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■槌本紘子“The Dawn” (7月9日まで)

2008年07月08日 21時29分56秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 槌本さんは札幌出身で、武蔵野美大でテキスタイルを学び、この春に卒業した若手です。この秋からスウェーデンに留学する予定だそうです。

 札幌で初の発表・個展になる今回は、細長いギャラリー門馬アネックスの中央にどーんとテキスタイルを天井からつりさげたインスタレーションで、見ごたえ十分です(というか、ぜひ見てほしいです)。

 作品は2点のみ。
 近くの壁に、作品を女性がまとっているときの写真や、日英併記の詩がパネルに仕立てられて添えられています。

 個展のタイトルにもなっている“The Dawn”に添えられた詩。

それは日常に蕩け
それは自然に溶ける

混沌と秩序の交わり

日が沈み また昇るように
生物は土に還り、また糧となる

古の世界に思いを馳せ

静謐を祈る


 英語では、最後の行が

I pray for peace

になっています。

 筆者は、もこもこした布を見ながら
「ああ、この作者にとって、世界は、このように立ち現れているのか」
と、感じていました。

 それは、唐突な聯想かもしれませんが、初めて上野憲男さんの絵を見たときのことを思い出しました。
 アーティストによって、世界の見え方、現れ方というのは、ほんとうにさまざまです。

 石や豆をいったん織り込み、形状記憶させた布は、一般では考えられないほど凹凸がついています。
 シルクオーガンジーやフェルト、真綿などを自在に継ぎ合わせ、場所によって極端に薄いところと厚いところが生じています。

 色は草木染めで
「すおう・タンガラ/刈安・柘榴 ミロバラン 胡桃」
などの名がデータにしるされています。




 近づいてじっと眺めてみても、布というよりは、大地がそこにあるみたい。

 「夜明け」という題にふさわしい原初のおもむきがあります。




 「まず、でこぼこした表面をさわって、楽しく感じてもらえれば」
と作者は言っているので、さわってもOKのようです。

 そのあとで作品の持つ意味について考えてくれたら-ということのようです。

 槌本さんの作品の場合、題も重要ですし、詩もワンセットです。
「題を後でつけるのっていやなんですよ」
 すこしおおげさな言い方になるかもしれませんが、彼女の哲学が、題や詩に(もちろん、布にも)こめられているのでしょう。

 その思想・哲学は、世界中を旅することによってつちかわれたのかもしれません。 

 ちなみに、もう1点は「trace」と題されています。
 傷跡などがテーマのようです。
 こちらも草木染めで、ごわごわした感じは“The Dawn”とよく似たインスタレーションです。

 ポートフォリオに「the dawn」について書かれていたテキストに、筆者は強く感動しました。
 引用します。

I drew out this theme“The Dawn”meaning the origin
of things from the keyword “primitiviness”which
I always have in my work.
The things human beings have primarily,the
primtive expressions and the principle conduct
connected with the beginning is a mix of chaos
and cosmos,and includes the earliest elements.
This theme “The Dawn” means three begingings,
the beginning of things and human beings,
the beginning of a new day,and reincarnation,
that is to say,death also means the beginning.


 わたしたちはいつかかならず死にます。
 死ねばすべてが無にかえるのであれば、わたしたちの生の意味とはいったい何なのか、わたしはいつも考えています。

 “The Dawn”は、魂が輪廻し永遠に存在することを、ことばではなく、布で伝えようとしているのかもしれない。

 そのようにして世界は日々新しくなるのかもしれない。
 だとすれば、わたしたちが生きていることも、意味があるのかもしれない。


 もっと長時間、会場にいて、布の凹凸と無言の対話を続けていたかったと思いました。

 人間と世界の存在の根源にせまった力作です。



08年7月3日(木)-9日(水)11:00-19:00、会期中無休
ギャラリー門馬ANNEX(中央区旭ケ丘2)

・地下鉄東西線「円山公園」から、ジェイアール北海道バス「循環10、循環11 ロープウェイ線」で「旭丘高校」降車、3分

・おなじく「円山公園」から、ジェイアール北海道バス「円11 西25丁目線」で、終点「啓明ターミナル」降車、7分

・JR札幌駅・大通西4丁目から、ジェイアール北海道バス「51 啓明線」「53 啓明線」で、終点「啓明ターミナル」降車、7分
(ほかにも、南北線の中島公園駅、幌平橋駅から啓明ターミナルや旭丘高校へ行くバスの便があります)



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