フルートおじさんの八ヶ岳日記

美しい雑木林の四季、人々との交流、いびつなフルートの音

シュエークスピア「テンペスト」木下順次訳

2009-06-09 | 濫読

ベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」を聴いていて、ベートーヴェンがシェークスピアの戯曲「テンペスト」(あらし)に想を得てこの曲を作曲したといわれているので読んでみた。シェークスピアの最後の作品である。私自身もシェークスピアは、実に久しぶりだ。

弟の裏切りに遭い島流しにされた元ミラノ大公プロスペローは、魔法の術使いとなって、弟のミラノ大公アントニーオー、ナポリ大公アロンゾー、その息子ファーディナンドなどが乗る船を嵐に遭遇させる。難破した一行は、プロスペローと娘ミランダが住む島に流れ着く。プロスペローはアントニーオーやアロンゾーに復讐の試練を課すが、最後は赦す。他方でファーディナンドとミランダが一目で愛し合い、将来のミラノとナポリの王と王女になる。そうして、プロスペローの魔術はなくなる。

魔法の力を使ってかなえた復讐とは、実際には果たせぬ復讐の思いを、架空の世界で実現させたともいえる。人間生きている限り、ことの大小を問わず、他人から理不尽な攻撃、迫害、冷遇などを受ける。その恨みを晴らそうとしても実際には不可能な場合、復讐劇を見て心を癒されることがある。水戸黄門、忠臣蔵もそうした範疇に入るだろう。

さらに、この「テンペスト」では、最後に復讐心を克服し、相手を赦す。キリスト教の教えなのか、日本の復讐劇では少ないように思う。

劇の終わりたが面白い。エピローグがあり、舞台の最後にプロスペローが一人で独白する。「今やわが魔法は破れました。残る力もほぼ尽きました。この舞台にただ取り残されるか、または、ナポリへ帰えされるか、すべてはお客様しだい。・・・みずからも罪の赦しを願わるる客席の御一統よ、寛大な心もて、わが身にも赦しを賜び給えよ。」