この数日、全道展関係の記事にちらほらアクセスがあり、どうしたものかと思っていたら、北海道新聞2019年12月6日朝刊に
「18年全道展の最高賞返上へ 映画に酷似と指摘」
という見出しの記事が載っていたことに気づいた。
第4社会面の下のほうのベタ記事だったので、気づいていない人が多いのかもしれない。
筆者は例によって紹介記事をブログに書くのをサボっており、図録類は札幌に置いてきたので、困ったな~と思っていたが、故五十嵐さんのブログ「北海道を彩るアーティスト」 http://saruuni.blog96.fc2.com/blog-entry-684.htmlに紹介記事が載っていた。
このブログの画像はクリックすれば相当大きくなるので、くだんの協会賞の受賞作がどのようなものだったのか、よくわかる(マナーなので、画像への直リンクは貼りません)。
ちなみに、全道展の公式サイト(http://www.zendouten.jp/)からはすでに画像も作品名も消されている。
「コーヒー&シガレッツ」の画像検索結果は、リンク先の通り。
この「コーヒー&シガレッツ」は、ジム・ジャームッシュ監督の、短篇を何本か集めた映画だそうだ。
筆者はジム・ジャームッシュの初期作品はリアルタイムで見ていて、「ダウン・バイ・ロー」はロードショー初日に有楽町の映画館まで駆けつけているほどだから、この作品の存在すら知らなかった自分自身に、いささかガッカリした。
それはともかく「酷似」といえるかどうかは、リンク先をごらんになった皆さまの判断にゆだねたい。
映画のポスターなどはモノクロだし、丸いテーブルには格子模様がついているし、いろいろなところが受賞した絵画と異なっているからだ。
それでも「よく似ている」という印象を受けるのだとしたら、左側の人物の顔が同じ向きで、同様の顔つきをしているという要因が大きいのだと思う。あと、左手の煙草。
やっぱり、人間の、それも、顔と手の描写に目が行くのではないだろうか。
この記事は、いちばん知りたいところが書かれていない。つまり、作者がくだんの映画ポスターなどを参考にしたかどうかだ。この書きぶりだと、したんだろうけど…。
記者が直接受賞者に聞いたのか、全道展事務局からの伝聞を書いているのかも、判然としない。
20世紀後半の道内美術界を道展とともに牽引してきた全道展としては、前代未聞の不祥事(といってしまうけど)なのに、おとなしい記事である。
なぜこんなことを筆者が書いているかというと、1998年、さっぽろ国際現代版画ビエンナーレの準大賞に選ばれたアルゼンチン人の版画が、メキシコの女性画家フリーダ・カーロの作品にそっくりではないかと話題になり、北海道新聞は社会面のトップででかでかと記事にしているのだ。
後日、有名な美術評論家の中原祐介氏が
「この作品にたいして、一部でそれはフリーダの絵の模倣ではないかという声があがったようである。しかし、この作品はフリーダの絵を参考にし、あるいは引用したものであって、今日の美術では参考、引用はきわめて一般的な技法に過ぎない。」
と道新への寄稿で論じるなど、アートクラスタから離れて広く話題になったことを記憶している。
それに比べると、今回の扱いの小ささは対照的である。
ちなみに「さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ」は丸井今井百貨店の提唱で1991年に始まったが、丸井今井が経営難に陥って主催から外れたこともあり、2000年の第5回を最後に終了している。
「18年全道展の最高賞返上へ 映画に酷似と指摘」
という見出しの記事が載っていたことに気づいた。
第4社会面の下のほうのベタ記事だったので、気づいていない人が多いのかもしれない。
昨年の第73回全道展(全道美術協会、北海道新聞社主催)の最高賞「全道美術協会賞」の受賞作について、「映画の一場面に酷似している」と外部から指摘があり、同協会は5日、受賞者に賞の返上を求めることを決めた。受賞者も返上する意向を示している。
同協会に今年10月に指摘があり、事務局が調査。今月5日に札幌市内で開いた定例会議で、外部からの指摘について会員に報告した。同協会の田崎謙一事務局長は「盗用とまでは断定できないが、構図が酷似している。作家のモラルから外れている」としている。
