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光照射のみでメタンの二酸化炭素改質反応を起こす光触媒材料の開発

2020-04-29 | 科学・技術
 東京工業大学物質理工学院材料系の庄司州作博士後期課程3年と宮内雅浩教授、物質・材料研究機構の阿部英樹主席研究員、高知工科大学の藤田武志教授、九州大学大学院工学研究院の松村晶教授、静岡大学の福原長寿教授らの共同研究グループは、低温でメタンの二酸化炭素改質反応、ドライリフォーミングを起こすことができる光触媒材料の開発に成功した。
 ロジウムとチタン酸ストロンチウムからなる複合光触媒を開発し、光照射のみでドライリフォーミングを達成した。加熱を必要としないため、燃料の消費が大幅に抑えられるとともに、ヒーターなどによる加熱による触媒の劣化が起こらず長期間安定的に反応を継続することができ、地球温暖化ガスを有効利用できる方策として期待される。
 ドライリフォーミングは温室効果ガスのメタンと二酸化炭素を有用な化学原料に変換できる魅力的な反応であるが、800度以上の加熱が必要で、かつ加熱による触媒凝集並びに炭素析出による劣化の問題から、実用化には至っていない。
 本研究成果は2020年1月27日(英国時間)、英国科学誌「Nature Catalysis」にオンライン掲載。
 ポイント
 〇光照射のみでメタンの二酸化炭素改質反応を起こすことに成功。
 〇複合光触媒を開発し、従来の光触媒とは異なる反応機構を解明。
 〇 球温暖化ガスの有効利用策として期待。
 研究の背景と経緯
 ドライリフォーミング反応は温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から、水素と一酸化炭素の合成ガスに変換することができる(CH4+CO2→2CO+2H2)。生成した合成ガスはアルコールやガソリン、化学製品を製造する化学原料となるため、ドライリフォーミング反応は天然ガスやシェールガスの有効利用および地球温暖化抑止のために注目されている。
 しかし、この反応を効率よく進行させるためには800度以上の高温が必要となり、大量の燃料消費と高温条件における触媒の劣化が問題となっていた。本研究グループは、光エネルギーを使ってドライリフォーミング反応を起こす光触媒を開発した。従来の光触媒反応は水中の水素イオンが反応の媒体となって駆動する一方、乾燥条件で進行するドライリフォーミングに適した光触媒の探索が重要なポイントであった。
 研究成果
 開発した光触媒はチタン酸ストロンチウムに金属ロジウムがナノスケールで複合されている。この光触媒はチタン酸ストロンチウムとロジウム塩水溶液を密閉容器内で加熱処理することにより簡便に合成することができる。
 この光触媒に紫外線を照射すると、加熱をしない条件でも50%を超えるメタンと二酸化炭素転換率を示した。従来型の熱触媒で同じ性能を出すためには、500度以上の加熱が必要となることから、本研究グループの開発した光触媒の性能の高さが分かる。
 光触媒の各温度での活性を示す。本研究グループが開発した光触媒に光照射を行うことで、熱触媒の性能上限値を大きく上回る。また、この光触媒による水素と一酸化炭素の生成速度は、メタンと二酸化炭素の消費速度の2倍となった。このことから、光照射でドライリフォーミング反応が化学量論的に進行し、副反応がほとんど起こっていないことが示唆された。なお、光触媒として従来からよく知られる二酸化チタンを用いた場合は、本研究で用いたチタン酸ストロンチウムのような高い性能を示さない。
 この光触媒の耐久性を調べたところ、長期にわたり安定であることが分かった。反応前の光触媒と反応後の光触媒の超高解像度の電子顕微鏡写真を見ると、反応の前後でチタン酸ストロンチウムおよび、複合したロジウムに変化がないのに対し、従来型の熱触媒の代表であるニッケルを担持したアルミナの場合では、反応の前後で大きな変化が観察された。
 反応後に見られるチューブ状の物質は触媒表面で析出、成長したカーボンチューブであり触媒劣化、反応器の破壊の原因となる。すなわち、光触媒では加熱による触媒劣化が抑制されたのみでなく、工業的に致命的な副反応となる炭素析出が劇的に抑制された。
 次に、反応メカニズムを明らかにするため、開発した光触媒に対して実際の触媒反応の条件下で電子スピン共鳴法の解析を行ったところ、光照射によって生じた電子と正孔の電荷が反応を駆動していることが分かった。ドライリフォーミングは二酸化炭素の還元反応を含むため、種々の光触媒の中でも高い電子の還元力を持つチタン酸ストロンチウムが好適であることが分かった。
 さらに、同位体を用いた詳細な解析により、チタン酸ストロンチウム内の格子酸素のイオンが反応の媒体として作用していることを明らかにした。これまでよく知られている光触媒反応である水の分解や二酸化炭素還元などの人工光合成反応では、反応の媒体として水素イオンが使われていたが、本研究の光触媒反応は格子酸素イオンを媒体とする新しい反応で、さまざまな気相反応への展開が期待できる。
 今後の展開
 本研究では光触媒として紫外線応答型のチタン酸ストロンチウムを使っているが、実用化に向けては太陽光の主成分を成す可視光の利用が重要である。一方で、本研究では酸素イオンが媒体となるエネルギー製造型反応の機構を初めて見いだし、今後この新しい反応機構をもとに、可視光を吸収できる光触媒材料に展開することも可能である。本研究成果が天然ガスやシェールガスの有効利用につながるとともに、温室効果ガス低減に貢献できると期待される。また、低温で合成ガスを製造することができるため、既往の工業的手法と組み合わせることでガソリン製造などの施設の大幅な簡略化と効率化が望める。
 ◆用語解説
 〇ドライリフォーミング
 メタン改質反応の1つ。反応式はCH4+CO2=2H2+2COで表される。天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあるメタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されている。
 〇ロジウムとチタン酸ストロンチウ
 ムロジウムは原子番号45の元素。元素記号はRhで表される。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)はストロンチウムとチタンの複合酸化物で、ペロブスカイト型の結晶構造をとる。
 〇シェールガス
 粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料の1つ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。
 〇光触媒
 光を吸収し触媒作用を示す物質の総称。酸化チタンが代表的な光触媒として知られている。
 〇化学量論的
 化学式通りの反応物量と生成物量を示す状態。ドライリフォーミングであれば、反応物と生成物の比が1:2になる場合に化学量論的に反応が進行したといえる。
 〇電子スピン共鳴法
 不対電子を持つイオン、ラジカルなどの検出が可能な実験手法。光触媒の中の電子や正孔など、多くの情報を得ることができる。
 〇同位体
 同一の原子番号で質量数が異なる物質。酸素の場合、質量数が16、17、18の同位体があり、地球上の99.8パーセントの酸素の質量数は16である。本研究では質量数18の酸素を触媒の中に導入し、質量分析装置を使ってその反応過程を追跡した。
 〇ペロブスカイト構造
 ペロブスカイト構造とは、結晶構造の一種である。ペロブスカイト(perovskite、灰チタン石)と同じ結晶構造をペロブスカイト構造と呼ぶ。例えば、BaTiO3(チタン酸バリウム)のように、RMO3 という3元系から成る遷移金属酸化物などが、この結晶構造をとる。
 理想的には、立方晶系の単位格子をもち、立方晶の各頂点に金属Rが、体心に金属Mが、そして金属Mを中心として、酸素Oは立方晶の各面心に配置している。酸素と金属Mから成る MO6 八面体の向きは、金属Rとの相互作用により容易に歪み、これにより、より対称性の低い斜方晶や正方晶に相転移する。
 これにより、この結晶の物性が劇的に変化する。例えば、対称性の低下により、モット転移を起こし、金属Mのサイトに局在していた価電子がバンドとして広がることができるようになったり、金属Mのサイト同士のスピン間の相互作用による反強磁性秩序が崩れ、常磁性に転移したりする。この歪みによる相転移は、温度の上昇による金属Rのイオン半径の増加や、金属Rサイトに不純物原子を導入することなどでコントロールすることができる。

 今日、4月29日は「昭和の日」と定められた祝日である。もともとは昭和天皇の誕生日を祝う祝日であったが、「みどりの日」を経て昭和の日となった。・・だんだんと遠くなる昭和の日々。
 道沿いのお庭の”ヒメリンゴ”。花が満開に咲いている。
 ”ヒメリンゴ”の果実は、小さなリンゴ(径1cm~2cm位)である。秋に、赤・黄色と熟す。
 ”ヒメリンゴ”の祖に、中国原産の犬林檎(いぬりんご)の別名説、犬林檎と蝦夷の小林檎(えぞのこりんご)の雑種説がある・・と言う。
 ヒメリンゴ(姫林檎)
 別名:犬林檎(いぬりんご)、実海棠(みかいどう)
 バラ科リンゴ属
 耐寒性落葉小高木
 開花時期は4月~5月(桜より遅れる)
 花は5弁花、花色は最初薄桃で満開時に白色となる
 果実は小さなリンゴ似(径2cm位)で、秋に赤・黄色となる
 果実の観賞期は10月~11月
 果実の数は春に咲いた花の数よりとても少ない。バラ科(リンゴ、ナシ、ウメなど)の多くは自家不和合性(自家受粉では受精しない性質)だから


単純な有機フッ素化合物から、10種以上の有機フッ素化合物の生成に成功

2020-04-23 | 科学・技術
 東京理科大学理工学部先端化学科の荻原陽平講師、坂井教郎教授、大学院理工学研究科先端化学専攻修士課程の穂坂晋太郎(2019年度修了)の研究グループは、単純なフッ化アシルを出発物質として、10種類以上の複雑なフッ化アシルを得ることに成功し、フッ化アシルをフッ素源として利用できることを示した(2020.04.09発表)。本研究をさらに発展させることで、これまでにない新たなフッ素分子の合成方法につながると期待される。
 研究の要旨とポイント
 〇単純なフッ化アシルを出発物質として、10種類以上の複雑なフッ化アシルを得ることに成功し、フッ化アシルをフッ素源として利用できることを示した。
 〇フッ素を含む有機化合物は医薬や農薬などの幅広い機能性材料に活用されているが、現在フッ素源として用いられる化合物は毒性や腐食性が強いため、取り扱いやすく反応性の高いフッ素化剤の開発が待たれている。
 〇本研究で見出した現象に基づいた触媒設計や反応設計を行なうことで、これまでにない新しいフッ素分子の合成方法を提供できる可能性がある。
 フッ素原子は全ての元素の中で最大の電気陰性度を持つことなどから、有機化合物にフッ素原子を導入することで、化学・物理的性質や、生理活性に影響を与える。そのため、フッ素を含む有機化合物は医薬や農薬などの幅広い機能性材料に活用されている。フッ素を含む有機化合物は自然界にはほとんど存在しないため、合成においてはフッ素化が必要となる。しかし、フッ素源として用いられるフッ素ガスやフッ化水素は毒性や腐食性が強いため、取り扱いやすく反応性の高いフッ素化剤の開発が待たれる。
 研究グループはこれまで、RC(=O)Fの化学式で表される「フッ化アシル」という化合物群に着目し、研究開発を進めてきた。今回の研究では、パラジウム触媒によるフッ化アシルの炭素-フッ素結合の可逆的な切断と形成を介して、より複雑で付加価値の高いフッ化アシルを得ることに成功した。
 本成果はフッ化アシルをフッ素源として利用できることを実証したという点で、非常に示唆に富んでいる。将来的には、今回見出した現象に基づいた触媒設計や反応設計を行なうことで、これまでにない新しいフッ素分子の合成方法を提供できる可能性がある。
 研究の背景
 フッ化アシルRC(=O)Fは安定性や反応性などが独特であることから、近年、遷移金属触媒による反応に注目が集まりつつある。フッ化アシルはR+、CO、F-の3つの合成フラグメントに分けることができるが、これまでに、炭素骨格("RC(=O)"あるいは"R")の部分の、有機もしくは有機金属系求核剤(電子密度が低い炭素などの原子に反応し、結合を作る物質)を介したクロスカップリング反応に関する研究が数多く報告されている。
 しかしその一方で、フッ素("F")の部分はフッ化アシルを特徴付ける重要な官能基であるにもかかわらず、フッ素部分の反応についての研究は非常に少ないのが現状である。そのため、これまではフッ素部分は生成物に残すことができず、廃棄物となっていた。
 研究グループは、このフッ素部分を活かした有機合成反応の実現を目指し、研究に取り組んできた。今回の研究では、荻原講師らがこれまでに発見した0価のパラジウム触媒によるフッ化アシルの炭素-フッ素結合の可逆的な切断と形成を基盤として、フッ化アシルのこれまでにない合成方法を開発することを目的とした。
 研究の詳細
 研究グループはまず、フッ化ベンゾイルと無水安息香酸は、フッ化アシルと酸無水物と同様の反応進行を示すという作業仮説に基づき、フッ化ベンゾイルと3,5-ジメチル-無水安息香酸を出発物質として、反応条件の最適化を行った。その結果、二座ホスフィンを配位子(特定の受容体に選択的に結合する物質)とした場合は概ね良好な触媒反応を示したが、反応性や入手容易性などを考慮した結果、DPPBを配位子として用いることにした。反応温度および無水安息香酸の量についても検討し、無水安息香酸をフッ化ベンゾイルの3倍量で80℃という条件で、収率71%を達成した。
 次に、得られた最適化条件の下で、パラジウム触媒によるフッ化アシルの生成という観点から、基質適用範囲の探索を行った。その結果、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)/DPPBを触媒とした際、多様なフッ化アシルが生成された。ベンゼン環の4位には、メトキシ基、チオメチル基、ハロゲン基など、電子供与基と電子求引基の両方があり、これらは触媒条件下でも耐性があり、フッ化アシルを生成した。
 生成されたフッ化アシルのいくつかについては、アシル交換反応についても調べたところ、4-メトキシベンゾイルフルオリドは3,5-ジメチル-無水安息香酸のフッ素化に対する反応性は低く、電子求引基を持つフッ化ベンゾイルおよび2-ナフチルフルオリドでは反応性が高く、43~70%の収率を達成した。
 研究を行った荻原講師は「本反応では、入手することが容易なフッ化アシルを出発物質として、より複雑なフッ化アシルを得ることができるため、フッ化アシルにより一層の価値を付加するものです。また、本成果はフッ化アシルをフッ素源として利用できることを実証したという点で、非常に示唆に富んでいます。今後、本研究で見出した現象に基づいた触媒設計や反応設計を行なうことで、これまでにない新しいフッ素分子の合成方法を提供できる可能性があります。」として、応用への期待を示している。
 ◆アシル基
 アシル基(アシルき、英:Acyl group)は、オキソ酸からヒドロキシル基を取り除いた形の官能基である。有機化学では、「アシル基」と言えばふつう、カルボン酸からOHを抜いた形、すなわちR-CO-というような形の基(IUPAC名はアルカノイル基)を指す。ほとんどの場合、「アシル基」でこれを意味するが、スルホン酸やリン酸といったその他のオキソ酸からでもアシル基を作ることができる。特殊な状況を除いて、アシル基は分子の一部分となっていて、炭素と酸素は二重結合している。
 アシル基を含む化合物として、塩化アセチル (CH3COCl) や塩化ベンゾイル (C6H5COCl)といったハロゲン化アシルが知られている。これらの化合物はアシリウムカチオンを与えるので、他の化合物をアシル化する試薬としても用いられている。 アミド (RC(O)NR2)やエステル (RC(O)OR’)、ケトン (RC(O)R) やアルデヒド (RC(O)H) もアシル基を含んでいる。

