札幌の現代アート作家で、最もコンスタントに地元で発表を続けている一人。
シンプルさが身上で、一昨年から取り組んでいる今回のシリーズは、「助けて!」と三つの言葉(日本語、英語、アラビア語)で書かれた看板などを掲げ、道行く人の反応をみる映像と、掲げた物体とによるものだ。
欧洲などでは大問題になっているが、日本ではまだあまりなじみのない難民の問題をとりあげている。
第1作「SIGNAL」は、札幌で最もにぎやかな4丁目交叉点で「助けて!」というプラカードを持ったまま立ち続けた。
次の作品「POSTER」では、「助けて!」という文言が書かれた横に長い紙を、街なかの白いフェンスに貼ろうとしてなかなかうまくいかず、通りすがりの人の協力を得る様子が撮影された(500m美術館で公開)。
今回は、同じ三つの言葉が両側に記された、二つの車輪が左右についた改造リヤカーのような「THE HANDCRAFT」と、それを引っ張って札幌の円山地区から都心まで歩く作者の1時間ほどの映像「HANDFCRAFT」とが出品されている。
前2作では(これらは、別室で見ることができる)、作者に声をかけてくれる人がいたのだが、今回は前2作をはるかに上回る時間と労力を費やしながらもついに誰の介入もないままに終わる。
ギャラリーのSさんの許可を得て持ち手を持ち上げると、想像以上に重い。これを3キロ以上も引いていくのは、かなりの重労働である。
ただし、映像を見た限りでの印象をいうと、作者が実際に助けを求めているというよりも、「助けて!」と印刷された看板を運搬する作業に携わっているように見えてしまうのだ。
正直なところ、こりゃ
「何か手助けしますか」
と言いだす人が現れないのもしかたないと思う。
もうひとつの作品「Raft」は「助けて!」を二十余の言語で表現した長短のプラカードを、ゴムボートの上に並べたような形状。
これを海辺に置いて撮った写真「Raft_Ishikari」を壁に提示することで、命からがら海を渡ってくる人々の存在を示唆しているといえる。
別室(raum2)には、次の10点が展示されている。
「1つの言葉、3つの文字、ドローイング」
「Sky White」
「三重奏」
「かさね、がさね」
「OK Google」
「SIGNAL」
「POSTER」
ザブーン1[120w]
ザブーン2[120b]
ドーン[450A]
最後の3点には、なぜかかぎかっこがついていないが、いずれも旧作の、声カタマリンで作ったような代表作のリメイクといえる。
あらためて記しておくとすれば、高橋喜代史は、過去の現代アートをどこかで踏まえて制作していることが多い。今回の個展タイトルが、ジョセフ・コスースと高松次郎への言及になっていることは明らかだろう。
(いずれもリンク先は初心者向けのサイト)
現代アートの世界では、ソーシャルエンゲージドアートと呼ばれるものや、社会問題へアプローチしたものが多くなっているが、道内ではなお少数派であり、北海道のアートのガラパゴス化が進んでいるように思えてならない。
したがって、世界に関心を抱き続けるこの作者の姿勢は貴重なのだが、さらにいえば、「難民の問題」を「自分(たち)の問題」に引きつけて考えさせる契機があればなお良いのではないか。ここでは詳述しないが、北海道に住んで、21世紀の難民に言及したこの作品を見ている私たちも、19~20世紀の移民の末裔なのだ。そして、そこから押し出された人、移動を余儀なくされた人もいる。そういうところへの想像力を呼び覚ます回路が、作品の向こう側に見えてくれば、さらに深まりが出てくるのかもしれないと思う。
2019年7月27日(土)~8月24日(土)午後1~7時、日月曜・祝日休み
CAI02(札幌市中央区大通西5 昭和ビル地下2階)
※地下鉄東西線大通駅の西の端に直結
□twitter https://twitter.com/kiiibooo
□ハイブリッドアート http://ameblo.jp/hybridart2/
関連記事へのリンク
■BENIZAKURA PARK ARTAnnual -Festival of Contemporary Art (2018)
■500m美術館 vol.26「最初にロゴス(言葉)ありき」 (2018)
■なえぼのアートスタジオのオープンスタジオ (2017)
■アートのことば―マグリット、ライリーから宮島達男 (2015~16)
■そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014
■札幌ビエンナーレ・プレ企画 表現するファノン-サブカルチャーの表象たち
キーボー氏のブログで「5つのルール」を読んだ
■Sapporo II Project(2009年)
■500m美術館(2008年)
