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トモトシ「Dig Your Dreams.」 あいちトリエンナーレ:2019年秋の旅(64)

2019年12月16日 08時53分08秒 | 道外の国際芸術祭
(承前)

 豊田市駅の周辺では、実際に見た順番とは違う順で作品を紹介していこう。

 豊田市、ということで、あのトヨタ自動車に題材を得たトモトシさんの作品は、わかりやすくオモロカシイ(©江口寿史)ものだった。
 だいたい、タイトルからして、トヨタのCMでおなじみの
「Drive Your Dreams」
のもじりである。
 豊田市は、もともと挙母という地名だったが、企業城下町としてマチの名まで変えてしまった。
 ただ、実際にマチを歩いてみると、トヨタ自動車の広告で一面覆われているようなことはない。トモトシさんはそこに着目し、トヨタの広告を街なかに現出させた(本人のステイトメントはこちら http://tomotosi.com/portfolio/dig-your-dreams/ )。
 なんと、縄文時代からトヨタが存在し、発掘調査でトヨタ関連の遺物が出てくる! ということにしてしまったのである。
 んなアホな、と思うのだが、トモトシさんは徹底していた。

 会場にはこのように、いかにも遺跡の発掘跡のような穴があいている。
 この場所で、市民によるワークショップを行い、その様子が、冒頭画像右側の「Dig Your Dreams」という文字のうつったスクリーンでずーっと流れていた。30分ぐらいはあっただろうか。
 司会者を、サンドウィッチマンの片割れみたいな体格の、しゃべりのプロが
「おっと、次は何が出てくるのでしょうか?」
などと漫才かプロレス実況みたいな調子でやっているので、見ていて飽きない。
 しかも、会場には豊田市長とか、津田大介さんも登場し、もっともらしいことをしゃべっていく。
 そうこうしているうちに、ワークショップに参加した子どもたちが、縄文時代にすでにトヨタがこの地で栄えていた証拠と思われる土器の破片や、おもちゃの遺物などを、土の中から見つけるのである。
 いかにも、ざーとらしい(これも江口寿史の用語。別に意味はないですw)んだけど(笑)、わざわざそういうものをこしらえて、しかも土の中に事前に埋めておく作者の労苦を思うと、もう、2倍笑えてしまうのだ。


 こういう考古学的発掘物を、まるで本物みたいに、博物館にあるようなガラスケースに並べている。
 
 おそらくトモトシさんは、この作品を作るため、わざわざ陶芸を習ったんだろうなあ。

 筆者は老人なので、このロゴマークが大昔からあるものではないことを知っている。
 若い世代だと
「あれ、ひょっとして本物かなこれ」
などと、まんまとひっかかってしまう人がいるのかもしれない。いや、さすがに、いないか。


 あたかも、本物の土器みたいじゃないですか。よくやるなあ(笑)。

 はじめてあいちトリエンナーレの会場に豊田市が選ばれたのに、トヨタにからめた作品は意外にもほかにはなかった。
 世界屈指の大企業(いまは自動車業界の世界的大企業で日本屈指の大企業という位置づけだが、30年前には、全分野ひっくるめて世界有数の企業だった)だし、ひとつぐらいこういう作品があるのは、自然なことだろう。

 ただし、この作品には、たとえば中村政人がマクドナルドのロゴマークを使ったり、岡本光博がルイ・ヴィトンをダシに立体を作ってクレームがついたりといった事例にあるような、批評的な視線は全くない。
 だからダメだと決めつけるつもりは全然ないのだが、大企業をすなおに称揚しているようなところが、不思議というかおもしろい姿勢だよなあ。


 ついでに言えば、冒頭画像の背景には、豊田市にある監視カメラ(防犯カメラ)がずらーっと撮影されて並んでいる。
 会場にいた係員によると、これは豊田の歴史を見てきた目、というような意味合いがあるのだという。
 もし自分が作者だったら、こんなにストレートに監視カメラに対して謝意を表現できないだろう。やはり「監視社会」への危惧や批判みたいなものをどこかににじませるだろうと思う。
 トモトシさんは、そこらへんは、ほんとに屈託がないなあと感じる。

 このあたりは世代の差なのかもしれない。
 なので、別に否定したり非難したりしているつもりもない。
 とにかく豊田市エリアでいちばん笑えた作品だったのは間違いない。

 最後の画像も、出土品です(笑)。




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