1995年札幌生まれ、北海道教育大学岩見沢校の大学院で絵画を学んでいる2年生で、この数年最も精力的に制作・発表に取り組んでいる一人。
意外にも、グループ展へは多数参加してきましたが、個展はこれが初めてのとのこと。
7月に2人展を開催したばかりなのに、わずか3カ月半で個展というのは、すごい創作意欲です。
津田さんはこれまでも漫画や子どもの文化といった題材がちりばめられた、カラフルな世界を繰り広げてきましたが、今回の個展の作品はとりわけ、漫画や特撮へのオマージュが感じられます。
著作権の関係もあるのでしょう、ウルトラマンやその敵である怪獣、鉄人28号等々の、すでに在るキャラクターそのものこそ登場しませんが、漫画や特撮への愛は隠しようもありません。
ただし、世代的なものもあるのか、津田さんの特撮愛はどこかさめたものが潜んでいるようでもあります(まあ、いい大人なんだから、5歳児のように熱狂されても困るのは当然ではありますが…)。
今回の個展でも白眉と思われる冒頭画像右側の作品「大混戦」(F20)。
赤茶色のキングコングが、メフィラス星人っぽい宇宙人や、キングジョーに似た怪獣と、必死に戦っています。手前ではピット星人を思わせる紫色の宇宙人が怪獣と組み合っています。
ところが、そのまわりをカメラマンをはじめたくさんの人が取り囲み、いくつもの照明器具が並んで、さらに公開日への日数を示す掲示板までが描かれて、これが映画の撮影現場であることを示しています。
手前には壊れかけた家が配され、その中には、「RoRo 1995」と書かれたチョッキを着た少年が背中を向けて立っています。壁のカレンダーが1995年6月になっており、この少年が津田さん本人であることを暗示しているのかもしれません。
周囲のカメラマンなどにくらべると小さすぎますが、怪獣や宇宙人を「現実」ととらえれば、少年の大きさは合っています。ただ、この緊急時に逃げ惑いもせずにウルトラファイトを見つめているという事態は、超現実主義的だといえそうです。
左側は「正午のシーン」(F6)。
北都館のご主人によると、小さい頃、選挙カーが怖かったという記憶が反映しているとのことで、右側の巨大な赤茶色のキングコングと、バルコニーにいる少年は、ともに自分自身とのこと。
奥の部屋で寝ているのは人間には見えませんが、誰なんでしょう。
手前から「TASK 02」「TASK 03」「TASK 04」。
「TASK 02」には、岩見沢駅などのプラットホーム上にある自動販売機コーナーの壁に描かれている絵が、さりげなく引用されています。
津田さんはテレビゲームなども体験している世代だとは思いますが、画面のテイストはもっと古い時代の特撮を想起させるのが不思議です。
この連作に登場するのも、鉄人28号やジャイアントロボといった半世紀以上前の巨大ロボットのように見えます。エヴァンゲリオンなどではなさそうなのです(津田さんの生まれた年にエヴァンゲリオンがテレビ放送されたので、彼にとっては新しいアニメではないのですが)。
前述したとおり、これまであまりあからさまな引用は行ってきていない津田さんですが、「或いは最大の窮地」という作品には「未来世紀ブラジル」(SF映画の傑作です)などの文字が見えています。
今回の個展の特徴として、いままでは少なかった
「シュゴゴ」
「ビカビカ」
といった擬音が画面に躍る絵が何点もあることが挙げられます。
擬音の導入は、伝統的な作品はもちろん、近現代の絵画でも禁じ手とされてきたでしょうから、漫画との近接は明らかといえそうです。
(札幌で、擬音を表現したアートといえば、高橋喜代史さんだろう、という言説も成立するでしょうけど)
右から
「フロント・ライン」(F10)
「蟹以外」(F3)
「クレーン・ゲーム」(F6)
津田さんの絵に登場する怪人や宇宙人の特徴として、いずれも単色で表現されていることが挙げられそうです。
登場人物が多い絵が多いだけに、さまざまな色で塗られていれば、ますます混沌とした絵柄になり、収拾が付かなくなりそうです。
そして、紫や赤といった派手な色は、ソフビ製の怪獣人形を連想させずにはおれません。
この「絶えず光が在るように」(F15)は、3世紀の殉教者セバスティアンを下敷きにしていることは明らかでしょう。