 今日の天気は晴れ。10時頃、お日様が出ているが、小雨が降った・直止んだ・・天気雨;狐の嫁入り。
 出たり、降ったりの空、散歩で見つけたイベリス。花は径1cm位の白い4弁花、外側の2枚が大きく、内側の2枚が小さい。この小さい花が、纏まって半円球の様になっており、庭一面に白い絨毯の様に広がっている。
 イベリスは地中海沿岸(南欧・北アフリカ・西アジア)に20~30種が分布すると言う。種には、毎年開花する多年草と花後に枯れる一・二年草がある。
 名(イベリス)の由来は、イベリア(半島)に多く自生していたからと言う。因みに、イベリアはイベリア半島の国、特にスペインの別称である。
 イベリス
 別名:屈曲花(まがりばな)
 別名:キャンディタフト(Candytuft)
 学名:Iberis sempervirens
 アブラナ科イベリス属(マガリバナ属)
 秋まき一年草・多年草
 原産地は地中海沿岸、明治初期に渡来とされる
 開花期は4月から6月
 花は4枚の花弁を持ち、。花は小さいが、この小花が多数集まって大きな花房となっている
 花を咲かせた茎は太陽の方に向いて曲がりやすい性質がある
 花色は白が多く、ピンク・赤・紫などがある


キラル結晶の右手系・左手系で反転する放射状スピン構造を発見

2020-04-20 | 科学・技術
 東京大学大学院工学系研究科の坂野昌人助教、理化学研究所創発物性科学研究センターの平山元昭研究員、東京工業大学科学技術創成研究院の笹川崇男准教授、東京大学物性研究所の近藤猛准教授らの研究グループは、東京工業大学理学院の村上修一教授、産業技術総合研究所の三宅隆研究チーム長、広島大学放射光科学研究センターの奥田太一教授らの研究グループ、高エネルギー加速器研究機構の組頭広志教授らの研究グループ、東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏教授らおよび石坂香子教授らの研究グループと共同で、キラルな結晶構造に由来して発現する固体内スピンの特性を、テルル単体を用いた実験から明らかにした(公開日:2020年03月04日)。本研究成果は、米国物理学会学術誌「Physical Review Letters」に米国東部時間3月10日に掲載、特に重要な論文としてEditors’ Suggestionに選出された。
 ポイント
 〇キラルな結晶構造が発現するスピン特性を、テルル単体に着目した実験から解明した。
 〇鏡映しの関係にある右手系・左手系結晶では、放射状構造を持つスピンの向きが逆転することを見出した。
 〇電流印加や光照射でスピン流を原理的に生成可能なことから、スピントロニクスの応用に繋がることが期待される。
 キラルな結晶構造を持ち、かつ強いスピン軌道相互作用を伴う物質では、電子の磁石としての性質であるスピンに由来した磁気的性質が、非磁性材料にも関わらず発現し得ることが、20世紀の半ばから知られていた。ところが、その物性を司るスピン偏極した電子構造の直接的な観察は、これまで成功していない。本研究では、最も単純なキラル結晶構造を有し、かつ強いスピン軌道相互作用を合わせ持つテルル単体に着目し、スピン分解・角度分解光電子分光実験を行った。その結果、キラルな結晶構造を持つ物質に対して初めて、スピン偏極した電子構造の観察に成功した。さらに、キラルな結晶の特徴として、スピン構造が放射状となること、また、それらのスピンの向きが“右手系結晶”と“左手系結晶”で反転することを実験的に示した。今回の結果は、強いスピン軌道相互作用を有するキラルな結晶が、有望なスピントロニクス材料であることを示しており、今後、電子・スピン変換デバイスの研究開発への進展が期待される。
 研究の背景
 自然界には、右手と左手、あるいは右ネジと左ネジのように、鏡に映した姿がもとの姿と重ならないものがあり、これらの性質をキラルであると言う。2つの非等価なキラルな結晶、いわゆる右手系と左手系の結晶は、自然界において、生物学的、化学的、物理的にそれぞれ異なる反応を示す。また、キラルな結晶構造の内部では、電気と磁気がお互いに関係しあうことが知られている。一方、固体内電子の電気的・磁気的関係を結びつけるためには、スピン軌道相互作用が必要であり、原子番号の大きな重い元素を持つ化合物で特にその作用が強くなる。
 キラルな結晶構造を持ち、かつ強いスピン軌道相互作用を合わせ持つ物質は、非磁性であっても、スピン流などの磁気的性質を引き出し得ることから、スピントロニクス分野で特に注目されている。しかしながら、その特異な電気磁気特性の起源となるスピン偏極した電子構造を直接的に観測した例がこれまでになく、キラル結晶内の電子とスピンの結合状態は未解明であった。
 研究内容と成果
 本研究では、キラルな結晶構造を有するテルル単体を研究対象とし、スピン分解・角度分解光電子分光を用いて、スピン構造の直接観測を行った。重元素であるテルル原子は強いスピン軌道相互作用を有しているため、電子とスピンが強く結合した状態が期待される。本研究では、熱濃硫酸で表面処理した際にできる腐食孔の形によって右手系結晶と左手系結晶を判別し、それぞれの試料に対して、詳細な電子構造およびそれに付随するスピン偏極構造を観察した。
 左手系結晶に対してスピン分解・角度分解光電子分光実験を行い、スピン構造を調べた。その結果、電子のz方向の運動量が、z方向のスピンのみと結合していることがわかった。通常、スピン軌道相互作用は、電子の運動量と垂直な向きにスピンを結合させたがる性質がある。しかし、今回の結果は、それに反して、運動量と平行方向にスピンが結合していることを示している。つまり、スピンが運動量空間において放射状に広がる特異な振る舞いを同定したことになる。さらに、右手系結晶の測定も行うことで、左手系結晶とはスピン構造が反対向きになることを見出した。スピン構造に見られるこれらの特異性は、キラルな結晶構造に特有の電子状態に由来するものであるといえ、第一原理電子構造計算によって再現されることを確認している。
 今後の展望
 今回、最も単純なキラル結晶であるテルル単体において、キラルな結晶構造特有のスピン状態を実験的に解明した。本結果を起点として、さまざまなキラル結晶におけるスピン状態の解明が進むものと考えられる。また、スピンが電子の運動量と平行に向き放射状となる特異なスピン構造からは、非従来型のスピントロニクス機能が創発できる可能性があるため、キラル構造を有する物質をデバイス応用させる発展研究が今後期待される。
 ◆用語解説
 〇キラルな結晶構造
 右手と左手の関係のように、一方を鏡映しにしたときには他方と重なるが、平行移動では互いに重ならない2つの非等価な結晶構造を持つもの。
 〇スピン分解・角度分解光電子分光
 物質に光を照射すると、電子(光電子)が試料から真空中へ放出される。その光電子の運動エネルギー、および脱出角度を調べることによって、物質中の電子のエネルギーと運動量を直接観測できる実験手法である。さらに、スピン検出器を用いて光電子のスピンを測定することにより、物質中の電子スピンの向きを調べることもできる。物質中の電子が有する運動量、エネルギーおよびスピンが分かると、(スピン状態までを含めた)電子構造を完全に理解することができる。
 〇スピントロニクス
 電子の電荷を基にした現代社会を支えるエレクトロニクスを超えて、電荷だけでなく磁石的性質であるスピンをも利用して応用する分野のこと。
 〇スピン軌道相互作用
 電子自身が持つ磁気的性質(スピン角運動量)と電子の軌道によって発生する磁気的性質(軌道角運動量)との相互作用のこと。
 〇テルル
 テルル(英:tellurium)は原子番号52の元素。元素記号はTe。原子量は127.60。第16族元素の一つ。
 〇第一原理電子構造計算
 量子力学の基礎的な方程式を用いて、物質を構成する原子の種類と位置の情報から電子構造を計算する手法。結晶構造さえ決まれば非経験的に電子構造を得ることができるため、性質の不明な新物質に対しても威力を発揮する。

 朝から小雨。予報では夜まで、となっている。
 散歩は雨の中。塀越しに見える”ナシ”に花が咲きだしている。
 梨の種類は、大別して3種あり、和なし(日本なし、Pyrus pyrifolia var. culta )、中国なし (P. bretschneideri) 、洋なし(西洋なし、P. communis )である。これらの実は、何れも食用として栽培される。日本語で”ナシ(梨)”と言えば通常、このうちの”和なし”を指す。雨に打たれた”ナシ”も”和なし”。
 ”ナシ”の語源には諸説がある。
  中酸(なす):江戸時代の学者新井白石は中心部ほど酸味が強いことから、中酸が転じたと述べている。
  風なし:風があると実らないから
  中白(なかしろ)・色なし:果肉が白いから
  梨子(らいし):漢語の梨子の転じたもの
 ”ナシ”という名前は「無し」に通じることからこれを忌ん(忌み言葉)で、家の庭に植えることを避けたり、「ありのみ(有りの実)」という反対の意味を持たせた呼称が用いられることがある。しかし、「無し」という意味を用いて、盗難に遭わぬよう家の建材にナシを用いて「何も無し」、鬼門の方角にナシを植えることで「鬼門無し」などと、縁起の良い利用法もある。
 ナシ:梨 (なし)
  その果実もナシ
 別名:有の実(ありのみ)
 ”ナシ”の種類には、皮が黄緑色の青梨:二十世紀など、皮が褐色の赤梨:幸水・豊水などのの2種類に分けられる
 学名:Pyrus pyrifolia var. culta
 バラ科ナシ属
 原産地:中国を原産とし中国や朝鮮半島、日本の中部地方以南に自生する野生種ヤマナシ(ニホンヤマナシ、P. pyrifolia var. pyrifolia )を基本種とする栽培品種群のこと。
 日本でナシが食べられ始めたのは弥生時代頃とされ、登呂遺跡などから多数食用にされたとされる根拠の種子などが見つかっている。文献に初めて登場するのは「日本書紀」であり、持統天皇の693年の詔において五穀とともに「桑、苧、梨、栗、蕪菁」の栽培を奨励する記述がある。
 開花時期:4月頃、桜から1週間ほど遅れて開花する
 白い5弁花


ロータリーエバポレーターのマクロ回転で、ねじれたキラル分子の合成に成功

2020-04-17 | 科学・技術
 東京大学 生産技術研究所の石井和之教授、半場藤弘教授、黒羽みずき大学院生、南部翔平大学院生、服部伸吾研究員(現:横浜市立大学助教)、北川裕一大学院生(現:北海道大学特任講師)、新村和寛大学院生、水野雄貴大学院生のグループは、ロータリーエバポレーターを使用して、フタロシアニン分子の単量体を含む溶液を濃縮することにより、キラルな触媒を用いずに、マクロな機械的回転に応じて、右巻きまたは左巻きにねじれたフタロシアニンキラル会合体を、高い再現性で合成することに成功した。会合体の"ねじれ"構造は分光測定により決定され、フラスコ内流体運動の"ねじれ"も計算することで、キラル誘起機構を提案した。本研究成果は10月31日(木)(中央ヨーロッパ時間)に、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン版)に掲載。
 発表概要:
 分子は、その構造の鏡像と重ね合わすことができない性質(キラリティー)を示すことがあり、医薬品や材料の開発などにおいて極めて重要である。最近、マグネティックスターラーなどのマクロな機械的回転を使用した渦運動によって、超分子または高分子をねじってキラリティーを発現させる例が報告されており、生命のホモキラリティー起源の候補であることやキラルな触媒を用いない新たな合成法などの観点から注目を集めていた。一方、ロータリーエバポレーターのマクロな機械的回転を使用したキラル化合物の合成例も報告されていたが、再現性が低く、キラリティーを誘起する機構も不明であった。
 今回の発見は、マクロな機械的回転(~10-1m)とナノスケールの分子キラリティー(10-7~10-9m)に結びつけている点から、新しい科学分野となりえるだけでなく、生命のホモキラリティー起源を考える上での手がかりも提供している。さらに、キラルな触媒を用いずにキラル分子を合成する合成法やキラル光学材料へ調整する方法へと発展することが期待できる。
 発表内容
 背景
 分子は、その構造の鏡像と重ね合わすことができない性質を示すことがあり、これを分子のキラリティーと呼び、そのような分子をキラル分子と呼ぶ。アミノ酸には、D体、L体の鏡像異性体が存在するが、生物を構成するアミノ酸は、片方の鏡像異性体のL体のみである。これを生命のホモキラリティーと呼び、生命の起源に関わる未解決の難問である。また、分子のキラリティーは、医薬品や材料の開発などにおいて極めて重要であるため、キラルな触媒を用いた不斉合成(片方の鏡像異性体を選択的に合成すること)が数多く実施されており、更なる研究開発も盛んに行われている。
 渦運動は本質的にキラルであるが、スケールの違いにより、マクロな渦運動はナノスケールの分子のキラリティー(10-7~10-9m)には影響を与えないと考えられてきた。最近、マグネティックスターラーなどのマクロな機械的回転(~10-1m)を使用した渦運動によって、超分子または高分子をねじってキラリティーを発現させる例がいくつか報告されており、①地球の回転運動によって引き起こされる渦運動(コリオリ力)が生命のホモキラリティー起源の候補の一つであること、および②キラルな触媒を用いない新たな不斉合成法などの観点から注目を集めている。しかしこれらは、超分子やポリマーにキラルな"ねじれ"を与えることに相当し、キラル化合物を合成する方法ではなかった。一方、ロータリーエバポレーターのマクロな機械的回転を使用して、キラルではない分子の溶液を濃縮することにより、キラル会合体を合成した例も報告されてはいたが、①再現性が低いこと、②分子のキラリティーを誘起する機構が不明であったこと等から、マクロな機械的回転を使用して、ナノスケールのキラル化合物を合成することは、挑戦的な課題であった。
 研究
 本研究グループは、ロータリーエバポレーターにより、フタロシアニン分子の単量体を含む溶液を濃縮することにより、キラルな触媒を用いずに、マクロな機械的回転に応じて、右巻きまたは左巻きにねじれたフタロシアニン キラル会合体を、高い再現性で合成することに成功した。ここで、合成されたキラル会合体は、溶媒を完全に除去することで固定化されている。会合体の"ねじれ"構造は、円偏光二色性分光測定により決定され、フラスコ内流体運動の"ねじれ"も計算することで、キラル誘起機構を提案し、その機構をマグネティックスターラー実験によっても確認した。
 今回の発見は、マクロな機械的回転(~10-1m)とナノスケールの分子キラリティー(10-7~10-9m)に結びつけている点から、新しい科学を開拓しているだけでなく、生命のホモキラリティー起源を考える上での手がかりも提供している。さらに、キラルな触媒を用いずにキラル分子を合成する合成法やキラルな光学材料を調整する方法へと発展することが期待できる。
 ◆用語解説
 〇ロータリーエバポレーター
 溶媒を除去(留去)するために一般的に用いられる蒸留装置である。 フラスコを回転させることによって蒸発の効率を高めるとともに、突沸を防ぐ効果もある。
 〇キラル分子
 分子構造が、その鏡像と重ね合わすことができない性質を分子のキラリティーと呼び、そのような分子をキラル分子と呼ぶ。キラル分子は、ちょうど右手と左手のように互いに鏡像である1対の立体異性体を持ち、これらは互いに鏡像異性体であるという。アミノ酸や糖では、D体、L体の鏡像異性体が存在する。

