伏木田さんは1935年、日高管内浦河町生まれ、札幌在住の画家。北海道文化賞を受けるなど、道内を代表する画家として、精力的に、制作に取り組んでいます。
札幌ではじつに39回目となる個展です。
毎年、時計台ギャラリーの2階の3室を借り切って、人物、静物、風景の絵をならべています。
年1回個展を開くだけでも大変なのに、3室を毎年! すごいエネルギーです。70の坂をこえた伏木田さんには、あまり無理をしないでほしいとは思います。さすがに、100号超の絵は1点だけでしたが…。
つぎの画像の左側にうつっている「バビロンの辺(ほとり)」がそうです。
順番が前後しますが、冒頭の画像の右側にうつっている「室内の音楽」がおもしろい。
青とオーカーで塗り分けられた空間に、リンゴがいくつも配されています。
画面に散らばるリンゴが、音楽を奏でているようです。
伏木田さんは、この絵を、バッハを聞きながら描いたのだそうです。
筆者の目には、地の部分の青とオーカーの筆触(タッチ)自体が、本来は目に見えない「空間」を表現しているかのように見えるのです。
別の角度からいえば、青とオーカーは、後ろの壁を描いているのではもちろんないのです。
伏木田さんはおっしゃいます。
「20世紀をくぐってきた絵描きというのは、平面的になればなるほど宇宙を表現しうるという考えがあるんだねえ。モネの『睡蓮』、セザンヌあたりからだろうか。ロスコなんか、平面的であって、ほんとに深い。ただ、最近の若い人は、平気で奥行きのある絵を描くみたいだけどね」
ロスコの話が出ましたが、ニューマンを思わせたのが、さっぽろテレビ塔を描いた連作です。
画面の端に、垂直の青いジップ(色帯)があるのです。ついつい、絵画における垂直性とはなにか、なんて、考えてしまいました。
このジップは、伏木田さんにお聞きしたところ、単に窓枠とのこと。
しかし、縦に1本入れただけというあたりに、画面をぐっと引き締めるための戦略性みたいなものがうかがえます。
「これは道新の6階から描いたんだ。あそこからしか描けない風景なんだ」
と伏木田さん。
ちなみに、ほかにも北大植物園(札幌市中央区)や積丹半島の漁港などの風景画がありますが、いずれも現場にイーゼルをたてて仕上げたもので、後で手を入れることはしていないそうです。
出品作に、アトリエから海を望んだという、横長の絵がありました。
もちろん、藻岩山のふもとにある伏木田宅からは、海は見えませんが、つとに望郷の念にかられるのでしょうか。手前のテーブルなどは実景ですが、海はイマージュ(想像)で描いたとのことです。
この絵のユニークなところは、色彩です。画面のほとんどを茶色が覆っていて、海もカーテンも茶色です。ただ、室内の壁に鮮やかな青が滲透しています。
「色が出たり引っ込んだりして、仕上げるのにむつかしい絵だった」
と、伏木田さんはふりかえっていました。
個展では、この画像のように、似た傾向の絵がならんでいます。
伏木田さんが、バターや豆腐、ニシンをあれこれ並べ替えて、空間の実験に熱中しているさまが、手に取るようにつたわってきます。
それにしても、傷みやすいモティーフが多いですね。伏木田さんの絵筆は、消えていく存在と、時間の闘いをしているのかもしれません。
出品作はつぎのとおり。
120F「バビロンの辺(ほとり)」
80M「座る裸婦」「寝そべる裸婦」「帽子の女」
80P「黄色い裸婦」「帽子をかぶった女」「室内の裸婦」
60M「立てる裸婦」
50M「海の見える窓辺」「肩かけをした娘」「イカと豆腐」
40P「バターとパン」
40M「バターのある空間」「空間の音楽」「札幌テレビ塔 冬景」
40S「室内の空間」
30M「冬の札幌テレビ塔」「雪の札幌テレビ塔」
30P「マンドリンと帽子」「I夫人のヴァイオリン」
30F「林檎のある空間」「窓辺の雪柳」「I夫人の黒手袋」
20M「鰊のある静物」「鰊とテーブル」
20P「霧吹きのある静物」「四匹の鰊」
20F「枝つきの林檎」「植物園の小径」「植物園の小さな橋」
20S「夏の光りのなかで」
15P「本を持てる女」「母子像」
15F「鰊と白かぶ」「トルコ桔梗」「葫(にんにく)とトマト」「本と花」「室内の赤い百合」「赤い百合」「窓辺の花」
15S「札幌・豊平川風景」
12F「アトリエのモデル」「鰊とカブ」「アスターとストック」「アスター」「チューリップのある静物」
12S「空間のフーガ」「リンゴのある空間」「盃漁港暮色」「神恵内漁港眺望」「逆光の神恵内」「果樹園(仁木にて)」「白い家(北大にて)」
8P「水泳帽をかぶった男」「黄色い室内の三人」「父子像」
8F「秋の小花」「黄色いテーブルの上の鰊」「アトリエ風景」「トマトと霧吹き」「赤い椿」「椿」
6P「母と子」
6M「少女座像」
6F「アネモネ」「座る裸婦」「小花と瓶」「バターと瓶」
6S「姉妹」
4S「三人姉妹」
SM「室内の三人」「人と若駒」「李(すもも)の咲く頃」「母子像」
0号「恋人達」「母と息子」「少年のためのイコン」
デッサン「寝そべる女」「横向きの女」「座る女」
07年10月8日(月)-13日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■06年の個展(画像なし)
