恥じも外聞もなく何枚も重ね着
小生、12月生まれ。誰も彼もが「ああ、それでか」と口を揃えて感心する。寒さに強い、と思うらしい。
確かに条件が揃っている。いまの職場は仕出し・弁当の製造工場で、担当する調理場は常に18度以下の温度設定を余儀なくされる。しかも深夜から早朝までの勤務。扱う食材の大半は冷凍品で、夏場は冷房がガンガン効いているし、冬場は底冷えがする中、立ちっ放しで仕事をする。こんな環境でもう10年以上勤めており、そこに12月生まれが加われば、当然の反応と言っていい。
でも、当の本人は無類の寒がり屋で、冬はこたつで丸くなる猫の心境だ。それを生れ月で決めつけられては心外この上ない。
寒がり屋だから防寒対策は万全を期す。パッチとラクダのシャツは必須のアイテムだ。厳寒期には二枚の重ね着どころか3枚、4枚の時もある。「太ったね」と言われるのはしょっちゅうだが、恥も外聞もない。ただ実行あるのみである。誰も助けてくれないのだから。
(讀賣・2004・12・12掲載)
小生、12月生まれ。誰も彼もが「ああ、それでか」と口を揃えて感心する。寒さに強い、と思うらしい。
確かに条件が揃っている。いまの職場は仕出し・弁当の製造工場で、担当する調理場は常に18度以下の温度設定を余儀なくされる。しかも深夜から早朝までの勤務。扱う食材の大半は冷凍品で、夏場は冷房がガンガン効いているし、冬場は底冷えがする中、立ちっ放しで仕事をする。こんな環境でもう10年以上勤めており、そこに12月生まれが加われば、当然の反応と言っていい。
でも、当の本人は無類の寒がり屋で、冬はこたつで丸くなる猫の心境だ。それを生れ月で決めつけられては心外この上ない。
寒がり屋だから防寒対策は万全を期す。パッチとラクダのシャツは必須のアイテムだ。厳寒期には二枚の重ね着どころか3枚、4枚の時もある。「太ったね」と言われるのはしょっちゅうだが、恥も外聞もない。ただ実行あるのみである。誰も助けてくれないのだから。
(讀賣・2004・12・12掲載)
娘の初任給に感激ひとしお!
「おとうさん、これ」
仕事から帰った娘のちょっと照れくさげな声に振り返る。鼻先に突き出された娘の手にひとつの封筒。開けてみると、給料の明細書だ。
「きょうやったんか?」
「うん」
「ようけやないあか」
「へ、へ、へ、へ」
「ご苦労さん」
「うん」
日頃はめったに会話のはずまなくなった男親と娘。その見えない垣根が自然に取り払われている。この4月に介護福祉士として働き出した娘の「初任給」が果たした奇跡?だ。
今年、成人式を迎えたばかりの娘は、高校の福祉科から福祉の専門学校に進んだ。かなり悪戦苦闘をしながらも精いっぱい頑張り、ついに目標だった介護福祉士の資格を得て特養老人施設のスタッフになった。
そして今日、「ありがとうございました」と、祖父母、きょうだい、親に初任給の一部を包んで渡した娘。
腰の定まらなかった青春しか知らない父親は、そんな娘が実に眩しかった。感激はひとしおだ。さらに娘は頑張る負けてはいられない。ずっと生き方を刺激し合える親子でありたいからだ。
(讀賣・2004・5・14掲載)
「おとうさん、これ」
仕事から帰った娘のちょっと照れくさげな声に振り返る。鼻先に突き出された娘の手にひとつの封筒。開けてみると、給料の明細書だ。
「きょうやったんか?」
「うん」
「ようけやないあか」
「へ、へ、へ、へ」
「ご苦労さん」
「うん」
日頃はめったに会話のはずまなくなった男親と娘。その見えない垣根が自然に取り払われている。この4月に介護福祉士として働き出した娘の「初任給」が果たした奇跡?だ。
今年、成人式を迎えたばかりの娘は、高校の福祉科から福祉の専門学校に進んだ。かなり悪戦苦闘をしながらも精いっぱい頑張り、ついに目標だった介護福祉士の資格を得て特養老人施設のスタッフになった。
そして今日、「ありがとうございました」と、祖父母、きょうだい、親に初任給の一部を包んで渡した娘。
腰の定まらなかった青春しか知らない父親は、そんな娘が実に眩しかった。感激はひとしおだ。さらに娘は頑張る負けてはいられない。ずっと生き方を刺激し合える親子でありたいからだ。
(讀賣・2004・5・14掲載)
子どもと触れ合う大切さ知り
「家族みんなで泊まりの旅行へ行かへんか?」に対し、「そんなんええわ」「友だちと約束してんねん」「もう、そんな子どもやないねん」
近頃は上の子どもたちてんでに、そう断られてしまう。
結局この夏も一緒に出掛けるのは小学二年の末娘だけ。親子三人の度である。旅先で甘える娘に応えてやると、何ともいえない笑顔が返ってくる。
「この時間だけは大切にしなきゃあな」とつくづく思う。二度と戻らない親子の短い貴重な時間。
上の子どもたちには充分与えなかったと後悔する。仕事や自分の時間を優先し、貴重な時間を軽視してしまったとの思いは強い。
成長した子どもたちとの距離は開くばかりだ。寂しくても、もう絶対に取り戻せない。
だから、上の子どもたちとも「出来るならもう一度……」と思わない日はない。
(讀賣・2004・8・29掲載)
「家族みんなで泊まりの旅行へ行かへんか?」に対し、「そんなんええわ」「友だちと約束してんねん」「もう、そんな子どもやないねん」
近頃は上の子どもたちてんでに、そう断られてしまう。
結局この夏も一緒に出掛けるのは小学二年の末娘だけ。親子三人の度である。旅先で甘える娘に応えてやると、何ともいえない笑顔が返ってくる。
「この時間だけは大切にしなきゃあな」とつくづく思う。二度と戻らない親子の短い貴重な時間。
上の子どもたちには充分与えなかったと後悔する。仕事や自分の時間を優先し、貴重な時間を軽視してしまったとの思いは強い。
成長した子どもたちとの距離は開くばかりだ。寂しくても、もう絶対に取り戻せない。
だから、上の子どもたちとも「出来るならもう一度……」と思わない日はない。
(讀賣・2004・8・29掲載)