受賞作は、道内在住の30代の男性が描いた絵画(縦1.6メートル×横2.3メートル)。円卓に片肘をつく人物を上から見下ろした構図。似ていると指摘を受けたのは、モノクロの米映画「コーヒー&シガレッツ」(2003年)の一場面で、ポスターやDVDジャケットに使用され、インターネットにも公開されている。
人物やテーブルの構図が酷似している一方、受賞作はカラーで、円卓の模様などが異なり、オリジナルな表現もうかがえる。受賞者は「会議の結果は尊重したい」としている。
同協会は引用の有無を本人に確認していなかった。作品の引用や盗用に関する規定はなく、再発防止策として今後、応募要項などを見直すとしている。
(以下略)
筆者は例によって紹介記事をブログに書くのをサボっており、図録類は札幌に置いてきたので、困ったな~と思っていたが、故五十嵐さんのブログ「北海道を彩るアーティスト」 http://saruuni.blog96.fc2.com/blog-entry-684.htmlに紹介記事が載っていた。
このブログの画像はクリックすれば相当大きくなるので、くだんの協会賞の受賞作がどのようなものだったのか、よくわかる(マナーなので、画像への直リンクは貼りません)。
ちなみに、全道展の公式サイト(http://www.zendouten.jp/)からはすでに画像も作品名も消されている。
「コーヒー&シガレッツ」の画像検索結果は、リンク先の通り。
この「コーヒー&シガレッツ」は、ジム・ジャームッシュ監督の、短篇を何本か集めた映画だそうだ。
筆者はジム・ジャームッシュの初期作品はリアルタイムで見ていて、「ダウン・バイ・ロー」はロードショー初日に有楽町の映画館まで駆けつけているほどだから、この作品の存在すら知らなかった自分自身に、いささかガッカリした。
それはともかく「酷似」といえるかどうかは、リンク先をごらんになった皆さまの判断にゆだねたい。
映画のポスターなどはモノクロだし、丸いテーブルには格子模様がついているし、いろいろなところが受賞した絵画と異なっているからだ。
それでも「よく似ている」という印象を受けるのだとしたら、左側の人物の顔が同じ向きで、同様の顔つきをしているという要因が大きいのだと思う。あと、左手の煙草。
やっぱり、人間の、それも、顔と手の描写に目が行くのではないだろうか。
この記事は、いちばん知りたいところが書かれていない。つまり、作者がくだんの映画ポスターなどを参考にしたかどうかだ。この書きぶりだと、したんだろうけど…。
記者が直接受賞者に聞いたのか、全道展事務局からの伝聞を書いているのかも、判然としない。
20世紀後半の道内美術界を道展とともに牽引してきた全道展としては、前代未聞の不祥事(といってしまうけど)なのに、おとなしい記事である。
なぜこんなことを筆者が書いているかというと、1998年、さっぽろ国際現代版画ビエンナーレの準大賞に選ばれたアルゼンチン人の版画が、メキシコの女性画家フリーダ・カーロの作品にそっくりではないかと話題になり、北海道新聞は社会面のトップででかでかと記事にしているのだ。
後日、有名な美術評論家の中原祐介氏が
「この作品にたいして、一部でそれはフリーダの絵の模倣ではないかという声があがったようである。しかし、この作品はフリーダの絵を参考にし、あるいは引用したものであって、今日の美術では参考、引用はきわめて一般的な技法に過ぎない。」
と道新への寄稿で論じるなど、アートクラスタから離れて広く話題になったことを記憶している。
それに比べると、今回の扱いの小ささは対照的である。
ちなみに「さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ」は丸井今井百貨店の提唱で1991年に始まったが、丸井今井が経営難に陥って主催から外れたこともあり、2000年の第5回を最後に終了している。
(追記)なお、全道展は、ある意味「正直な対応」をした、ということもできると思う。大なり小なり似たよう事例(過去の作品によく似た作品)は、他の団体公募展にもあるだろう。今回は、最高賞というところが見過ごせなかったのだろう。