「判例時報」という裁判の判決とその解説を載せている雑誌があるのですが、判決の選定でたまに弁護士業に厳しいものが載ってます。
判決の選定に裁判官もかかわっているという話を聞いたことがあるのでそのため?
N0.2059にこんなのが
顧問契約を締結した税理士らが誤回答をしたとし、弁護士法人が税理士らに対してした不法行為に基づく損害賠償請求が認められなかった事例
(東京地裁民事44部H21.2.19判決)
事案の概要と解説を読むと
Xは・・・弁護士法人であるが、その設立にあたって、節税に資する資本金額について、税理士であるYらに相談したところ・・・資本金額はいくらでもよい旨の回答を得たため、資本金額を1000万円として設立したところ、消費税3060万9700円を課せられることになった。
のだそうです。そして
本件の争点は、税理士の従業員が、弁護士法人の設立にあたって、節税に資する資本金額等について誤った回答を行ったか否かという事実認定の問題であるが、節税に関する書類による相談・回答がないため、誤回答に関するXの代表者の供述が採用されず、Xの主張が認められなかったものである。
要は「言った言わない」の問題です。
じゃあ、なぜ判例時報に取り上げる価値があるかというと
本判決は、単なる事実認定の問題に過ぎないが、税務相談のあり方を考えるにあたって参考となる裁判例である。
と、もっともらしくまとめています。
ただ、このあとに続く判決文を読むと、「晒し」が目的なのではないかという感じがします。 (裁判は公開の法廷で行われるという建前なので、厳密には「晒し」とは言えないかもしれませんが、判決文までは通常は当事者以外は入手は難しいです。)
以下、判決文の最後の部分(ご丁寧に傍線つきです)。
原告・・・の主張ないし供述には、次のとおり、様々な疑問があるといわざるを得ない。
(ア)まず原告は、当初戊田(注:被告税理士事務所職員・仮名)からの回答があったのが平成17年3月11日ころであったと主張し・・・原告代表者の陳述書にも同旨の記載があったところ、その後・・・同年3月22日と変更した。しかしながら、この主張ないし供述の変更は、単に日時の変更というのにとどまらず、戊田が一人で乙山(仮名:原告法律事務所職員)の許を訪ねて回答をしたのか、・・・被告松夫(仮名)があいさつも兼ねて戊田を同道・・・した際に・・・回答をしたのかという状況の説明にも大きな変更があり、さらに、同年4月1日という法人設立の日時を基準として考えると、、その約10日前という直前とも言える時期になってようやく回答があったのか、それとも約3週間前という比較的余裕のある時期に回答があったのかという全く印象の異なるはずの出来事についての説明変更になっているのであって、単純な勘違いや記憶違いとは考えられない主張ないし供述の変更であるといわざるを得ない。
(イ) また、被告松夫は、節税の観点から・・・質問された場合には、消費税ばかりでなく法人税その他の税も念頭に置いたうえで、法人の規模・種類・事業内容、経費支出の多寡等等様々な要素を考慮に入れて判断する必要があるから、これらの点について確認し、資料の提供を求めるはずであると・・・の供述は、・・・顧問の税理士として当然の反応である・・・。しかしながら、乙山が電子メールで質問をしたという平成17年2月24日から本件面談の阿多同年3月22日までの間、被告ら(戊田を含む)からこれらの点についての質問がなかったことは乙山自身が認めているところであるし・・・、本件面談の際にもそのような質問はなかったというのであり、この点も極めて不自然であるといわざるを得ない。
(ウ)さらに、原告の主張ないし原告代表者の供述によれば、本件面談の際には、税理士である被告松夫が同席していたにもかかわらず、税理士ではなく単なる事務職員に過ぎない戊田が回答をしたというのであるが、①・・・②・・・③・・・、結局、本件面談当日のやりとりに関する原告の主張ないし原告代表者の供述はあまりにも不自然であるといわざるを得ない。
と、要するにそもそも「資本金額はいくらでもよい旨の回答」があったとは思えない、弁護士法人がいい加減な主張をしたり(弁護士法人の代表者ですから)弁護士がいい加減な供述をするんじゃないよ、と言わんばかりです。
しかも、判例時報は原告・被告は「甲野」「乙山」などの仮名なのですが、訴訟代理人弁護士は実名です。
そこで、何人か並んでいる弁護士名で検索してみると、どうやらこの事務所のようです。
債務整理がメインの事務所で、支店も4つあり(だから法人化したんでしょう)、弁護士のほか司法書士もたくさん抱えています。
3060万円も消費税を取られたということですから、6億円の売り上げがあったということですね。やはり過払い訴訟は弁護士にとってドル箱のようです。
ところで資本金と消費税ってなんだろうと「資本金 消費税」で検索してみると、一番上に出てくるのがこれ
納税義務の判定は基準期間の課税売上高で行います。そのため設立間際の1年決算法人であれば、第1期、第2期については基準期間が存在せず、自動的に消費税の納税義務は無いことになります。
ですが、そのような基準期間がない法人については次のような特例が存在します。
法人のうち、その基準期間が無い課税期間における納税義務については、その基準期間がない課税期間開始日における資本金の額が1千万円以上であれば、その課税期間における納税義務は免除しない
これは第1期、第2期であっても資本金が1千万円以上であれば、自動的に納税義務が発生することを意味しています。
もしこれが課税の原因だったとすると、資本金を1千万円にしてしまったので、初年度から消費税の納税義務が生じたということですね。
弁護士資格者は税理士もできますし、債務整理の相談に乗っている弁護士が税金の基礎知識くらいはあると思うので、まさかこんな簡単にググれば出てくるようなことを他人のせいにしているわけではないと思いますが、もしそうだとすれば、晒してやれ(上品に言うと「税務相談のあり方を考えるにあたって参考となる裁判例である」と表現するようです)、と判例時報が思う気持ちもわかります。
また、他人の専門家としての責任を問う前に、「あまりにも不自然であるといわざるを得ない。」と言われるような供述をする(またはそのような訴訟をする)弁護士法人と代表者の専門性は如何?というあたりも突っ込みどころです。
この弁護士法人のサイトには マスコミ関係者の方へ というコーナーも作っているくらいで目立ちたがりの事務所のようですが、テレビなどに取り上げられたり、広告をバンバン打ったりしているところは、やはりどこか・・・なんでしょうか?