはひずみが生じていると思うのでなかなか困難だと思いますけど。)

コメント
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