 〇生命のホモキラリティー
 生物におけるアミノ酸はL体のみ、糖はD体のみであることを生命のホモキラリティーと呼び、その起源は未解明である。現在、①地球の自転運動による渦運動(コリオリ力)、②円偏光を用いた光化学反応、③磁気キラル二色性を用いた光化学反応の3つが、生命のホモキラリティー起源の候補となっている。
 〇フタロシアニン
 さまざまな場面で利用されている青・緑色の染料・顔料であるとともに、多様な応用の観点(光記録媒体、光伝導体、太陽電池、光がん治療など)からも注目される光機能性分子である。
 〇単量体と会合体
 同じ分子が集合することを会合と呼び、その集まりを会合体と呼ぶ。集合していない分子を単量体と呼ぶ。

 今日の天気は晴れ。風もなく、穏やかな日だ。夜から雨・風が強くなる、予報。
 藤川沿いの散歩で見つけた”ユスラウメ”の花。開花期間が短いようで、タイミングが合わないと見過ごす。でも、6月過ぎには径1cmほど赤く熟した果実を見ることができる。
 果実には、赤実種と白実種がある。この木は赤実種かな、赤実種は柄の短いサクランボの様に見える。白実種は果実が大きく、赤実種に比べると採れる量は少ない。果実は生食のほか、果実酒にも利用できる。
 名(ユスラウメ)の由来は、朝鮮語の”移徒楽(いさら)”が転訛して”ゆすら”となったとの説、揺すったら果実が落ちるからとの説などがある。
 ユスラウメ(桜桃・梅桃・山桜桃梅)
   桜桃(おうとう)はサクランボの別名でもある
 別名:ゆすら
 英名:downy cherry、Nanking cherry
 学名:Prunus tomentosa
 バラ科サクラ属
 落葉低木(丈は2m~3m)
 中国・朝鮮半島の原産、江戸初期に渡来
 開花時期は3月~4月
 花びらは5枚で径2cm前後、枝を覆うように沢山咲く
 花色は白・淡紅
 6月頃に赤い果皮の実(径1cm位)となる、熟した果実には光沢がある
 果肉は薄い白で、果皮が白色の品種もある


18桁精度の可搬型光格子時計、東京スカイツリーで一般相対性理論を検証

2020-04-11 | 科学・技術
 理化学研究所の高本将男 専任研究員と東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授(理化学研究所チームリーダー/主任研究員)らの共同研究グループは、島津製作所と共同で18桁精度の超高精度な可搬型光格子時計を開発した。成果は英国の光学専門誌「Nature Photonics(ネイチャー・フォトニクス)」に日本時間4月7日に掲載。
 東京スカイツリーの地上階と地上450メートルの展望台に設置した2台の時計の進み方の違いを測定し、この結果を国土地理院が測定した標高差と比較することで、一般相対性理論を従来の衛星を使った実験に迫る精度で検証することに成功した。原子時計を人工衛星やロケットに搭載して、宇宙空間と地表の間で約1万キロメートルの高低差をつけることで測定された従来の宇宙実験に比べて、今回開発した可搬型光格子時計を使うことで、1万倍以上少ない高低差で、同等の実験が可能になった。
 一般相対論的効果の多くは「宇宙スケール」の現象として議論されてきたが、18桁精度の原子時計では、わずか数センチメートルの「日常的なスケール」の高さの違いで時間の遅れが観測できる。この結果、従来の技術の範疇では考えられることのなかった、新たな「相対論的センシング技術」が誕生する。これまで実験室環境で実証されてきた超高精度な光格子時計の小型化・可搬化と実験室外運転の実証は、この「相対論的センシング技術」の実用化に向けた大きな突破口である。
 高精度な可搬型光格子時計は、プレート運動や火山活動などによる地殻の数センチメートル精度の上下変動の監視、GNSS(全球測位衛星システム)や高感度重力計と補完的に利用できる超高精度な標高差・重力場計測システムの確立など、将来の社会基盤への実装が期待される。
 ポイント
 〇18桁の精度(百億年に一秒のずれに相当)をもつ可搬型光格子時計の開発に世界で初めて成功した。
 〇東京スカイツリーの地上階と展望台に設置した2台の可搬型光格子時計を使って重力赤方偏移を高精度に観測し、一般相対性理論を検証した。本研究で得られた検証精度は、従来、1万キロメートルの高低差を必要とした衛星を用いた実験に迫る。
 〇高精度な可搬型光格子時計の実験室外運転の実証は、光格子時計の社会実装に向けた大きな一歩である。今後、プレート運動や火山活動などに伴う地殻変動の監視など相対論的センシング技術の実用化が期待される。
 成果
 これまで、最高性能のセシウム原子時計(16桁精度)を使っても、数日測定を続けてやっと10メートルの高低差による時間の遅れを観測できる程度であった。このため、相対論的効果で標高計測を行うことの(他の測量手法に対する)優位性を見出すことは困難であった。
 可搬型光格子時計を東京スカイツリーの地上階と展望台の2カ所に置き、それぞれが示す時間の進み方の違いを計測した。その結果、展望台では1日あたり4.26ナノ秒(ナノは10億分の1)、地上よりも時間が速く進んでいた。この差を基に、両者の高低差が452.603メートル、不確かさ39ミリであることが求められた。一方、確認のためにレーザーで高低差を測ると452.596メートル、不確かさ13ミリとなり高精度で一致した。可搬型光格子時計が、従来の実験室のものと同程度の性能を発揮することが示された。
 発表内容
 高精度な原子時計は、高精度に同期された時刻を必要とする高速大容量通信や衛星測位など現代社会の基幹技術である。現在、セシウム原子時計によって国際単位系の1秒が定義され、5千万年に1秒のずれに相当する精度が実現されている。この精度を100倍以上改善する光格子時計は、次世代の「秒」の定義の有力候補として注目され、世界中で研究が進んでいる。その精度はおよそ百億年に一秒のずれ(18桁の精度)に相当する。
 このような高精度な原子時計では、地上でわずか数センチメートルの高さの違いで、アインシュタインの一般相対性理論から導かれる時間の遅れによる周波数の変化「重力赤方偏移」効果が観測可能になる。時計周波数の重力赤方偏移を利用した標高差の計測は、時計の新しい応用「相対論的センシング技術」として注目されている。しかし、高精度な原子時計は実験室内のみで稼働できる複雑な装置となっていた。高精度な原子時計の小型化・可搬化と実験室外でも安定に動作できる堅牢化は、「相対論的センシング技術」の実用化の課題となっていた。
 研究グループは、実験室で使用していた大型光学定盤上のレーザー装置を含む光学系を集約し、制御系を含めてボックス化した。それにより、実験室環境で実現した時計の精度を劣化させることなく、システムの小型化・可搬化を実現し、実験室外の環境でも18桁精度を実現できるような可搬型ストロンチウム光格子時計を開発した。また、長時間安定に動作できるように合計17台のレーザー装置の周波数制御の自動化を図り、かつインターネット経由で遠隔操作が可能なシステムを構築した。
 研究グループは、可搬型光格子時計を東京スカイツリーの地上階と展望台の2か所に設置し、約450メートルの標高差を与えた。これらの2台の光格子時計の周波数差を測定することで、重力赤方偏移を求めた。この一方、GNSS測量、水準測量、レーザー測距などによる標高差測定と相対重力計による重力測定を組み合わせることで、2台の時計のおかれた地点間の重力ポテンシャル差(単位質量あたりの位置エネルギー差)を求めた。こうして求めた重力赤方偏移と重力ポテンシャル差を比較することで、一般相対性理論の検証実験を行った。
 実験の概要
 原子の共鳴スペクトルが、450メートル標高差でおよそ21ヘルツ分ずれていることが観測された。それぞれの時計で、スペクトルのピークに常に共鳴するようにレーザー周波数を制御し、共鳴周波数の差を数日にわたって平均化することで、高精度に時計の周波数差Δνを計測した。およそ1週間の平均化によって、展望台の時計が地上階の時計よりも相対周波数がΔν/ν=(49,337.8±4.3)×10-18だけ高い(時間が早く進んでいる)ことが計測された。その後、2台の時計を理化学研究所に持ち帰り、同じ高さに設置して測定した結果、相対周波数差は(-0.3±4.7)×10-18、つまり、計測に使った時計は18桁の精度で一致していることが検証された。
 一方、2台の時計の標高差Δhを、GNSS測量及び水準測量とレーザー測距の2つの方法で測定するとともに、相対重力計を使って重力加速度gを測定した。この結果から、2台の時計の重力ポテンシャル差gΔh/c2=(49,337.1±1.4)×10-18を得た。一般相対論によれば、重力赤方偏移は、重力ポテンシャル差に等しくなります(注)。時計で得られた重力赤方偏移と、従来の測定手法によって得られた重力ポテンシャル差を比較することで、この予言を(1.4±9.1)×10-5の精度で検証した。この成果は、およそ1万キロメートルの高低差を利用するロケット/人工衛星を使った相対論検証実験に迫る精度である。従来よりも1万倍高精度な原子時計を使うことで、宇宙実験に比べて1万倍以上少ない高低差で、同等の実験が可能になった。
 このような高精度な可搬型光格子時計を使えば、GNSS測量では検出が困難な数センチメートル精度のプレート運動や火山活動による地殻の上下変動の監視や、数時間から数年という時間スケール(注)で起こる地殻変動(標高変化)を精密に観測できるようになる。また、GNSSや高感度重力計と補完的に利用できる超高精度な標高差計測・測位システムの確立や、地下資源探査、地下空洞、マグマ溜まりの検出など、光格子時計は将来の社会基盤となる可能性を秘めている。今後、光格子時計の実用化に向けて、さらなる時計の小型化、可搬化が加速され、新たな測地技術への応用が期待される。
 ◆用語解説
 〇光格子時計
 2001年、香取秀俊東京大学大学院工学系研究科准教授(当時)が考案した次世代の原子時計。まず、「魔法波長」と呼ばれる特別な波長のレーザー光を干渉させて作った微小空間(光格子)に、レーザー冷却された原子を1つずつ捕獲し、原子同士の相互作用が起きないようにする。次に、これらの原子にレーザー光を当て、光を吸収する「原子の振り子」の振動数を精密に測定する。この光の振動を数えて、1秒の長さを決める。光格子全体には多数の原子を捕獲できるので、それらの「原子の振り子」の振動数を一度に測定して平均をとることで、短時間で時間を決めることができる。
 〇18桁の精度
 時計の精度は、ある時間経過した後の時間のずれで評価する。例えば、月差10秒の腕時計なら、(10秒)/(ひと月はおよそ2,600,000秒)から計算される、およそ4×10-6が時計の精度である。これを指数の数字を取って、6桁の精度の時計という。18桁の精度は、およそ百億年の間測定するとやっと1秒ずれる精度である。このような時計の精度は、時計の振り子の振動数の精度で決まる。
 〇一般相対性理論
 アルベルト・アインシュタインによって築かれた現代物理の基本理論の1つである。物質のまわりに生じた時・空間のひずみとして重力場を表現する。重力の強いところでは時間はゆっくり流れることも一般相対論から導かれることの1つである。
 〇重力赤方偏移
 重力が強いほど時間の進み方が遅くなるという現象。重力場中での光の波長が伸びる(低い周波数にシフトする)ことから「赤方偏移」と呼ばれている。重力赤方偏移の検証は、異なる慣性系間での実験を比較することを意味しており、「重力場中の実験と等加速度運動する系での実験は区別できない」とするアインシュタインの等価原理を検証することに相当する。この等価原理が破れていると、一般相対性理論の出発点が危ぶまれることになる。本研究では、その意味で「一般相対性理論の検証」という言い方をしている。
 〇注)
 今回の実験のように重力ポテンシャル差が十分小さいとき、極めていい近似になります。
 〇注)数時間から数年(以上)という時間スケールでセンチメートル精度の計測が可能なことも、光格子時計を使う相対論的センシング技術の特長である。光格子時計では多数の原子を使うことで短時間(数時間)で高精度な標高計測ができる。一方、原子時計の刻む時間は不変であることから、長期(数年、それ以上)の計測の安定性が保証される。このように、数時間から数年(以上)という時間スケールでセンチメートル精度が維持されることは、従来の水準測量や、GNSS測量にはない特長である。

 天気は晴れ、雲が少し多い。風が少しあり、少し冷たい。・・少し・少しの世界!。
 梅田川と仙石線が交差する所があり、堤防の近くに、”ハナモモ”が植えられている。この”ハナモモ”、花が咲き始めた。花は電車から見えるかな。
 ”モモ”には、果実を食用とする品種と、花を観賞する品種がある。花木として扱う品種は、”ハナモモ”と呼ばれる。”ハナモモ”は実を付けないと言われるが、幾らかは付いている。
 ”モモ”は縄文時代から栽培されており、江戸時代に”ハナモモ”の8品種の記述があり、この頃に改良が始まったとされる。現在の園芸品種の多くもこの時代のものが多いと言う。
 名(モモ)の由来には、果実(実)が赤いので「もえみ(燃実)」から転訛で「もも」となった説がある。
 花は桃の節句(雛祭り)に飾られる。桃の字の「兆」は「妊娠の兆し」の意味なので、桃が女性やひな祭りと関連があると言う。因みに、桃の木は万葉の頃から霊力のある木とされ、桃太郎(日本昔話)が有名だ。原典となる、「桃太郎の鬼退治」のお話は、中国から日本に伝わった話で、中国では犬は「仁」、猿は「知恵」、キジは「勇気」を示している、とか。
 モモ(桃)、ハナモモ(花桃)
 学名:Prunus persica
 バラ科サクラ属
 耐寒性落葉小高木
 原産地は中国、桃の字は中国から
 開花時期は3月~4月
 花は5弁花、栽培される園芸品種は八重咲きが多い
 花色は桃色・白色・紅色


