人が多いほど生存競争は激しくなる。
混乱の度合いも激しくなり、これを一般にドサクサと称し、ドサクサは秩序の混乱と崩壊を意味し、秩序の混乱と崩壊の中ではズルい者が勝つ。
天下りというのは大仕掛けのズルである。
役人同士で作り上げた大ズルなのだが、慣行化によってズルに見えないように仕立てあげた。
ゴマスリというのもズルである。
実力ではなく、ゴマスリというズルによって出世を目論むわけだが、このズルは往々にして成功するから厄介だ。
人との関りの中で発生するズルで、損も得もないズルがある。
「バスの中でブザーを押さないズル」がその例だ。
バスの座席の横にはブザーが取り付けてある。
次の停留所で降りる人はこのブザーを押して、「次で降ります」という意志を表明することになっている。
どういうわけか、できることならこのブザーを自分では押したくない。
誰かが押してくれないかな、とジリジリしながら待っている。
どんどん停留所が近づいてきて、もう押さなきゃ、もう押さなきゃ、と思いつつも、できることなら誰かに押してもらいたい。
「押せ、ホラ、早く押せ、誰か押せよ」と焦るのだがついに誰も押さない。
「ほんとにもう、みんなしぶといいんだから」と、しびれを切らしてとうとう自分で押す。
バスが次の停留所で止まると、はたして自分以外に4人もバスから降りていく。
この4人は全員、ブザーを押さないズルをして降りていく連中だ。
「俺が押したブザーでお前らは降りていくんだろうが」と怒りがおさまらない。
この4人に下働きをさせられたようで口惜しくてならない。
しかし、あのブザーを押したくない心理、というのは何なんでしょうね。