昨年1月に急逝した札幌在住、道展会員の画家鵜沼さんの1周忌にあわせ開催されている遺作展。
時計台ギャラリーの2階の全3室に、学生時代の72年から、昨年のお正月に病院から自宅に一時帰った際に筆を執った遺作の自画像まで、油絵70点あまりが展示されている。
ひとわたり見ると、「画風の変遷」などというほどの大きな変化はなく、一貫して穏やかな写実が基調になっていることがわかる。ただ、題材は移り変わりがあり、道展で新人賞を得た1986年の「ミュールーズ眺望」が海外の風景画であり、また翌年の、札幌駅のプラットフォームが題材とおぼしき「ステーション」が男女15人の群像画である。おもなモティーフとして単独の女性像が主役となるのは、90年代後半からといっていいだろう。
このあたりから、やや大まかで筆跡がはっきりしていたタッチも落ち着いたものとなり、「鵜沼様式」とでもよべるような、気品と華やかさを備えた女性像が登場する。そして、若いころから有名だったというデッサン力も、かならずしも学生時代から完ぺきだったわけではなく、やはり90年代半ばに一定の完成をみたようだ-ということもわかってくる。
といって、ハイパーリアリズムではなく、適度な省筆が心地よい、ごくオーソドックスな画風なのだ。
舞台となっているのは、窓の下に本棚がある部屋。
光は、97年「ホルン」を除けば、左側ないし背後から差している。
この「変わらなさ」は、おなじ部屋での絵がいくつも残っているフェルメールの室内画を思わせる。
鵜沼さんの絵が、どこか「永遠」を思わせる雰囲気を漂わせているゆえんだろう。
もちろん、それは、彼がおなじところで停滞していたことを意味しない。
入り口ロビーに飾られていた「Lana~sakura」は、腰かける女性の背景をとばして、空と、桜の花で、バックを構成している。
おなじ女性のおなじポーズを描いた50号の作品がC室にあった。100号クラスの大作に着手する前に、50号のエスキスを制作していたことがうかがえる。几帳面な性格と、大作の完成度をいかに重視していたかが、つたわってくるのだ。
小道具の使い方も巧みだ。
最後の大作になった「Re:Lily」などには、携帯電話が登場する。
以前も書いたけれど、「Re:Lily」の背景には、薄紫色(これは、鵜沼氏の絵によく登場する色である)の背表紙をした世界美術全集が窓の下の本棚に並び、その中に
「UNUMA」
という巻がある。
ちなみに、ほかはベラスケス、ゴヤ、レンブラント、ゴッホ、ピカソ、フェルメール、ブーダン、ドラクロワ、マネ、セザンヌ。下の段はブリューゲル、ルーベンス、アングル、ジョット、デューラー、ボッシュ、ラファエッロ、ティツィアーノ、OHIRA、ミケランジェロ、レオナルド-と読めるのだが(欧文でかかれている)、オヒラって誰だろう。
こんなさりげない遊び心を残して、画家は天国に行ってしまった。
なお、冒頭画像は会場で販売している遺作集。オールカラーで1000円。
出品作は次の通り。
運河公園(01年、P10)
小樽マリーナ(01年、P10)
大沼浅春(01年、F20)
Viola(01年、F30)
Lana~sakura(06年、F100)
52才10カ月の自画像(絶筆) (09年、F6)
自画像(72年、F8)
静物習作(75-79年、F30)
エチュード(76年、F6)
裸婦習作(75-79年、F30)
静物(80年、F15)
川沿(80年、F15)
裸婦立像(81年、F20)
海辺廃屋(82年、F4)
自画像(82年、F4)
婦人座像(83年、M20)
少女(90年、F20)
K嬢(96年、P15)
羊蹄麦秋(97年、F12)
18才(96年、F15)
母子像(画室にて)(85年、F100)
ステーション(87年、F150)
ミュールーズ眺望(86年、F150、道展新人賞)
美津子(89年、F100)
画室のリラ(91年、F20)
ピアノの前(89年、F100、道展佳作賞)
Mの肖像(92年、F100、道展会友賞)
