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次世代のFPGAチップにトランジスタを用いず12倍の高密度化実装に成功

2020-03-15 | 科学・技術
 大阪大学大学院情報科学研究科の橋本昌宜教授らの研究グループは、新ナノデバイスであるビアスイッチをFPGA(Field Programmable Gate Array)のプログラム機能実現に利用することで、FPGAチップの12倍の高密度化実装に世界で初めて成功した。また、AIアプリケーションに適したFPGAアーキテクチャを開発し、5倍のエネルギー効率向上が期待できること、半導体微細プロセスの採用により継続的な性能向上が期待できることを明らかにした。
 これまでのFPGAは、プログラム機能の実現にトランジスタを多数利用しており、チップの低密度化、低性能化を招いていた。今回、橋本教授らの研究グループは、トランジスタを用いずに配線層内に配置したビアスイッチを用いてプログラム機能を実現するビアスイッチFPGAチップの開発に成功し、12倍の実装密度向上を達成した。最小線幅65nmのシリコンCMOSプロセスを用いた試作FPGAチップに所望のプログラムができることを確認した。最先端AIアルゴリズムを短期間で高性能に実装できるプラットフォームとしての利用が期待される。
 本技術の詳細は、2月19日(米国太平洋時間)に米国サンフランシスコで開催される半導体技術に関する最大の会議である「国際固体素子回路会議ISSCC 2020(IEEE International Solid-State Circuits Conference 2020)」で発表。
 ポイント
 〇新ナノデバイスをFPGAのプログラム機能実現に利用することで12倍の実装密度向上に成功
 〇FPGAは、ユーザーが論理機能を自由にプログラムできる半導体チップである。機能実現までに必要な設計期間が短く、日進月歩で開発が進むAIアプリケーションの実現プラットフォームとして注目
 〇従来のFPGAでプログラム機能実現に必要だったシリコン面積を不要に
 〇最先端AIアルゴリズムの短期間・高性能実装プラットフォームとして期待
 研究内容
 これまでFPGAは、短期間で機能実現でき、少量多品種の製品に適するという特徴により利用拡大が進んできた。しかし、チップ内のプログラミング機能の実現に多数のトランジスタを利用するため、チップの実装密度が低く、動作速度や消費電力などの性能が低いという課題があった。
 橋本教授らの研究グループでは、ビアスイッチと呼ぶ新しい不揮発スイッチデバイスの開発を進めてきた。今回、ビアスイッチを用いたFPGAの試作に世界で初めて成功し、従来のトランジスタでプログラム機能を実現するFPGAに対して、12倍の実装密度向上を実証した。実装密度はFPGAチップの価格に直結するため、大幅なコスト低減が期待できる。また、プログラム機能の実現にトランジスタを利用しなくなったため、全てのトランジスタをコンピューティングに利用できるようになり、高いコンピューティング性能の実現も可能となる。最小線幅65nmのシリコンCMOSプロセスを用いて製造したFPGAチップをプログラミングし、期待通りの機能が実現できていることを確認した。ビアスイッチが次世代のFPGAに適したデバイスであることを明らかにした。
 さらに、AIアプリケーションが効率的に実現できるFPGAアーキテクチャを開発し、その性能予測を行った。トランジスタを用いてプログラミング機能を実現したFPGAに対して、5倍のエネルギー効率向上が可能であることもわかった。最小線幅7nmのシリコンCMOSプロセスで製造した場合、さらに11倍のエネルギー効率向上が期待できる。
 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 本研究成果により、AIアプリケーションを実現するプラットフォームとして期待が集まるFPGAデバイスの性能並びにエネルギー効率を向上させることができる。さらに高密度化により、FPGAデバイスの低価格化も期待できる。
 ◆用語解説
 〇ビアスイッチ
 配線層内に実現された不揮発スイッチ(原子スイッチ)とプログラム用の選択デバイス(バリスタ)からなるデバイス。プログラムを制御するためのアクセストランジスタが不要のため、配線層内に小面積で実装できる特徴を持つ。
 〇実装密度
 チップの単位面積あたりにプログラムできる量。ユーザーが論理機能を自由にプログラムできる半導体チップ。機能実現までに必要な設計期間が短く、日進月歩で開発が進むAIアプリケーションの実現プラットフォームとして注目が集まっており、各社が提供するクラウドサービスでも活用が進んでいる。
 〇原子スイッチ
 スイッチ機能と不揮発メモリ機能を合わせ持ったスイッチデバイス。金属原子が固体電解質内を移動してスイッチするため、低抵抗で低入力容量という特徴を持つ。
 〇バリスタ
 格子構造上に配置されたビアスイッチアレイに対して、選択したビアスイッチのみをプログラムするために導入された素子。低電圧印加時に抵抗が高く、高電圧印加時に抵抗が低くなる。
 ◆FPGA
 FPGA(英: field-programmable gate array)は、製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路であり、広義にはPLD(プログラマブルロジックデバイス)の一種である。現場でプログラム可能なゲートアレイであることから、このように呼ばれている。
 特定の処理を実行する論理回路を実装したICチップにはASIC(Application Specific IC)もあるが、これは製造時に固定的に回路を形成するもので、消費者向け電子機器など大量生産する場合には一個あたりの製造コストはASICの方が低くなるが、例えば企業内の特定の業務のために数十台、数百台のコンピュータに組み込むといった用途ではFPGAのほうが低コストとなる。また、FPGAは回路データを作成すれば即座にチップに実装して実行してみることができるが、ASICは通常の半導体製造工程で生産されるため設計が完了してから製品が完成するまで最短で数週間かかるという違いもある。電子製品の開発・試作段階ではFPGAを用い、本生産時には同じ回路設計でASICを製造するといった使い分けが行われることもある。

 天気は晴れ、雲が少ない。気温は最高気温11℃、桜はまだ咲かない。
 畑に作った花壇、菊を昨年植え替えた。その中に、1輪”クロッカス-ハナサフラン”が咲いている。どこから紛れ込んだのか?。
 ”クロッカス(Crocus)”の名は、ギリシャ語の”croke:クロケ、糸の意味”からで、雌しべが糸状に長く伸びることに由来する。雌しべは薬用やスパイスとして用いられるが、このクロッカスは、春咲きで観賞用だけに栽培されるものである。因みに、雌しべを用いるのは、クロッカスの一種の”サフラン”で、晩秋に咲くので、秋咲きクロッカスの別名がある。
 クロッカス
 別名:花サフラン、春サフラン
 アヤメ科クロッカス属
 耐寒性秋植え球根(春咲き球根)
 原産地はヨーロッパのアルペン地域
 開花期は2月~4月
 花色は白・黄・紫・藤、網目状に模様が入る絞り咲きもある