世界初、光スイッチング効果を示す超イオン伝導体を発見

2020-04-10 | 科学・技術
 東京大学大学院理学系研究科大越慎一教授と筑波大学数理物質系所裕子教授の研究グループは、光スイッチング効果を示す超イオン伝導性極性結晶を発見した。本研究成果は、日本時間2020年3月17日(火)にNature Chemistry(ネイチャー・ケミストリー)のオンライン版で公開。
 発表のポイント
 〇光スイッチング効果を示す超イオン伝導体を世界で初めて発見した。
 〇この超イオン伝導体は、超イオン伝導性と極性結晶構造が共存しているために、第二高調波発生も示すことを明らかにした。
 〇超イオン伝導体は、全固体電池の固体電解質として用いられている。光でイオン伝導度がスイッチングできる本物質の性質を使えば、将来、電池のON/OFFを光で行うことができるようになると期待される。
 発表概要
 東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授の研究グループは、光スイッチング効果を示す超イオン伝導性極性結晶を発見した。
 この結晶は鉄-モリブデンシアノ骨格錯体にセシウムイオンを含んだ3次元ネットワークで構成される極性結晶構造の物質である。この物質は318K(45°C)において4×10-3Scm-1という高いイオン伝導度を示し、超イオン伝導体(注2)であることがわかった。本物質に、室温において532nmの光を照射したところ、イオン伝導性が1×10-3Scm-1から6×10-5Scm-1へ可逆的に変化し、イオン伝導性の光スイッチング効果が観測された。また、自発電気分極により第二高調波発生(SHG)を示す超イオン伝導体であった。光応答性およびSHG活性を示す超イオン伝導体はこれまでに例のない物質であり、燃料電池の電解質の機能提案につながることが期待される。光でイオン伝導度がスイッチングできる本物質の性質を使えば、将来、電池のON/OFFを光で行うことができるようになると期待される。
 発表内容
 イオン伝導体は、燃料電池、リチウムイオン電池や化学センサなど、さまざまな用途で使用されている。イオン伝導度が10.4 S cm.1 を超える高い伝導性を持つ固体材料を超イオン伝導体と呼ぶ。
 本研究において、発表者らは、光スイッチング効果を示す超イオン伝導性極性結晶を開発した。この結晶は、鉄-モリブデンシアノ骨格錯体にセシウムイオンを含んだ3 次元ネットワークで構成されるセシウム-鉄-モリブデンシアノ錯体(Cs1.1Fe0.95[Mo(CN)5(NO) ]・4H2O)という青色の物質である。結晶構造解析の結果、正の電荷をもつセシウムイオンと負の電荷をもつ鉄-モリブデンシアノ骨格の重心のずれにより自発分極を有する極性結晶であることがわかった。また、ネットワークを構築するニトロシル(NO)基の酸素原子と水分子からなる1 次元の水素結合ネットワークが存在していることも明らかとなった田。
 イオン伝導性測定の結果、45 °C で相対湿度100%におけるイオン伝導度は4.4 × 10.3 S cm.1 と非常に高く、超イオン伝導体に分類されることがわかった。この超イオン伝導は、ニトロシル基と水分子が形成した水素結合ネットワークを介してバケツリレーのようにプロトン(H+)が運ばれるメカニズムで生じていることが示唆された。
 本物質のセシウム-鉄-モリブデンシアノ錯体は、光応答性が期待されるニトロシル基を含んでいるため光照射実験を行った。湿度が制御された容器内で錯体に532 nm 光を照射したところ、イオン伝導度は1.3×10.3 S cm.1 から6.3×10.5 S cm.1 へと二桁も低下した。一方、光照射後、時間経過にともない超イオン伝導は回復した。このような超イオン伝導体の光スイッチング現象の観測は、本研究が世界で初めてである。この光スイッチング現象は、モリブデンイオンとニトロシル基の結合角度が光照射で可逆的に変化する光異性化現象に起因しており、結合角度の変化により水素結合ネットワークが一部切断されることで、超イオン伝導を担っているプロトン伝導度が低下したものと考えられる。
 また、本物質は通常は共存しない超イオン伝導性と極性結晶構造が共存する材料であることが分かった。強誘電体や焦電体などの極性結晶は、電気分極を有する誘電体(伝導率が10.8 S cm.1 以下)に分類され、電気抵抗の観点から超イオン伝導性と極性結晶構造は単一の材料には現れないため、その機能性に興味が持たれる。そこで、二次の非線形光学効果の一つであ
る第二高調波発生(SHG)の検討を行った。1040 nm のレーザーを試料に照射したところ、波長が半分の520 nm の光の出射が観測され、SHG 出射が確認された。SHG 顕微鏡によっても個々の粒子からSHG が観測されている。
 本研究は、全固体電池の固体電解質としての機能提案を念頭に行われた。光でイオン伝導度がスイッチングできる本物質の性質を使えば、将来、電池のON/OFF を光で行うこともできるようになると期待される。
 ◆用語解説
 〇極性結晶
 外から電界を与えなくても自発的な分極を有している結晶のこと。焦電体とも呼ばれる。
 〇超イオン伝導体
 イオンが電気を輸送する伝導体のうち、電解質水溶液の伝導率に匹敵する10.4 S cm.1 を超える高い伝導率を示す物質を、超イオン伝導体と呼ぶ。
 〇自発電気分極
 極性結晶では、外部から電界がかけられなくても、プラスの電荷を有する部分とマイナスの電荷を有する部分に偏りが生じており、電気分極を有する。これを自発分極と呼ぶ。
 〇第二高調波発生(SHG)
 物質にある波長の光を当てたとき、光の周波数が二倍、すなわち半分の波長の光が物質から出射される現象。
 〇光異性化
 構成する原子の数を保ったまま、構造(原子のつながり方)が変化することを異性化というが、この反応が光エネルギーによって起こること。
 〇強誘電体および焦電体
 極性結晶は焦電体とも呼ばれるが、中でも、外部電圧の極性を反転させることで自発分極の向きを可逆的に反転できる物質を強誘電体と呼ぶ。
 〇Cole.Cole プロット
 さまざまな周波数で測定したインピーダンス(Z) を複素平面に図示したもので、横軸に実部(Z’)、縦軸に虚部(Z”)をプロットした図を指す。測定対象がコンデンサ成分を含む場合、プロットは半円を描き、横軸を横切る点が伝導度の逆数である抵抗値に相当する。

 天気は晴れ。少し雲があるが、快晴。風がとても強く、冷たい。・・時間が戻った感じ。
 所用があり、郊外に出かけた。街道沿いに”モクレン”の花が咲き始めている。お隣の”サクラ”は満開だ。
 ”モクレン(木蓮)”と言えばこの木で、”シモクレン(紫木蓮)”とも呼ばれ、白い花の”ハクモクレン(白木蓮)”と対比される。”ハクモクレン(白木蓮)”の花期は終わったようで、”モクレン”の花期は現在。
 花は上向きで、全開せず半開状(開ききらない状態)に咲いている。花弁6枚、萼3枚、雄しべと雌しべは螺旋状に多数が付く。良い香りがする。
 名(木蓮:もくれん)の由来は、花がラン(蘭)に似ているから「木蘭(もくらん)」、ハス(蓮)に似ているから”木蓮(もくれん)”と呼ばれるようになった、と言う。因みに、モクレン属は地球上で最古の花木と言われ、白亜紀(恐竜時代、約1億年以上前)の地層から化石が発掘されている。
 モクレン(木蓮)
 別名:紫木蓮(しもくれん)、もくれんげ(木蓮花、木蓮華、木蘭花)
    マグノリア(Magnolia)
 モクレン科モクレン属
 落葉高低木(樹高は3m~5m)
 原産地は中国
 開花時期は3月~5月
 新葉が出る前に、紫紅色で卵形の大きな花を咲かせる
 咲くのは、白木蓮より少し遅い・・10日位かな
 花色は濃紅色(外側)・白色(内側)


世界で初めて、金属チタンをベースとした生体軟組織用接着材を開発

2020-04-09 | 科学・技術
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(歯)生体材料学分野の松本卓也教授、岡田正弘准教授、昭和大学、大阪大学、柳下技研株式会社の共同研究グループは、医療用金属材料であるチタンを表面処理することで、このチタンが真皮や筋膜などの生体軟組織と瞬時に接着することを見出した。この研究成果は3月23日、ドイツ科学誌「Advanced Materials Interfaces」のオンライン電子版で公開。
 発表のポイント
 〇世界で初めて、金属チタンをベースとした生体軟組織用接着材を開発した。
 〇開発した接着材は、粘着性などは全くないが、生体軟組織に対して高い親和性を持っており、軽く押し当てるだけで瞬時に真皮組織や筋膜に強く接着する。
 〇インプランタブル(人体への埋め込みが可能な)センサや医療用デバイスの体内固定への応用、組織接合や組織変形矯正など簡便な外科処置への応用が期待される。
 インプランタブルセンサや医療用デバイスの生体内への固定、生体組織どうしの接合といった目的のためには、高分子製の縫合糸が一般に使用されている。一方で、医療現場においてはこれら用途に簡便かつ迅速に使用できる生体組織用接着材の開発が強く望まれている。
 本チタン材料は一般的なチタン薄膜を一定温度下で酸処理しただけのものである。簡単な処理にも関わらず、このチタン薄膜は生体軟組織、特に真皮組織や筋膜組織に高い接着力を示すことが見出された。この酸処理によりチタン表面は疎水化するとともに著しい結合水量の減少が生じる。この状態が生体軟組織との疎水性相互作用を増強し接着力が生じるものと考えられる。研究グループによると、血液が固まる性質を利用した従来の医療用接着剤「フィブリンのり」と比べ、接着力は3倍以上だという。
 本研究成果は、簡便かつ迅速に強い接着力を示す生体親和性に優れた新しい接着材として、インプランタブルセンサや医療用デバイスの体内固定への応用、組織接合や組織変形矯正など簡便な外科処置への応用が期待される。
 研究者からのひとこと
 接着材というと糊やボンドを思い浮かべると思いますが、これらは化学反応の結果、液状のものが固化することで接着性を示します。今回の接着材はこのようなものとは全く別のものです。本材料は見た目はただの金属の薄膜です。にも関わらず、体の軟らかい組織(特に、真皮、筋膜)にそっとおいて、トントンと圧接するだけで、すぐに接着します。表皮とはくっつかないので、手にはくっつきません。世の中の既存の概念にはないものなので、想像しにくいかと思いますが、なかなか面白いモノです。

 天気は晴れ。少し風が強い。
 風が強いと、アチラコチラを見る散歩にはチョット辛い。・・対象となるお花が揺れ、焦点が定まらないからだ。
 風が少し穏やかになったら、何処からか良い香りがする。”ジンチョウゲ”の花、花期は3月・4月で満開だ。
 花から強い芳香を放つ庭木の代表格には、ジンチョウゲ(沈丁花)・クチナシ(梔子)・キンモクセイ(金木犀)がある。
 名(ジンチョウゲ;沈丁花)の由来は、香が沈香(じんこう)、葉の形が丁子(ちょうじ)に似ているからと言う。漢名は、瑞香(ずいこう)、良い香りを愛でて付けられた。
 ジンチョウゲの品種は、花の蕾が赤で開くと薄いピンク交じりの白となる赤花品種(ウスイロジンチョウゲ)と、蕾から開花まで白の白花品種(シロバナジンチョウゲ)がある。どうも白花が先に咲き、少し遅れて赤花が咲くのかな。
 雌雄異株だが流通する苗木の殆どが雄株で、雌株は極めて少ないとの事。花はどちらも同じで外観からは区別がつかないと言う。雌株は紅色の果実を付けるが有毒、でも日本では殆どお目にかからない。
 ジンチョウゲ(沈丁花)
 学名:Daphne odora
 ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属
 常緑低木、丈は0.5m~1.5m
 雌雄異株、日本では殆どが雄株
 中国中部・ヒマラヤに分布
 日本には室町時代に薬用として渡来
 花期は3月~4月、花から強い芳香を放つ
 白い花弁に見える部分は萼(がく)で、花弁状に変化したもの。・・花姿が長く持つ。


混ぜると自ら伸びる超分子ポリマーの開発に成功

2020-04-03 | 科学・技術
 千葉大学グローバルプロミネント研究基幹の矢貝史樹 教授を中心とする国際共同研究チームは、酸素原子が1つ異なる2種類の分子を混ぜると、分子の認識で形成されたユニットが積層するという全く新しい超分子重合を実現した。さらに、ある温度帯で一気に構造が崩壊するというこれまでになかった熱応答性を示すポリマー材料の創製に成功した。この成果は、刺激に対して高速で応答して状態を変えるソフトマテリアルの設計指針となることが期待される。本研究の成果は、「Nature Communications」にて 2020年4月1日に公開。
 研究の背景
 分子(モノマー)が弱い可逆的な相互作用(非共有結合)によって結合したものは「超分子ポリマー」と呼ばれ、近年スマートソフトマテリアルとして注目を集めている。超分子ポリマーは、共有結合という強い結合で重合した従来のポリマーと比較して、多様な機能を持った分子を簡単に高分子化することができ、分解が容易で自己修復が可能であるなど、従来のポリマーにはない性質を持っている。分子構造を緻密にデザインした超分子ポリマーを開発することで、より高度な環境応答性を示すポリマー材料設計が可能になる。
 研究成果
 研究チームは、今回、わずかに分子構造の異なる2種類のモノマーを混ぜるだけで分子認識によるユニットの形成によって駆動される超分子重合法の開発に成功した。
 研究チームではこれまで、脂溶性ナフタレン誘導体の1つが、有機溶剤中で水素結合によって風車状ユニットを形成し、このユニットが曲率を生み出しながら弱い力で積層(超分子重合)することで、リング状の超分子ポリマーを形成することを見出していた。また、そのナフタレン誘導体に酸素原子を1つ付加した分子は、電気陰性度が大きい酸素原子によってナフタレン
部位の電子密度が減少することで積層様式が変化し、曲がることなくまっすぐに伸びたファイバー構造を形成することも明らかにしていた。
 今回、研究者らは、2つのナフタレン分子を混合することで、ナフタレン部位の電子密度の違いによって分子が引き合う力を利用し、超分子高次構造の曲率の度合いを制御できるのではないかとの仮説のもと、実験を行った。2種の分子を有機溶媒中で混ぜたのち、構造体を乾燥させて原子間力顕微鏡(AFM)で観察した結果、はじめにアモルファス構造と呼ばれる明確な構造がない状態が観察された。その後、このアモルファス構造溶液を室温で放置したところ、数日かけて徐々にらせん構造が形成していく様子が観察された。また、このらせん構造の形成は、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所フォトンファクトリーBL-10C における小角X 線散乱測定によっても確認できた。
 続いて、このアモルファス構造から、らせん構造の形成メカニズムを明らかにするため、様々なスペクトルを測定した。その結果、アモルファス構造の状態では、赤と緑の分子がランダムに集合してできる多様な風車状ユニットで構成されているものの、らせん構造は、赤と緑の分子が交互に配列した統合型風車状ユニットからなることがわかった。この統合型ユニットが
形成される仕組みとして重要なのは、積層することで、電子に富んだ赤分子と電子が不足した緑分子の電子的な相互作用を最大にでき、エネルギーが安定化することであると考えられる。
 研究チームは、この電子的な相互作用によって、風車状ユニット間が重合する力も強くなることから、統合型ユニットはリングで止まらずにらせん構造へと自発的に成長することを見出した。また、らせん構造の分解メカニズムを調べるため、らせん構造の溶液を加熱したところ、45 ℃から50 ℃という非常に狭い温度範囲でアモルファス構造へと一気に崩壊するという現象が確認された。従来、溶液中における超分子ポリマーの熱分解は、その末端や欠陥部位から徐々に起こることが一般的である。今回の超分子ポリマーにおいては、2つの分子が交互に並んだ統合型ユニットの積層は非常に強く、温度に対してある程度の耐性を示すが、その内部では、温度上昇に伴ってより乱雑になろうとする傾向が強くなる。このらせん構造は、ある温度においてエネルギーの均衡が崩れることで一気に崩壊するという、これまでにない分解メカニズムを持っていることが明らかになった。
 今後の展望
 本研究のプロジェクトリーダーである矢貝史樹 教授は次のように述べています。「今回、モノマーが風車状のユニットを介して階層的に超分子ポリマーを形成し、そのユニットの組成が超分子ポリマーの形成を支配することが明らかになりました。また、この仕組みを利用すれば、温度に対して鋭敏に応答する高分子材料を生み出すことができることもわかりました。今後、さらに多様な分子を用いることで、より様々な刺激に対して高速に応答する新たなソフトマテリアルの材料の創出が可能になると期待されます。」
 ◆用語解説
 〇分子認識
 分子が他の分子を見分ける現象。水素結合、配位結合、疎水効果、ファンデルワールス力、π.π 相互作用、静電相互作用などの分子間相互作用によって起きる。例えば、生体内でDNA は遺伝情報を保存するために二重らせんを形成しているが、この二重らせんを形成するための対となるDNA 鎖を構成要素間の水素結合によって分子認識している。