矢のかわりにライトセーバー(スターウォーズと機動戦士ガンダムあたりが起源でしょう)が画面を縦横に跳んでおり、画面の奥では度外れた巨大さの赤茶色のキングコングがロケット弾を手に緑色の牛頭人に攻撃をしかけています。
この作品でも、右側に録音機材を掲げた人物が立ち交じっており、このおかげで画面全体が一気に虚構の色合いを濃くしているのです。
このほかの作品名を挙げて、この項は終わりにします。
長くなりましたが、単純に楽しい個展でした。
パンチの応酬 (F8)
今夜は逃がさない (F20)
エクスチェンジ・ポイント (F6)
夜は在る (SM)
檻の中で
その桃を切ろうとすると (F3)
ミノタウロスの子ども達 I (M0)
ミノタウロスの子ども達 II
ミノタウロスの子ども達 III
ミノタウロスの子ども達 VI
散らかった街
2021年11月17日(水)~22日(月)午前10時~午後10時(土日月~7時、最終日展示~5時)
カフェ北都館ギャラリー(札幌市西区琴似1の3 cafehokutokangallery.jimdofree.com )
過去の関連記事へのリンク
■JRタワー・アートプラネッツ2019 若き storytellers 北の絵画のいま (2019)
■500m美術館vol.28 500メーターズプロジェクト006 「冬のセンバツ」〜美術学生展〜 (2019)
■七月展 北海道教育大学岩見沢校 美術文化専攻の学生による自主制作展 (2018)
■2017年度 北海道教育大学岩見沢校 修了・卒業制作展 (2018)
「二十歳の輪郭」、最優秀賞に津田光太郎さん
道順 (アクセス)
・地下鉄東西線の琴似駅(T3) 5番出入り口から約270メートル、徒歩4分
・JR琴似駅から約740メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「山の手一条通」から約920メートル、徒歩12分(快速、都市間高速バスは止まりません)
・ジェイアール北海道バス、中央バス「西区役所前」から約960メートル、徒歩13分(全便が停車します)
※駐車場あり
意外にも、グループ展へは多数参加してきましたが、個展はこれが初めてのとのこと。
7月に2人展を開催したばかりなのに、わずか3カ月半で個展というのは、すごい創作意欲です。
津田さんはこれまでも漫画や子どもの文化といった題材がちりばめられた、カラフルな世界を繰り広げてきましたが、今回の個展の作品はとりわけ、漫画や特撮へのオマージュが感じられます。
著作権の関係もあるのでしょう、ウルトラマンやその敵である怪獣、鉄人28号等々の、すでに在るキャラクターそのものこそ登場しませんが、漫画や特撮への愛は隠しようもありません。
ただし、世代的なものもあるのか、津田さんの特撮愛はどこかさめたものが潜んでいるようでもあります(まあ、いい大人なんだから、5歳児のように熱狂されても困るのは当然ではありますが…)。
今回の個展でも白眉と思われる冒頭画像右側の作品「大混戦」(F20)。
赤茶色のキングコングが、メフィラス星人っぽい宇宙人や、キングジョーに似た怪獣と、必死に戦っています。手前ではピット星人を思わせる紫色の宇宙人が怪獣と組み合っています。
ところが、そのまわりをカメラマンをはじめたくさんの人が取り囲み、いくつもの照明器具が並んで、さらに公開日への日数を示す掲示板までが描かれて、これが映画の撮影現場であることを示しています。
手前には壊れかけた家が配され、その中には、「RoRo 1995」と書かれたチョッキを着た少年が背中を向けて立っています。壁のカレンダーが1995年6月になっており、この少年が津田さん本人であることを暗示しているのかもしれません。
周囲のカメラマンなどにくらべると小さすぎますが、怪獣や宇宙人を「現実」ととらえれば、少年の大きさは合っています。ただ、この緊急時に逃げ惑いもせずにウルトラファイトを見つめているという事態は、超現実主義的だといえそうです。
左側は「正午のシーン」(F6)。