電子スピンの自在な操作が可能な積層材料を開発、超高記録密度・省エネ磁気メモリの実現に

2020-03-13 | 科学・技術
 量子科学技術研究開発機構量子ビーム科学部門の李松田主任研究員、境誠司プロジェクトリーダーらは、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の雨宮健太教授、物質・材料研究機構の桜庭裕弥グループリーダーらとの共同研究により、電子スピンを使った情報処理に重要な、電子スピンの向きを揃える性能とスピンの向きを保つ性能のそれぞれに最も優れるホイスラー合金とグラフェンからなる積層材料の開発に成功した。この新しい材料により電子スピンの自在な操作が可能になることで、超高記録密度で省エネな磁気メモリの実現など、日常生活の情報化を支える情報技術の発展に新たな道が拓かれることが期待できる。本成果は、Advanced Materials誌のオンライン版に2019年12月3日(火)12:00(現地時間)に掲載。
 ポイント
 〇電子スピンを自在に操ることができる積層材料の実現により、超高記録密度な磁気メモリの実現など情報技術の発展に新たな道筋
 〇世界で初めて電子スピンの制御と保持の性能に最も優れたホイスラー合金とグラフェンからなる積層材料の開発に成功し、電子スピンの自在な操作が可能に
 研究の背景
 近年、情報機器の高性能化やインターネットの発達など情報化社会の発展に伴い、電子のスピンを利用することで多くの情報を少ない電力で保存できる磁気メモリのさらなる高記録密度化が求められている。磁気メモリは、電子スピンの向きが揃った電流(スピン偏極電流)を生み出す磁性体の層(磁性層)とスピン偏極した電流を伝える非磁性体の層(スペーサー層)を積み重ねた積層材料からなる磁気抵抗素子で出来ている。磁気抵抗素子は、積層材料を流れるスピン偏極電流の大/小が(電気抵抗)がスペーサー層の上下にある電極層の磁気の向き(磁石の方向)に応じて変化する磁気抵抗効果という現象を利用してデジタル情報の0/1を記録する。
 現在のハードディスクやMRAMなどの磁気メモリにはトンネル磁気抵抗素子という種類の磁気抵抗素子が使われている。トンネル磁気抵抗素子には、磁性層として強磁性金属、スペーサー層として絶縁性の酸化物からなる積層材料が用いられている。この素子は、スピン偏極電流に含まれる電子のスピン偏極率の大きさを反映して磁気抵抗比が高いことが特徴であるが、スペーサー層に絶縁体を用いているため電気抵抗が高く、電気抵抗を下げようとして酸化物の厚さを薄くすると、酸化物の質が低下して磁気抵抗比が下がってしまう問題を抱えている。そのため、現在の磁気抵抗素子では、電子のスピン偏極率を反映する磁気抵抗比の高さとスピン偏極電流が流れる際の電気抵抗の大きさを、次世代の磁気メモリに必要とされる領域に合わせることができていない。このように、磁気メモリをさらに高記録密度化するためには、高スピン偏極率の電流を低抵抗で流すことができる、即ち、電流に含まれる電子のスピンを効率良く操作できる積層材料を開発する必要があった。
 成果の詳細
 研究チームは、電子スピンの効率的な操作が可能で、高スピン偏極率の電流を低い電気抵抗で流すことができる積層材料を実現するための新しいアプローチとして、磁性体の中で最もスピン偏極率が高いホイスラー合金と非磁性体の中でスピンの伝達能力に最も優れるグラフェンを積層することを考えた。
 グラフェンと磁性金属の積層材料は、これまでニッケルやコバルトなど一般的で構造が単純な磁性金属を用いて作製されてきたが、ホイスラー合金のように多種類の元素を含み複雑な構造を持つ金属材料とグラフェンの積層化は世界に例がなかった。そこで研究チームは、はじめにグラフェンとホイスラー合金薄膜を積層化する作製技術の開発に取り組んだ。試料の酸化を防ぐために超高真空を保ちながら、マグネトロンスパッタリング法と化学気相成長法という手法を用いてホイスラー合金とグラフェンを順次成長する技術を開発し、試料の作製条件を最適化した結果、ホイスラー合金の一種であるCFGG合金薄膜(組成:Co2FeGe0.5Ga0.5)の表面に厚さが一原子層のグラフェンが完全に覆うように成長した積層材料を作製することに成功した。これにより、世界で初めてグラフェン/ホイスラー合金積層材料を実現した。
 さらに、研究チームは、深さ分解X線磁気円二色性分光という放射光を用いた分析技術を使って、グラフェン/CFGG合金積層材料に含まれるグラフェンとCFGG合金の状態を調べた。その結果、グラフェン/CFGG合金積層材料では、グラフェンとCFGG合金が接する界面と呼ばれる領域でも、CFGG合金が本来持っている磁気的な性質や高いスピン偏極率が失われていないことが分かった。また、グラフェンについても、ディラックコーンと呼ばれる特徴的な電子状態が保たれていることが分かった。これらの結果から、グラフェン/CFGG合金積層材料では、それぞれの材料が本来持っている電子スピンの向きを完全に近く揃える性質とスピンの向きを保ったまま低抵抗で伝えることができる性質が積層した状態でも保たれており、磁気抵抗素子への応用に理想的といえる、スピン偏極電流の効率的操作に最適な状態が実現されていることが明らかになった。
 今後の展望
 今回、電子のスピン偏極率が最も高いホイスラー合金と電子のスピンを伝える性質に最も優れるグラフェンを積層する技術を開発し、スピン偏極電流の効率的操作に最適な積層材料を実現できたことで、磁気メモリの高記録密度化などスピントロニクスによる情報技術の発展に新しい道筋が開かれた。
 現在、研究チームでは、グラフェン/CFGG合金積層材料を用いた磁気抵抗素子の開発を進めている。また、今後も原子スケールの材料の積層化や複合構造による電子・磁気的性質の制御や機能化に注目して研究を行い、スピントロニクス材料・デバイスの高度化による情報技術の発展に貢献する。
 ◆用語解説
 〇電子スピン、スピン偏極率
 電子の自転により生じる磁石の性質をスピンという。スピンには上向きと下向きという2つの状態がある。材料の中で電子スピンの向きの分布が上向きに偏ることをスピン偏極という。また、スピン偏極の度合いはスピン偏極率(P)として表され、上向きスピンを持つ電子の数(Dup)と下向きスピンを持つ電子の数(Ddown)によってP=(Dup-Ddown)/(Dup+Ddown)と定義される。 電子スピン
 電子のスピンには上向きと下向きの二つの状態がある。スピントロニクスでは、例えば、スピンの上向きを0、下向きを1のデジタル情報として演算や記憶を行う。
 〇ホイスラー合金
 ハーフメタルと呼ばれる磁石(磁性体)の一種である。ハーフメタルとは、例えば、上向きスピンが金属的な状態を持つ一方で下向きスピンはバンドギャップと呼ばれる半導体的な状態を持つために、電流として材料の中を流れることができるフェルミ準位付近の電子(伝導電子)のスピンの向きが一方向に完全に揃っている材料を指す。ホイスラー合金は、そのようなハーフメタルの一種であるが、室温より遙かに高い温度まで磁石の性質を保つことができることなど実用に適した特性を持つことから、スピントロニクスデバイスの材料として注目されている。
 〇グラフェン
 炭素原子が蜂の巣状に結合してできた厚さが1原子のシート状の物質である。シリコン等と比較して数桁以上も高速に電子を運ぶことができ、スピン軌道相互作用と呼ばれる電子のスピンの向きに乱れが生じる原因になる作用が全物質の中で最も弱いこと等の特徴を持つことから、スピントロニクスへの応用が期待されている材料である。また、厚さが1原子の状態でも安定に存在できることや軽量かつ高強度であること、化学処理等によりその性質を幅広く制御できることなどの特徴から、スピントロニクスデバイスに限らず、バイオセンサーや電池、飛行機の部材など様々な応用が期待されており、多くの分野で実用化を目指した研究開発が進められている。
 〇磁気メモリ
 微小な磁石(スピンの集合体)を使ってデジタル情報を記録するメモリの総称。磁気メモリは磁性体のスピンの向きにより情報を記録しているので、電源がなくても情報が失われない。磁気メモリの種類には、円盤上に塗布した磁性体の磁気の向き(上向き/下向き)を磁気抵抗素子で検出することによりデジタル情報(0/1)を読み出すハードディスクドライブと、磁気抵抗素子そのものに含まれる磁性体の磁気の向きに応じた素子の電気抵抗の変化(高抵抗/低抵抗)をデジタル情報(0/1)として読み出す磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)がある。
 〇スピントロニクス
 電子のスピンの向き(上向き/下向き)をデジタル情報の0と1のように扱い、これを制御したり識別したりすることで情報の処理を行う技術である。電子の電荷に加えてスピンを情報処理に用いることで、今日の情報技術が直面する電力消費の肥大化などの問題を克服することができる技術として注目されている。
 〇磁気抵抗素子、磁気抵抗比
 磁性体からなる磁性層と非磁性体からなるスペーサー層を磁性層/スペーサー層/磁性層の順に積み重ねた積層材料からなる素子を磁気抵抗素子と呼ぶ。磁気抵抗素子では、上下の磁性層の磁気の相対的な向き(平行/反平行)に応じて素子の電気抵抗が変化(大/小)する磁気抵抗効果と呼ばれる現象を利用してデジタル情報(0/1)を記録する。
 現在、磁気メモリに使われている磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗素子と呼ばれるもの。このトンネル磁気抵抗素子では、絶縁体の酸化物がスペーサー層に使われており、電流は、上下の磁性層の間をスペーサー層を介したトンネル効果により流れる。磁気抵抗素子の性能の指標として、磁性層の磁化の向きにより電気抵抗が変化する割合を百分率で表したものを磁気抵抗比と呼ぶ。
 〇マグネトロンスパッタリング法
 アルゴンなどの不活性ガスを数百ボルトの電圧をかけながら真空中に導入することで放電を発生させ、それによって生じた電子を磁場により囲い込むことでターゲットの近くに密度が濃いプラズマを生成し、そこから生じたイオンをターゲットに衝突させる事で、ターゲットの表面からたたき出された原子等を基板上に堆積させて薄膜を成長させる方法である。
 〇化学気相蒸着法
 目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、試料表面における原料ガスとの化学反応を利用して薄膜を成長させる方法である。
  〇深さ分解X線磁気円二色性分光
 X線磁気円二色性分光とは、磁性体の試料に円偏光X線を照射するとX線の吸収量が試料の磁化(磁石)の方向に応じて変化する現象(磁気円二色性)を計測することで、試料の磁気的な性質を調べる分光手法である。X線のエネルギーを特定の元素の吸収端付近に合わせて測定することで、試料に含まれる個々の元素の磁気モーメント(磁気の強さ)を調べることができる。
 深さ分解X線磁気円二色性分光は、上記に深さ分解の機能を持たせた手法で、X線の吸収に伴い試料の表面から放出される電子を放出角度により分別して測定することで、放出角度に応じた検出深さの変化を利用して、試料表面からの深さに応じた磁気モーメントの変化を調べることができる。
 〇ディラックコーン
 グラフェンは、炭素原子がシート状に並んだ形態に起因して電子の状態に特徴的な円錐型の構造が現れる。そのような構造をディラックコーンと呼ぶ。ディラックコーンの電子は、グラフェンの中を高速に流れることができる。
 グラフェンの中の電子は、ディラックコーンと呼ばれる円錐型の運動量(速度)の分布を持つ。

 晴れ。気温は高く、最高気温17℃、でもあまり温かさを感じない・・風が強いからかな。
 駅に向かう道沿い畑で、”ネコヤナギ”の蕾が大きくなり、半分位は開花している。花穂が銀白色で柔らかく、猫の尻尾の様に見える。葉はない・・花(尾状花序)の後に出る。
 ヤナギ(柳)は、ヤナギ科ヤナギ属 の樹木の総称である。世界に約350種あるとされ、日本でも30種以上はあると言う。日本では、柳と言えば”シダレヤナギ(枝垂柳、落葉高木)”を指すことが多いが、”ネコヤナギ(猫柳、落葉低木)”もある。
 名(ネコヤナギ:猫柳)の由来は、花穂が銀白色で柔らかく、猫の尻尾の様に見える「猫の尾をした柳」からである。別名には、「猫の尾」ではなく「小犬の尾」に例えて”エノコロヤナギ(狗尾柳)”とある。
 因みに、”ネコヤナギ”の花言葉は、率直・自由・思いのまま。
 ネコヤナギ(猫柳)
 別名:川楊(かわやなぎ)、狗尾柳(えのころやなぎ)
 学名:Salix gracilistyla
 ヤナギ科ヤナギ属
 落葉性低木
 雌雄異株
 原産地は日本・中国など
 早春、葉が出る前に大きな花穂を付ける
 開花時期:3月~4月
 花は尾状花序