 朝から晴れ。気温は、最高気温18℃と温かい・・でも風はヒヤリと冷たい。
 建物の敷地にある植生地、”ツクシ”の林となっている。
 ”ツクシ”はスギナの胞子茎(胞子穂、胞子体とも言う)で、胞子茎(ほうしけい)とは胞子嚢(ほうしのう、胞子が入っている袋)をつける茎。ツクシの後に続いて、横から栄養茎(主軸の節ごとに取り巻くように細い線状の葉が付く)が出てくる・・これがスギナ(杉菜)。”ツクシ”群の中に、”スギナ”がまだ見えない。
 名(ツクシ)の由来は、”スギナ”に付いているから付子(ツクシ)説、ツクヅクシ(突く突くし、突出している様子)の転訛のツクシ説、突々串〈つくつくくし、串の様に突き出ている)からの説、澪標(みをつくし、航路標識:水から突きでた柱)からの説、などがある。漢字での「土筆」は、土から伸びる筆の姿を表している。
 因みに、ツクシは食用となる・・「胞子のほろ苦さと茎の歯ざわりは最高」らしい。
 ツクシ(土筆、付子)
 英名:horsetail(馬の尻尾)
 スギナ(杉菜)の胞子茎、スギナはトクサ科トクサ属
 出る時期は、桜の開花と同じ頃の3月下旬~4月上旬
 スギナ(杉菜);緑色の細い葉は4月頃に見る


超高精度光周波数の240キロメートルファイバー伝送に成功

2020-03-30 | 科学・技術
 日本電信電話株式会社(以下NTT)と東京大学大学院工学系研究科香取秀俊教授(理化学研究所 光量子工学研究センター チームリーダー、同開拓研究本部主任研究員)および東日本電信電話株式会社(以下NTT東)は、複数の遠隔地間で240キロメートルに及ぶ光周波数ファイバー伝送の実証実験を実施し、データ積算時間2600秒で、周波数精度1×10-18に達する超高精度光周波数遠隔地間伝送に成功した。この結果は、現在、世界最高性能の光格子時計の有する光周波数を、その性能を保ったまま、光ファイバーで200キロメートルを超える伝送が可能であることを示している。
 光格子時計は、セシウム原子時計を桁違いに上回る超高精度な原子時計である。光格子時計の驚異的な精度の高さを利用する応用の1つが、複数の遠隔地に設置した光格子時計を光ファイバーで接続し、その周波数差を遠隔比較する「相対論的な効果を使った標高差測定(相対論的測地))」である。それにより、重力ポテンシャル計測に基づく精度1センチメートルレベルの水準点や、地震や噴火の前兆現象につながるわずかな地殻変動の日常監視など、新たなインフラストラクチャーへの展開が期待されている。
 本研究において、NTTとNTT東日本は、世界で初めて、平面光波回路(PLC)技術を用いた光周波数中継装置(リピーター)を開発し、このリピーターをカスケード接続した超高精度光周波数ファイバー伝送網を構築した。構築したファイバー網に超狭線幅レーザーを伝送させ、伝送精度を評価することにより、1センチメートル精度の標高差比較が可能な1×10-18という周波数の精度を保ったまま、200キロメートル級の遠隔地間へと伝送距離を拡張することを実証した。この周波数伝送精度は、東大・理研が開発した世界最高精度の光格子時計を用いた遠隔地間周波数比較による相対論的測地が可能なレベルである。
 本成果は2020年3月17日(米国時間)に米国科学誌「オプティクス・エクスプレス」にて公開。
 実験の背景
 光格子時計は、光の周波数(数百テラヘルツ)を基準とする超高精度な原子時計で、その周波数精度は現在の「秒」の定義となっているセシウム原子時計を桁違いに上回ることから、次世代の「秒」の定義の有力候補として世界中で研究されている。アインシュタインの一般相対性理論によれば、異なる高さに置かれた2台の時計を比較すると、低い方の時計は地球の重力ポテンシャルの影響を大きく受け、ゆっくりと時を刻むことが知られている。この原理を用いて、全国的に複数の遠隔地に設置した光格子時計を光ファイバーで接続し、その周波数差を遠隔比較する「相対論的な効果を使った標高差測定(相対論的測地)」は、従来の原子時計ではできない新しい応用として注目されてる。これを実現することによって、現在のGNSS(Global Navigation Satellite System)による測地精度では困難な1センチメートル精度の標高差測定が可能になり、各地の標高差を1センチメートル精度で常時モニターすれば、重力ポテンシャル計測に基づく水準点や、地殻変動の監視など、新たなインフラストラクチャーへの展開が期待できる。地殻変動をリアルタイムに観測するためには、1×10-18という精度で2台の光格子時計の周波数差を数時間で計測する必要がある。光格子時計は、この極限的高精度にわずか数時間のデータ積算(平均化)時間で到達するという他の原子時計には無い特徴を備えており、現在、世界最高性能を有する光格子時計では、10000秒以上のデータ積算時間で、周波数精度1×10-18に到達する。従って、その光格子時計の特徴を最大限生かした相対論的測地の実現を想定した場合、まず第一歩として、光ファイバーによる光伝送が、10000秒よりも短いデータ積算時間で、周波数18桁まで安定であることが必要不可欠である。さらに、このような光格子時計の光伝送ファイバーネットワークを全国規模に敷設することを想定すれば、そのファイバー距離の拡張性も重要な要素である。過去に、東大・理研では、その最も基本的な実験として、2017年に本郷(東大)-和光(理研)間において、30キロメートルの無中継ファイバー伝送による2台の光格子時計の周波数比較を実現し、数センチメートル精度の遠隔地間標高差測定の原理実証を行った。[Takano et al., Nature Photonics 10, 662 (2016)]。東大・理研で開発されたファイバー伝送の手法では、無中継で伝送できるのは100キロメートルまでが限度であり、数百キロメートルの県レベルや数千キロメートルの全国レベルにまで拡大するには、高精度を保ったまま光を中継しながら伝送する技術が必要となる。
 本実験では、県レベルの域内における光周波数伝送ファイバーネットワークを想定し、1センチメートル精度の標高差測定を実証するために、200キロメートル級の超高精度光周波数ファイバー伝送技術の実現を目指した。
 実験の成果
 今回の実験は、1センチメートル精度の標高差比較が可能な1×10-18という周波数の精度を保ったまま、200キロメートル級の遠隔地間へと伝送距離を拡張するために、複数の区間に分けて、リピーターを介して中継するカスケード方式を用いたことを特徴としている。そのために、NTTとNTT東は、2015年10月より、東大本郷キャンパスを基点にNTT厚木研究開発センタまで、複数の中継局(電話局)を中継した実証実験用の超高精度光周波数伝送ファイバーリンクを構築した。リピーターによる中継では、光の位相を検出するために光干渉計が用いられるが、従来の空間光学系やファイバーカプラを用いた光干渉計では、干渉計自体が発する雑音を除去できないという問題があった。そこで、NTTが独自に開発した平面光波回路(PLC)による差動検波型マッハツェンダー干渉計を用いることで、安定に動作するリピーターシステムを開発し、温度・湿度・振動などの細心の対策が施された実験室環境とは異なる電話局内の商用環境に設置した。この実証実験用ファイバーリンクを用いて、1秒間のデータ積算時間で3×10-16、2600秒で1×10-18の周波数安定度および精度での伝送を実証した。この周波数伝送安定度は、香取研究室が開発した世界最高精度の光格子時計を用いた遠隔地間周波数比較が実現可能なレベルであり、相対論的測地応用につながる成果である。
 実験の説明
 ①本実験では、東大・理研が本郷-和光間光格子時計周波数比較実験に用いた光ファイバーと、NTT東が今回新たに構築した本郷-厚木間商用ファイバーリンクを本郷で接続し、和光(理研)-本郷(東大)-厚木(NTT)間150キロメートル級光周波数伝送ファイバーリンクを構築した。本郷-厚木間には3つの中継局舎(電話局)を用意し、19インチラック1基にリピーターシステムを設置した。各局舎のリピーターは、別の通信ネットワークを介して、遠隔操作することが可能である。
 ②本ファイバーリンクの光周波数伝送精度を評価する実験では、理研に設置している超低膨張ガラス共振器に安定化した波長698ナノメートル(周波数429テラヘルツ)の超狭線幅レーザー(時計レーザー)を基準とし、その2倍の波長である1397ナノメートル(215テラヘルツ)をファイバー伝送する光周波数として用いた。理研から東大へファイバー伝送した215テラヘルツ光周波数基準を東大および局舎Aのリピーターにより中継してNTT厚木に送り、NTT厚木からはもう1本のファイバーを使って、局舎Bのリピーターで中継して、東大まで戻す本郷-厚木-本郷の240キロメートルループ網を構築する。東大から送った光周波数と、ループ網により戻ってきた光周波数の差を検出することで、ファイバーリンク伝送の周波数安定度を評価することに成功した。その結果、周波数安定度は、1秒間のデータ積算時間で3×10-16、2600秒で1×10-18と評価された。この評価結果は、東大・理研が開発した光格子時計の周波数安定度を1桁程度上回っており、ファイバーリンクを介して光格子時計の10-18精度周波数比較が数時間の測定で可能なことを意味している。
 技術のポイント
 (1)1397ナノメートル波長帯を用いたカスケード型ファイバー雑音補償技術(東大・理研・NTT)
 今回の実験で構築した超高精度光周波数ファイバー伝送網は、ストロンチウム原子による光格子時計の周波数比較実験に用いることを想定している。ストロンチウム光格子時計が提供する光周波数基準(時計周波数)は、698ナノメートル波長帯であり、今回の伝送実験で用いた1397ナノメートル波長帯は、ちょうどその2倍の関係がある。この関係により、波長変換デバイスを1つ用いるという簡素な構成で、光格子時計の光周波数基準をファイバー伝送可能な波長帯に変換することが可能である[Akatsuka et al., Japanese Journal of Applied Physics 53, 032801 (2014)]。
 一方、伝送に用いる光ファイバーには、日々の温度変化によるファイバーの伸縮や、敷設環境に由来する振動などさまざまな雑音があり、ファイバー伝送される光周波数の精度の劣化を引き起こす。このファイバー雑音を補償する技術がファイバー雑音補償技術であり、リピーターは、ファイバー雑音補償機能と再生中継機能を1つの装置にまとめたものである。ファイバー雑音補償された光周波数を次の区間へ中継し、またファイバー雑音補償するという繰り返し(カスケード)接続により、精度劣化を可能な限り抑えて遠隔地へ伝送することが可能である。
 (2)石英光導波路による集積型光干渉計技術(NTT)
 本リピーターに、複雑な光の干渉計を高精度かつ集積化可能とする石英系平面光波回路(PLC)技術を適用した。これにより、リピーターが小型化されるとともに、安定性や検出感度の向上が実現されている。具体的には、リピーターレーザーの位相を同期するための光干渉計と、ファイバー雑音を検出するための光干渉計をワンチップに集積実装した。光路長が精密に設計された干渉回路を光チップ内に作り込むことで、温度などの環境変動にも強く、光干渉計自体に由来する雑音を極限まで低減することに成功している。また、光干渉計の光の差動出力を利用することにより光干渉信号の差動検波を可能とし、検出感度の向上を図っている。
 今後の展開
 本実験チームは、今後、今回構築した超高精度周波数伝送ファイバーネットワーク環境を用いて、和光および厚木に設置する光格子時計の周波数比較実験を実施する予定である。これにより、200キロメートル級の遠隔地間で、数センチメートル精度の標高差を検知する相対論的測地の実証に挑戦する。さらに、JST未来社会創造事業「クラウド光格子時計による時空間情報基盤の構築」で目的とする光格子時計の全国規模のファイバーネットワーク化を想定し、より多中継で安定な運用が可能なリピーターの開発を進め、この超高精度光周波数基準のファイバー伝送技術を1000キロメートル級まで拡張した実証実験環境を構築する予定である。
 ◆用語解説
 〇光格子時計
 2001年に東京大学 大学院工学系研究科の香取秀俊助教授(研究当時)が考案した原子時計の手法。「魔法波長(魔法周波数)」と呼ばれる特別な波長(周波数)のレーザー光を対向させてできる、数十ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の微小空間に原子を閉じ込めて、その原子が吸収する光の周波数(共鳴周波数)を測定する。この光の周波数により、1秒の長さを決める。光格子全体には多数の原子を捕獲できるので、それらの原子の共鳴周波数を一度に測定して平均をとることで、短時間で時間を決めることができる。
 〇相対論的測地
 アルベルト・アインシュタインによって築かれた現代物理の基本理論の1つである一般相対性理論では、「重いものの周りでは時間は遅く流れる」という現象を論じており、超高精度な時計ではこの現象を観測することができるようになる。複数の超高精度な時計の時間の進み方(周波数)の差を読み取り、重力の変化を検出することで、時計の設置場所間の高低差を測定することが可能である。この原理を測量に応用することは、相対論的測地と呼ばれている。
 〇平面光波回路(Planar Lightwave Circuit: PLC)
 NTTが実用化してきた光導波路技術で、光導波路をLSIと同様のプロセスで製造でき、さまざまな干渉計を集積することができる。PLCは製造の自動化が可能であるため量産性に優れ量産時のコスト低減効果が大きいという特徴と、光ファイバーと同じガラス素材で導波路を形成できるため低損失で信頼性が高いという特徴がある。本技術は、大容量光ファイバー通信で用いられる波長多重器/分離器や光スイッチなどのデバイスで実用化されている。
 〇カスケード接続
 長距離のファイバー伝送を行う際に、中継局を設置することで短距離のファイバー伝送を次々とつないでいく方法。より高い周波数の雑音まで補償できるようになるため、全体の伝送安定度を改善することができる。
 〇周波数安定度
 周波数がどれだけ正確かを表す精度の指標の1つである。周波数安定度は、ある中心周波数fに対して、測定した周波数のばらつきをΔfとすると、Δf/fと表す。
 〇時計レーザー
 光格子時計において、原子の共鳴周波数を測定するためのレーザーのことを指す。共鳴周波数を測定することにより、原子の共鳴周波数をレーザーの周波数にコピーすることになり、光格子時計の時間基準を読み出すことに対応する。一般的に、スペクトル線幅数Hz程度の超狭線幅レーザーを、時計レーザーとして用いる。
 〇ファイバー雑音補償技術
 精度の高い光周波数を光ファイバーで遠方に送る際、ファイバーの敷設環境に由来する周波数雑音を補償し、精度の劣化を抑えて伝送する技術。ファイバー伝搬後の光を一部折り返し、送信元で光干渉をとることでファイバー雑音φ(t)を検出し、周波数シフタにより-φ(t)を与え、ファイバー雑音を補償する。ファイバー雑音補償技術では、ファイバーの往復伝搬時間よりも速く変動する雑音は補償できないため、補償区間を短くすることによって、できるだけ忠実にファイバー雑音を補償することが可能である。

