高階秀爾さんに一度だけお会いしたことがあります。
ルノワール展が道立近代美術館で1999年に開かれるに際して、川村記念美術館(千葉県。さいきん何かと話題ですが…)から巡回してくることになっていたため、同館でのオープニングにあわせて出張しました。
記憶では、オープニングセレモニーの前に高階さんは現れ、足早に展示を見て回っていました。
筆者は名刺交換をしただけで、とくに会話らしい会話をかわした覚えはありません。ただ、会場内を背筋をぴんと伸ばして闊歩する姿はなんとも格好が良かったという印象が残っています。
高階さんは展示の構成について、お褒めの言葉を口にされ、川村記念美術館を後にしました。
美術史家という方はたくさんいますが、皆さんそれぞれ得意とする範囲が決まっており、これほど学識の幅が広い方はそういません。
最近カラー版が出た岩波新書の『名画を見る眼』は、筆者はそれほど感服した記憶はありませんが、西洋だけがなぜ透視図法に基づく遠近法の絵画空間を創始することが可能だったのかを歴史を踏まえて論じた『芸術空間の系譜」や、ルネサンス期の暗い面や芸術革命を生んだイタリアの風土を詳述した『ルネッサンスの光と闇』、ウィーン分離派やラファエロ前派といった19世紀終わりのさまざまな流派をバランスよく紹介した『世紀末芸術』など、分野は各時代にまたがっています。
さらに、近代日本美術、欧米の美術評論家たち、日本の現代アートに関する本などもあります。画集シリーズの監修、ケネス・クラークの翻訳など、とにかく仕事は多岐にわたります。
カバー範囲がかくも広く、叙述が明晰だからこそ、朝日新聞文化面で「美の現在」「美の季想」と題して20年以上にわたる長期連載が可能だったのだと思われます。
これほどのオールラウンダーは日本ではもう出てこないと思います。
蛇足ながら付け加えると、高階秀爾さんは美術評論家でもありましたが、中原祐介や東野芳明、針生一郎といった、現代のアートシーンを論じる評論家とはちょっと違い、広い視野から古今東西の美術を論じることで一流だったのだと思います。
ご冥福をお祈りいたします。
過去の関連記事へのリンク
高階秀爾『芸術空間の系譜』 (鹿島出版会SD選書)
高階秀爾「誰も知らない『名画の見方』」(小学館101ビジュアル新書)は、なぜ名著なのか
gooニュースhttps://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-241024X017.html?_gl=1*oyz9r9*_ga*MTQ2ODc0MzEyOS4xNzE5MTQxMDEz*_ga_XJ5END643J*MTcyOTc2NTI3Mi40NDEuMS4xNzI5NzY2NDUyLjYwLjAuMA..
以下、時事通信の記事から引用します。
ルノワール展が道立近代美術館で1999年に開かれるに際して、川村記念美術館(千葉県。さいきん何かと話題ですが…)から巡回してくることになっていたため、同館でのオープニングにあわせて出張しました。
記憶では、オープニングセレモニーの前に高階さんは現れ、足早に展示を見て回っていました。
筆者は名刺交換をしただけで、とくに会話らしい会話をかわした覚えはありません。ただ、会場内を背筋をぴんと伸ばして闊歩する姿はなんとも格好が良かったという印象が残っています。
高階さんは展示の構成について、お褒めの言葉を口にされ、川村記念美術館を後にしました。
美術史家という方はたくさんいますが、皆さんそれぞれ得意とする範囲が決まっており、これほど学識の幅が広い方はそういません。
最近カラー版が出た岩波新書の『名画を見る眼』は、筆者はそれほど感服した記憶はありませんが、西洋だけがなぜ透視図法に基づく遠近法の絵画空間を創始することが可能だったのかを歴史を踏まえて論じた『芸術空間の系譜」や、ルネサンス期の暗い面や芸術革命を生んだイタリアの風土を詳述した『ルネッサンスの光と闇』、ウィーン分離派やラファエロ前派といった19世紀終わりのさまざまな流派をバランスよく紹介した『世紀末芸術』など、分野は各時代にまたがっています。
さらに、近代日本美術、欧米の美術評論家たち、日本の現代アートに関する本などもあります。画集シリーズの監修、ケネス・クラークの翻訳など、とにかく仕事は多岐にわたります。
カバー範囲がかくも広く、叙述が明晰だからこそ、朝日新聞文化面で「美の現在」「美の季想」と題して20年以上にわたる長期連載が可能だったのだと思われます。
これほどのオールラウンダーは日本ではもう出てこないと思います。
蛇足ながら付け加えると、高階秀爾さんは美術評論家でもありましたが、中原祐介や東野芳明、針生一郎といった、現代のアートシーンを論じる評論家とはちょっと違い、広い視野から古今東西の美術を論じることで一流だったのだと思います。
ご冥福をお祈りいたします。
過去の関連記事へのリンク
高階秀爾『芸術空間の系譜』 (鹿島出版会SD選書)
高階秀爾「誰も知らない『名画の見方』」(小学館101ビジュアル新書)は、なぜ名著なのか
gooニュースhttps://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-241024X017.html?_gl=1*oyz9r9*_ga*MTQ2ODc0MzEyOS4xNzE5MTQxMDEz*_ga_XJ5END643J*MTcyOTc2NTI3Mi40NDEuMS4xNzI5NzY2NDUyLjYwLjAuMA..
以下、時事通信の記事から引用します。
国立西洋美術館館長などを歴任し、幅広い評論活動を行った美術史家で東京大名誉教授の高階秀爾(たかしな・しゅうじ)さんが17日、心不全のため東京都内の自宅で死去した。92歳だった。東京都出身。葬儀は近親者で済ませた。
東京大大学院に在学していた1954年、フランス政府招聘給費留学生としてパリ大付属美術研究所で学んだ。帰国後、国立西洋美術館勤務を経て、東京大で教授などに就いた。92年に同大を退官し、2000年まで同館館長。その後、岡山県倉敷市の大原美術館館長も務めた。
著述や翻訳を多く手掛け、72年に「ルネッサンスの光と闇」で芸術選奨文部大臣賞を受賞。00年に紫綬褒章、05年に文化功労者、12年に文化勲章。長年にわたり日仏文化の交流を促進した功績から、仏政府から芸術文化勲章オフィシエ、レジオン・ドヌール勲章シュバリエなどを受けた。