金属並みの熱伝導性のゴム複合材料を開発

2020-03-12 | 科学・技術
 産業技術総合研究所先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリタフコンポジット材料プロセスチーム伯田幸也ラボチーム長、後藤拓リサーチアシスタント(東京大学大学院新領域創成科学研究科大学院生)と東京大学大学院新領域創成科学研究科寺嶋和夫教授(産総研先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ特定フェロー)らは、カーボンナノファイバー(CNF)とカーボンナノチューブ(CNT)の2種類の繊維状カーボンと、環動高分子のポリロタキサンを複合化させて、ゴムのように柔軟で、金属に匹敵する高い熱伝導性を示すゴム複合材料を開発した。
 従来、高分子への分散が困難であった繊維状カーボンを、水中プラズマ技術で表面改質して分散性を高め、さらに、高分子と複合化する過程で交流電界をかけてCNFを配列させた。その結果、CNFの配列方向では14 W/mKという高い熱伝導性を示し、柔軟性を併せ持つゴム複合材料を実現した。今回開発したゴム複合材料は、フレキシブル電子デバイスの熱層間材や放熱シート、放熱板などへの応用が期待される。この技術の詳細は、2020年2月14日に国際誌Composites Science and Technologyに掲載。
 ポイント
 〇2種類の繊維状カーボンでネットワークを構築し、金属に匹敵する高い熱伝導率を実現
 〇ゴムの原料に環動高分子を用いることで、繊維状カーボンを大量に添加してもゴム弾性を維持
 〇フレキシブル電子デバイス用の熱層間材や放熱シートなどの熱マネジメント材料として利用可能
 開発の社会的背景
 近年、フレキシブル電子デバイス用の熱層間材や放熱シートなど高い放熱性を示す柔軟な熱マネジメント材料が注目を集めている。これらには、高い熱伝導性に加えて、低ヤング率、高引張強度、高靭性などの機械的特性が求められるため、次世代の熱伝導性フレキシブル材料として、柔軟なゴム素材と熱伝導性の高いCNFやCNTとの複合材料が精力的に研究開発されている。しかし、CNTの熱伝導率は2,000 W/mKを超えるにもかかわらず、複合材料の熱伝導率2 W/mKを達成するのに、10 wt%の添加が必要とされる。また、多量のCNFを添加すると複合材料の柔軟性が失われて脆くなる。一般に、繊維状カーボンは凝集性が強く、複合材料中に一様に分散しにくいため、繊維状カーボン同士が互いに接触してつながった熱伝導のネットワークを複合材料全体にわたって形成するのは困難であった。また、大きな繊維状カーボン凝集体とゴム素材との界面が変形時の破壊の起点となり、脆化の要因のひとつとなっている。
 研究の内容
 今回開発したゴム複合材料は、ポリロタキサン中に、フィラーとしてサイズの異なる2種類の繊維状カーボン(CNFとCNT)を分散させた。CNFは太さ200 nm、長さ10 ~ 100 μm、CNTは太さ10~30 nm、長さ0.5 ~ 2 μmであった。ゴム材料への繊維状カーボンの分散性の改善と、複合材料中の熱伝導ネットワークの形成が高い熱伝導性のカギと考えられている。分散性改善のためCNFとCNT(CNF:CNT重量比9:1)を塩化ナトリウム水溶液に分散し、独自に開発した流通式水中プラズマ改質装置を通して表面改質を行った。次に、表面改質したCNF/CNT混合物を溶媒(トルエン)中でポリロタキサン、触媒、架橋剤と混合したのち、交流電界処理用容器に入れ、交流電界をかけながら架橋反応させてゲルを作製した。得られたゲルをオーブンで加熱して溶媒を取り除き、フィルム状の複合材料を得た。
 開発した複合材料内部の電子顕微鏡像、表面改質により、まゆ状の凝集体がほぐれ、加えた電界の方向にCNFが配列していた。さらに、配列した大きなCNFに小さなCNTが巻き付き、CNF間をつなぐように分散していた。この少量のCNTがCNF同士をつなぐことで複合材料全体にわたる熱伝導のネットワークが形成され、高い熱伝導性が実現したと考えられる。
 今後の予定
 今後は、CNFの配向条件や改質条件を最適化して、熱伝導性と柔軟性の向上を図ると同時に、フィラーの3次元構造の観察や解析を通して、複合材料の構造と特性との数理的関係の解明を進める。さらに、企業との共同研究により、部材、デバイスへの展開、実用化を図る。
 ◆用語の説明
 〇カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)
 CNFは直径がナノメートルサイズの繊維状炭素。CNTはシート状の炭素が同軸環状になった物質。機械的特性や熱伝導性・電気伝導性に優れており、プラスチックなどさまざまな材料の機械特性・機能性の強化に利用される。
 〇環動高分子、環状分子
 環動高分子は、環状分子と直鎖高分子(ポリエチレングリコールなど)で構成された高分子で、環状分子が直鎖高分子に沿って「動く」ため「環動」高分子と呼ぶ。環状分子とは、穴の開いたドーナツ状の構造の分子のことで、代表的な環状分子に、シクロデキストリンがある。
 〇ポリロタキサン
 直鎖のポリエチレングリコールと複数個の環状のシクロデキストリンからなるネックレス状の環動高分子の一種。大阪大学原田明教授らにより開発された。東京大学伊藤耕三教授らはこれをベースにゴムのように伸び縮みするゲルを開発した。
 〇複合化
 2種類以上の材料(例えば、金属とゴム)を組み合わせて、材料に単独素材にない機能や性能を持たせること。
 〇水中プラズマ
 水溶液中に設置した電極間に高電圧をかけたり、パルスレーザーを照射したりして水溶液中に発生させたプラズマ。無機フィラーを水中に分散させて水中プラズマにより水中に分散させた無機フィラーの表面に水由来の水酸基を付与できる。
 〇熱層間材
 2つの材料(例えば、発熱デバイスとヒートシンク)の接合部に使用し、材料間の熱伝導性を高める材料。材料間のわずかなギャップや凸凹を埋めて、効率よく熱を伝えるため、高い柔軟性、加工性、熱伝導性が求められる。
 〇ヤング率
 材料の硬さの指標。材料の応力-ひずみ曲線の弾性領域の応力とひずみの比例定数であり、大きいほど材料が硬いことを意味する。
 〇靭性(じんせい)
 材料の粘り強さ、壊れにくさの指標。材料の靭性は破壊試験や応力-ひずみ曲線の面積値から評価することができる。
 〇脆化(ぜいか)
 金属やプラスチックがその粘りや伸びがなくなり、脆く、壊れやすくなること。
 〇超分子
 複数の分子が共有結合以外の相互作用(水素結合、配位結合、ファンデルワース力など)によって結合して形成される集合体。
 〇フィラー
 プラスチック、ゴム、塗料などに機械強度や機能性の向上のために添加される物質。[参照元へ戻る]

 今日の天気は晴れ。雲が多く、風が少し強い。気温は最高気温12℃、少し暖かいかな。
 花が咲きだした”オウバイ”。玄関のアポローチの石垣にかかる”オウバイ”でカーテンの様だ。
 名(オウバイ:黄梅)に梅と付くが、梅(バラ科サクラ属)ではなくジャスミン(モクセイ科ジャスミン属)の仲間である。ジャスミン属ではあるが花に香りはない。
 名の由来は、黄色の花が梅に似る、咲く時期が梅と同じ頃、からと言う。”オウバイ”は落葉樹、花期には葉はまだ出ない。花・姿が良く似ているものに、”ウンナンオウバイ(雲南黄梅)”とか”オウバイモドキ”と呼ばれるのがあるが、これらは常緑樹。
 オウバイ(黄梅)
  中国では、迎春花(げいしゅんか)と呼ばれる
   旧正月(2月)頃に咲き出すから
 学名:Jasminum nudiflorum
 モクセイ科ソケイ(ジャスミン)属
 落葉性半つる性低木
 中国北部原産、15世紀末(1488年、1666年説もある)に渡来
 開花時期は2月~4月、花期には葉はまだ出ない
 花色は明るい黄色、花径は2.5cm位
 花の形は高杯形で、梅に似る
 花には一重と八重がある


ホウ素と水素のみからなる導電性を持つ新たなナノシート材料を開発

2020-03-07 | 科学・技術
 研究
 NIMSと筑波大学を中心とする研究チームは、ホウ素と水素のみからなる導電性を持つ新たなナノシート材料を開発した。またJASRIと共同で、ナノシートを構成する水素原子が特殊な配置を取っており、その構造が原因で分子が吸着することにより導電性が大きく変化することを明らかにした。軽量かつフレキシブルで、導電性を制御できる本材料は、ウェアラブルな電子デバイスや新しいメカニズムのセンサーなどへの応用展開が期待できる。本研究成果は、「Chem」誌にて現地時間2019年12月9日午前11時 (日本時間10日午前1時) にオンライン公開。
 共同研究チーム
 本研究は 、国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)ソフト化学グループ 冨中悟史主任研究員と、国立大学法人筑波大学数理物質系近藤剛弘准教授、公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 尾原幸治 主幹研究員、国立大学法人東京大学物性研究所松田巌准教授および国立大学法人東京工業大学 元素戦略研究センター 細野秀雄栄誉教授らの共同研究チームによって行われた。
 研究の背景
 電気が流れる特性(導電性)は、金属を除くと限られた材料でのみ見られるものであり、分子・原子レベルの厚みを有するナノシート材料では、グラフェンや酸化ルテニウムナノシートなどの限られた材料でのみ報告されている。導電性はキャパシターなどの電子デバイスなどに必須であり、電子・情報化社会において非常に重要な特性である。さらに、1種類のナノシート材料のみではなく、異なるナノシート材料を組み合わせて利用することで、新たな機能の発現が期待できるため、これまでにないデバイスの誕生も期待される。
 ホウ素と水素のみからなるホウ化水素ナノシートはボロファンという通称名で知られ、理論的に多様な原子配置を取りうることや導電性を有することが予想されてきた。新しい水素吸蔵材料や電子材料としての優れた特性が期待されていたが、実際に合成をすることは困難であった。しかし、筑波大学が中心となりNIMSを含む研究機関と共同で、2017年に世界で初めて、そのホウ化水素ナノシートの生成に成功した(参考:新しいシート状物質「ホウ化水素シート (ボロファン) 」の誕生)。
 理論的にホウ化水素ナノシートはさまざまな構造が予想されており、非常に魅力的な材料群の先駆的な合成の成功と言える。しかし、実際に合成した試料は計算による予測とは異なり、結晶ではなっかた。そこで、化学的に合成したホウ化水素ナノシートに関して、「導電性を有するのか?」という問いと、「なぜ非晶質なのか?」という問いに答えることが本研究の学術的な目的である。
 研究内容と成果
 導電性の計測実験では、研究を開始した当初は、計算の予測とは異なり、ホウ化水素ナノシートは絶縁体であった。NIMSが主体となり、前処理を変えた計測を繰り返し、導電性の発現には試料の純度を高めることが極めて重要であることを見出し、筑波大学と連携し、高純度試料の測定を繰り返し行った。試料の合成は筑波大学が中心となり、東京大学、東京工業大学、NIMSが共同で、高純度のホウ化水素ナノシートの合成に成功した。その試料をNIMSが繰り返し測定し、導電性が発現する前処理を発見した。微量ではあるものの合成に用いた有機分子が残存し、その吸着により導電性が発現しないことが分かり、適切な前処理を行うことで、安定して高い導電性(ホウ化水素としては最高レベル、0.13 S/cm)が得られるようになった。
 残存分子は微量であり、通常の導電材料の評価では問題になるものではなかった。興味深いことに、残存分子が存在する時には導電性が発現していても、温度上昇とともに30 ℃付近で絶縁体に変化する現象が見られた。この現象は可逆的であり、温度の低下で元の導電性が回復した。そこに化学的に重要なことが隠されていると考えられた。
 詳細な理解のためには、原子の配置を明らかにする必要があるが、この材料は非晶質であり、構造解析の一般的な手法の回折法が利用できない。X線散乱データから得られる二体分布関数であれば、非晶質であっても構造に関する情報が得られるため、NIMSとJASRIが共同で、大型放射光施設SPring-8のBL08WにてX線散乱実験を行い、二体分布関数の導出を行った。非常に複雑なデータであり、通常の手法では解析は困難ですが、NIMSが実験データを機械的に解析するベイズ最適化を用いたプログラムと、結合電子も含めた全電子状態を解析する全電子二体分布関数解析法を世界で初めて開発したことで、水素が特殊な配置を取っていることが明らかとなった。これらの解析により、特殊な水素原子の配置により微量の有機分子の吸着が可能となり、結果的に導電性が安定していなかったことが分かった。
 〇ホウ化水素ナノシート
 ホウ化水素ナノシートを化学的に合成。分子レベルの厚みのシート状物質で、特殊な水素の配置を有する。電気が流れ、その導電性は分子の吸着に敏感。
 今後の展開
 軽量かつフレキシブルなホウ化水素ナノシートは、ウェアラブルな電子デバイスへの応用が期待できる。さらに、ホウ化水素ナノシートの大きな特徴の1つとして分子の吸着性を考えると、分子の吸着で導電性が大きく変わる材料として使うことが可能である。実際に30 ℃以上で、6桁も抵抗が大きくなる現象が見られた。分子応答性のセンサー材料の開発に繋がる基礎特性と考えられる。また、特殊な水素の配置により、酸点と塩基点が存在するため、触媒材料への応用も期待できる。
 現在、研究チームは、さまざまな応用を目指して、この新しい材料の研究を続けている。これまでにはない特性を持つ材料の開発により、全く新しいデバイスの誕生が期待できる。
 ◆用語説明
 〇二体分布関数
 原子ペアの距離と密度の関係を表すヒストグラムである。結晶にのみ有効な伝統的な回折データとは異なり、全ての物質の指紋に当たる情報として近年、物質・材料の研究で注目されている。
 〇大型放射光施設SPring-8
 理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援はJASRIが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
 〇ベイズ最適化
 データの解析の際に、これまではランダムな試行の繰り返しによる最適化が一般的であったが、近年、機械的に最適な値へと導く手法が検討されている。ベイズ最適化はその中でも広く知られた方法で、ランダムではなく、過去の試行結果を学び、如何に最適値へと導くかを機械的に調整しながら試行を繰り返す手法で、今回は二体分布関数の解析に初めて導入した。
 〇全電子二体分布関数解析法
 二体分布関数の解析は、孤立した原子が分布していることを仮定して解析するのが一般的である。しかし、原子同士の結合を作る結合電子が無視できない場合、従来の手法では解析が困難である。NIMSでは物質の全電子位置と数を計算し、それに対する二体分布関数をシミュレーションして実験データの解析を行う新しい手法の開発を行った。これにより、水素とホウ素、ホウ素とホウ素の結合電子まで考慮した解析が可能になった。

