(承前)
北海道の画家5人によるすご腕グループ「ACT5」が8年ぶりに再結集した展覧会の紹介の後半。
のこる2人、輪島進一さん(函館市。独立展、全道展会員)と森弘志さん(十勝管内新得町、全道展会員)はいずれも、既成の絵画の枠にとらわれないユニークな制作をしている。そのユニークさというのは、素材が新しいとか、インスタレーション的なアプローチとか、コミュニケーションアート的とか、そういう方向性ではなく、手法としては、あくまで西洋絵画のそれである。
輪島さんは「複数の時間」「時間の経過」を1枚のタブローに表現しようと試行錯誤を続けているようだ。
「絵画と時間」というテーマについては、網走市立美術館での個展を紹介した2本の記事(■輪島進一展-変貌する瞬)で詳しく論じているので、良ければお読みください。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/56/2101d43f241f346dfe634138dbccd041.jpg)
左から
閃光 2 (F80、2014)
ブレスト (F200、2015)
閃光1 (F120、2016)
この数年、完全なモノクロームでバレリーナの動きをとらえることが多かったが、また最近、少しずつ色が復活してきている。また、バレエだけではなく、「ブレスト」のように音楽家も取り上げるようになった。
時間の経過を写実的な描写法で1枚の絵におさめるのは、もとより原理的には不可能であるのだが、輪島さんは補助的なおびただしい線の描き入れなど技法の総動員によって、なんとか「動き」「時間」を鑑賞者に実感させようとくふうを凝らしているのである。
他の出品作は次の通り。
函館市民オケ、リハにて(未完成) (F200、2016)
ステージを見つめる (変形3号、2013)
休憩 (サムホール、2013)
小休止 (変形6号、2013)
八幡坂にて (F6、2013)
リハーサルにて (F6、2013)
ファシーレ (M100、2016)
鏡の前で (F4、2013)
最後に登場するのが森さん。唯一の50代と、メンバー中の最若手。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/6d/df47571849d05eec6fab8e44c06171b6.jpg)
森さんは数年ごとに画風を一変させてきている。
8年前の「最終章」ではフランス人形を題材にしていた。その後、風景画をテーマにして、一見オールドマスター的に見えながらその実さまざまな試みを織り込ませた作品を展開した。
ところが、2014年からまたもモティーフが一変。日常的で身近な食品を、同一のカテゴリー内から数種類選んで規則的に並べて描いた作品を全道展に出品している。
上の画像は「さしみ」。F100で、2016年作。ことしの全道展出品作。
左は2014年「せんべい」(F100)の一部。
これらの絵は、なんら謎めいたところも難解なところもない。一目瞭然である。
にもかかわらず、どこか奇妙な感じを受けるのは、私たちの日常生活で、エビやシメサバ、マグロなどを、等間隔で整然と並べる場面のあることが、まず想定できないからであろう。
いかにもSF的だったり想像の翼を広げたりした絵ではなく、ごく身近で凡庸なものを描いているにもかかわらず、かえって超現実主義的に見えてくるのがおもしろい。
そして、これらの「静物画」は、いまの洋画壇でもおびただしく制作されている「静物画」が、なぜ花束やびんといった特定の題材した描かないのかという、暗黙の問いをはらんでいる。刺し身やせんべいを描いてもかまわないではないか、という問いかけである。
これは、森さんの風景画が、「べつに小樽運河や上高地でなくても、身近な風景でもいいではないか」という問題意識を内包していたのと、同じ構造をもっていると思う。
森さんの所属は全道展のみで、全国規模の団体公募展には5人のうち唯一、全く参加していない。さらに、地元・十勝の団体公募展である平原社展にも出していない。さらに、第1回のVOCA展で入賞も果たしている。
今回、小品は、複数の品をフラットに並べるのではなく、一つにしぼって描いているが、題名だけを見ても、まず普通の売り絵が描かないものをとりあげている。しかも、実物との大きさの比率を記しているのがおもしろい。
さらにいえば、普通の画家が、自然の姿をとらえようとするであろう動植物を、店に売っている姿のように見ている視線のあり方も興味深い。
出品作は他に次の通り。
かんづめ F100、2015
とうだいつぶ560% F4、2016
ゆりね400% F4、2015
いものめ360% F4、2015
はっかく180% F4、2016
いんげんまめ420% F4、2016
ぎんじゃけ190% F4、2016
たこ540% F4、2016
さくら400% F4、2016
しゃくやく320% F4、2016
2016年8月1日(月)~5日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
関連記事へのリンク
■ACT5 最終章(2008年6月)
■ACT5 06年
■ACT5 02年(画像なし)
■Six in October (2013)
■小樽風景・個性の響き (2009、画像なし)
■輪島進一展-変貌する瞬 ■つづき
■輪島進一展(01年12月、画像なし)
■輪島進一展(01年8月、画像なし
■第69回全道展(森さんの「せんべい」出品。画像はなし)
【告知】名画の小部屋シリーズvol.12 森弘志 -十勝の風景- (2012)
荒川修作氏が死去したこと、および1998年の「森弘志展」
■ACT5展 最終章(2008年)
■森弘志展(2001年)
