ふみこの家は、お宮から見れば西側の山裾を切り開いた所に建つ。お宮は北東の場所に、石段を百八積み重ねた上に社がある。祖母は狐火を静かに見ながら「こりゃ玉藻の前さんが、啼いとりんさるな」「誰なん?玉藻の前って…」「ずうっと昔のことじゃ、都を騒がしたいうてな那須野の殺生石に封じこまれたんじゃわ」
ふぅ~ん。でも何でお宮に狐火の飛ぶのかが、ふみこには分らない。祖母は、まるでその時代にいたように話す。ふみこの呆けた異様な瞳を見た祖母は「もう寝ようぞ。ええかふみこ、今夜のことは誰にも言うちゃならんぞ」祖母に腕を掴まれ、ふみこは振り返りながら家に入り布団に潜るが目は冴えて眠るどころではない。
祖母は、翌朝何も無かったように草刈りを終えて牛の世話をしていた。ふみこの髪を結うのも、竈の湯を撫でつけ括り学校に送り出した。学校では授業中眠く、先生の声が低いため居眠りがついた。下校時間に幼馴染を探すと、廊下にいた。今日は一緒には帰らないと頭を振るのは、昨日のことが原因で姉を待つらしい。
ふみこは、一人の方が気ままにできるので平気だ。帰り道は、田の畔を飛び跳ねるのが楽しいのだ。畔には野の花が咲いているし、蛙や蛇も小さな虫も見つけてはあいさつする。そろそろ田植えが始まるので、川からの水の出入り口を直したりと立ち働く姿が多い。「ふみちゃん、道を通らずには危ないから気をつけや」
ふみこはこくりと頷くが、飛んだり跳ね下りたりとじっとしていない。制服はたちまちにして泥だらけ、母親の小言が聞こえる。ふみこはランドセルにスカートを突っ込むと、下着になり道草を続けていた。その様を兄に見られたようで、夕飯の時に母親の雷が落ち正座を強いられた。痺れがきれて足がじんじんしてこけた。
二十四節気 啓蟄 地中で冬眠した虫類が、陽気で地上に這い出す頃の意で、啓蟄という。毎年、三月六日頃である。暦・八せん終り・大潮。
ふぅ~ん。でも何でお宮に狐火の飛ぶのかが、ふみこには分らない。祖母は、まるでその時代にいたように話す。ふみこの呆けた異様な瞳を見た祖母は「もう寝ようぞ。ええかふみこ、今夜のことは誰にも言うちゃならんぞ」祖母に腕を掴まれ、ふみこは振り返りながら家に入り布団に潜るが目は冴えて眠るどころではない。
祖母は、翌朝何も無かったように草刈りを終えて牛の世話をしていた。ふみこの髪を結うのも、竈の湯を撫でつけ括り学校に送り出した。学校では授業中眠く、先生の声が低いため居眠りがついた。下校時間に幼馴染を探すと、廊下にいた。今日は一緒には帰らないと頭を振るのは、昨日のことが原因で姉を待つらしい。
ふみこは、一人の方が気ままにできるので平気だ。帰り道は、田の畔を飛び跳ねるのが楽しいのだ。畔には野の花が咲いているし、蛙や蛇も小さな虫も見つけてはあいさつする。そろそろ田植えが始まるので、川からの水の出入り口を直したりと立ち働く姿が多い。「ふみちゃん、道を通らずには危ないから気をつけや」
ふみこはこくりと頷くが、飛んだり跳ね下りたりとじっとしていない。制服はたちまちにして泥だらけ、母親の小言が聞こえる。ふみこはランドセルにスカートを突っ込むと、下着になり道草を続けていた。その様を兄に見られたようで、夕飯の時に母親の雷が落ち正座を強いられた。痺れがきれて足がじんじんしてこけた。
二十四節気 啓蟄 地中で冬眠した虫類が、陽気で地上に這い出す頃の意で、啓蟄という。毎年、三月六日頃である。暦・八せん終り・大潮。