 天気は晴れ、雲が多い。気温は最高気温9℃とか、風が強くないので、お日様が温かい。
 散歩で、小さなお庭で”フクジュソウ”の花を見つけた。春を告げる花の代表である・・春がやって来る。新春を祝う花でもあり、元日草(がんじつそう)とか朔日草(ついたちそう)と呼ばれる。南天(難転)の実と福寿草(招福+長寿)の花とで、”難を転じて福となす”の縁起ものである。
 江戸時代からの古典園芸植物で、多数の園芸品種が作られている。根・茎には毒(アドニンという成分)があり、芽が出たばかりの様子はフキノトウと似ており、間違えて食べると中毒を起こす。花が終わるころ、細かい葉(人参の葉の様)が出てくる。
 フクジュソウ(福寿草)
 別名:元日草(がんじつそう)、朔日草(ついたちそう)
 学名:Adonis ramosa
 キンポウゲ科フクジュソウ属
 多年草
 開花時期は2月~4月
 花色は基本的に黄色(黄金色)、花径は数cm
 開花は光・温度に敏感で、日が陰ると直ぐに花はつぼむ
  花びらの開閉で花の中の温度を下げないようにしている


2種類の有機物の混合で、リチウムイオン電池の特性を劇的に向上する手法を開発

2020-03-06 | 科学・技術
 関西学院大学理工学部の清水 剛志博士研究員、中島謙介氏、吉川 浩史准教授、田中大輔准教授らと大阪大学の北河康隆准教授の研究チームは、有機物を電極材料として用いたリチウムイオン電池で、2種類の有機分子を混ぜ合わせた電極材料の特性が、それぞれの分子を単一で用いた場合に比べて劇的に向上することを見いだした。本研究成果は、2019年11月30日(日本時間)に英国王立化学会発行の科学誌「Chemical Science」オンライン版に掲載。
 ポイント
 〇2種類の有機物を混ぜ合わせた電極材料を用いたリチウム二次電池では、別々に有機物を用いた場合に比べて劇的に性能が向上することを見いだした。
 〇有機物を混ぜることで、リチウムイオンが出入りできる隙間を作り出すことができたためであると考えられる。
 研究の背景と経緯
 リチウムイオン電池は、本年度の吉野彰博士のノーベル化学賞受賞に代表されるように、現代のIT社会を支える基盤技術として広く認知されている。
 リチウムイオン電池の正極の材料には希少元素であるコバルトを用いた物質が使われており、高価なコバルトに代わる、より安価で高性能な正極材料が、現在も広く探索されている。特に、有機分子は軽く安価な電極材料として注目されており、さまざまな有機物が正極材料の候補物質として研究されている。しかしながら、優れた特性が予測される有機物を実際に電極材料として用いた研究では、予想に反して低い電池特性しか示さないことがしばしば起こることが知られている。
 有機分子の電極材料の研究では有機分子を固体の結晶として用いるのが一般的であるが、有機物の結晶の内部にリチウムイオンが入り込む隙間を合理的に作り出すことが難しいことと、結晶が電解液に溶け出してしまい安定性が低いという2つの理由が性能低下の原因として挙げられる。優れた電極材料としてのポテンシャルを持った分子の特性を100パーセント引き出すには、有機物の結晶中にリチウムイオンが入ることができる通り道を作り出し、なおかつ材料としての安定性を向上させる汎用性の高い手法の開発が必要である。
 研究の内容
 田中准教授と吉川准教授の研究チームは、リチウムイオン電池の電極材料として、中心に正の電荷を持つ円盤状の有機分子と負の電荷を持つ円盤状の有機分子2種類の有機分子を混ぜ合わせた電荷移動錯体と呼ばれる材料を開発し、その特性が単一の有機分子と比較すると劇的に向上することを見いだした。
 これは、有機分子が集積した結晶の中に、リチウムイオンが拡散する通路ができたためだと考えられる。単一の有機分子を用いた場合は、分子同士の電荷が反発して密に詰まった構造をとることが知られている。
 本研究では、異なる符号の電荷を持った分子を1:1で混ぜることで、2種類の円盤状分子が交互に積み上がった筒状の構造を形成し、筒と筒の隙間にさまざまな分子を取り込むことができるようになることを明らかにした。さらに、電荷移動錯体が持つこの隙間を利用することで、高速でリチウムイオンが出入りする高い容量を持った電極材料を開発することに成功した。また、正負の電荷間の強い相互作用により、この電荷移動錯体の電解液への溶解が抑制されていることも確認された。
 大阪大学の北河康隆准教授との計算機を用いた共同研究により、この相互作用のエネルギーを見積もることにも成功している。異なる電荷を持つ2種類の分子を混ぜるという本手法は、さまざまな有機分子の組み合わせで応用できるため、これまで高い特性を示さなかった有機分子が本来持っている特性を最大限引き出すことを可能とする新しい手法になるものと期待される。
 今後の展開
 優れた特性を持つ新しい二次電池が開発されれば、スマートフォンやノートパソコンなどの身の回りのモバイルデバイスの性能を飛躍的に向上させることが可能になる。本研究で開発した技術を活用することで、それまで特性が悪いと思われていた有機分子2種類を混ぜ合わせるだけで、その電極材料としての特性を飛躍的に向上させることが可能になる。一方で、そのような有機分子の組み合わせの数は膨大なものになるため、本研究成果は、広大な「組み合わせによる材料開発」の存在を実証した研究成果であるということができるかもしれない。
 今後は、このような膨大な数の候補物質を効率的に探索するために、現在発展が著しい人工知能を活用したマテリアルズインフォマティクス(MI)の手法を利用した効率的な材料の開発が期待される。

 晴れ、風がとても強い。気温は最高気温9℃、風が強いので、体感気温はもっと低い・・。
 今年は積雪の期間が殆どない・・今日の散歩は枯れ野の散歩。
 近所の畑で、”フキノトウ”が出てた。・・周りには雪がない!!。
 ”フキノトウ(蕗の薹)”はフキ(蕗)の花の蕾で、葉が出る前に花蕾(フキノトウ)だけが地面に出てきた。早春の雪解けの防寒なのか、蕾を苞(ほう)が厚く取り巻いている。
 フキノトウ(蕗の薹)
  フキ(蕗)の蕾
 キク科フキ属
  原産地は日本、樺太・朝鮮半島・中国にも分布する
 多年草
 雌雄異花
  雌花は受粉後に花茎を伸ばし、タンポポの様な綿毛をつけた種子を飛ばす
 蕾の状態で摘み採り、煮物・味噌汁・ふきのとう味噌などで食べる
  ・・花が咲いてしまうと苦い


イチジク近縁種イヌビワのゲノム配列を解読、病害に強い品種改良に

2020-03-05 | 科学・技術
 かずさDNA研究所、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹茶業研究部門、国立遺伝学研究所、広島県立総合技術研究所、福岡県農林業総合試験場は共同で、イチジク (Ficus carica)の近縁野生種であるイヌビワ(F. erecta)のゲノムを解読した。イヌビワはイチジクを枯らす病気に強い抵抗性をもつ。病気に強いイチジクの品種改良に役立つ。研究成果は、国際科学雑誌「The Plant Journal」に1月24日にオンライン公開。
  背景
 イチジク(Ficus carica)の近縁野生種で、日本では関西より西側の地域に自生しているイヌビワ (F. erecta)は、イチジクの生産に大きな被害を及ぼす「株枯(かぶかれ)病」に対する強い抵抗性を持つことが知られている。株枯病は、土壌微生物が原因で起こる病気で、苗木の移植などにより感染が拡大し、発病すると成木でも短期間で枯死してしまうことから、イチジク栽培に大きな被害をもたらしている。そこで、イヌビワとイチジクとを交雑することによってイヌビワのもつ株枯病抵抗性をイチジクに導入する試みが進められている。しかしながら、イチジクとイヌビワとの交雑が困難な上に、たとえ交雑できたとしても耐病性の判定に時間と労力がかかるため、幼苗での早期判別が重要である。さらに、イチジクは雌雄異株なので、品種育成では食用に適した雌株と交配に使用する雄株を早期に選抜する必要がある。
 このため、イチジク株枯病に抵抗性をもつ品種開発の効率化を目指して、イヌビワのゲノム解読を行った。なお、イチジクのゲノムは、2017 年にかずさDNA 研究所、福岡県農林業総合試験場、九州大学の共同研究により解読が完了している。
 この研究成果により、イチジクの株枯病真性抵抗性遺伝子を保持し、かつ、ゲノム背景がイチジクに近い雌株系統を幼苗段階で早期に選抜できるようになり、品種改良の効率化が期待されている。
 本研究でかずさDNA研究所は、研究立案、ゲノム配列の解読と解析、および研究の取りまとめを、農研機構はイヌビワとイチジクの後代の育苗を、国立遺伝学研究所(先進ゲノム支援)はPacBio Sequel を用いてゲノム解読における基盤情報を提供した。
  研究成果の概要と意義
 ① 連続した10,000 塩基以上の長いDNA 配列を一分子レベルで解析できるPacBio ロングリード技術を使用してイヌビワのゲノム配列データを収集し、3 億3160 万塩基対のゲノム配列を決定した。
 ② イヌビワのゲノム配列中に、51,806 の遺伝子を見出した。
 ③ イチジクとイヌビワの戻し交雑第1世代を用いてゲノム上の同じ領域の塩基配列の違いを容易に比較することができるddRAD-Seq 法により検出したDNA 多型を使用して遺伝地図上にゲノム配列を位置付け、株枯病真性抵抗性の候補遺伝子を同定し、DNA マーカーを開発した。
 ④ 塩基配列の違いをゲノム全体にわたって調べることができる全ゲノムジェノタイピング分析により、イヌビワの持つ株枯病抵抗性を保持し、かつ、ゲノム背景がイチジクに近づいた系統を幼苗段階で選抜できるようになった。
  将来の波及効果
 ① ゲノム情報をもとにした育種が可能になり、株枯病抵抗性をもつイチジク新品種の育成が加速される。
 ② イヌビワは株枯病抵抗性の他にも様々な病害虫に対する抵抗性を持つことが知られており、本ゲノム情報が基盤となってイチジク育種に役立つ遺伝子が今後も見つかることが期待できる。
 ◆用語解説
 〇ゲノム
 生物をその生物たらしめるのに必須な最小限の染色体のひとまとまり、またはDNA全体のことをいう。
 〇真性抵抗性遺伝子
 病害に対する抵抗性をもつ遺伝子は、病気に侵されない真性抵抗性と、病害の程度が状況によって異なる罹病性に分けられる。
 〇DNA 多型
 ゲノムDNA 中の塩基配列にみられる配列の差異(変異)。
 〇DNA マーカー
 遺伝子の目印となるDNA 配列。導入したい形質に関わる遺伝子をDNA マーカーの有無で確認して個体を選抜することができる。