 天気は晴れ。風が無く、穏やか・・でも気温が上がらず寒い
 散歩道沿いの””ヒサカキ”。塀からはみ出して花がさいている。”ヒサカキ”は雌雄異株、でも雄花・雌花だけを付ける雄株・雌株だけでなく両性花の株もあると言う。開花時期は、3月~4月で、枝の下側に短くぶら下がる様に咲く。
 雄花には雄しべ、雌花には雌しべだけが見える。花の大きさは数mm、雌花が雄花より気持ち小さいかな。花の形は、白っぽいクリーム色で壺状。強い芳香が漂ってくる。
 「榊:サカキ」が手に入らない関東地方以北では、墓・仏壇へのお供え(仏さん柴)や玉串などに、サカキ代替で使われることがある。これより、名(ヒサカキ)の由来に、「榊に非ず」から「非さかき」説、サカキより小振りから「姫サカキ」説がある。
 ヒサカキ(姫榊)
 学名:Eurya japonica
 ツバキ科ヒサカキ属
 雌雄異株(常緑小高木)
  雌花、雄花がある
  掲載写真の前半3枚は雌花、後半3枚は雄花
 開花時期は3月~4月
 白い小さな花が葉腋に付ける
 5弁花で花径は数mm
 雄花は鐘形で、雌しべは退化して見えない
 雌花は杯形、雌しべのみで花柱は3裂してる
 果実も径数mm程で、秋に黒紫色に熟す


巨大環状分子のナノ構造体、磁界中で環電流特性を示すことを発見

2020-03-28 | 科学・技術
 首都大学東京大学院理学研究科の伊與田正彦客員教授(名誉教授)、西長亨准教授、理化学研究所開拓研究本部内山元素化学研究室の村中厚哉専任研究員、内山真伸主任研究員(東京大学大学院薬学系研究科教授)、横浜国立大学大学院環境情報研究院の大谷裕之 教授、名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科の青柳忍教授、信州大学繊維学部の小林長夫 特任教授らの研究グループは、チオフェン分子を環状に連結した6T4A-4Buリング型分子に酸化処理を施すことで、世界で前例のない二重ドーナツ型構造の巨大超分子を作ることに成功した。この二重ドーナツ型分子の特性を詳しく調べた結果、磁界中では分子リングに沿って回転するように電気が流れるという、電気回路に使われるコイルと同じ性質を示すことを見出した。この特性により、6T4A-4Buは磁気に応答する単分子素子として、各種の応用開発が期待できる。本研究成果は、米国化学会が発行する英文誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載。
 ポイント
 〇巨大環状分子を用いるナノ構造体の構築に成功した
 〇70個の共役π電子を有する二重ドーナツ型巨大超分子の構造と電子状態を明らかにした
 〇チオフェンから作った二重ドーナツ型巨大超分子が磁界中で環電流特性を示すことを見出した
 〇本研究の成果は、磁気に応答する単分子素子として、各種の応用展開が期待できる

 研究の背景
 マテリアルサイエンスによって、新しい機能をもつ物質がつくり出されているが、その中でも周囲の環境の変化や外界からの刺激に応じて自ら応答するスマートマテリアルが注目を集めている。また、ナノサイズの分子機能材料を用いるナノサイエンスは、21世紀において鍵となる新原理と新技術の探索を続けている。しかしながら、分子機能材料のもつ秘められた可能性を最大限に引き出すのは、一般に用いられている化学物質を組み合わせるだけでは不十分で、従来とは異なる電子状態をもつ分子の物性・機能の研究が必要とされている。本研究では、非常に大きな分子が作る二重ドーナツ型巨大超分子を用いることによって、磁気に応答する新しい単分子素子の開発を目指した。
 研究の詳細
 チオフェンは、ベンゼンと同様に自然界にも存在する環状分子で、チオフェンを直線状に連結した導電性の高分子化合物(オリゴチオフェン、ポリチオフェン)は、発光ダイオードや有機EL、電界効果トランジスタ、太陽電池など、幅広い用途に応用できる。このようなチオフェンの機能を更に拡張するために、今回6個のチオフェンを環状に連結した6T4A-4Buリング型分子を合成し、酸化処理を施したときの分子特性を詳しく調べた。酸化処理により分子内の電子が1個だけ不足したラジカルカチオンの状態にすることで、新しい磁気的・電気的な特性が現れることを期待した。光吸収や電子スピン共鳴、磁気円偏光二色性などの各種測定の結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは溶液中で2個の分子が組み合わさったダイマーを形成することが分った。溶液から結晶を作り、大型放射光施設SPring-8でのX線回折により結晶構造を調べた結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは結晶中で図2 ① に示す二重ドーナツ型の巨大超分子を形成することが分かりました。分子リング内部に取り込まれた小分子(CH2Cl2)の磁界中の挙動を核磁気共鳴で調べたところ、通常よりも高い磁界に対して共鳴吸収を示した。この結果を理論計算で解析することで、6T4A-4Buのラジカルカチオンは、分子内の70個もの共役π電子により、磁界中で6個のチオフェンでできた分子リングに沿って回転するように電気が流れる環電流特性を示すことを明らかにした。この特性は、6T4A-4Buの二重ドーナツ型分子が1ナノメートル(10億分の1メートル)程度の大きさの超分子コイルとして働くことを意味する。
 研究の意義と波及効果
 本研究の大きな成果は、チオフェンを直線状に連結した従来の分子では絶対に発現し得ない二重ドーナツ型の分子構造と環電流特性を、チオフェンを環状に巧みに連結して組み合わせた超分子πダイマーにおいて初めて見出した点にあり、チオフェンなどの有機分子を基盤とする分子エレクトロニクス技術の発展に大きく貢献するものである。
 ◆用語解説
 〇チオフェン、ブチル基
 チオフェン (thiophene) とは、有機化合物の一種で、炭素原子4個と硫黄原子1個が5角形状に結合してできる複素環式化合物。化学式は C4H4S。フランの酸素が硫黄に置き換わった5員環構造を持つ。タール中に少量含まれ,工業的にはn-ブタンと硫黄から合成される。
 ブチル基(butyl group)とは、ブタン、あるいはイソブタンから水素が1つ取り除かれた形を持つ1価の基のこと。アルキル基の一種。元のブタンの構造と、取り除かれた水素の位置からいくつかの種類がある。
 ブチル(英語表記;butyl)
 アルキル基C4H9-の名称で、Buと略称。次の4種類の異性構造がある。
  n-ブチル(n-Bu-)CH3CH2CH2CH2-
  イソブチル(i-Bu-)(CH3)2CHCH2-
  sec-ブチル(s-Bu-)CH3CH2CH(CH3)-
  tert-ブチル(t-Bu-)(CH3)3C-
 〇 酸化処理
 酸素など電子を受け取りやすい物質(酸化剤)の作用などにより、対象分子から電子を奪い取る処理。
 〇超分子
複数の分子が分子間相互作用により規則的に集合した安定な化学種。
 〇コイル
 導線を環状やらせん状などに巻いたもので、電磁石や発電機、モーターなどに利用される電気回路内の素子。
 〇ラジカルカチオン
 奇数個の電子を持つ陽イオン性の分子で、偶数個の電子を持つ中性の分子を酸化処理することで得られる。
 〇光吸収
 物質の紫外、可視、近赤外領域の光の吸収の大きさを測定する実験で、分子内の電子の光励起エネルギーに関する情報などが得られる。
 〇電子スピン共鳴
 磁界中に置いた物質の電子スピン(電子が磁界に応答して2つの状態をとる性質)を測定する実験で、分子内の電子の磁気的性質に関する情報などが得られる。
 〇磁気円偏光二色性
 磁界中に置いた物質の光吸収の偏光状態による変化を測定する実験で、分子内の電子の光励起状態に関する情報などが得られる。
 〇ダイマー
 2個の同種分子が組み合わさることで形成される1組の分子。
 〇SPring-8
 高輝度短波長なX線を利用できる兵庫県にある共同利用施設。
 〇 X線回折
物質に照射したX線の回折・散乱像を測定する実験で、結晶内の分子の立体構造などが得られる。
 〇核磁気共鳴
 磁界中に置いた物質の核スピン(原子核が磁界に応答して複数の状態をとる性質)を測定する実験で、分子内の特定の原子核の磁気的性質に関する情報などが得られる。
 〇共役(きょうやく)π電子
 分子内に交互に並んだ単結合と多重結合のために非局在化した電子。
 〇環電流
 磁界中に置いた環状の分子内に生ずる、分子リングに沿った共役π電子の流れ。

 天気は晴れ。風が少し強く、気温も高くない。
 近所のレストランのお庭で、”ユキゲユリ”に花が咲いている。”ユキゲユリ”は高山植物で、自生地では雪が解けずに残っていても花が咲くこともあることからこの名(雪解ゆり)になったと言う。別名に”チオノドクサ”とあるが、チオノドクサは属名である。”チオノドクサ”には数種類が知られている。”チオノドクサ・リュシーリアエ(C. luciliae)”が良く知られており、花色は澄んだ青で中心が白い。花の澄んだ青色で中心が白色は、和名の”ユキゲユリ(雪解百合)”が似合うかな。
 学名の「Chionodoxa」は、ギリシア語の「chion:雪」と「doxa:栄光、華麗」からと言う。英名では「Glory of the snow」との事で、何れも雪に関係している。
 ユキゲユリ(雪解百合)
 別名:チオノドクサ
 英名:Glory of the snow
 学名:Chionodoxa luciliae Boiss.
 ユリ科チオノドクサ属
 クサスギカズラ科、ヒヤシンス科、キジカクシ科に分類することもある
 多年草(秋植え球根、径4cm位)
 原産地は地中海沿岸~小アジア
 開花時期は2月~4月
 花色は 青・紫・白・ピンク


長期的に非常に安定した小型原子時計を開発

2020-03-27 | 科学・技術
 産業技術総合研究所物理計測標準研究部門高周波標準研究グループ柳町真也主任研究員は、首都大学東京システムデザイン学部電子情報システム工学科五箇繁善准教授、株式会社リコー原坂和宏、鈴木暢、鈴木亮一郎と共同で長期的に非常に安定した小型原子時計を開発した。成果の詳細は、2020年3月10日に米国物理学協会の学術誌Applied Physics Lettersに掲載。
 ポイント
 〇ライトシフトの揺らぎを制御することで非常に安定した小型原子時計を実現
 〇新しい理論を構築してセシウム(Cs)原子の固有周波数が変動しない駆動条件を導出
 〇途切れの無いIoTネットワークを介したデータ収集への貢献に期待
 概要
 小型原子時計では原子の固有周波数の情報を得るのに、コヒーレントポピュレーショントラッピング(CPT:Coherent Population Trapping)共鳴という光と原子の相互作用に由来する共鳴現象を利用するのが主流となっている。しかし、長期的な時間・周波数の安定性はライトシフトの揺らぎによる周波数変動によって制限されていた。今回、セシウム(Cs)小型原子時計の重要部品である面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)の経年変化に着目し、ライトシフトが揺らぐメカニズムを解明、揺らぎを抑制する技術を開発して、非常に安定した小型原子時計を実現した。高安定な原子時計は、IoTネットワークを通じたシームレスなデータ収集への貢献が期待される。
 開発の社会的背景
 膨大なデータの中から新たな知見を見出すビックデータの収集・分析・活用への取り組みが本格化しつつある。これまでは顧客の購入・検索履歴といったヒトから得られる情報の活用が主であった。最近は、省電力広域ネットワークなど低消費電力の通信技術の発展によりヒト以外のさまざまなモノから情報が発信される本格的なIoT時代へと向かっており、そこから得られるであろう新たな知見に期待がかかっている。しかし、情報に付随する時刻情報が不正確だとデータ分析でのノイズとなるため、正確な時刻情報の重要性が増している。これまで時刻情報は全地球航法衛星システムに頼ってきたが、電波妨害やなりすましによる時刻情報の改ざんがもたらす脆弱性が指摘されている。IoT端末に小型で安定した原子時計を搭載できるようになれば、IoT端末が利用する時刻の正確さを自律的に診断・補正可能となるため、全地球航法衛星システムで問題となっている安全性を確保することができる。
 研究の経緯
 産総研は、1970年からCs原子時計の研究開発に取り組んでいる。現在、「1秒」はCs原子の固有周波数に関連した持続時間で定義されており、産総研は時間の1次標準器を用いて国際原子時の高精度化に貢献している(産総研プレス発表2003年6月9日、産総研today2011年8月号)。近年は、実験室の外の環境で、全地球航法衛星システムに依存しないで容易かつ高精度に時刻情報を一致させる技術ニーズに対応するため、小型原子時計の開発を進めている。NEDOが推進する「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」で、2015年より無線センサー端末に搭載できる小型原子時計の開発を開始し、これまでに低消費電力化の技術を確立した(産総研プレス発表2019年2月19日)。
 研究の内容
 一般的に、小型原子時計を駆動するには量子干渉効果の一種であるCPT共鳴を利用する。半導体レーザーであるVCSELに周波数変調を加え、出力される2周波数のレーザー光とCs原子の相互作用によりCPT共鳴が生成する。その過程で、ライトシフトも共に発生してしまい、Cs原子固有周波数の変動要因となり、小型原子時計の長期的な安定性を阻害してきた。
 今回、VCSEL発振波長の経年変化がライトシフトの揺らぎに関与していることを定量的に解明した。しかし、ライトシフトの揺らぎを直接抑制することは消費電力の増加につながる。そこで、半導体レーザーの基礎方程式に基づき、VCSEL発振波長が経年変化してもCs原子の固有周波数が変動しない駆動方法としてゼロクロス法を考案し、小型原子時計に適用した。
 ゼロクロス法適用の効果は、150日以上の長期間の評価期間を経て、慎重に検証した。ゼロクロス法を適用した場合はCs原子の固有周波数の変動を十分に抑制することができ、その結果、平均時間を約50日間(4.3x10^6秒)とした場合、従来の小型原子時計と比べて100倍の安定性を得ることに成功した。
 今後の予定
 今後は小型原子時計のさらなる高安定化を目指した研究開発を進める予定である。
 ◆用語の説明
 〇小型原子時計
 原子時計は原子と電磁波の共鳴現象に現れる共鳴周波数と、一般的な時計に利用される水晶発振器の周波数を関連させている時計である。そのため、一般的な時計より安定な時計装置が実現できる。小型原子時計ではパッケージング技術により共鳴現象を得るために必要なデバイスを量子部へ集積化する。量子部内へはヒーターと測温素子からなる温度制御機構と、面発光レーザー素子(VCSEL)、Cs原子を封入したガスセル、検出器である受光素子などが配置される。
 〇CPT共鳴
 CPT(Coherent Population Trapping)は量子干渉効果の一種であり、原子と電磁波の共鳴現象である。Cs原子に光を照射すると、通常であれば吸収が起きて透過光量は減少する。そこに2種類の周波数の光を照射する場合、それらの光の周波数差がCs原子の固有周波数と一致すると、Cs原子内に光を吸収しない量子的な重ね合わせ状態が発生し、光の吸収量が減少、すなわち透過光量が増加する。以前の原子時計はCs原子とマイクロ波(波長3 cm)の直接相互作用となる共鳴現象を利用していたため大型であったが、このCPT共鳴を利用すれば光の波長領域(1μm以下)でも共鳴現象が生じるので、小型原子時計では必須の手法となっている。
 〇ライトシフト
 量子力学に基づいて発生する原子のエネルギー準位の変化(シフト)に関連する現象である。CPT共鳴を生成するためにはCs原子にレーザー光を照射し、光の電場成分(光電場)と原子の相互作用を活用する。一般的に光電場中のCs原子は電荷分布の偏りを持つようになり、さらにその電荷分布の偏りに対して周期的な変化をもたらす。その結果、原子のエネルギー準位が変化し、Cs原子の固有周波数の変化となって観測される。このようにして現れるCPT共鳴の共鳴周波数の変化をライトシフトという。
 〇VCSEL
 VCSEL(Vertical Surface Emitting Laser)は基板面に垂直にレーザー光を放射する面発光レーザーであり、半導体レーザーの一種である。このレーザーは光を閉じ込める半導体素子の体積が小さいため電流による変調帯域が広く、レーザー発振波長に、予測不能で意図しない不連続な変化がほとんど起こらないという特徴を持つ。さらに小型原子時計への搭載に対しては、閾値電流が低く、省電力動作が可能という優れた特徴をも併せ持つ。
 〇全地球航法衛星システム
 GPS(米国)、GLONASS(ロシア)、Galileo(ヨーロッパ)、準天頂衛星(日本)などの衛星測位システムの総称。人工衛星からの電波を用いて、受信機の位置決めや時刻補正ができる。
 〇Cs原子固有周波数
 Cs原子の基底状態には周波数約9.2GHzのマイクロ波に相当するエネルギー準位構造があり、原子時計の基準として用いられる。
 〇ゼロクロス法
 VCSEL発振波長が経年変化してもCs原子の固有周波数を変動させず、小型原子時計を駆動する手法。

