(承前)
「北海道書道展」は毎年ゴールデンウイーク中の時季に
1. 招待・会員
2. 公募
3. 会友
の3部構成に分けて開かれるのが恒例になっている。作品数が多く、市民ギャラリーでいっぺんに展示できないためであろう。ちなみに「2」と「3」は会期が重なるので、「3」は札幌パークホテル(地下に広い会場がある)で開催される。
点数では、美術の道展、全道展や写真道展などを上回り、道内最大の展覧会といって間違いないだろう。
「招待・会員」の展示に「北の書作家」というサブタイトルがついたのは、今年からだと思う。
今年、それ以上に大きな変化があった。前衛の参加である。
北海道書道展は
第1部 漢字多字数
第2部 漢字少字数
第3部 かな
第4部 近代詩文
第5部 墨象
第6部 篆刻・刻字
の各部に分かれているが、第5部に前衛書の作家が参加することになったのだ。
竹下青蘭、八重樫冬雷、桜庭青泉といった書家8人が第5部の会員として処遇されることになった。
つまり、ふつうなら
公募で入選・入賞 → 会友(大賞と準大賞) → 会員(審査員)
という段階を経るのに、3階級特進でいきなり会員になったのである。
また6人が会友として迎えられた。
これまで北海道書道展は、文字でない作品=前衛の出品を認めていなかった。
文字っぽくない作品は墨象部門に出品されていたが、しろうと目には黒い塊にしか見えないような作品でもかならず字釈が附されていた。
59年目にして、新たに「前衛部門」を設けるのではなく第5部で前衛書を受け入れることになった。
筆者はいきさつについて聞いていないが、関係者の熱意、寛容、熟慮、調整などなど、いろいろな要素をへての結果なのだろうと推測する。お疲れさまです。
以下はしろうとが見た感想文に過ぎないが、心に残ったことを書いておく。
ひとつは、墨象と前衛書を一つの部門にまとめたのは、良かったのではないかということ。
そのわけは、どちらともいえない作品がけっこう多いからである。
佐々木信象にしても瀧野喜星にしても木村蒼人にしても、これが墨象なのか前衛なのか、はっきりさせてもあまり意味が無いのではないか。
左下の余白が大胆な野坂武秀、流れるように墨の塊を配し題にあえて「非文字」とうたった竹下青蘭など、前衛の参加は、会場を活気づけるのに一役買っていると思った。
もうひとつは「近代詩文の可読性」についてである。
近代詩文書を創始したのは現在の渡島管内松前町出身の金子鷗亭である。ただし不思議なことに、彼の書風をそのまま引き継ぐ人はあまりいない。
新しいジャンルだけに、型を気にせず自由なスタイルをどしどし試みることができるのではないかと、部外者には思われるのだが、実際の書展で見ると、意外とパターン化された表現が多いことに気づく。古典や師匠に倣うのであれば、漢字やかなに取り組めば良いのにーなどと、つい考えてしまう。
これは、書壇の体質もさることながら、いざ個性を出そうとすると、可読性という壁が生まれてしまうのも一因ではあるまいか。
要するに、個性的な字を書こうとすると、読みづらくなってしまうのである。
中川蘆月も畠山紫香も川原薫も独創的だと思うけれど、字釈なしに誰もが読めるかというと、疑問なしとしないのである(だからダメ、という論の立て方は、もちろんしないけれど)。
むしろ井川静芳のような、ぶっきらぼうとも感じられる書字のほうが、いろいろな受け止めができるというべきなのかもしれない。
可読性ついでにいえば、かなの菅原京子は、いろは歌を書いている。代、辺、久といった変体がなを用いているとはいえ、すらすら読めるのは心地よい。末尾に近く「夢」だけを、かなではなく漢字で書いているあたり、非常に心ニクイ作品だと思う。
その他、気になった人。
先月の墨象会展を欠席していた島田青丘が元気なところを見せていて、安堵した。
瀧野時雪「幽玄」。アート書っぽい軽みとデザイン性を感じさせながらも、軽薄に流れず、強さと余韻がある。なによりバランス感覚がすごい。
上山天遂「大音希聲」。上山さんは篆刻の会員なのに、この数年は、一般の書字がメインの作品に取り組んでいる。
石崎閑雲「吉」。文字の中の、墨の濃淡の変化がユニーク。
会員では多字数の漢字の楷書・行書に取り組む人が意外と少ない。安保旭舟、小原道城といった人の作品からは、漢字の基本に立ち返ってみようという姿勢を感じる。
馬場伶、片倉大成、福森龍子の遺作が展示されていた。
とりわけ馬場の逝去は、胸にしみる。
ほかにもとりあげたい人は多く、かな書にほとんど触れられなかったのも惜しまれるが、ここでいったん擱筆したい。
2018年4月25日(水)~29日(日)午前10時~午後6時(最終日~午後4時)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
■第57回 (2016)
■第56回北海道書道展=招待・会員 (2015)
■北のかがやき2009 北海道書道展第50回記念展 (2009)
■第48回
■第47回
■第45回
■第44回
■第43回
