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■ポーラ美術館コレクション モネからピカソ、シャガールへ (2016年7月2日~8月28日、札幌)

2016年08月15日 23時59分59秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
(8月16日、一部表現を手直ししました)

 1.豪華な顔ぶれ

 出品画家の顔ぶれが、きわめて豪華である。

 この手の展覧会は、有名な画家の作品もあるが、半数以上は同時代のよく知らない画家の絵が並んでいることが通例である。
 それでも、よく知られた画家の作品が何点か出品されていれば、客寄せには十分なのだろう。
 ところがこの展覧会は、有名どころのほうがはるかに多い。

 コロー、クールベ、モネ、ルノワール、シスレー、ピサロ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーガン、ルドン、シニヤック、ヴラマンク、マティス、ボナール、デュフィ、ムンク、ブラック、ピカソ、シャガール…。

 しかも、出品作品はすべて油彩。これだけ有名人がそろえば、少しはデッサンなどがあってもよさそうなものだが、1点もない。
 さらに、モネとルノワールは各6点、ピカソは5点、ルノワールも4点ある。
 ポーラ美術館は神奈川県箱根の山中の半地下に造られたそうだが、これだけ貸し出しても、自館で展覧会を開けるのだから、相当なコレクションの持ち主であることがうかがえる。

 これだけネームバリューのある画家が大勢そろった展覧会が道内で開催されることは、めったにないだろう。その意味では、見て損はない。


 2.展覧会としては…

 しかし、自分の勤め先をあれこれ言うのも気が引けるが、主催の北海道新聞社と道立近代美術館(ほかに、ポーラ美術振興財団、ポーラ美術館、北海道放送も主催に名を連ねているが)は、いつまでこんな
「豪華幕の内弁当」
みたいな展覧会を開き続けるのだろうかと思ったのも、正直なところである。

 いまや展覧会は、キュレーターの視点が入った一種の作品であり、鑑賞した人が、何らかの新たな知見を得られるものであることが一般的になってきている。
 現代アートを斬新な切り口で紹介したり、ファッションや音楽、建築といった異分野とのかかわりに焦点を当てたり、よく知られた画家・作家でもこれまで注目されてこなかった切り口からあらためて見直したり―といったことが求められているのである。

 しかるに、この展覧会は、泰西画家の絵を並べる、ということ以外に、何か見るべきものがあるのだろうか。
 どうして19世紀後半から20世紀半ばのフランス絵画が並んでいてそれが「エライ!」とされているのだろうか。それらが近代美術史とほぼイコールで論じられ、取り扱われてきたことの意味はなんだろうか…。
 そういった疑問も、2016年に組織される展覧会として当然あるべきだと思うが、ここではまったく等閑に付されている。
 「気づき」(あまり好きなことばではないけれど)が、この展覧会には無いのだ。大画家といわれてきた人たちの作品を持ってきて陳列しただけの展覧会にしか、筆者の目には見えない。
 道新が道立近代美術館で開いた大型美術展でも、たとえばゴッホ展では兄弟愛というテーマがあったし、シャガール展では、これまであまり言及されてこなかった、激動の20世紀史における故郷喪失ユダヤ人という側面が強調されていた。今回の展覧会には、そういう新しい視点の提供が欠落しているといわざるを得ない。
 筆者の目が節穴で、気づいていないことがあれば、ぜひご教示ください。

 早い話、インターネットや各種辞典を見ればかんたんにわかるような画家の略歴や総花的な解説が、この展覧会でみられるような形式で必要なのだろうか。筆者には疑問なしとしない。
 たとえば、ギュスターブ・ロワゾーには「点描主義、クロワゾニズムの幾何学的な影響を受けた画家」などという解説がついている。しかし、出品作2点は、どう見ても、点描でもなければ、クロワゾニズムでもない。これでは、解説パネルがかえって鑑賞のさまたげになってしまいかねない。
 この場合、解説をつけるとすれば、たとえば「点描主義、クロワゾニズムの影響を受けたが、今回の出品作はそれ以前の、ピサロなど印象主義に近い位置にいた時代の作品」といったものでなければ、見る人の理解の助けにはならないだろう。


 3.作品についての感想

 この調子で展覧会の全体について批判していても、生産性にとぼしいので、それぞれの作品について個人的な感想を述べておきたい。

 絵はがきを5枚買った。
 1枚108円というのは、うれしい価格設定だ。
 うち3枚がモネだった。はからずも、だ。
 やっぱり、モネはいいなあ。
 「セーヌ河の日没、冬」は、印象派の命名の由来になった絵を思い出させる題だが、画面の調子はよほど異なる。岸辺の木々や、川面に浮かぶ氷、鮮烈な夕空など、個々のモティーフはかなり明瞭に描き分けられている。にもかかわらず、すばやい筆致、適切な省筆、濁りのない色彩など、どれもすばらしい。言及されることは案外すくないが、モネの色彩感覚のすばらしさは、印象主義がどうのこうのという範囲をすでに超越していると思う。
 一方で「国会議事堂、バラ色のシンフォニー」は、灰色の議事堂のシルエットが、ばら色の光の中に溶け込んでゆきそう。
 いずれも、絵画の幸福を体現しているとでもいえそうな、見ているとうっとりとしてくる作品なのだ。

