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■十勝ゆかりのアーティスト12人 トンネルのあっちとこっち (2024年11月5~18日、札幌)

2024年11月20日 08時00分45秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 レタラ・スペースの企画で「北海道のアーティスト50人展」の一環。
 十勝の作家のうち、帯広コンテンポラリーアートをけん引してきた5人は「北海道のアーティスト50人展」など札幌でもおなじみですが、その下の世代も紹介してみようということで、上記5人衆のうちの鈴木隆さんに人選で協力を仰ぎ、はじめての開催となりました。

 出品者は次のとおりです。
 
 赤間裕史(書、音更)
 臼井愛子(写真、帯広)
 エンドウマナ(版画、帯広)
 川橋雪弘(彫刻、帯広)
 桔梗智恵美(絵画、滝川/中札内)
 越田妃南(絵画、士幌)
 小寺卓矢(写真、芽室)
 古山一彦(彫刻、鹿追)
 雑作家Junya(立体、帯広)
 塩田晃(立体、帯広/札幌)
 橋本道子(立体、帯広)
 古川博己(写真、帯広)


 冒頭画像手前は橋本さんの作品。
 橋本さんは靴の手作りからアートの世界に入ったというめずらしい経歴の持ち主とお聞きしました。
 正方形の写真は小寺さん。
 

 2枚めの画像は桔梗さん「風の通り道」。
 タブローから人物像を切り抜いたような感じですね。

 次の画像は赤間さん。

 十勝は長沼透石、八重柏冬雷といった前衛書家を生んだ土地柄でもありますが、赤間さんのインスタレーションを道新ぎゃらりーでの「中野北溟みらい賞受賞作家展」で初めて見たとき
「ここまでやるか」
と驚きました(むろん、ほめてます)。
 今回は源氏物語にちなんで「幻」という文字を立体化したものの前に、透明なアクリル板に「幻」と白く書いた文字を置いています(搬入後に書いたそうです)。
 たしかに糸へんは、象形文字や隷書では、四角形を上下に重ねたようなかたちをしています。
 蛇足ながら、赤間さんが、毎日書道展ではなく、前衛書部門がなく保守的な傾向の読売書法展に出品していることを知ったときはさらに驚きが倍加しました。先輩書家からしかられないのだろうかと、いささか心配になります。
 
 
 桔梗さんの作品もそうですが、副題に引っ張られたのか、トンネルや、札幌ー帯広間という要素を意識した作品が意外と多かったです。
 川橋さんの木彫も、道路ではねられていたシカがモチーフで、おりたたんでトランクケースに収納しているようです。
 北海道の峠越えでは野生のシカをたびたび目撃します。
 
 
 次の画像、右側は古川さん「悠久の旅路」。 
 こちらもエゾシカがモチーフです。
 いわゆるネイチャーフォトです。この写真は、流し撮りと、ズームレンズの操作という二つの技法を同時に用いている、かなり難度の高そうな作品です。シカが出てくる場所は正確には予測できないため「置きピン」(あらかじめ距離を予測してピントを合わせておくこと)が困難だからです。
 聞けば古川さんは、事前に撮りたいイメージがあって、シカを撮りにいくそうですが、それもまたむずかしそうです。

 左は臼井さんの3枚組「さよならははるのひかり」の一部。
 ゼラチンシルバープリント(雑巾がけ技法)で、校舎の何気ない一隅をモノクロでとらえています。プリントの際になにやら秘訣があるらしいのですが、実見したかぎりでは色を入れている感じはあまりしませんでした。
 筆者は臼井さんの写真に、静けさのなかにどこかあたたかみを感じるのですが、これは個人的な印象批評になってしまいますね。
 
 
 さて、「シンポジウム」と銘打っていましたが、実際は「対談」だった鈴木隆さんと道立帯広美術館の薗部容子元学芸員(現在は道立近代美術館学芸員)のお話はおもしろいものでした。
 ただ、十勝のアートシーンの不思議さが解消したわけではありません。

 北海道とひとくちにいっても広いので、札幌以外の各地方にもそれぞれに美術家がおり、アートシーンが存在します。
 このうち旭川、函館、釧路にはかつて北海道教育大の美術の課程があり、現在には岩見沢に集約されています。
 また室蘭には短大の美術コースがありました。
 美術の教育機関がない地方中核都市は小樽、苫小牧、北見、帯広ということになりますが、このうち小樽は大正から昭和初期にかけて道内随一の経済都市だった頃の名残りで絵画が盛んだったのだと思われます。残る3市では、帯広・十勝の美術人口が群を抜いて多いです。

 なぜだろう?
 

 対談で、十勝は農業地帯なので今年の不作を嘆いても仕方ない、切り替えて来年のことを考える、みたいな発言があり、それはそれで興味深いのですが、別にそれは十勝に限った話ではありません。 

 また、戦前からなにがしかの美術運動があった小樽や旭川などと比べても、開拓自体の遅かった帯広の動きは鈍く、かつて道立帯広美術館が開いた「十勝の美術クロニクル」でも明治・大正期の実作の展示はわずか1点だけでした。

 考えれば考えるほどわからなくなってきます。
 ただ、故佐野まさのさんらによる、流木を用いた野外インスタレーションの展示が何度も行われ、そのあとの2002年に、全国各地の芸術祭ブームに先駆けた「とかち国際現代アート展 デメーテル」が帯広競馬場で開かれたことは、大きな要因だったといえるでしょう。

http://demeter.p3.org/ 
( ↑ 公式サイトが22年たっても見られるというのは、結構すごいこと)

 地方で制作される美術作品の大半は絵画で、あるいはネイチャーフォトなどの写真なのですが、十勝の特徴としてインスタレーションや立体造形に取り組む若い人が他の地方にくらべて際立って多いことが挙げられ、やはりデメーテルの残した影響はあるといえるのではないでしょうか。

 
 遅筆で、アップが会期に間に合わずすみません。 


2024年11月5日(火)~18日(月)午前11時~午後6時(初日~5時、最終日~4時)、月曜休み
Retara Space (札幌市中央区北1西28 MOMA Place 3階)

赤間さん Instagram : @yuutokusha_shodo
Yoshiko USUI works. https://yoshikousui.mystrikingly.com
エンドウさん Instagram : @maminami4423
桔梗さん twitter(X) : @omotechiki
越田さん Instagram : @koshidahina
小寺卓矢 森の写真館 https://photokodera.com/
こやまかずひこさん twitter( X) : @poohfoohfooh580
雑作家 Junya さん twitter(X) : @Junya_to_you
塩田さん twitter(X) : @SHIOTA_Akira
橋本さん Facebook
古川さん Instagram : @h_furukawa


過去の関連記事へのリンク
臼井愛子写真展「ひかりとあそぶ」 (2019)
第47回北海道教職員美術展 (2017、画像なし)
臼井愛子写真展「輓曳 -World’s only horse racing-」 (2016、画像なし)


エンドウマナ個展 (2024年2月)=twitter(現X)
中島ゼミ展ファイナル×中島ゼミOB・OG展 版と型をめぐって (2018)


2024独立春季新人選抜展 (3月)
桔梗智恵美「バビロンの歌がきこえる II」(2021)


帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト=古山さん出品


上田純也「押入れ発掘写真帖」(2020)=画像なし
都市標本図鑑 (2017)


A造展 (2015、画像なし)
防風林アートプロジェクト(2014)
置戸コンテンポラリーアート(2012)
=塩田さん出品


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