 天気は晴れ~曇り・時々小雨~晴れ。お日様が顔を出すと暖かい、見えないと寒い。
 道沿いのお庭で、”キブシ(木五倍子)”の花を見つけた。枝には葉がなく、淡黄色の花を沢山つけた穂状花序が垂れ下がっている。花は丸くプックリとしている。”キブシ”は雌雄異株で、外見で雌雄の区別は難しい。雄花は淡黄色、雌花はやや緑色を帯びる。このお花は、雄蕊が見えるから雄花かな。”キブシ”の花は早春の山菜として、おひたし・天ぷらにして食べることができる、と言う。
 名(キブシ:木五倍子)の由来は、果実をタンニンを多く含み、染料の原料である五倍子(ふし、ヌルデの虫こぶ)の代用として使ったから。因みに、江戸時代にはお歯黒の材料で利用された。
 キブシ(木五倍子)
 別名:木藤(きふじ)、豆五倍子(まめぶし)
 学名:Stachyurus praecox
 キブシ科キブシ属
 雌雄異株
 落葉低木
 日本固有種
 開花時期は3月~4月
 葉が出る前に、薄黄色の釣鐘型小花(1cm以下)が葡萄の様に垂れ下がって咲く
 花は4弁花
 果実は径1cm程の卵形・球形で、熟すと黄褐色になる


高変換効率と長期保管安定性を両立する超薄型有機太陽電池の開発に成功

2020-03-23 | 科学・技術
 理化学研究所開拓研究本部染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎専任研究員、染谷隆夫主任研究員、創発物性科学研究センター創発機能高分子研究チームの伹馬敬介チームリーダーらの国際共同研究グループは、高いエネルギー変換効率と長期保管安定性を両立する超薄型有機太陽電池の開発に成功した。
 本研究成果は、ウェアラブルエレクトロニクスやソフトロボット用のセンサーやアクチュエータなどに安定的に電力を供給できる、軽量で柔軟な電源として応用されると期待できる。
 国際共同研究グループは、発電層を改良するために高エネルギー交換効率と熱安定性を併せ持つバルクヘテロ接合構造の素子を新たに作製した。さらに、発電層と正孔輸送層の界面における電荷輸送効率向上のため、この素子に対してポストアニール処理(150℃)を施した。その結果、13%の高いエネルギー変換効率と、大気中保管3,000時間で劣化5%以下という長期保管安定性を両立する、超薄型有機太陽電池(厚さ3マイクロメートル)を実現した。これは過去の最高値と比較して、エネルギー変換効率は約1.2倍向上し、長期保管安定性は15倍改善したことになる。
 本研究は、米国アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン版に掲載。
 背景
 有機太陽電池は、従来のシリコン型太陽電池に比べ極めて薄い有機半導体薄膜で形成されるため、柔軟性・軽量性に優れ、ウェアラブルセンサーを長時間安定に駆動する電源としての応用が期待されている。特に、基板を含めた全体の厚さを数マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)まで薄型化した超薄型有機太陽電池は、衣服や皮膚に直接貼り付けても違和感がないことが特長である。
 福田憲二郎専任研究員らはこれまでに、耐水性、耐熱性を持ち、エネルギー変換効率(太陽光エネルギーを電力に変換する効率)が10.5%に達する超薄型有機太陽電池を実現し、それらを用いたセンサーとの集積化に関する報告を行ってきた。しかし、超薄型有機太陽電池は基板や封止膜に薄い高分子フィルムを使用しているため、十分なガスバリア性の確保が難しく、また安定的に駆動するための発電層や電荷注入層の界面を制御する手法がなかったため、エネルギー変換効率と長期保管安定性の両立は依然として不十分であった。
 研究手法と成果
 今回開発した超薄膜有機太陽電池は、基板から封止膜までの全てを合わせた膜厚が3μmと極薄でありながらエネルギー変換効率は13%に達し、大気中で3,000時間保管した後も95%以上のエネルギー変換効率を保持することができた。これまでの研究では、エネルギー変換効率は10.5%、保持率95%を満たすのは約200時間であった。これと比較すると、エネルギー変換効率は約1.2倍向上し、長期保管安定性は15倍も改善したことになる。
 本研究成果のポイントは、高エネルギー交換効率と熱安定性を両立する新たなドナー・アクセプター材料ブレンド膜の設計による発電層の改良と、ポストアニール処理による発電層と正孔輸送層の界面での電荷輸送の改善を実現したことにある。
 今回ドナー材料に用いたPBDTTT-OFTは、東レ株式会社が近年新たに開発した熱安定性に優れる半導体ポリマーである。これまでの研究では、このPBDTTT-OFTとランダムに混合したバルクヘテロ接合構造の発電層を作製するために、アクセプター材料としてフラーレン誘導体[6]を使用していた。しかし、この組み合わせではPBDTTT-OFTの高効率や熱安定性といった特長を十分に引き出すことができなかった。今回、アクセプター材料として非フラーレン誘導体のIEICO-4Fを用いることで、光捕集性と熱安定性により優れる発電層を作製できた。
 これに加え、素子作製後に簡単な熱処理(150℃)を行うポストアニール処理によって、長期保管安定性が大きく改善することを発見した。微小角入射広角X線散乱法やX線光電子分光法などによる物性評価の結果、この現象は、ポストアニール処理を施すことによって、発電層と正孔輸送層の界面での電荷輸送が改善した結果であることが判明した。さらに、他の発電層材料や正孔輸送層を試したところ、ポストアニール処理後にエネルギー変換効率が低下してしまったことから、今回の素子構成でのみ高いエネルギー変換効率が保持されることが分かった。
 発電層のドナー材料に半導体ポリマーのPBDTTT-OFTを、アクセプター材料に非フラーレン誘導体のIEICO-4Fを用いることで、高エネルギー変換効率と熱安定性を両立できる発電層を作製できた。また、素子作製後にポルトアニール処理(150℃、5分間)を施すことで、発電層と正孔輸送層の界面での電荷輸送が改善され、それに伴い長期保管安定性も改善された。
 今後の期待
 今回、新しい発電層と簡便なポストアニール処理を組み合わせることで、超薄型有機太陽電池の高いエネルギー変換効率と長期保管安定性の両立が可能になった。本研究により、超薄型有機太陽電池がより長期間安定に、大電力を供給することが示された。本成果は、衣服貼り付け型センサーなどのウェアラブルエレクトロニクスへの長期安定電源応用の未来に貢献すると期待できる。
 ◆補足説明
 〇有機太陽電池
 有機半導体を光電変換層として用いた太陽電池のこと。塗布プロセスによる大量生産が適用できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから、次世代の太陽電池として注目を集めている。
 〇ソフトロボット
 柔軟性のある材料を利用した柔らかいロボット。従来の硬い材料を利用したロボットとは全く異なるロボットが実現されるとして、近年世界中で注目を集めている。
 〇バルクヘテロ接合
 電子供与性(ドナー)と電子受容性(アクセプター)の有機半導体を混合した溶液から薄膜を作成することで、それぞれの材料がランダムに混ざり合い、接合界面が薄膜全体(バルク)に広がっている構造。
 〇ポストアニール処理
 電子素子を作製した後に行う加熱処理のこと。本研究では作製した有機太陽電池を、窒素雰囲気下で150℃のホットプレート上に5分間置くという処理を行った。
 〇半導体ポリマー
 半導体の性質を持つポリマー(高分子の有機化合物)材料。可視光を吸収することができ、有機溶剤に溶けるため、塗ることができる半導体として、有機薄膜太陽電池をはじめとした有機デバイスに応用されている。
 〇フラーレン誘導体
 フラーレンは炭素原子が球状の構造を成している化合物の総称で、ダイヤモンドや黒鉛、カーボンナノチューブと同様に炭素の同素体である。フラーレンは、付加反応などの化学修飾により容易に誘導体を合成することができ、その誘導体の中でも[6,6]-フェニル酪酸メチルエステル(PCBM)が有機太陽電池のアクセプター材料としてこれまで広く使用されてきた。.
 〇微小角入射広角X線散乱法
 薄膜試料に横方向からすれすれにX線を入射して、後方に散乱されるX線を観測することで、薄膜の結晶構造を解析する実験手法。感度が高く、密度の低い有機薄膜でも構造の解析が可能である。
 〇X線光電子分光法
 物質にX線を照射し、試料表面から放出される電子の個数とエネルギーの関係を調べることにより、物質内の電子状態を調べる実験手法。この手法により、物質内の電子のエネルギー分布を直接観測することが可能となる。硬X線光電子分光法、軟X線光電子分光法などがある。

 晴れ、少し雲が多い。風がやや強く、足元・首筋をすくう。
 垣根沿いに植えられている”ウグイスカグラ”に花が咲いている。花冠は細い漏斗形で、先端は5裂して開く。花色は、名の”ウグイスカグラ”からだと「うぐいす色:くすんだ黄緑色」だが、ピンク色である。花後の果実はグミの様な楕円形の液果、初夏に透明感のある赤に熟す。
 名(ウグイスカグラ:鶯神楽)の由来には諸説あるが、鶯が鳴き始める頃に花が咲く、からと言う。
 ウグイスカグラ(鶯神楽)
 別名:ウグイスノキ
 学名:Lonicera gracilipes var. glabra(鶯神楽)
Lonicera gracilipes var. glandulosa (深山鶯神楽)
 スイカズラ科スイカズラ属
 落葉性低木
 原産地は日本(北海道~本州、四国)
 開花時期は3月~5月、深山鶯神楽の開花時期は2月頃
 花色は薄ピンク色、花冠は細い漏斗型で先は5裂して開く
 初夏(6月頃)に1cm程の果実が透明感のある赤に熟す、食べれる


外部から固体触媒に電位を与えると低温で化学反応が速く進む手法を発見

2020-03-21 | 科学・技術
 早稲田大学大学院先進理工学研究科博士2年の村上洸太氏および理工学術院の関根泰教授らの研究グループは、外部から固体触媒に電位を与えることで、低温で化学反応が速く進む手法を世界で初めて発見した。これまで化学反応は高温ほど速く進むというアレニウスの法則が一般的であったが、その法則を打ち破る新しい概念である。本研究成果は、2020年3月13日(英国時間)にイギリス王立化学会のジャーナル「Chemical Communications」のオンライン版で公開。
 本成果は、JST未来社会創造事業 研究課題名「電場中での低温オンデマンド省エネルギーアンモニア合成」(研究開発代表者:関根 泰)の支援により実施された。
 ポイント
 〇化学反応は高温ほど速く進むというアレニウスの法則がこれまで一般的だった
 〇外部から固体触媒に電位を与えることで、低温で化学反応が速く進む手法を世界で初めて発見した
 背景
 スウェーデンのスヴァンテ・アレニウスは、1884年に化学反応は高温になるほど速く進むことを明らかにし、アレニウスの法則として高校の教科書にも記載されるほど有名な原理となった。本研究グループは、外部から固体触媒に電位を印加すると、この法則に反して低温ほど反応が速く進むことを発見し、その原因を探ってきた。
 研究の内容
 化学品や水素運搬体として期待されるアンモニアを、窒素と水素から作る反応はハーバーボッシュ反応として知られ、大規模に工業化されており、400度程度の高温と250気圧程度の高圧が必要である。
 本研究グループは、半導体性を有する固体触媒に、外部から電位を与えることで、この反応が200度以下の低温でも速やかに進むことを見いだした。さらに、200度以下の領域では、温度を下げたほうが反応速度が速くなる現象を発見した。一般的に、反応速度が低温で優勢になるのはアレニウスの法則に従い吸着現象のみである。しかし反応速度と吸着の相関を検討したところ、触媒表面でイオンが動く際に、吸着が多くなる低温で反応速度が速くなるというメカニズムが明らかになった。これは化学反応速度がアレニウスの法則に従うという過去の常識を打ち破る、新しい概念である。
 温度を自在に制御できる反応装置に、独自の固体触媒を設置し、外部から電場を与えて反応速度を評価し、非アレニウス法則(アレニウスの法則に従わない)型の反応となることを示した。続いて、赤外スペクトルにおいて、透過法と反射法を駆使して、固体触媒表面への吸着量を電場の有無、温度の違いで丁寧に評価し、科学的なモデルを構築した。最後にモデルによる計算結果と実験結果を照らし合わせたところ、見事に整合することが実証され、非アレニウス法則型の反応がどうして、どのように起こるのかを、吸着と速度の関係から明らかにした。
 研究の波及効果や社会的影響
 再生可能エネルギー由来の電力を利用し、低温で欲しいときに欲しいだけ化学反応が進められ、さらに温度が低い方が反応速度は上がるという現象は、これまでにない新しい特徴を有している。欲しいときに欲しいだけ、室温などの低い温度で物質変換が可能になるという、化学反応の世界にパラダイムシフトをもたらすものになる。
 このようなメカニズムで反応が進む例はまだ限られているため、再生可能エネルギーを生かして、エネルギーや物質を創り出す多様な反応を、低温で選択的に進められるような材料を探索し、展開を進めていく。
 ◆用語解説
 〇赤外スペクトル
 測定対象となる物質に対して赤外線を照射して、透過した光、あるいは反射してきた光を、波長ごとに分光することでスペクトルを得て、対象となった物の特性を知る方法。
 〇ハーバーボッシュ法
 ハーバー・ボッシュ法は鉄を主体とした触媒上で水素と窒素を反応させ、アンモニアを生産する方法である。1906年に開発されたこの方法は、1世紀以上が経過した現在でも肥料生産をはじめとするさまざまな工業プロセスに使用されている。
 しかし、ハーバー・ボッシュ法は大量のエネルギーを消費する手法である。世界で消費されているエネルギーの2%はハーバー・ボッシュ法の反応に使用されており、世界の二酸化炭素排出量のうち1%を占めている。