 幸福といえば、ボナールの色とりどりの絵も、眼福というか、至福の境地につれてってくれる。
 色彩が庭にあふれているのだ。
 マルケの絵は、まるみを帯びたタッチと、中間色の落ち着いた組み合わせが、松島正幸を想起させるが、むろん順番が逆であろう。ボナールとマルケは、全道展絵画の基礎の部分を支えているのではないか。思いつきのような仮説だけど。

 ゴーガンは、ポン・タヴェン派時代の絵と、後年の平面的な色面構成の絵とが来ていて、見比べると画風の変遷がうかがえておもしろい。

 ピカソ「男の胸像」は1909年の作。
 ピカソ自体は見る機会が多いが、西洋美術史上でも大きなエポックである「キュビスム誕生」のころの絵に間近に接することができるのは貴重である。
 また、ピカソとともにキュビスムを主導したブラックの絵が3点も出品されており、これもめずらしい機会だといっていいだろう。


 4.再会

 今回の展示品のうち、ルノワール「ムール貝採り」「エッソワの風景、早朝」は、見るのは2度目である。
 1999年に道立近代美術館で開かれたルノワール展にも出品されていたのだ。

 ただし、当時はいずれも「個人蔵」となっていた。

 ひさしぶりに作品に出会うのも、美術鑑賞の醍醐味だいごみであろう。


2016年7月2日(土)~8月28日(日)午前9時半~午後5時、金曜日~午後7時半、7月22日~午後9時、入場はいずれも閉館30分前まで
道立近代美術館(中央区北1西17)



・地下鉄東西線「西18丁目駅」から約400メートル、徒歩6分

・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」から約180メートル、徒歩3分
(札幌駅バスターミナル始発。手稲方面行きの全便が停車します。小樽、岩内行きの都市間高速バスも北大経由をのぞき全便がとまります)

・市電「西15丁目」から約740メートル、徒歩10分

・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(札幌駅前―長生園前)、「58 北5条線」(札幌駅前―琴似営業所前)で「北5条西17丁目」降車。約560メートル、徒歩8分。旧西武前から出ます
・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約440メートル、徒歩6分(ギャラリー門馬やギャラリーミヤシタから1本で来られる)


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6 コメント

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Unknown (SH)
2016-08-16 20:56:33
ヤナイさん、こんにちは。

何らかの「新たな視点」を提示すべきなのは、本当にその通りだと思います。
という反面、「いいから有名作家のまだ見たことのない名作を黙って見せてくれ」という気持ちもあるんですよね。
なにしろミーハーなもんで、困ります。
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SHさん、こんばんは (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2016-08-16 21:06:31
黙って有名画家の作品を並べつつ、しかも新しい視点を出すってことは、両立できるんじゃないかと思うんですけどねえ。

どうでしょうか。
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Unknown (SH)
2016-08-16 22:39:09
なるほど、両立させるという手がありましたか。
そういう意味では、私は札幌の美術館に期待をあまりしていないのかも知れませんね。
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Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット別館)
2016-08-17 09:41:50
「日本人は印象派が好き」
「絵画の本場はフランス」
というのは20世紀の話だと思うのです。2016年になってもそれで、いいのかなあ。
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初投稿です (もん)
2016-08-19 21:52:18
こんばんは。

昨日、足を運ばせて頂き同じく「なんと豪華な作品ばかり」と思いました。
実際のポーラ美術館へ行った時も同じ感想でした。
その時には見れなかった所蔵作品も沢山あり嬉しかったです。

視点・体感含めキュレーターの趣向を凝らした最近の風潮や現代アートも楽しくて好きなのです。
が、海外の美術館のように過去の有名な画家の作品が一度に日本にいながら観賞できるのはやはり貴重なのでは。

現在進行形の作家とは別の魅力があると思ってます。

あと日本人は印象派が好きなのは事実なのでは?(個人的にはそうでもない)
国によって人気の作家や作品の形態は違うと思うので多くの方に喜んで頂けるという意味で良い展示だと感じました。





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もんさん、はじめまして (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2016-08-21 10:02:20
こんにちは。
わたしも、展示されている絵自体はとっても良いものばかりで、すごい有名画家ばかりよく並べたものだと驚きました。

ただ、有名画家の作品を並べるだけでは、昭和の展覧会からまったく進歩がないと思います。これらの画家についても日々研究は続いています。
以前、道立近代美術館で開いたシャガール展やルノワール展にはそういう研究の進展の反映がありましたが、今回は、新たな知見がまったく無く、見ても学ぶところがありません。

キュレーティングが無いことは、この美術館にはよくあることとはいえ、北海道の美術館が、道外や国外に置いてゆかれることですから、たいへん残念に感じています。

もんさん、今後もよろしくお願いします。ときどき、ブログにいらしてくださいね。
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