映画監督の押井守氏が書いた本ですが、内容的には30歳前後までの若者をターゲットとして書いたものでした。
論理よりは情熱で書いた本で、すぐに読めますし、共感する部分もあります。
押井氏は若者に対して、現代は言葉が軽く扱われ、世の中にはキャッチフレーズやドグマが溢れている中、それらに惑わされずに、自分で考えて生きることが大事だよ、と語っています。
そして自由というのは「何でもできる(が何もしていない)状態」でなく、「やりたいことをしている状態」と言います。
問題とすべきは「人生の選択を留保していないか」「社会とかかわりを保っているか」の二点だけだ。
映画を見続け、映画を語り続けて、映画に関わり続けた。そしてそのことに飽くことはなかった。これだけが僕のいわば「才能」であって、演出とか脚本とかそういうことについて初めから、特別の才能を持ち合わせていたわけではない。
自分だけの価値観。自分だけの美学。それを磨いて磨いて、どこまでも極めていくうちに、やがてポツリ、ポツリとそれを理解してくれる人が現われ、やがてそれが一つの価値を作り出すことができれば、それこそがオタクの本懐である。
1951年生まれ、団塊の世代の端っことして学生運動の最盛期に高校生であった押井氏は、「革命を声高に叫んでいるのにまったく革命的でない大学生」に対する違和感、現実と向き合わない理念には意味がないという考えを持ち続けてきたといいます。
上に「重し」の世代がいたことが、本書にあるような流されず、しぶとく生きるというスタイルを作ったのかもしれません。
この辺については、山本直樹『レッド』(これについてのエントリはこちら)の第二巻の巻末にある山本直樹と押井守のインタビューで詳しく触れられていますので興味のある方はご一読を。
余談。
本書の中でスタジオジブリのプロデューサーの鈴木敏夫氏(1948年生まれでくしくも団塊の世代の一番先頭)について語っているくだりがあります。
友人にはしたくないような、とんでもないやつらもたくさんいて、でも、仕事だから付き合えるし、そういう人間を面白いとも思える。例えば、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは友人としてはともかく、仕事というフィルターを通すと、これほど面白い人間はいない。
映画評論で言えば、映画を作った党の監督が驚くような、「なるほど、オレが作った映画にはこんな意味があったのか」と作者自身をハッと目覚めさせ、作者の無意識をも再認識させるような評論にはめったにお目にかかれない。それが今、できているのはスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーぐらいだろう。
という人物評に興味を持って、次に読むことにしたのが鈴木敏夫『仕事道楽―スタジオジブリの現場』です。
![]() |