夏が来たらこれ
という食べ物はいっぱいある。
まずかき氷、そしてソーメン、そしてアイスクリーム。
それが昭和の昔だったらアイスキャンデー、スイカ、ラムネ、トコロテンだったであろうか。
いずれにしても全国民が、暑い夏はとりあえず冷たい食べ物を食べて涼をとる。
風鈴の音を聞きながら、かき氷を食べて涼をとる。
かき氷は見ただけで涼しそう。
三角に切ったスイカを両手で持ったとき、涼しさを感じる。
夏になったら一度は食べたいと思うものにトコロテンがある。
二度も三度も食べたいとは思わないが、夏とトコロテンはどうしても切り離すことができない。
こういう古くさい人種はこれから先どんどん少なくなっていくに違いない。
懐かしい味だし、年に一度は食べておかないと忘れてしまいそうな味だ。
やがては絶滅危惧種になりそうな気配がある
日本人として忘れてはいけない味にような気もするし、一度絶滅したらたぶん二度と復活することのない食べ物のような気がする。
なので夏が来れば毎年一度は必ずトコロテンを食べるように心がけている。
そうしていつの日か語り部として、トコロテンの味と風味と涼味を後の世代に語り継ごうと思っている。
トコロテンは美味とか珍味とか、そういうたぐいの食べ物とは違うんだよなー。
トコロテンを全然知らない人(たとえば外国人)にトコロテンを説明しようとすると、どういうことになるのか。
「まず器の中でぐじゃぐじゃと絡まったり縺れ合ったりしているワケです」
「何が」
「何がって、こうシラタキというか、こうニョロニョロしたものが」
「オー、コンニャク」
「ノー、コンニャクは芋ね、トコロテンは海ね」
トコロテンは天草という海藻から作る、ということは日本人でもあまり知られていない。
味に至っては日本人にさえ伝えにくい、微妙な味と香りである。
海のものではあるが、大海原の味ではない。
むしろ海辺の味、磯の香り。
チャプンチャプンと小さな波の音が聞こえて、岩の上を潮風が吹いたりする磯。
あの空気がそのまま味に凝縮されたものがトコロテンの味なのです。