■03年の個展
■02年の個展
札幌ではじつに39回目となる個展です。
毎年、時計台ギャラリーの2階の3室を借り切って、人物、静物、風景の絵をならべています。
年1回個展を開くだけでも大変なのに、3室を毎年! すごいエネルギーです。70の坂をこえた伏木田さんには、あまり無理をしないでほしいとは思います。さすがに、100号超の絵は1点だけでしたが…。
つぎの画像の左側にうつっている「バビロンの辺(ほとり)」がそうです。
順番が前後しますが、冒頭の画像の右側にうつっている「室内の音楽」がおもしろい。
青とオーカーで塗り分けられた空間に、リンゴがいくつも配されています。
画面に散らばるリンゴが、音楽を奏でているようです。
伏木田さんは、この絵を、バッハを聞きながら描いたのだそうです。
筆者の目には、地の部分の青とオーカーの筆触(タッチ)自体が、本来は目に見えない「空間」を表現しているかのように見えるのです。
別の角度からいえば、青とオーカーは、後ろの壁を描いているのではもちろんないのです。
伏木田さんはおっしゃいます。
「20世紀をくぐってきた絵描きというのは、平面的になればなるほど宇宙を表現しうるという考えがあるんだねえ。モネの『睡蓮』、セザンヌあたりからだろうか。ロスコなんか、平面的であって、ほんとに深い。ただ、最近の若い人は、平気で奥行きのある絵を描くみたいだけどね」
ロスコの話が出ましたが、ニューマンを思わせたのが、さっぽろテレビ塔を描いた連作です。
画面の端に、垂直の青いジップ(色帯)があるのです。ついつい、絵画における垂直性とはなにか、なんて、考えてしまいました。
このジップは、伏木田さんにお聞きしたところ、単に窓枠とのこと。
しかし、縦に1本入れただけというあたりに、画面をぐっと引き締めるための戦略性みたいなものがうかがえます。
「これは道新の6階から描いたんだ。あそこからしか描けない風景なんだ」
と伏木田さん。
ちなみに、ほかにも北大植物園(札幌市中央区)や積丹半島の漁港などの風景画がありますが、いずれも現場にイーゼルをたてて仕上げたもので、後で手を入れることはしていないそうです。
出品作に、アトリエから海を望んだという、横長の絵がありました。
もちろん、藻岩山のふもとにある伏木田宅からは、海は見えませんが、つとに望郷の念にかられるのでしょうか。手前のテーブルなどは実景ですが、海はイマージュ(想像)で描いたとのことです。
この絵のユニークなところは、色彩です。画面のほとんどを茶色が覆っていて、海もカーテンも茶色です。ただ、室内の壁に鮮やかな青が滲透しています。
「色が出たり引っ込んだりして、仕上げるのにむつかしい絵だった」
と、伏木田さんはふりかえっていました。
個展では、この画像のように、似た傾向の絵がならんでいます。
伏木田さんが、バターや豆腐、ニシンをあれこれ並べ替えて、空間の実験に熱中しているさまが、手に取るようにつたわってきます。
それにしても、傷みやすいモティーフが多いですね。伏木田さんの絵筆は、消えていく存在と、時間の闘いをしているのかもしれません。
出品作はつぎのとおり。
120F「バビロンの辺(ほとり)」
80M「座る裸婦」「寝そべる裸婦」「帽子の女」
80P「黄色い裸婦」「帽子をかぶった女」「室内の裸婦」
60M「立てる裸婦」
50M「海の見える窓辺」「肩かけをした娘」「イカと豆腐」
40P「バターとパン」
40M「バターのある空間」「空間の音楽」「札幌テレビ塔 冬景」
40S「室内の空間」
30M「冬の札幌テレビ塔」「雪の札幌テレビ塔」
30P「マンドリンと帽子」「I夫人のヴァイオリン」
30F「林檎のある空間」「窓辺の雪柳」「I夫人の黒手袋」
20M「鰊のある静物」「鰊とテーブル」
20P「霧吹きのある静物」「四匹の鰊」
20F「枝つきの林檎」「植物園の小径」「植物園の小さな橋」
20S「夏の光りのなかで」
15P「本を持てる女」「母子像」
15F「鰊と白かぶ」「トルコ桔梗」「葫(にんにく)とトマト」「本と花」「室内の赤い百合」「赤い百合」「窓辺の花」
15S「札幌・豊平川風景」
12F「アトリエのモデル」「鰊とカブ」「アスターとストック」「アスター」「チューリップのある静物」
12S「空間のフーガ」「リンゴのある空間」「盃漁港暮色」「神恵内漁港眺望」「逆光の神恵内」「果樹園(仁木にて)」「白い家(北大にて)」
8P「水泳帽をかぶった男」「黄色い室内の三人」「父子像」
8F「秋の小花」「黄色いテーブルの上の鰊」「アトリエ風景」「トマトと霧吹き」「赤い椿」「椿」
6P「母と子」
6M「少女座像」
6F「アネモネ」「座る裸婦」「小花と瓶」「バターと瓶」
6S「姉妹」
4S「三人姉妹」
SM「室内の三人」「人と若駒」「李(すもも)の咲く頃」「母子像」
0号「恋人達」「母と息子」「少年のためのイコン」
デッサン「寝そべる女」「横向きの女」「座る女」
07年10月8日(月)-13日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■06年の個展(画像なし)
■03年の個展
■02年の個展