北都館のご主人によると、小さい頃、選挙カーが怖かったという記憶が反映しているとのことで、右側の巨大な赤茶色のキングコングと、バルコニーにいる少年は、ともに自分自身とのこと。
奥の部屋で寝ているのは人間には見えませんが、誰なんでしょう。
手前から「TASK 02」「TASK 03」「TASK 04」。
「TASK 02」には、岩見沢駅などのプラットホーム上にある自動販売機コーナーの壁に描かれている絵が、さりげなく引用されています。
津田さんはテレビゲームなども体験している世代だとは思いますが、画面のテイストはもっと古い時代の特撮を想起させるのが不思議です。
この連作に登場するのも、鉄人28号やジャイアントロボといった半世紀以上前の巨大ロボットのように見えます。エヴァンゲリオンなどではなさそうなのです(津田さんの生まれた年にエヴァンゲリオンがテレビ放送されたので、彼にとっては新しいアニメではないのですが)。
前述したとおり、これまであまりあからさまな引用は行ってきていない津田さんですが、「或いは最大の窮地」という作品には「未来世紀ブラジル」(SF映画の傑作です)などの文字が見えています。
今回の個展の特徴として、いままでは少なかった
「シュゴゴ」
「ビカビカ」
といった擬音が画面に躍る絵が何点もあることが挙げられます。
擬音の導入は、伝統的な作品はもちろん、近現代の絵画でも禁じ手とされてきたでしょうから、漫画との近接は明らかといえそうです。
(札幌で、擬音を表現したアートといえば、高橋喜代史さんだろう、という言説も成立するでしょうけど)
右から
「フロント・ライン」(F10)
「蟹以外」(F3)
「クレーン・ゲーム」(F6)
津田さんの絵に登場する怪人や宇宙人の特徴として、いずれも単色で表現されていることが挙げられそうです。
登場人物が多い絵が多いだけに、さまざまな色で塗られていれば、ますます混沌とした絵柄になり、収拾が付かなくなりそうです。
そして、紫や赤といった派手な色は、ソフビ製の怪獣人形を連想させずにはおれません。
この「絶えず光が在るように」(F15)は、3世紀の殉教者セバスティアンを下敷きにしていることは明らかでしょう。
矢のかわりにライトセーバー(スターウォーズと機動戦士ガンダムあたりが起源でしょう)が画面を縦横に跳んでおり、画面の奥では度外れた巨大さの赤茶色のキングコングがロケット弾を手に緑色の牛頭人に攻撃をしかけています。
この作品でも、右側に録音機材を掲げた人物が立ち交じっており、このおかげで画面全体が一気に虚構の色合いを濃くしているのです。
このほかの作品名を挙げて、この項は終わりにします。
長くなりましたが、単純に楽しい個展でした。
パンチの応酬 (F8)
今夜は逃がさない (F20)
エクスチェンジ・ポイント (F6)
夜は在る (SM)
檻の中で
その桃を切ろうとすると (F3)
ミノタウロスの子ども達 I (M0)
ミノタウロスの子ども達 II
ミノタウロスの子ども達 III
ミノタウロスの子ども達 VI
散らかった街
2021年11月17日(水)~22日(月)午前10時~午後10時(土日月~7時、最終日展示~5時)
カフェ北都館ギャラリー(札幌市西区琴似1の3 cafehokutokangallery.jimdofree.com )
過去の関連記事へのリンク
■JRタワー・アートプラネッツ2019 若き storytellers 北の絵画のいま (2019)
■500m美術館vol.28 500メーターズプロジェクト006 「冬のセンバツ」〜美術学生展〜 (2019)
■七月展 北海道教育大学岩見沢校 美術文化専攻の学生による自主制作展 (2018)
■2017年度 北海道教育大学岩見沢校 修了・卒業制作展 (2018)
「二十歳の輪郭」、最優秀賞に津田光太郎さん
道順 (アクセス)
・地下鉄東西線の琴似駅(T3) 5番出入り口から約270メートル、徒歩4分
・JR琴似駅から約740メートル、徒歩10分
・ジェイアール北海道バス「山の手一条通」から約920メートル、徒歩12分(快速、都市間高速バスは止まりません)
・ジェイアール北海道バス、中央バス「西区役所前」から約960メートル、徒歩13分(全便が停車します)
※駐車場あり