枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

うさぎのダンス・36

2023年03月18日 | Weblog
 ふみこは不意に、同じことが繰り返されていると感じた。起点は小学校の二年生には違いなく、想いが停止するように其処に還る。何か意味があると思うのだが、映像が瞬時に変化していくのを追いかけるばかりだ。心に浮かぶのは兎であり、月へと翔け誰かを捜している自分に気づく。顔も姿も視えるのに思い出せない。

 小さい時から笑うことの滅多にないふみこが、学芸会を境に無口になった。幼馴染も教室の皆にも決して心を開かず、教師にも立て突いた。あの衣装に「ふみこちゃん、ええ物じゃねぇ。高い布買えたなぁ」そこにはふみこの家では決して手に入らないと暗に言い、小母さんの気持ちや生徒への思いやりに欠ける物言いだ。

 ふみこは、小母さんにすまなくて気持ちが沈んでいく。帰宅し門に居た祖母にしがみつき「貧乏はいやじゃ!盗んだって」祖母は、ふみこの為す儘にしていたが「上手に踊れたなぁ、兎さんのお手本がよかったぞ」泣き顔のふみこは祖母に「団子作ってな、お礼にお供えせにゃ」祖母が頷き、ふみこの機嫌は忽ちに直る。

 祖母の作る団子は、餅米を石臼で挽いて水で捏ね玉にして沸騰した湯に落とす。門に林檎箱を出すと、その上に皿を置き並べた。すぐさま祖母を見反して「もお食べてもええか?」ふみこの咽喉は鳴りお腹も騒ぐ。「供えた直ぐじゃ、お月さん口にできんぞ」仕方がない、ふみこは南に懸けるまで待ち醤油を垂らし食べた。

 季節は早春だが、時には雪花も舞う日が続く。学校では石炭ストーブが焚かれ、当番は上級生が順番に来てしてくれる。午前中の教室は程好いが、給食を口にした後は眠気が襲うので側の席になると居眠りがつく。家では炬燵さえないふみこにとって、暖かさは格別に思えた。何時もは薬缶だが、時には芋で奪い合いもある。

 暦 春の彼岸の入り・中潮
コメント (6)
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