自画像(92年、F6)
窓辺・9月(95年、F100)
NAO(2000年、F100)
想春(01年、F100)
窓辺・青衣(01年、F30)
青衣(00年、F8)
冬の装い(00年、F20)
想春A(01年、F30)
凍る日(01年、F12)
余市河畔(99年、F15)
'99夏(99年、F30)
冬の日(00年、F100)
窓辺の秋日(98年、F100)
ホルン(97年、F100)
20才・窓辺(97年、M25)
座像(98年、F30)
婦人座像(98年、F50)
M婦人(94年、F100)=原題ママ
画室にて(93年、F100)
自画像(2000年、F8)
fafa2002夏(02年、F30)
fafa@はまなす(02年、F100)
S嬢(03年、F12)
Lana(ラーナ)(06年、F50)
窓辺座像(03年、F20)
大晦日の朝(宮の森)(04年、F80)
黄色い橋(ニセコ) (04年、F12)
小休止(03年、F50)
出番を待つ(02年、F30)
手紙(05年、F100)
Lana~2007(07年、F50)
彩夏(04年、F100)
'05夏(05年、F50)
Lana~旅立ち(07年、F100)
'06夏~Lana(06年、F30)
Re:Lily(08年、F100)
室内婦人像(08年、F30)
愛別風景(07年、F25)
祝津風景(07年、F6)
早春の斜里(08年、F8)
ブルーの耳飾り(08年、F15)
工場と斜里岳(06年、F25)
座像・2005夏(08年、F20)
2010年1月18日(月)-23日(土)10:00-6:00(最終日-5:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■鵜沼人士小品展(2010年1月30日まで開催中)
■第9回リラの会展(2009年6月)
鵜沼人士さん死去(2009年1月)
■鵜沼人士個展(2008年)
■鵜沼人士展(2003年)
■鵜沼人士個展(2001年)
時計台ギャラリーの2階の全3室に、学生時代の72年から、昨年のお正月に病院から自宅に一時帰った際に筆を執った遺作の自画像まで、油絵70点あまりが展示されている。
ひとわたり見ると、「画風の変遷」などというほどの大きな変化はなく、一貫して穏やかな写実が基調になっていることがわかる。ただ、題材は移り変わりがあり、道展で新人賞を得た1986年の「ミュールーズ眺望」が海外の風景画であり、また翌年の、札幌駅のプラットフォームが題材とおぼしき「ステーション」が男女15人の群像画である。おもなモティーフとして単独の女性像が主役となるのは、90年代後半からといっていいだろう。
このあたりから、やや大まかで筆跡がはっきりしていたタッチも落ち着いたものとなり、「鵜沼様式」とでもよべるような、気品と華やかさを備えた女性像が登場する。そして、若いころから有名だったというデッサン力も、かならずしも学生時代から完ぺきだったわけではなく、やはり90年代半ばに一定の完成をみたようだ-ということもわかってくる。
といって、ハイパーリアリズムではなく、適度な省筆が心地よい、ごくオーソドックスな画風なのだ。
舞台となっているのは、窓の下に本棚がある部屋。
光は、97年「ホルン」を除けば、左側ないし背後から差している。
この「変わらなさ」は、おなじ部屋での絵がいくつも残っているフェルメールの室内画を思わせる。
鵜沼さんの絵が、どこか「永遠」を思わせる雰囲気を漂わせているゆえんだろう。
もちろん、それは、彼がおなじところで停滞していたことを意味しない。
入り口ロビーに飾られていた「Lana~sakura」は、腰かける女性の背景をとばして、空と、桜の花で、バックを構成している。
おなじ女性のおなじポーズを描いた50号の作品がC室にあった。100号クラスの大作に着手する前に、50号のエスキスを制作していたことがうかがえる。几帳面な性格と、大作の完成度をいかに重視していたかが、つたわってくるのだ。