■高橋喜代史個展-現代アートと書道のハイブリッドアーティスト(2007年)
シンプルさが身上で、一昨年から取り組んでいる今回のシリーズは、「助けて!」と三つの言葉(日本語、英語、アラビア語)で書かれた看板などを掲げ、道行く人の反応をみる映像と、掲げた物体とによるものだ。
欧洲などでは大問題になっているが、日本ではまだあまりなじみのない難民の問題をとりあげている。
第1作「SIGNAL」は、札幌で最もにぎやかな4丁目交叉点で「助けて!」というプラカードを持ったまま立ち続けた。
次の作品「POSTER」では、「助けて!」という文言が書かれた横に長い紙を、街なかの白いフェンスに貼ろうとしてなかなかうまくいかず、通りすがりの人の協力を得る様子が撮影された(500m美術館で公開)。
今回は、同じ三つの言葉が両側に記された、二つの車輪が左右についた改造リヤカーのような「THE HANDCRAFT」と、それを引っ張って札幌の円山地区から都心まで歩く作者の1時間ほどの映像「HANDFCRAFT」とが出品されている。
前2作では(これらは、別室で見ることができる)、作者に声をかけてくれる人がいたのだが、今回は前2作をはるかに上回る時間と労力を費やしながらもついに誰の介入もないままに終わる。
ギャラリーのSさんの許可を得て持ち手を持ち上げると、想像以上に重い。これを3キロ以上も引いていくのは、かなりの重労働である。
ただし、映像を見た限りでの印象をいうと、作者が実際に助けを求めているというよりも、「助けて!」と印刷された看板を運搬する作業に携わっているように見えてしまうのだ。
正直なところ、こりゃ
「何か手助けしますか」
と言いだす人が現れないのもしかたないと思う。
もうひとつの作品「Raft」は「助けて!」を二十余の言語で表現した長短のプラカードを、ゴムボートの上に並べたような形状。
これを海辺に置いて撮った写真「Raft_Ishikari」を壁に提示することで、命からがら海を渡ってくる人々の存在を示唆しているといえる。
別室(raum2)には、次の10点が展示されている。
「1つの言葉、3つの文字、ドローイング」
「Sky White」
「三重奏」
「かさね、がさね」
「OK Google」
「SIGNAL」
「POSTER」
ザブーン1[120w]
ザブーン2[120b]
ドーン[450A]
最後の3点には、なぜかかぎかっこがついていないが、いずれも旧作の、声カタマリンで作ったような代表作のリメイクといえる。
あらためて記しておくとすれば、高橋喜代史は、過去の現代アートをどこかで踏まえて制作していることが多い。今回の個展タイトルが、ジョセフ・コスースと高松次郎への言及になっていることは明らかだろう。
(いずれもリンク先は初心者向けのサイト)
現代アートの世界では、ソーシャルエンゲージドアートと呼ばれるものや、社会問題へアプローチしたものが多くなっているが、道内ではなお少数派であり、北海道のアートのガラパゴス化が進んでいるように思えてならない。
したがって、世界に関心を抱き続けるこの作者の姿勢は貴重なのだが、さらにいえば、「難民の問題」を「自分(たち)の問題」に引きつけて考えさせる契機があればなお良いのではないか。ここでは詳述しないが、北海道に住んで、21世紀の難民に言及したこの作品を見ている私たちも、19~20世紀の移民の末裔なのだ。そして、そこから押し出された人、移動を余儀なくされた人もいる。そういうところへの想像力を呼び覚ます回路が、作品の向こう側に見えてくれば、さらに深まりが出てくるのかもしれないと思う。
2019年7月27日(土)~8月24日(土)午後1~7時、日月曜・祝日休み
CAI02(札幌市中央区大通西5 昭和ビル地下2階)
※地下鉄東西線大通駅の西の端に直結
□twitter https://twitter.com/kiiibooo
□ハイブリッドアート http://ameblo.jp/hybridart2/
関連記事へのリンク
■BENIZAKURA PARK ARTAnnual -Festival of Contemporary Art (2018)
■500m美術館 vol.26「最初にロゴス(言葉)ありき」 (2018)
■なえぼのアートスタジオのオープンスタジオ (2017)
■アートのことば―マグリット、ライリーから宮島達男 (2015~16)
■そらち炭鉱の記憶アートプロジェクト2014
■札幌ビエンナーレ・プレ企画 表現するファノン-サブカルチャーの表象たち
キーボー氏のブログで「5つのルール」を読んだ
■Sapporo II Project(2009年)
■500m美術館(2008年)
■高橋喜代史個展-現代アートと書道のハイブリッドアーティスト(2007年)