朝の事だ。食事中にふみこは思いっきり箸を噛んでしまい、先が欠けた。片方だけだったが、これが食べ難くご飯が挟めない。「おまえは丈夫な歯じゃからええわ、俺なんぞこっちじゃな」兄が茶化すが笑い事ではなく、ふみこはべそをかいた。祖母が鉈鎌を手にして、軒下に置いてある竹を割り裂いて削ると渡してくれた。
祖母は器用貧乏と、殆どの物を作るのが得意で店に行くまでもない。ふみこは使い勝手は良いが、箸の頭に花模様のついたのが欲しくて堪らない。祖母も母も「食べられればええが」と素っ気なく言い、ふみこの気持ちには無頓着だ。貧乏は嫌だな、とため息とともに思うだけのふみこだ。祖母は、納屋で縄綯いを始めた。
月末になると大きなトラックが下の路に来て、縄の綯ったのを計りに掛けて買い取ってくれる。その小父さんは「何とええ出来じゃな、少し上乗せしとこう」筵も何枚か融通してくれと、祖母に頼み込んでいる。村での誰よりも織ったのとは違い、申し分のなさにあちこち引っ張りだこで評判だと話して賃金の上乗せとなる。
筵を織るのは、真ん中を引っ込めながら左右の厚みも均等にしていく。藁の打ち方も、重ねてなのも目で見てだけなのに真っ直ぐになる。筵を織った当初は重いが、使い始めると乾き扱い易くもなる。そういった一連の日数を計算に容れての手作業で、母にさえ真似が出来ない。祖母は、ふみこを手招き箸代をそっとくれた。
ふみこはうれしくて、村の下にある雑貨屋まで駆けた。箸は、花柄ではなく兎模様だった。それでも自分の物なのは心が弾み、豆腐と揚げのお使いもしてお宮坂へ差し掛かった「こんにちは」男の人がふみこに微笑み話しかけてきた。ふみこは戸惑い返事もできないでいたが、顔に声とに聴き覚えがあることを思い出していた。
祖母は器用貧乏と、殆どの物を作るのが得意で店に行くまでもない。ふみこは使い勝手は良いが、箸の頭に花模様のついたのが欲しくて堪らない。祖母も母も「食べられればええが」と素っ気なく言い、ふみこの気持ちには無頓着だ。貧乏は嫌だな、とため息とともに思うだけのふみこだ。祖母は、納屋で縄綯いを始めた。
月末になると大きなトラックが下の路に来て、縄の綯ったのを計りに掛けて買い取ってくれる。その小父さんは「何とええ出来じゃな、少し上乗せしとこう」筵も何枚か融通してくれと、祖母に頼み込んでいる。村での誰よりも織ったのとは違い、申し分のなさにあちこち引っ張りだこで評判だと話して賃金の上乗せとなる。
筵を織るのは、真ん中を引っ込めながら左右の厚みも均等にしていく。藁の打ち方も、重ねてなのも目で見てだけなのに真っ直ぐになる。筵を織った当初は重いが、使い始めると乾き扱い易くもなる。そういった一連の日数を計算に容れての手作業で、母にさえ真似が出来ない。祖母は、ふみこを手招き箸代をそっとくれた。
ふみこはうれしくて、村の下にある雑貨屋まで駆けた。箸は、花柄ではなく兎模様だった。それでも自分の物なのは心が弾み、豆腐と揚げのお使いもしてお宮坂へ差し掛かった「こんにちは」男の人がふみこに微笑み話しかけてきた。ふみこは戸惑い返事もできないでいたが、顔に声とに聴き覚えがあることを思い出していた。