枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・37

2023年03月20日 | Weblog
 遥か彼方、408光年の宙に蒼く光芒を放つ星の群れがある。数多に星の群れはあれども、それは格別な集まりと想えてふみこの心を捉える。祖母は「なんでもなぁ、平安時代に宮廷の女人さんが書いとるそうじゃ」その星の群れに、ふみこは惹き込まれそうになるのが不思議でこことは異なる場所から観たような気も。

 月が山の向こうに観え、お宮を包んで庭に銀色の光りを注ぐ。「冷えるで、もお家に入れや」祖母は、夜間の厠の心配でふみこを促す。風呂は寒くとも暑い時にも囲いはないし、五右衛門釜は子ども一人には軽くて敷板がひっくり返ることもある。それだけなら良いが風呂釜は鉄なので、火傷をするのは何時もだった。

 その度に祖母は、山手にある枇杷葉を採り漬けてあるのを手拭いに浸し縛る。火傷のひりひりとした痛みが消え、跡形も残らない。風呂上りには布団に直ぐに潜るが、足元の温かさが続かない。ふみこの冬は霜焼けだらけの手足で、春先には痒さで堪らなくなる。隙間風は防げず、容赦なく入り火鉢だけでは温まらない。

 春が訪れれば山から里に花が咲くのと同時に、寒さが和らぐので待ち遠しい。祖母が山を歩く時には付いて行くふみこだが、足元に咲く花を見つけ「ばあちゃん、尾上の爺婆じゃ」それを待っていたかのように蕗の薹や三つ葉が顔を出す。祖母は初物だと少し採るが、決して根こそぎにはしない。翌年に残しておいた。
 
 ふみこは祖母の後をくっつきながら、蓬を採っていた。いつもお腹を空かせてのふみこが、団子を食べたいと言ったからで「そんなら田んぼの畔に行って、採ってこにゃあ」言わなければよかったと唇を引き結んだが、祖母の作ってくれるのに味を占めている。ふみこは草刈鎌を手に、籠を抱えて畔を歩き集めていく。
コメント (2)
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