小道具の使い方も巧みだ。
最後の大作になった「Re:Lily」などには、携帯電話が登場する。
以前も書いたけれど、「Re:Lily」の背景には、薄紫色(これは、鵜沼氏の絵によく登場する色である)の背表紙をした世界美術全集が窓の下の本棚に並び、その中に
「UNUMA」
という巻がある。
ちなみに、ほかはベラスケス、ゴヤ、レンブラント、ゴッホ、ピカソ、フェルメール、ブーダン、ドラクロワ、マネ、セザンヌ。下の段はブリューゲル、ルーベンス、アングル、ジョット、デューラー、ボッシュ、ラファエッロ、ティツィアーノ、OHIRA、ミケランジェロ、レオナルド-と読めるのだが(欧文でかかれている)、オヒラって誰だろう。
こんなさりげない遊び心を残して、画家は天国に行ってしまった。
なお、冒頭画像は会場で販売している遺作集。オールカラーで1000円。
出品作は次の通り。
運河公園(01年、P10)
小樽マリーナ(01年、P10)
大沼浅春(01年、F20)
Viola(01年、F30)
Lana~sakura(06年、F100)
52才10カ月の自画像(絶筆) (09年、F6)
自画像(72年、F8)
静物習作(75-79年、F30)
エチュード(76年、F6)
裸婦習作(75-79年、F30)
静物(80年、F15)
川沿(80年、F15)
裸婦立像(81年、F20)
海辺廃屋(82年、F4)
自画像(82年、F4)
婦人座像(83年、M20)
少女(90年、F20)
K嬢(96年、P15)
羊蹄麦秋(97年、F12)
18才(96年、F15)
母子像(画室にて)(85年、F100)
ステーション(87年、F150)
ミュールーズ眺望(86年、F150、道展新人賞)
美津子(89年、F100)
画室のリラ(91年、F20)
ピアノの前(89年、F100、道展佳作賞)
Mの肖像(92年、F100、道展会友賞)
自画像(92年、F6)
窓辺・9月(95年、F100)
NAO(2000年、F100)
想春(01年、F100)
窓辺・青衣(01年、F30)
青衣(00年、F8)
冬の装い(00年、F20)
想春A(01年、F30)
凍る日(01年、F12)
余市河畔(99年、F15)
'99夏(99年、F30)
冬の日(00年、F100)
窓辺の秋日(98年、F100)
ホルン(97年、F100)
20才・窓辺(97年、M25)
座像(98年、F30)
婦人座像(98年、F50)
M婦人(94年、F100)=原題ママ
画室にて(93年、F100)
自画像(2000年、F8)
fafa2002夏(02年、F30)
fafa@はまなす(02年、F100)
S嬢(03年、F12)
Lana(ラーナ)(06年、F50)
窓辺座像(03年、F20)
大晦日の朝(宮の森)(04年、F80)
黄色い橋(ニセコ) (04年、F12)
小休止(03年、F50)
出番を待つ(02年、F30)
手紙(05年、F100)
Lana~2007(07年、F50)
彩夏(04年、F100)
'05夏(05年、F50)
Lana~旅立ち(07年、F100)
'06夏~Lana(06年、F30)
Re:Lily(08年、F100)
室内婦人像(08年、F30)
愛別風景(07年、F25)
祝津風景(07年、F6)
早春の斜里(08年、F8)
ブルーの耳飾り(08年、F15)
工場と斜里岳(06年、F25)
座像・2005夏(08年、F20)
2010年1月18日(月)-23日(土)10:00-6:00(最終日-5:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■鵜沼人士小品展(2010年1月30日まで開催中)
■第9回リラの会展(2009年6月)
鵜沼人士さん死去(2009年1月)
■鵜沼人士個展(2008年)
■鵜沼人士展(2003年)
■鵜沼人士個展(2001年)