「北海道書道展」は毎年ゴールデンウイーク中の時季に
1. 招待・会員
2. 公募
3. 会友
の3部構成に分けて開かれるのが恒例になっている。作品数が多く、市民ギャラリーでいっぺんに展示できないためであろう。ちなみに「2」と「3」は会期が重なるので、「3」は札幌パークホテル(地下に広い会場がある)で開催される。
点数では、美術の道展、全道展や写真道展などを上回り、道内最大の展覧会といって間違いないだろう。
「招待・会員」の展示に「北の書作家」というサブタイトルがついたのは、今年からだと思う。
今年、それ以上に大きな変化があった。前衛の参加である。
北海道書道展は
第1部 漢字多字数
第2部 漢字少字数
第3部 かな
第4部 近代詩文
第5部 墨象
第6部 篆刻・刻字
の各部に分かれているが、第5部に前衛書の作家が参加することになったのだ。
竹下青蘭、八重樫冬雷、桜庭青泉といった書家8人が第5部の会員として処遇されることになった。
つまり、ふつうなら
公募で入選・入賞 → 会友(大賞と準大賞) → 会員(審査員)
という段階を経るのに、3階級特進でいきなり会員になったのである。
また6人が会友として迎えられた。
これまで北海道書道展は、文字でない作品=前衛の出品を認めていなかった。
文字っぽくない作品は墨象部門に出品されていたが、しろうと目には黒い塊にしか見えないような作品でもかならず字釈が附されていた。
59年目にして、新たに「前衛部門」を設けるのではなく第5部で前衛書を受け入れることになった。
筆者はいきさつについて聞いていないが、関係者の熱意、寛容、熟慮、調整などなど、いろいろな要素をへての結果なのだろうと推測する。お疲れさまです。
以下はしろうとが見た感想文に過ぎないが、心に残ったことを書いておく。
ひとつは、墨象と前衛書を一つの部門にまとめたのは、良かったのではないかということ。
そのわけは、どちらともいえない作品がけっこう多いからである。
佐々木信象にしても瀧野喜星にしても木村蒼人にしても、これが墨象なのか前衛なのか、はっきりさせてもあまり意味が無いのではないか。
左下の余白が大胆な野坂武秀、流れるように墨の塊を配し題にあえて「非文字」とうたった竹下青蘭など、前衛の参加は、会場を活気づけるのに一役買っていると思った。
もうひとつは「近代詩文の可読性」についてである。
近代詩文書を創始したのは現在の渡島管内松前町出身の金子鷗亭である。ただし不思議なことに、彼の書風をそのまま引き継ぐ人はあまりいない。
新しいジャンルだけに、型を気にせず自由なスタイルをどしどし試みることができるのではないかと、部外者には思われるのだが、実際の書展で見ると、意外とパターン化された表現が多いことに気づく。古典や師匠に倣うのであれば、漢字やかなに取り組めば良いのにーなどと、つい考えてしまう。
これは、書壇の体質もさることながら、いざ個性を出そうとすると、可読性という壁が生まれてしまうのも一因ではあるまいか。
要するに、個性的な字を書こうとすると、読みづらくなってしまうのである。
中川蘆月も畠山紫香も川原薫も独創的だと思うけれど、字釈なしに誰もが読めるかというと、疑問なしとしないのである(だからダメ、という論の立て方は、もちろんしないけれど)。
むしろ井川静芳のような、ぶっきらぼうとも感じられる書字のほうが、いろいろな受け止めができるというべきなのかもしれない。
可読性ついでにいえば、かなの菅原京子は、いろは歌を書いている。代、辺、久といった変体がなを用いているとはいえ、すらすら読めるのは心地よい。末尾に近く「夢」だけを、かなではなく漢字で書いているあたり、非常に心ニクイ作品だと思う。
その他、気になった人。
先月の墨象会展を欠席していた島田青丘が元気なところを見せていて、安堵した。
瀧野時雪「幽玄」。アート書っぽい軽みとデザイン性を感じさせながらも、軽薄に流れず、強さと余韻がある。なによりバランス感覚がすごい。
上山天遂「大音希聲」。上山さんは篆刻の会員なのに、この数年は、一般の書字がメインの作品に取り組んでいる。
石崎閑雲「吉」。文字の中の、墨の濃淡の変化がユニーク。
会員では多字数の漢字の楷書・行書に取り組む人が意外と少ない。安保旭舟、小原道城といった人の作品からは、漢字の基本に立ち返ってみようという姿勢を感じる。
馬場伶、片倉大成、福森龍子の遺作が展示されていた。
とりわけ馬場の逝去は、胸にしみる。
ほかにもとりあげたい人は多く、かな書にほとんど触れられなかったのも惜しまれるが、ここでいったん擱筆したい。
2018年4月25日(水)~29日(日)午前10時~午後6時(最終日~午後4時)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
■第57回 (2016)
■第56回北海道書道展=招待・会員 (2015)
■北のかがやき2009 北海道書道展第50回記念展 (2009)
■第48回
■第47回
■第45回
■第44回
■第43回
(この項続く)