 曇り、時々日が差し、時々小雨・・変化が大きい・・でも寒い。
 散歩での寂しい景色。枯れ木に採られずに残っているイチジクの実。
 実と言ったが、壺の形をした果嚢(かのう)である。”イチジク”(イチジクの仲間も)は、若いものの中で花が咲いて外からは花は見えずに実となる。このため、”イチジク”を漢語では”無花果”の字をあてた。日本語名の”イチジク”は中国語の「映日果」での音読”エイジツカ”の転訛とする説、1ヶ月で熟す(一熟:いちじゅく)からの説がある・・よく分からない。
 イチジク(無花果、映日果)
  樹、その果実も言う
 別名:伝来時に、蓬莱柿(ほうらいし)、南蛮柿(なんばんがき)、唐柿(とうがき)
 学名:Ficus carica
 クワ科イチジク属
 落葉高木
 原産地はアラビア南部。不老長寿の果物とも呼ばれる
 栽培は6千年前からと言われ、旧約聖書にも登場する果物
 インドから8~9世紀ごろに中国へ、中国から日本に17世紀に渡来した
 渡来したのは葉の切れ込みが浅い品種。明治以降のは葉の切れ込みの深い品種で、これを洋種として区別する
 雌雄異株だが、日本で栽培されているのは雌株のみ。受粉しなくても果嚢が熟す単為結実(たんいけつじつ)の品種である。
 実が熟すのは8月~9月頃


光を照射し、水を分解して水素を発生させる新たな多孔性物質を開発

2020-03-04 | 科学・技術
 関西学院大学理工学部の鎌倉吉伸氏、田中大輔准教授らの研究チームと大阪大学および大型放射光施設SPring-8の共同研究グループは、光を照射することで水を分解して水素を発生させる新しい多孔性物質の開発に成功した。本研究成果は、2019年12月24日(米国東部時間)に総合科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載。
 ポイント
 〇従来合成が難しいことが知られていた硫黄を含むMOFの合成に成功し、この新材料が光を照射することで水を分解して水素を発生させる触媒特性を示すことを見いだした。クリーンな太陽エネルギーによる水素発生は、燃料電池の原料供給のための重要なテクノロジーにつながる。
 〇この触媒特性は、硫黄を用いることで光を吸収する効率が上がり、さらに吸収した光エネルギーを反応に利用することができるようになったためであると考えられる。
 研究成果
 田中准教授らの研究チームは、炭素と窒素を含んだ硫黄化合物を用いることで鉛を含む新しいMOFの結晶を開発することに成功した。これは、窒素が硫黄の反応性を低下させることで、結晶化に最適な反応条件を実現できたためであると考えられる。また、開発したMOFの分子サイズの細孔の構造を高輝度光科学研究センター(JASRI)の杉本邦久主幹研究員とのSPring-8のビームライン(BL02B1)の放射光を用いた実験から明らかにすることに成功した。さらに、関西学院大学 理工学部の吉川浩史准教授との共同研究から、その細孔には水のみが取り込まれて、アルコールなどの有機分子は入らないことも明らかにした。
 関西学院大学理工学部の玉井尚登教授と片山哲郎助教のチーム、大阪大学の佐伯昭紀教授と正岡重行教授との共同研究から、この新たに開発したMOFが光を吸収することで電気を流し、さらにそのエネルギーを利用することで水を水素に変換する触媒としての能力を持つことを実証した。また、関西学院大学 理工学部の小笠原一禎教授と西谷滋人教授との計算機を用いた研究により、鉛と硫黄の原子が作るネットワークが触媒反応に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
 今後の期待
 半導体特性を持つ材料に分子サイズの無数の穴を自在に開けることができれば、さまざまな触媒反応や電池の電極材料などへの応用が期待される。本研究の詳細な解析から、開発したMOFの優れた特性は、硫黄を含むことで発現したことが明らかとなった。
 今後はこれらの知見を生かして、さまざまな種類の硫黄を含んだMOFが合成されることとで、より優れた特性を持つ材料の開発が期待される。特に、水から太陽エネルギーによって水素を発生させる触媒は、燃料電池によるクリーンなエネルギー源に応用できるため、さらなる高性能材料の開発が求められる。
 一方で、そのような硫黄を含むMOFを合成することは難しく、合成のための反応条件の探索には膨大な試行錯誤が必要となる。今後は、このような合成の難しい材料を効率的に探索するために、人工知能を活用したマテリアルズインフォマティクス(MI)の手法の活用が期待される。
 ◆用語説明
 〇多孔性物質
 多孔性物質とは、分子サイズの小さな穴が無数に開いた構造を持つ材料で、活性炭が代表的な物質として古くから知られている。近年は、金属-有機構造体(MOF)もしくは多孔性配位高分子(PCP)と呼ばれる新しい多孔性材料が、水素や温室効果ガスの貯蔵や分離、各種触媒反応などの環境エネルギー問題の解決に有用な材料であるとして、世界中で盛んに研究開発されている。
 多くのMOFは絶縁体で電気を流さず可視光を吸収しないが、もしMOFが電気を流し、光エネルギーを吸収するような半導体としての特性を示せば、高い比表面積を利用した触媒や太陽電池などのエネルギー変換材料への応用が可能になるため、半導体特性を持つMOFの開発が現在求められている。
 これまで、硫黄を含んだMOFは半導体特性を示すことが知られていたが、結晶性の高い良質な硫黄を含むMOFの合成は難しく、その特性は十分に検討されてこなかった。
 〇大型放射光施設SPring-8
 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。
 放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。

 曇り、午後から小雨。今日の散歩は、雨が降る前の午前、風が穏やかだけど、寒い。
 散歩道沿いの塀越しの”ロウバイ”、花が咲いている。花は、正月の半ば位から咲きだし、3月には終わる。
 この花は、”ソイシンロウバイ(素心蝋梅)”である。花の中心の色は花びらと同じ黄色。”ロウバイ”には主に、2種類ほどが知られている。”ロウバイ(蝋梅)”と”ソシンロウバイ(素心蝋梅)”である。”ロウバイ”は中央部が暗紫色で、花弁は黄色。”ソシンロウバイ(素心蝋梅)”は、中央部の色も黄色、花弁も花中心も同じ(黄色と同色)。
 咲いた花と一緒に、昨年からの果実が見える。果実は、長径数cmほどの楕円形で、中に数個の種子がある。・・この数個を頂き、鉢に植えてみた・・芽が出るかな?。
 名(ロウバイ:蝋梅)の由来には、「蝋細工の様な梅に似た花」説、「花色が蜜蝋(みつろう)に似ている」説、「臘月(ろうげつ、旧暦の12月)に、梅に似た香りの花」説がある。
 ロウバイ(蝋梅)
 別名:唐蝋梅(とうろうばい)、唐梅(とうばい、からうめ)
 学名:蝋梅 Chimonanthus praecox
    素心蝋梅 Chimonanthus praecox f. concolor
 ロウバイ科ロウバイ属
 落葉低木(丈は2m~4m)
 原産地は中国、17世紀頃に渡来
 開花時期は1月~3月
 花径は2cm程
 果実の種子は、抑制性神経伝達物質の放出を阻害して痙攣を誘発する有毒物質「カリカンチン」を含む


ウイルス検出法開発、1分程度にまで短縮させる計画

2020-03-02 | 科学・技術
 産業技術総合研究所・コニカミノルタなどと共同で微量のウイルスを簡単に検出するシステムを開発した(2020年2月24日新聞記事より)。空港や病院、学校などへの導入を見込んでいる。今のところ検出に10分ほどかかるが、改良を重ねて2023年度までに1分程度にまで短縮させる計画。新型コロナウイルスの検出にも応用できるようにしたいという。
 このシステムは唾液などの検体にウイルスに凝集して蛍光を発する「凝集誘起発光物質」と磁気微粒子を混ぜる。発光物質と磁気微粒子はウイルスに結合し、磁石を動かしながら検体を観察するとウイルスがいれば動く光のように表示される。従来の技術では難しかった、ウイルスと不純物を簡単に見分けられる。
 基本的な技術はすでに確立している。高い感度と短時間でウイルスを検出できるようにする条件を探っている。使いやすいシステムにするため実際の現場での試験を検討している。

