枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・25

2023年03月04日 | Weblog
 あれは夢だったのか…違う!夢などではない証拠に、ふみこの足裏には土が付いていた。祖母に連れて行かれる時には、裸足のままであるのを気にも留めず歩いていたものだ。不思議な出来事であり、半信半疑の気持ちが沸き上がるのを白龍の姿が諫める。どんなに辺りを見回そうと、あの景色も枇杷の樹もない。

 ふみこは、幼馴染と一緒に学校から帰っていた。坂道を上がるとお宮が見えるが、微かな記憶にふと立ち止まり階段を見上げた。ここで誰かと、瞳の涼やかな愛らしい児に遇った気がしてならない。同級生は、幼馴染ばかりの三十人程だがその中にはいない。「ふみちゃん帰ろ、何しとんよ。狐が出たらどうする」

 ふみこはふふんと鼻先で笑い、幼馴染に背を向け振り返って一声鳴いてみせた。コン!ふみこは指を口端にかけ引っ張っているので、狐に見えたのだ。幼馴染はへたり込むと大声で泣きだした。しまったと思った時には、田に出ている者や近所の大人が集まり大騒動。泣き虫の幼馴染をからかうものではなかった。

 祖母は、そのことを聴いてふみこに揚げを買いに走らせた。豆腐屋の小母さんは、新聞紙に包むと焦げた揚げを「売れんからな、食べや」ふみこはにこっとし「ありがとう、もらってええん」小母さんは、ふみこの分にも新聞紙で巻いてくれた。「ふみちゃん、ええ顔で笑うんだねぇ」途端にふみこの顔は強張る。

 その夜、ふみこは厠に起きた。そこに行くには表戸を開けねばで、下に石の階段もある。寝ぼけ眼の足元は怪しく、大抵祖母が付いて来てくれる。初夏の風の爽やかな夜で、ふみこは用足しを済ませ石段を上がるとお宮がひどく明るいのに気づいた。狐火がお宮を照らして、宙を舞う様をふみこは呆然と見ていた。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする