枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・43

2023年03月29日 | Weblog
 ふみこは祖母の呟きに「迎えに?祖母ちゃんをか」「何でもないわな、それでそん人は消えたんじゃろな?」ふみこは、うんうんと頷いたものの祖母の様子に「ばあちゃん、お宮の路って何処と繋がっとるん?あの人を知っとるんか」こんな祖母を見たのも、ふみこは初めてだ。祖母の、迷う気持がどっと押寄せる。

 「昔はな、その路は抜け道でのう」祖母は、まるで呪文を唱えるように話し始めた。何でも安倍晴明云う陰陽師が、母親恋しさに忍んで来たと語る。祖母の話はちんぷんかんぷんであるが、お宮のある場所は霊気が漂い空気も違うのは前から知ってる。ふみこがそこに行くと、身体中に電気が走り動けなくなるのだ。

 それはふみこにだけ起きることらしく、幼馴染は平気だ。何故かは分からないまでも、それが異変を起こしあの男の人を引き付けたのかも知れない。祖母はふみこに、お宮を通る時には必ず手を合わせるようにきつく言う。それから暫くは何も起きず、すっかり忘れかけた頃お宮の石段の中空に揺れる黒い塊を見た。

 ふみこは、その塊りに人差し指で触れた。次の瞬間、手も頭も身体さえ引き込まれた。あれっ?足元が定まらない、何か動いている感覚がすると辺りを見て吃驚した。耳をつんざく異音がして、ふみこを歩けないように揺っている。窓に写る自分の姿を見て、ふみこは声を上げそうになるのを両手で押さえて止めた。

 そこにいるふみこは成人した姿で、足元が定まらないのは動く物に乗っているのだ。車内は殆ど空いていて、席に座ろうと移動しかけてその人に瞳が止まった。リョウさん!どうしてここにいるの?車内アナウンスで新幹線だと知るが、リョウはふみこに気づかない。記憶の断片がふみこを捉え鮮明に、時を翔ける。

 暦 閏如月・上弦・小潮 青空にくっきり月が懸かり、午後も7時前には天頂近くに。
コメント (4)
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