 晴れ。雲が少し多く、風も少し強い。最高気温が17℃とあるが、それほど温かさを感じない。
 近所の畑で、”ナノハナ(菜の花)”が咲いている。
 ”ナノハナ(菜の花)”は、”野菜(菜っ葉)の花”から”菜の花”になったもので、おひたしや和え物で食べられる葉や茎頂部の花芽や花である。大雑把にいえば、アブラナ科アブラナ属の蕾・花である。この畑の花は、”チンゲンサイ:アブラナ科アブラナ属)かな・・取り残したようだ。
 ナノハナ(菜の花)
 別名:花菜(はなな)、菜花(なばな)、菜種(なたね)
 アブラナ科アブラナ属
 開花時期は、2月~5月
 花弁数は4枚、黄花
 菜の花は春に見かける黄色い花の総称として使われる
 西洋油菜(せいようあぶらな)を「菜の花」と呼ぶことも多い


廃水中などに含まれるアンモニウムイオンの炭酸塩類から尿素を合成

2020-03-18 | 科学・技術
 東京工業大学物質理工学院応用化学系の眞中雄一准教授と本倉健准教授らは、有機塩基触媒を用いることで廃水中などに含まれるアンモニア(以下アンモニウムイオン)の炭酸塩類から尿素を合成できる。従来の下水処理場のアンモニウムイオンの無害化処理(窒素への分解)とは異なり、アンモニウムイオンを有用物質に変換することにより、資源として用いることができるようになる。
 この研究結果は有機塩基触媒が触媒反応中にイオン交換反応を介することが特徴であり、高価な遷移金属を含まない有機合成的なアプローチにより達成された。今後は廃水処理のプロセスとの組み合わせを検討する。合成された尿素は、様々な化成品の原料となる基礎化成品として活用可能であり、近年は固体で安定な水素キャリアとしても注目されている。
 研究成果はネイチャーリサーチ社の科学誌「Scientific Reports」に2月18日に公開。
 要点
 〇有機塩基触媒を用いてアンモニアの炭酸塩類から尿素を合成することに成功
 〇水質汚濁防止法の有害物質である廃水中のアンモニアを資源として再利用可能
 〇尿素は基礎化成品として活用、固体で安定な水素キャリアとしても注目される
 研究成果
 眞中准教授らは有機塩基触媒を用いることでアンモニウムイオンの炭酸塩類から尿素を合成できることを見出した。特に原料にカルバミン酸アンモニウムを用い、有機塩基触媒として1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(ジアザビシクロウンデセン)を用いて反応条件を最適化すると、最大35%の収率で尿素を得ることができた。
 尿素は一般的には、ガス状態のアンモニアと二酸化炭素を150 ℃以上の高温・20気圧程度の高圧の条件下におくことで合成されている。今回の発見では、アンモニアよりも反応させにくいと考えられているアンモニウムイオンを用い、70~140 ℃で加圧することなく尿素の合成に成功した。
 一定の強さ以上の塩基性(今回の検討ではアセトニトリル中での共役酸のpKaが20以上)を持つ有機塩基触媒を用いることで、有機塩基触媒とアンモニウムイオンがイオン交換を起こし、反応が進みやすい中間体が生成することが効率的な反応の鍵となっていると推測される。
 また、カルバミン酸アンモニウム以外の炭酸塩として、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムを用いても尿素を合成することに成功した。これらは、アンモニウムイオンの存在する水中に二酸化炭素を吹き込むことで生成される化合物群であり、アンモニウムイオンの安価な濃縮の一助になると考えられる。
 研究の背景
 廃水処理場では、悪臭物質であり劇物でもあるアンモニア(もしくはアンモニウムイオン)を硝化・脱窒という工程を経て無害な窒素分子に変えている。この処理方法では、無害化のためにエネルギーを多く投入しており、副生成物として温室効果ガスの亜酸化窒素が発生する可能性もある。
 一方で見方を変えると、アンモニウムイオンは、窒素分子の強固な三重結合が破壊された形であり、窒素分子に戻して三重結合を復活させるよりも、アンモニウムイオンの状態で何らかの分子に変換できると、投入エネルギー的に有利になる。つまり、アンモニウムイオンを活かした有機合成が可能になると、エネルギー削減をしつつ、有害物質を減少させ、有用な物質を供給することが可能になる。
 展望および意義
 今回の研究では、有機塩基触媒を用いることでアンモニウムイオンからでも有用な分子が合成できることを示した。実際の廃水処理に組み込むために適した触媒の形状や反応系、反応率の向上などの検討を経て、アンモニウムイオンの活用を行う予定である。また、今回合成した尿素以外の付加価値の高い分子への転換も検討していく。
 ◆用語説明
 〇有機塩基触媒
 触媒として働く有機塩基。触媒とは、化学反応に添加することで、反応速度を変化させる物質。その際に自身は変化しない。有機塩基とは塩基性を示す有機化合物。
 〇アンモニウムイオン
 NH4+で表されるイオン。アンモニア(NH3)にプロトン(H+)が付加することで生成される。アンモニアが水に溶けると一部がアンモニウムイオンになる。
 〇炭酸塩類
 本稿では炭酸塩類として炭酸イオン、重炭酸イオン、カルバミン酸イオンを含む塩と定義する。
 〇尿素
 哺乳類の尿中に含まれる窒素化合物。体内でタンパク質が分解して生成される。化学式(NH2)2CO 。工業的にはアンモニアと二酸化炭素とから合成される。無色の柱状結晶で、肥料・尿素樹脂・医薬・接着剤の原料となる。1828年に初めて化学的に合成された有機化合物として有名。
 〇遷移金属
 周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称。
 〇カルバミン酸アンモニウム
 カルバミン酸イオンとアンモニウムイオンから構成される塩。アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する際の合成中間体と考えられている。
 〇1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene
 強塩基性を示すアミジン骨格(炭素に窒素が二重結合で一つ、単結合で一つ結合した構造)を持ち、かつ環状の分子形状と大きさから求核性が低い有機塩基化合物。有機化学の反応に用いられる。
 〇塩基性
 塩基として働く性質。塩基とは、OH-を放出する物質(アレニウスの定義)、プロトンを受け取る物質(ブレンステッド-ローリーの定義)、電子対を与える物質(ルイスの定義)などにより決められる。
 〇pKa
 酸解離定数。酸の強さを表す値で、小さいほど強力な酸になる。共役酸のpKaが大きいほど強力な塩基になる。
 〇硝化・脱窒
 廃水中の窒素化合物を微生物の力で窒素分子に変換する過程の名称。硝化過程では、アンモニアを亜硝酸に変え、亜硝酸を硝酸に変える。脱窒過程では硝酸もしくは亜硝酸を窒素分子へ変え、2つの過程を併せて窒素化合物を無害化する。

 お天気は晴れ。3月も半ばとなると春が来た、と感じる。今日の最高気温は15℃・・温かくなってきたけど、風が強いな。
 お隣の畑を見たら、雑草の中に花が咲いている。”ホトケノザ:仏の座”の花だ。
 名(ホトケノザ:仏の座)の由来は、対生する半円形の葉が茎を囲む様子を蓮華座(れんげざ)に見立てたことからと言う。花が付く茎の上では葉が茎を抱いて葉柄がないが、下の方の葉は長い葉柄がある。葉が段々と付いているので、三階草(さんがいぐさ)とも呼ばれる。
 ホトケノザ(仏の座)
 別名:三階草(さんがいぐさ)
 シソ科オドリコソウ属
 一年草あるいは越年草
 古い時代にヨーロッパから渡来した帰化植物と考えられている
 開花時期は2月~6月(秋にも咲く)
 上部の葉脇に長さ2cmほどのピンク色で唇形状の花を付ける
 この花より小さくて濃赤色をしたつぼみの様に見える花がある。これは閉鎖花と呼ばれるもので、開花することなく受粉して結実する
 白色の花色もあり、”シロバナホトケノザ”と呼ばれる


安定で高活性な白金の単原子触媒の開発に成功

2020-03-16 | 科学・技術
 東京工業大学 元素戦略研究センター長の細野秀雄栄誉教授、同センターの叶天南特任助教、北野政明准教授らは、カルシウムとアルミニウムの酸化物C12A7(12CaO・7Al2O3)がサブナノサイズのケージから構成されていて、その最表面ではケージ構造が破れていることに着目し、その部分に白金原子を入れ込んで安定的に固定した単原子触媒の開発に成功した。
 遷移金属の単原子触媒は、原子の周りの結合が不飽和なために、バルクの金属に比べて圧倒的に触媒活性が高いことや、金属原子の利用効率が極めて高いことから、活発な研究がおこなわれている。しかし、高温にすると担持された単原子金属が凝集してしまい、活性が低下することが問題であった。本研究成果は、この課題を克服するものである。
 この成果は英国科学誌Nature Communicationsにて2月24日にオンライン公開。
 要点
 〇白金原子を担持体表面のケージ構造の破れ部分に入れ込むことで安定に固定した、新たな単原子触媒の開発に成功
 〇従来の単原子触媒で問題とされていた、高温で原子が凝集してしまうという欠点を克服
 〇担持体として12CaO・7Al2O3を用いることで、CaOやAl2O3より桁違いに高い活性と安定性を実現
 背景
 触媒として有効に機能する物質には、白金やロジウムなど高価な貴金属が多い。そうした金属の使用量を大幅に減少させる方法として、単原子として固体表面に固定(担持)する単原子触媒が熱心に研究されている。この単原子触媒は、バルクの金属と比べて原子の周りの結合が不飽和なので、高い活性が得られる。しかしほとんどの場合、担持された単原子は温度をあげると凝集し、通常の金属ナノ粒子触媒と同じになってしまうという欠点がある。いかにして単原子金属を固体表面に安定的に固定するかが技術的課題となっていた。
 本研究のアプローチ
 この課題に対して本研究では、単原子がちょうど収まる大きさの極小のケージに、目的とする金属の単原子を入れ込むことを目指した。対象とする金属には、最も代表的な貴金属触媒である白金を、そして触媒性能を左右する、白金を担持する固体(担持体)には、12CaO・7Al2O3(以下「C12A7」)を選択した。C12A7は、直径がサブナノメートルサイズの正に帯電したケージが3次元的に繋がった結晶構造をしており、これまでの基礎的研究によって、その最表面はゲージが破れた構造をしていることがわかっている。今回の研究の鍵となったのは、この破れたケージに白金原子を入れ込むことであった。そこで、[PtCl4]2-というアニオンの大きさが、破れたケージの入り口の大きさよりも少し小さいことに注目し、まずこのアニオンをケージの入口に入れ込んで、その後熱還元によってPt原子にして、単原子触媒を調製する方法を考えた。
 単原子白金触媒の確認
 調製した触媒について、高分解能電子顕微鏡(STEM)と広域X線吸収微細構造(EXAFS)によって、目指した通りに白金原子がC12A7表面に担持されていることが確認された。ケージのサイズより大きなPt錯体分子アニオンを用いた場合には、このような単原子構造は確認できなかった。また、通常の単原子触媒では金属の凝集が生じてしまう600 ℃という高温で加熱処理を行っても、単原子構造が保持されていることがわかった。
 触媒性能
 触媒反応としては、工業的に重要な様々な置換基を有するニトロベンゼン分子のNO2基の選択的還元を検討した。この水素化反応では、水素分子の開裂が律速段階となるが、C12A7骨格の酸素イオンによって配位された白金原子の環境は、水素が2つの水素原子になるよりも、H+とH-にヘテロリティックに解離するのに有利であると考えられる。実験では予想通り、分極したNO2基が H+とH-によって選択的に水素化され、目的分子が高収率で得られた。また、触媒の活性サイトの性能を示す指標であるTOF(Turnover Frequency)は、C12A7の構成成分であるCaOやAl2O3の上に担持した場合よりも桁違いに高い活性を示し、さらにこの触媒が熱的にも格段に安定なことがわかった。
 今後の展開
 C12A7は、市販のアルミナセメントの主な構成成分の一つで、安価でしかも環境調和性に優れている。これまでの走査トンネル顕微鏡観察による表面構造に関する研究で、ケージの破れを修復する処理方法も確立されている。また、表面再構成を伴う電子状態の変化についても研究が既に終了している。よって今後は、用途に応じた単原子触媒の設計が可能になる段階に進んでいけると期待している。本研究は、ありふれた元素からなる安価な物質と高価な貴金属の効率的利用を可能にしたものであり、「元素戦略」に対応した成果だといえる。
 ◆用語説明
 〇広域X線吸収微細構造(EXAFS)
 原子によるX線の吸収端から50 eV~1,000 eV程度までの範囲に観測される振動のこと。吸収端を与える原子から飛び出した電子(光電子)があちこちに衝突した結果、電子の波が重なりあって生じる。これを解析することで、どんな元素が、どのくらいの距離に、どのくらい存在するかなどの情報を得ることができる。
 〇HAADF-STEM像
 細く絞った電子線を試料に走査させながら当て、透過した電子のうち、大きな角度で散乱したものを環状の検出器で検出した像。原子番号に比例したコントラストが得られる。この試料ではカルシウム、酸素、アルミニウムに比べ、白金の像が強調されて観測される。
 〇TOF(Turnover Frequency、触媒回転数)
 1つの触媒サイトにおいて、単位時間あたりに生成物に変換できる分子数の最大値を表す。活性サイト当たりの触媒の活性の大きさの指標。
 ◆白金(Pt)の埋蔵量はわずか8万t
 Ptは希少金属であり,世界全体の推定埋蔵量は約8万t程度と見られる。価格も3000円/gと高価な貴金属である。
 自動車向けの現状の白金使用量のままでは、1000万台の燃料電池車を作るとなると、世界中の白金を使っても足りない、という試算されている。

 天気は晴れ。少し風が強く寒い。
 コンクリート塀際の小さな花壇。”ミチタネツケバナ”が小さな白い花を付けている。茎に沿って鋭角に細長い棒状の実(長角果)、小葉は小さく楕円形から円形。
 タネツケバナ(種漬花)の名の由来は、種籾(たねもみ)を水に浸ける頃に花が咲くからとの説と、実が熟すと種を四方に飛ばして発芽させて繁殖力が強から(種付花)の説がある・・前者説が有力かな。田圃などの湿った所で多く見られるのは”タネツケバナ(種漬花)”、道(路傍)などのやや乾燥した所で育つのは”ミチタネツケバナ(道種漬花)”。見た花は、雄蕊が4本で、茎にほとんど毛がないので、”ミチタネツケバナ(道種漬花)”・・と思う。
 ミチタネツケバナ(道種漬花、路種漬花)
 アブラナ科タネツケバナ属
 越年草または一年草
 ヨーロッパ原産の帰化植物
 渡来したのは新しく、1970年代と言われる
 タネツケバナ(種漬花)は江戸時代に渡来したと思われる
 開花時期は2月~3月
 花は小さく白色、アブラナ科特有の四弁花(十字花)
 果実は直立して花を挟んでいる