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のこる2人、輪島進一さん(函館市。独立展、全道展会員)と森弘志さん(十勝管内新得町、全道展会員)はいずれも、既成の絵画の枠にとらわれないユニークな制作をしている。そのユニークさというのは、素材が新しいとか、インスタレーション的なアプローチとか、コミュニケーションアート的とか、そういう方向性ではなく、手法としては、あくまで西洋絵画のそれである。
輪島さんは「複数の時間」「時間の経過」を1枚のタブローに表現しようと試行錯誤を続けているようだ。
「絵画と時間」というテーマについては、網走市立美術館での個展を紹介した2本の記事(■輪島進一展-変貌する瞬)で詳しく論じているので、良ければお読みください。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/56/2101d43f241f346dfe634138dbccd041.jpg)
左から
閃光 2 (F80、2014)
ブレスト (F200、2015)
閃光1 (F120、2016)
この数年、完全なモノクロームでバレリーナの動きをとらえることが多かったが、また最近、少しずつ色が復活してきている。また、バレエだけではなく、「ブレスト」のように音楽家も取り上げるようになった。
時間の経過を写実的な描写法で1枚の絵におさめるのは、もとより原理的には不可能であるのだが、輪島さんは補助的なおびただしい線の描き入れなど技法の総動員によって、なんとか「動き」「時間」を鑑賞者に実感させようとくふうを凝らしているのである。
他の出品作は次の通り。
函館市民オケ、リハにて(未完成) (F200、2016)
ステージを見つめる (変形3号、2013)
休憩 (サムホール、2013)
小休止 (変形6号、2013)
八幡坂にて (F6、2013)
リハーサルにて (F6、2013)
ファシーレ (M100、2016)
鏡の前で (F4、2013)
最後に登場するのが森さん。唯一の50代と、メンバー中の最若手。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/6d/df47571849d05eec6fab8e44c06171b6.jpg)
森さんは数年ごとに画風を一変させてきている。
8年前の「最終章」ではフランス人形を題材にしていた。その後、風景画をテーマにして、一見オールドマスター的に見えながらその実さまざまな試みを織り込ませた作品を展開した。
ところが、2014年からまたもモティーフが一変。日常的で身近な食品を、同一のカテゴリー内から数種類選んで規則的に並べて描いた作品を全道展に出品している。
上の画像は「さしみ」。F100で、2016年作。ことしの全道展出品作。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/b1/1725673e4226b384aea5018a86576015.jpg)
これらの絵は、なんら謎めいたところも難解なところもない。一目瞭然である。
にもかかわらず、どこか奇妙な感じを受けるのは、私たちの日常生活で、エビやシメサバ、マグロなどを、等間隔で整然と並べる場面のあることが、まず想定できないからであろう。
いかにもSF的だったり想像の翼を広げたりした絵ではなく、ごく身近で凡庸なものを描いているにもかかわらず、かえって超現実主義的に見えてくるのがおもしろい。
そして、これらの「静物画」は、いまの洋画壇でもおびただしく制作されている「静物画」が、なぜ花束やびんといった特定の題材した描かないのかという、暗黙の問いをはらんでいる。刺し身やせんべいを描いてもかまわないではないか、という問いかけである。
これは、森さんの風景画が、「べつに小樽運河や上高地でなくても、身近な風景でもいいではないか」という問題意識を内包していたのと、同じ構造をもっていると思う。
森さんの所属は全道展のみで、全国規模の団体公募展には5人のうち唯一、全く参加していない。さらに、地元・十勝の団体公募展である平原社展にも出していない。さらに、第1回のVOCA展で入賞も果たしている。
今回、小品は、複数の品をフラットに並べるのではなく、一つにしぼって描いているが、題名だけを見ても、まず普通の売り絵が描かないものをとりあげている。しかも、実物との大きさの比率を記しているのがおもしろい。
さらにいえば、普通の画家が、自然の姿をとらえようとするであろう動植物を、店に売っている姿のように見ている視線のあり方も興味深い。
出品作は他に次の通り。
かんづめ F100、2015
とうだいつぶ560% F4、2016
ゆりね400% F4、2015
いものめ360% F4、2015
はっかく180% F4、2016
いんげんまめ420% F4、2016
ぎんじゃけ190% F4、2016
たこ540% F4、2016
さくら400% F4、2016
しゃくやく320% F4、2016
2016年8月1日(月)~5日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
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■輪島進一展(01年12月、画像なし)
■輪島進一展(01年8月、画像なし
■第69回全道展(森さんの「せんべい」出品。画像はなし)
【告知】名画の小部屋シリーズvol.12 森弘志 -十勝の風景- (2012)
荒川修作氏が死去したこと、および1998年の「森弘志展」
■ACT5展 最終章(2008年)
■森弘志展(2001年)