1滴の水滴から5Vの発電をする技術を開発

2020-02-25 | 科学・技術
 名古屋大学未来材料・システム研究所のアジ・アドハ・スクマ研究員と大野雄高教授ら及び九州大学グローバルイノベーションセンターの吾郷浩樹教授の研究グループは、一滴の水滴から5ボルト以上の発電をする技術を開発した。
 この発電装置は、プラスチックフィルム上に成膜された原子レベルで薄い二硫化モリブデンから構成されており、その表面を水滴が滑り落ちる時に発電する。従来、原子層材料の一種であるグラフェンを用いて同様の発電現象が報告されていたが、出力電圧は0.1ボルト程度にとどまっていた。
 研究では、半導体の原子層材料である二硫化モリブデンを用いることで、センサデバイスを駆動するのに十分な高い出力電圧を得ることに成功した。この技術は、工場排水のモニタリングのための自己給電型水質センサなどのIoTデバイスへの応用が期待される。
 ポイント
 〇1層の二硫化モリブデンをプラスチックフィルム上に大面積に成膜する技術を開発
 〇一滴の水滴から5ボルト以上の高い電圧を発電
 〇流体の存在する環境における自己給電型 IoTデバイスへの応用に期待
 成果の内容と意義
 1. 1層の 二硫化モリブデンをプラスチックフィルム上に大面積に成膜する技術を開発
 二硫化モリブデンは層状物質であり、極限的に薄くすると1原子レベルまで薄くすることができる。発電装置の実現には、プラスチックフィルム上に、大面積かつ1層の二硫化モリブデンを成膜する技術が必要であった。従来、原料となる酸化モリブデンと硫黄を成長装置の上流側に設置し、高温に加熱した基板に供給する方法がとられていたが、大面積の基板に均一に硫化モリブデンを成長させることは困難であった。
 本研究では、酸化モリブデンを基板に対向して設置するとともに 、均一に供給する 工夫を行うことにより、大面積で1層の二硫化モリブデンを成膜することに成功した。また、サファイア基板を用いることにより、高品質化も実現した。
 さらに、サファイア基板上に成長した二硫化モリブデンをプラスチックフィルム上に転写する技術も開発した。転写工程において、極めて薄い二硫化モリブデンを支持するため 、従来、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)フィルムが用いられていたが、大面積で転写するのは困難であった。本研究では、ポ リスチレンフィルムを支持材料として用いることにより、表面エネルギーの違いを利用して、簡便に大面積の二硫
化モリブデンを転写することに成功した。
 二硫化モリブデンは極めて薄い半導体材料であり、開発した成膜技術は発電装置のみならず、集積回路やフレキシブルエレクトロニクスなどへの半導体応用も期待できる。
 2. 一滴の水滴から5ボルト以上の高い電圧を発電
 プラスチックフィルム上に成膜した二硫化モリブデンを用いることにより、たった一滴の水滴から5ボルト以上の高い電圧を発生させることに成功した。
 発電装置は、二硫化モリブデンの両端に電極を形成した単純な構造である。発電装置を45°に傾け、水滴を表面に落とし、二硫化モリブデンの表面を滑らすと、電圧が発生する。1滴の水滴を落とすごとに、パルス状の5ボルトから8ボルトの電圧が発生した。
 従来、炭素の原子層材料であるグラフェンを用いることで同様の発電現象が知られていたが、発電電圧は数十ミリボルトから数百ミリボルトにとどまっており、センサなどの電子デバイスを動作させるには電圧が不十分であった。
 本研究では、半導体の原子層材料である二硫化モリブデンを用い、発電装置内で還流する電流を抑制することにより、センサ駆動に十分な高電圧化を実現した。さらに、3つの発電装置を直列接続し、3滴の水滴を同時に滴下することにより、15ボルトの発電にも成功した。
 3. 流体の存在する多様な環境における自己給電型IoT デバイスへの応用に期待
 この発電技術は、流体の存在する様々な環境において、自己給電型IoT デバイスの電源として利用することが想定される。 発電装置はプラスチックフィルム上に形成されており、柔軟性があるため、配管の内側の曲面などに設置することも可能であり、高い設置自由度をもつ。例えば、雨滴から発電する自己給電型の雨量計や酸性雨モニタ、工場排水から発電し、同時に排水の水質モニタリングを行う自己給電型水質センサなどのIoT デバイスへの応用が考えられる。
 ◆用語説明
 〇二硫化モリブデン
 層状の結晶構造を持ち、力が加わると容易に層間が滑るため、粉末は潤滑剤として用いられている。極限的に薄くすると1原子レベルまで薄くすることができる。1層まで薄くすると半導体材料として用いることができる。
 〇グラフェン
 炭素の層状物質であるグラファイトを1層まで薄くしたもの。金属的な材料であり、電池や透明導電膜など、多様なエレクトロニクス応用が期待されている。
 〇環境発電(エネルギーハーベスティング)
 身の回りに存在する微小なエネルギー(光、熱、振動など)を電力に変換する技術。身近なところでは、ソーラー腕時計などがある。
 〇フレキシブルエレクトロニクス
 柔軟性をもち、曲げられる電子デバイスを提供する技術。例えば、曲面に設置可能な IoTデバイスや人体に設置可能な電子デバイス(ウェアラブルデバイス)への応用が期待されている。

 天気は晴れ。気温は、最高気温13°と寒くはない。
 街路樹に”イチョウ”が植えられている。葉は既に落ち、実が樹の周辺に散り落ちている。”イチョウ”は雌雄異株、実は雌株にのみになる。・・実をだれも拾わない・・匂いが気にならないのかな。日本語では”イチョウ”の実を指して「ぎんなん」と呼ぶ、これは「銀杏」の唐音読み「ぎん・あん」が、連声と呼ばれる現象によって転訛したもの、と言う。
 因みに、”イチョウ”は「生きている化石」植物の一つである。イチョウ類は、約3億年前(古生代後期)に出現し、中生代に最も繁栄した。
 イチョウ(銀杏、公孫樹、鴨脚樹)
 イチョウ科イチョウ属
  裸子植物門イチョウ綱の中で唯一の現存している種
 雌雄異株 実は雌株にのみになる
 落葉高木
  広葉樹にも針葉樹にも属さない
 中国原産、鎌倉時代の渡来説が有力
 開花時期は4月~5月
  花粉は風で運ばれる(風媒花)。結実は9月~10月


ハイスループット実験で触媒インフォマティクスを実現する

2020-02-24 | 科学・技術
 北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科物質化学領域の谷池俊明准教授、西村俊准教授らは北海道大学の髙橋啓介准教授、熊本大学の大山順也准教授らと共同で、ハイスループット実験、材料ビッグデータ、データ科学を基盤とした触媒インフォマティクスを実現することに成功した。本成果は、2019年12月25日(米国東部時間)にACS Publications発行「ACS Catalysis」のオンライン版に掲載。
 ポイント
 〇ハイスループット触媒評価装置による材料ビッグデータの取得
 〇データ科学に立脚した触媒とプロセスの同時設計
 近年、自然科学においても人工知能(AI:artificial intelligence)という言葉が頻繁に聞かれるようになった。特に、機械学習などのデータ科学的な方法論を駆使し、材料科学の研究開発を飛躍的に加速せんとする試みをマテリアルズインフォマティクス(MI:Materials Informatics)と呼ぶ。
 研究グループは、MIを触媒開発に利用することを試み、メタンの酸化カップリング反応(OCM)において、日に4000点もの触媒データを自動取得可能なハイスループット触媒評価装置を設計し、これを用いて過去30年で蓄積されたデータ数を一桁上回る12000点ものデータをわずか3日で取得することに成功した。さらに、得られた触媒ビッグデータを機械学習などによって分析し、その結果に基づいて固体触媒や反応プロセスを通してOCMの反応収率を大きく改善することに成功した。
 MIは概念的な意味ではよく研究されてきたが、これが真に材料科学に革新をもたらすか否かは、質・規模ともに十分な材料データが用意できるかどうかにかかっていた。これまで研究者らが科学論文という形で積み上げてきたデータは、研究者の実験方法や興味を強く反映しており、また、性能の低い材料データを含まず、機械学習には不向きであった。ハイスループット実験によってこの問題を突破し、30年の研究が、実働1ヵ月に満たない短期間で実施できることを実証した。
 今後、同様な方法論がさまざまな材料分野における研究開発を飛躍的に加速させ、人類社会の持続的な発展に大きく貢献する材料を次々と生み出していく時代が来ると期待している。
 ◆用語解説
 〇メタンの酸化カップリング反応(OCM)
 普遍的に存在するメタンはそのままでは化学的な有用性が低く、これを触媒によって別の有用化合物へ変換することが望ましい。メタンの酸化的カップリングとは、メタンと酸素分子の反応を通してエタンやエチレンを直接合成する高難度反応である。
 〇ハイスループット触媒評価装置
 実験の回転速度をスループットと呼ぶ。ハイスループット実験装置とは高度な並列化や自動化によってスループットを劇的に改善する装置を指す。

 朝から晴れた。気温は上がらず、寒い。
 小さな花壇を区切る様に塀で囲まれている。その中に、黄色の花が咲いている。霜にも雪にも負けずに咲いている。”キンセンカ”だ。この花を見ると、チョット寒さを忘れる。
 主な開花期は春~初夏だが、暖冬だから咲いたのかな。
 名(キンセンカ:金盞花)の由来は、花の姿が「金の盃」からと言う。因みに、矮性種に雪が残る早春に咲く”冬しらず”がある。
 キンセンカ(金盞花)
 別名:カレンデュラ
   (Calendula)
   ポット・マリーゴールド
 キク科カレンデュラ属
 一年草、半耐寒性
 南ヨーロッパ原産、江戸末期に中国から渡来
 主な開花時期期は3月~6月
 花は径4cm~12cm
 花色は黄・橙色など


鉄腐食細菌は黒サビを使って腐食を加速させていた

2020-02-23 | 科学・技術
 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクスの岡本章玄独立研究者と、Xiao Dengポスドク研究員 (現オーストラリア連邦研究所所属) 、理化学研究所 環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダーらからなる研究チームによる、「鉄腐食菌が原因で発生する黒サビの導電性が、細菌活性を高め腐食を促進する役割があることを発見した。これまで細菌自身にとってゴミのようなものだと考えられてきた黒サビが、鉄腐食を促進することが分かったことで、今後細菌による腐食の新たな防止策として、黒サビの導電性を低下させる鉄合金材料の開発などが期待される。」本研究成果は、Angewandte Chemie International Edition誌にて同誌TOP 5%のVery Important Paper として2020年1月29日にオンライン掲載された。
 概要
 1.鉄腐食菌が原因で発生する黒サビの導電性が、細菌活性を高め腐食を促進する役割があることを発見した。
 これまで細菌自身にとってゴミのようなものだと考えられてきた黒サビが、鉄腐食を促進することが分かったことで、今後細菌による腐食の新たな防止策として、黒サビの導電性を低下させる鉄合金材料の開発などが期待される。
 2.石油パイプラインなどのインフラにおいて、硫酸還元菌と呼ばれる細菌による鉄の腐食が深刻な問題になっている。
 この細菌が代謝で生成する硫化水素が、鉄と反応して硫化鉄 (黒サビ) に変わり腐食が進行するが、鉄の表面が硫化鉄で覆われた後も腐食が進行する理由が不明で、効果的な防食法がなかった。研究グループは、細胞膜表面に特殊な酵素をもつ硫酸還元菌が、硫化鉄越しに鉄から電子を直接引き抜くことで腐食を加速させる可能性を明らかにした。ただその酵素を持たない硫酸還元菌でも高い腐食能を持つ場合があり、膜酵素を用いずに電子を引き抜いて腐食を進行させる仕組みがあることが示唆されていた。
 3.研究チームは、黒サビの主成分である硫化鉄の持つ導電性に着目した。
 硫化鉄のナノ粒子は細胞内や表面にも蓄積するが、今回、細菌の表面に形成された硫化鉄ナノ粒子を詳細に分析したところ、高い導電性をもつ結晶構造を持つことが分かった。さらに、硫化鉄ナノ粒子の有無で細菌の活性を比較したところ、硫化鉄ナノ粒子を持つ細菌のみが細胞外の固体電子源から電子を細胞内に取り込み、代謝が活性化されていることが分かった。この結果は、これまで単なる代謝副産物でゴミのようなものと考えられてきた黒サビが、重要な生化学機能を有することを示しており、硫酸還元菌であれば特殊な膜酵素がなくても電子の引き抜きによって鉄腐食を進行させることが可能であることを示唆している。
 4.今後は、導電性の低い結晶構造を持つ黒サビを発生させる鉄合金材料を開発する。
 細菌による腐食の進行を抑制するなど、環境に有害な殺菌剤を用いることなく細菌による鉄腐食を防ぐ技術の開発を目指していく。

