居酒屋のメニューのひとつに板ワサというものがある。
あの板カマボコを切ってワサビ醤油につけて食べるアレです。
本体はまぎれもないカマボコなのに、その名前にカマボコが出てこない。
板ワサの板は板カマボコの板ということだが、主役のカマボコをさしおいて敷物の板を名前にするというのはどう考えても怪しい、
怪しい奴ではあるが、板ワサはビールにも合うし日本酒にも合う。
しかし居酒屋のメニューの番付からいうと、ランクはかなり下のほうだ。
板ワサで一杯やっていると、なんかこう貧相な感じがする。
ところが、これが老舗の蕎麦屋のメニューに登場すると急に印象が変わる。
俄然、品格を伴った一品ということになる。
この板をどう活用するのか、そこが問題だ
蕎麦屋で蕎麦を待つ間、板ワサで一本つけてもらって一杯やっている老紳士なんてことになると、その周辺には気品さえ漂っている。
蕎麦屋の板ワサは、一種の伝統美の世界なのだ。
ところがこの板ワサが家庭の晩酌に出てくると、また急にガラリと印象が変わる。
家庭の晩酌に出てくる板ワサは、手抜き料理の最たるものだ。
とにかく切っただけ。
ワサビはチューブを押しただけ。
当然おとうさんの機嫌はナナメになり、眉間のシワはタテになる。
家庭の晩酌には決して出してはならないものが板ワサなのだ。