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■特別展 アートとの対話「記憶について」(2019年9月21日~10月20日、紋別)

2019年10月17日 17時17分17秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
 札幌近郊の長沼町(空知管内)にアトリエを構えていた彫刻家の野村裕之さんが、今春から、オホーツク海側に紋別市に拠点を移している。
 さっそく、紋別の市立博物館が個展を企画した(なぜか、タイトルに野村さんの名がないが)。
 紋別地方には立体や彫刻の作家が少ないこともあり、同館としては、今回の展示が、絵画など他ジャンルの作り手にとって刺戟になれば―という思いもあるようだ。

 たしかに、石の彫刻家の活動を見る機会は、じつはあまりないのかもしれない。

 冒頭画像の右側にある複葉機型の大作は「少年の記憶 中川ライター店が残したプラバンと今も続く歳経た少年の夢について」。
 以前、札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)での「つながろう」展で発表した作品。

 同店はプラモデルなどを売る老舗として、レトロな店構えで札幌のアーケード商店街「狸小路」で異彩を放っていたが、2005年に惜しまれつつ閉店した。


 右側奥のガラスケース内には「記憶の断片 標本」。

 1995年以来、加工するときに出た大理石のかけらを、気に入らない形でなくなるまで整えた小品の集積で、壁に7点(木との組み合わせ)、下に大小計335個が並んでいる。
 すごい点数である。
 これだけ並べたのも、野村さんとしても初めてではないだろうか。

 いま「大小」と書いたが、小さいものが大半で、石器の刃のような形をしたものが多いものの、とにかくいろいろなフォルムがあり、見ていて飽きない。
 色も作品によって微妙に異なる。


 たとえば、文具店でボールペンの試し書きをするとき、その線自体には何の意味もないように、これらの小品にもとりたてて意味はないかもしれない。
 でも、ひとつひとつに野村さんの「手癖」のようなものが凝縮されているとともに、そのときどきの、言葉になりにくい気持ちや思いが込められているのだろう。

 そういうふうに見ていくと、明瞭な論理ではついに割り切れないわたしたちの「生」の流れや積み重ねがここには在るのだな~、という気がしてくる。


 「家の記憶 18の家」。

 札幌軟石で作ったシリーズで、形や大きさはほぼ同一。
 以前は20個余りあったそうだが、いま手元にあるのはこれだけらしい。
 ケース内で3列に並べられていた。

 左から順に、奥の列は
「トランプの家」「孤立の家」「ダンスの家」「鳥の家」「花の家」「ゴミの家」。

 中央の列。
「無言の家」「ネコの家」「DVの家」「歌の家」「首吊りの家」「ハゲの家」

 手前。
「手つなぎの家」「人殺しの家」「ごはんの家」「こわれた家」「青空の家」「雨漏りの家」

 それぞれ着彩が施されており、暗い不幸な家と明るく楽しそうな家が半々ほど。
 「家の中のことって、外から見えないじゃない?」
と野村さんは言う。



 「歩く家」(2017年)。
 線香のように周囲の木に刺さっているのは、針金とのこと。

 木と石を初めて組み合わせた作品「ぼっこ I」「ぼっこ II」(1995)もあった。
 野村さんによると、東京・京橋のギャラリーで開いた個展で好評だったとのことだが、タイトルが北海道弁ですよね…。


 最後の画像は、新作「未来の記憶 想像の流氷」。

 野村さんはこの春赴任してきたので、まだ流氷を見たことがないという。
 「想像の」というタイトルはここからきている。

 流氷が接岸しているときの張り詰めた空気感は、なかなか言葉で説明するのが難しいものだが、一度体験する価値はあると筆者は思う。
 野村さんは、どんな感想を抱くだろうか。


 ほかの作品は次の通り。

少女の記憶 割れた少女 I
少女の記憶 割れた少女 III
浄化 ピストル
家族の記憶 ツギハギ家族
少女の記憶 割れた少女 II
ゆっくり風呂につかる I
ゆっくり風呂につかる II
ひかり
少女の記憶 少女恨み節
花の咲く家 I
花の咲く家 II
幸福の背中 祈りの山
家族の記憶
その前の記憶 その後の記憶 死の床の文


2019年9月21日(土)~10月20日(日)午前9時半~午後5時、月曜休み(祝日は開館し翌火曜休み)
紋別市立博物館市民ギャラリー(幸町3)


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・紋別バスターミナルから約560メートル、徒歩7分
(札幌から都市間高速バス「流氷もんべつ号」で5時間20分)


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