ハニカム構造による新規光閉じ込め現象を発見、優れた指向性を示す微小レーザーの作製に成功

2020-02-21 | 科学・技術
 物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) の古月暁MANA主任研究者、王星翔NIMSジュニア研究員と、中国北京大学Renmin MA教授のグループからなる研究チームにより、「ハニカム型フォトニック結晶のトポロジカル特性による新規光閉じ込め現象を発見し、優れた指向性を示す微小レーザーの作製に成功した」。本成果は、「Nature Nanotechnology誌」にて英国時間2019年12月16日16時にオンライン掲載。
 物質の性質が系の形状の変化に影響されない「トポロジカル特性」に関する研究が盛んに繰り広げられ、量子コンピューターの実現など、優れた新規機能開発につながることが期待されている。一般的に物質の持つトポロジカル特性は、系の表面や縁に局所的に現れる(バルク-エッジ対応)。それらを利用すれば、抵抗を伴わない電流や欠陥にも散乱されない光・電磁波伝播が実現できる。しかし、トポロジカル特性が、表面や縁だけでなく、系全体の性能の向上に役立つか否かは解明されてなかった。
 研究チームは、トポロジカル特性を示す発光性半導体フォトニック結晶の周辺を、トポロジカル特性を持たないフォトニック結晶で囲むことで、その境界で光が反射され、中心部に閉じ込められた光モードが増幅する現象を発見した。このアプローチのユニークな点として、フォトニック結晶がトポロジカル特性を持つか持たないかは、三角空孔のハニカム配列をベースに、三角空孔の位置を、ハニカム配列の単位胞の中心からわずかに遠ざけるか近づけるかで作り分けることが可能である。このデバイスを用いた室温下での光照射レーザー発振は、微小なデバイスサイズにもかかわらず、共振器面に垂直な方向への優れた指向性を示す。さらに発光閾値などレーザー特性の指標も、IEEEやその他の工業規格を満たすことが確認された。
 今後の展開
 今回の研究によって、トポロジカルフォトニック結晶の全体にわたるレーザー発振が確認され、物質のトポロジカル特性が、系全体の性能の向上に役立つことが証明された。トポロジカル特性由来のレーザー発振原理は、マイクロレーザーのさらなる小型化、出力パワー向上や、光渦などの優れたレーザー性能探索などの研究開発の新しい指針になる。極小で優れた固体レーザー光源の開発は、近接場光学顕微鏡や、昨年ノーベル物理学賞の受賞で大きく注目された光ピンセットなど、ミクロな世界のレーザー技術をはじめ、医療・生命科学技術の革新にも寄与するものと期待される。トポロジカル特性由来の新しい反射機構は、光現象のみならず、電子系や弾性波を含む多くの振動現象にも応用でき、今回の研究成果は幅広い新規機能探索とデバイス開発につながると思われる。
 ◆用語解説
 〇フォトニック結晶
 誘電率や透磁率の異なる材料が周期的に並んでできた光の人工媒体のこと。材料の特性、構造の形状や周期配列の対称性など、さまざまなパラメーターの制御が可能であり、新規光機能の開発に利用されている。
 〇トポロジカル特性
 物体のつながり方を分類するための数学概念として、トポロジーが知られている。例えば、コーヒーカップとドーナッツに共に1つの空孔があるため、見かけ上違っているにもかかわらず、その二者はトポロジー的に同類である。連続変形に対して、空孔の数が変わらないからである。近年、一部の物質結晶中の電子やフォトニック結晶中の光モードの波動関数が、逆格子空間において特異なつながり方を示すことが明らかになった。その結果として現れる、サンプルの変形や欠陥からの影響を受けない輸送現象などがトポロジカル特性と呼ばれている。
 〇バルク-エッジ対応
 系全体の波動関数が非自明なトポロジカル特性を示す場合、必ずその表面や縁に新たな状態が現れる。表面や縁にある状態の強靭性は、系全体のトポロジカル特性によって担保されることが特徴である。
 〇多重量子井戸構造
 異なる物質の超薄膜の積層によって、垂直方向における電子の移動が束縛され、そのエネルギーが離散化される状態を得るための構造。レーザーなどでは、その構造を多重に繰り返すことによって発光効率が改善される。
 〇トポロジカルフォトニック結晶
 非自明なトポロジカル光特性を示すフォトニック結晶のことで、その表面や縁に、欠陥や鋭角経路にも散乱されない光・電磁波伝播経路が現れる。その実現方法として、磁場中で磁気光学特性を示すジャイロ物質を利用するものや、誘電体フォトニック結晶の対称性を利用するものが知られている。本研究は、発光性半導体のハニカムフォトニック結晶にわずかな変形を加え、モード反転を誘起することによって得られる光トポロジカル特性を利用している。
 〇双極子モード、四重極子モード
 方位角が一周するのに伴い、波動関数の値が正から負に変わった後に正に戻る、1回振動するモードのことが双極子モードと呼ばれる。この場合、波動関数が2つの方位角でゼロになっている。これに対して、四重極子モードでは、方位角が一周するのに伴い、波動関数が2回振動し、4つの方位角でゼロになっている。空間反転操作に対して、双極子モードの波動関数は符号を変えるのに対して、四重極子モードでは符号が変わらない。
 〇モード反転
 通常、波動関数のゼロ点を多く含むモードがより高いエネルギーや周波数を持つ。結晶の対称性や内部構造の設計によって、逆格子空間の一部において、ゼロ点の多いモードが逆に、ゼロ点の少ないものより低いエネルギーや周波数を取るようになることがモード反転と呼ばれる。ハニカム格子では、空間反転対称性の異なる双極子モードと四重極子モードが、同じエネルギーや周波数を示す。このため、ハニカム構造に微小な変形を加えることによって、容易にモード反転を引き起こすことができ、トポロジカル状態の創成に利用できる。

 今日の天気は晴れ。でも気温は低くまだ春は来ない。
 散歩での風景。田圃の中の神社、近くを走る新幹線、休耕田に作られたソーラーパネル・・現在の日本を象徴している様な風景だ。
 小さな神社は、羽山神社。五穀豊穣の神社として遷座され、鎌倉・江戸時代には羽山権現社として奥州各地より参拝者があったと言われる。現在、周囲は田園であるが、藩政時代は奥の院もあり広い社地が鬱蒼とした杉に包まれていた様だ。

高活性・高耐久性のエステル化に有効な固定化高分子酸触媒の開発に成功

2020-02-20 | 科学・技術
 理化学研究所環境資源科学研究センターグリーンナノ触媒研究チームの山田陽一チームリーダー、自然科学研究機構分子科学研究所の魚住泰広教授らの共同研究チームは、既存の固定化高分子酸触媒よりも高収率(高活性)で、かつ工業的に重要なフロー型反応に適用可能な高耐久性のエステル化に有効な固定化高分子酸触媒の開発に成功した。本研究は、米国の科学雑誌「Organic Letters」のオンライン版に12月16日付で掲載。
 背景
 カルボン酸とアルコールから得られるエステル化合物は、化成品、医薬品などさまざまな化学製品に用いられる重要な有機化合物である。これまで化学プロセス業界、医薬品プロセス業界から高収率(高活性)で耐久性に優れ、水にも有機溶媒にも溶けない高堅牢性の固定化高分子酸触媒の開発が求められてきた。
 山田陽一チームリーダーらは、2013~16年にかけて第一世代型の高分子酸触媒(ポリフェノールスルホン酸樹脂触媒)の開発を行い、エステル化反応に適用してきた(*)。しかし、この第一世代型固定化高分子酸触媒は、触媒調製時とエステル化反応時のいずれにおいても、高温条件下ではパラ位のフェノール基の関与による脱硫酸が生じるという問題があり、活性・耐久性・堅牢性などの面において十分とはいえず、さらなる改良が必要であった。
 (*)2016年5月18日プレスリリース「副生成物処理が不要なエステル化反応の触媒を開発」
 研究手法と成果
 共同研究チームは、フェノール基の関与が低いと考えられるメタ位にフェノール基を持つメタフェノールスルホン酸を原料として用い、ホルムアルデヒドと重合させることにより、第二世代型ポリフェノールスルホン酸樹脂触媒を合成。この高分子酸触媒は堅牢性と化学的安定性に優れる高分子化合物であることが確認された。
 次に、第二世代型触媒の耐久性を検証するため、アクリル酸とメタノールのフラスコを用いたバッチ型反応を繰り返しおこなった。その結果、第一世代型触媒では数回の使用で触媒活性が低下したのに対し、第二世代型触媒では10回繰り返し使用しても触媒活性は低下することなく、アクリル酸メチルが生成された。また、一般的な触媒ではエステル化反応を進行させるために、エステル化で生成する水を除去し、化学平衡を右にずらす必要があるが、第二世代型触媒も第一世代型触媒と同様に、この操作が不要であった。
 さらに、第二世代型触媒を工業的に重要なフロー型エステル化反応に適用した。カラムカートリッジに充填した触媒を用いて、アクリル酸とエタノールのエステル化反応を行ったところ、市販の各種高分子酸触媒よりも高い収率でアクリル酸エチルが生成されることが分かった。また、さまざまなカルボン酸とアルコールの組み合わせでフロー型反応を行った結果、いずれの場合も高い収率で対応するエステル化合物が生成された。
 加えて、オレイン酸とリノレン酸をそれぞれメタノールとフロー型で反応させた。どちらも15日間ずつ稼働させた結果、触媒活性が低下することなく、対応するバイオディーゼル燃料が90%以上の収率で得られた。
 今後の期待
 今回開発した第二世代型高分子酸触媒を用いたフロー型エステル化合物合成システムでは、さまざまなエステル化合物が高い収率で効率的に得られます。今後、より効率的な化学プロセス、医薬品合成プロセスの開発が期待できる。
 ◆補足説明
 〇高分子酸触媒
 高分子に酸(ここではスルホン酸)が導入された触媒。
 〇フロー型、バッチ型
 フラスコやタンクなどの閉鎖系で行う反応のバッチ型に対し、フロー型の反応は連続的に反応液を流通させて行う。フロー型は連続運転が可能なため、連続的に生成物が得られる利点がある。
 〇エステル化
 カルボン酸とアルコールが反応して、エステルと水が生成する反応。
 〇エステル化合物
 エステル (ester) は、有機酸または無機酸のオキソ酸とアルコールまたはフェノールのようなヒドロキシ基を含む化合物との縮合反応で得られる化合物である。単にエステルと呼ぶときはカルボン酸とアルコールから成るカルボン酸エステル (carboxylate ester) を指すことが多く、カルボン酸エステルの特性基 (R-COO-R') をエステル結合 (ester bond) と呼ぶ事が多い。エステル結合による重合体はポリエステル (polyester) と呼ばれる。また、低分子量のカルボン酸エステルは果実臭をもち、バナナやマンゴーなどに含まれている。
 〇固定化触媒
 触媒反応部位が不溶性の担体に固定化された触媒のこと。ここではスルホン酸が高分子担体に固定されている。
 〇バイオディーゼル燃料
 脂肪酸メチルエステルのこと。オレイン酸などの植物油とメタノールから合成される脂肪酸メチルエステルは、ディーゼル燃料と似た燃料特性を持つためバイオディーゼル燃料と呼ばれている。
 〇パラ位、メタ位
 ベンゼン環の置換基(ここではOH)の隣をオルト位、炭素を一つ挟んだ隣をメタ位、さらにその隣をパラ位と呼ぶ。

 今日の天気は晴れ。気温は、最高気温10°・最低気温0°・・3月上旬の天気だ・とか。
 街中の公園の入り口に”サザンカ”が植えられている。赤い花が咲いている。青い空、緑の葉、赤い花・・綺麗だ。
 冬の季節に咲く花は少ない。”サザンカ”は晩秋から初冬にかけて咲き始め、翌年の1月・2月までと長い間咲いている。同じツバキ科ツバキ属のツバキ(椿)は2月頃より咲き出す。
 ”サザンカ”を「山茶花」と書くが、「山茶花」は椿(つばき)の漢名、なので誤用なのだ、と言う。”サザンカ”の名は、山茶花(さんさか)→茶山花(ささんか)→さざんか、からと言う。
 因みに、”サザンカ”は同属同科の椿(つばき)良くと似ているので見分け方が難しい。”サザンカ”は葉縁がギザギザして、花びらがバラバラに散る。”ツバキ(椿)”は葉が細長と少し大きくでギザギザがなくて、花は首から落ちる。
 サザンカ(山茶花)
 別名:岩花火(いわはなび)、姫椿(ひめつばき)、藪山茶花(やぶさざんか)
 学名:Camellia sasanqua
 ツバキ科ツバキ(カメリア)属
 常緑小高木
 原産地は日本
 開花時期は10月~翌2月
 花径は5cm~7cm、花色は白・桃・赤など
 沢山の園芸品種があり、サザンカ系、ハルサザンカ系、カンツバキ系の3大グループがある


微生物(大腸菌)に糖を目的別に使い分けさせる新技術でポリマー原料の生産性向上

2020-02-18 | 科学・技術
 神戸大学大学院工学研究科の藤原良介博士後期課程学生(日本学術振興会特別研究員DC1)、田中 勉准教授、理化学研究所 環境資源科学研究センターの野田修平研究員らの研究グループは、バイオ生産に利用する微生物を代謝工学により改変し、取り込んだ糖の種類を目的別に使い分けさせることで、生産性の向上に成功した。研究成果は、2020年1月14日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」に掲載。
 ポイント
 〇糖を使い分けることで微生物の増殖と物質生産を独立してコントロールする「Parallel Metabolic Pathway Engineering(PMPE)」という技術を開発し、ムコン酸収率の向上に成功。
 〇芳香族化合物やジカルボン酸などのさまざまな化成品原料や医薬品原料の生産にも利用が可能。
 〇実際のバイオマスなど複数の糖類が入っている原料も効率よく利用できると期待される。
 研究の背景
 私たちの社会では石油を原料として様々な製品が作られている。しかし、石油由来製品は大気中のCO2の量を増やし、地球温暖化などの様々な環境問題を引き起こしている。そこで、自然界に大量に存在する安価な草や木などの再生可能資源(バイオマス資源)を原料として、微生物を用いたモノづくりを行うバイオリファイナリー技術の開発が求められている。バイオマス由来の製品は大気中のCO2を増加させないカーボンニュートラルという特長をもっており、このバイオマスから様々な有用物質を生産する技術を開発することで、大気中のCO2を減らした低炭素社会の構築が期待できる。
 ムコン酸はナイロンの原料となるアジピン酸に容易に変換できる有用化合物であり、他にも様々な医薬品や化成品原料として利用できる。しかし、その生産は化石資源を原料に用いた化学合成に依存しているのが現状である。そこで、より穏和な反応条件で副生成物も少ない微生物による再生可能な植物資源からの発酵生産方法が望まれてきた。
 微生物を用いたモノづくりでは、原料のバイオマスを微生物が自身の増殖に利用してしまうことが問題となっている。微生物がバイオマスを取り込んでも、目的のモノが作られずに微生物自身が増えてしまうだけ、ということがよくある。しかし微生物が増えないように代謝を改変してしまうと、微生物は元気がなくなりモノを作らなくなる。この増殖とモノづくりの間のジレンマがこれまでの大きな問題であった。
 本研究では、糖を使い分けることで微生物の増殖とモノづくりをそれぞれ独立してコントロールする技術(PMPE: Parallel Metabolic Pathway Engineering)を新たに開発し、このジレンマの解決に取り組んだ。
 研究の内容
 食料生産と競合しないリグノセルロース系バイオマスは、主にグルコースとキシロースからできている。このグルコースをモノづくりに、キシロースは微生物の増殖に使えるような代謝デザインを施した大腸菌を構築した。
 通常の微生物では、取り込まれたグルコースとキシロースは同じ1つの代謝系で代謝され、目的物質を生産するとともに微生物が生きるために使われる。微生物はこの取り込んだ糖類を自分が生きるためのエネルギー生産や構成要素の合成、維持に使ってしまうため、目的生産物の生産量は低下する。
 そこで本研究では、PMPEという新しい技術を開発した。微生物の代謝を分けてそれぞれ独立させることにより、グルコースは全て目的物質の生産に、キシロースは微生物の生育、維持のために使われる。グルコースは生育、維持のためには一切使われないため、収率を大きく向上させることができる。
 本研究では、改変した大腸菌にムコン酸生産経路を導入し、グルコースとキシロースからムコン酸生産を行った。最終的にムコン酸を4.26 g/L生産することに成功し、その収率(理論上の最大収量に対する実収量)は0.31 g/g-glucoseとなった。この収率は世界最高値であり、本技術が有効であることを示している。
 さらに、PMPE技術をムコン酸以外の目的生産物への応用を検討した。その結果、芳香族化合物であり必須アミノ酸でもあるフェニルアラニンや、食品や医薬品の添加剤として用いられる1,2-プロパンジオールの生産性を向上することに成功した。これらの結果は、PMPE技術が様々な物質の生産性・収率の向上に有効である、汎用性の高い技術であることを示している。
 今後の展開
 本研究で開発されたPMPE技術を用いることで、ムコン酸以外にも芳香族化合物やジカルボン酸などの様々な医薬品、化成品原料の生産性・収率の向上が期待される。また、糖を使い分けさせることで微生物の代謝を制御するという本研究の成果は、様々な糖類が混在する実バイオマスの有効利用にも大きく貢献できると考えられる。
 ◆用語解説
 〇バイオフリファイナリー技術
 再生可能な資源であるバイオマスを原料として、バイオ燃料やバイオプラスチック、医薬品原料などを生産する技術。
 〇カーボンニュートラル
 化石燃料の代わりにバイオマスを使うことで二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロとなり、大気中のCO2の量は変化しないという概念。
 ◆人工遺伝子で大腸菌を作製、英研究所など
   (2019/5/26付日本経済新聞 より)
 英国の分子生物学研究所を中心とするグループは、塩基配列を全面的に組み換えた遺伝子をもつ大腸菌を作製した。
 合成するアミノ酸の種類を決める遺伝情報は通常61種類あるが、59種類にしてもこの大腸菌は生きていた。人工細菌を設計する研究に向け有望な手がかりになるという。
 大腸菌の遺伝子は約400万個の塩基対でできている。アミノ酸を合成する遺伝情報に重複があることに注目し、ゲノム編集技術を使って情報が重なった2種類の遺伝子を集約した。約100万塩基対の遺伝子を合成した酵母がすでに作製されている。

疑似量子計算チップを開発

2020-02-17 | 科学・技術
 今日の新聞記事で、「疑似量子計算チップ開発、渋滞解消・創薬に応用」とあった。
 東京工業大学・北海道大学・日立製作所・東京大学などは共同で、量子コンピューターの計算を疑似的に再現して、組み合わせ問題を高速で解くことのできる半導体チップを開発した。成果は米サンフランシスコで開催される半導体の国際会議「ISSCC」で発表する。
 既存のコンピューターを超える計算能力を持つ次世代計算機として量子コンピューターが注目される。現状では極低温まで冷やしたり複雑な配線が必要だったりするため、装置が大がかりで計算も安定しない。
 既存のコンピューターを使い、量子コンピューターの計算方法をまねる技術が注目を集める。様々な組み合わせの中から最適解を探す「組み合わせ最適化問題」の計算を得意とする。従来のコンピューターでは計算量が多すぎて効率よく計算するのは難しい。装置の小型化や安定した計算、より大規模な計算に対応できると期待されている。
 研究チームは量子力学をもとにした計算を並列処理できる新たな理論を提案した。一般的な半導体の製造法を使い、理論を実現した大きさ縦3ミリメートル、横4ミリメートルの半導体チップを試作した。組み合わせ問題を解く性能を調べると、従来法よりも約4倍速く、消費電力は約60分の1の約650ミリワットとわずかだった。
 これは、量子コンピューターよりも先に、渋滞の解消や創薬、材料開発などで応用できるとみている。
 ◆新聞記事から (2019/10/23 日本経済新聞)
 米グーグルは10月23日、量子コンピューターを使い、複雑な計算問題を最先端のスーパーコンピューターよりも極めて短い時間で解くことに成功したと発表した。理論上、量子コンピューターはスパコンを上回る性能を持つと考えられてきたが、世界で初めて実験で証明した。人工知能(AI)などに続く革新的技術として期待される量子コンピューターの実用化へ、大きく前進する。同日付の英科学誌「ネイチャー」で成果を報告した。
 発表によると、同社の量子コンピューターが従来のコンピューターでは困難な問題を解く性能を示す「量子超越」を達成した。乱数をつくる計算問題を用意して検証したところ、最先端のスパコンが約1万年かかるのに対し、量子コンピューターは3分20秒で解くことができたという。一般的に乱数は暗号技術などで使われることが多い。