こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

老々父子

2015年06月02日 14時36分33秒 | 文芸
老人会の旅行

「おい、今年の老人会の旅行、お前、三かするやてのう」
「え?」
 やけにうれしそうな父の言葉に面喰い、しばし絶句した。確かに昨年、家族から還暦を祝ってもらったが、その後も老人会や、その旅行も全く意識したことはない。
「そんな知らんわ。誰か、勘違いしとんねんやろ」
「ほうけ…。ほな、お前は旅行に行かへんねんな?」
「当たり前やろ!」
 思わず言葉を呑んだ。さっきのうれしそうな父の顔が、いっぺんにしょげ返って見えたからだ。
 80代後半にさしかかる父にとって、老人会であろうと、息子と旅行をともにできることが、よほどうれしかったに違いない。それを慮りもせず、即座に否定した親不孝者のわたしだった。
 しかし、父と息子が同じ時期に、同じ老人会のメンバーになり、恒例の旅行に参加するのは……!複雑な気持ちで、自分の年齢を実感した。
(神戸・2008年8月21日掲載)
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4コマ漫画

2015年06月02日 12時02分32秒 | マンガ
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やりたがりっ子

2015年06月02日 06時52分58秒 | 文芸
何でもやりたがりの息子

「ボク、やるよ」
「ボク、できるよ」
 これらが4歳になった長男の口癖。口を結んでキッと見上げる顔は、怖いものはなにもないといった感じ。少しまぶしいぐらいである。
 ところが、やることなすこと失敗ばかり。食事の用意を手伝っていて、家族4人分の料理をひっくり返す。水まきでは、庭どころか部屋の中までびっしょり。夫婦顔を見合わせて苦笑するしかない事態続出である。
 それでも本人にすれば「やったー!」という満足感にあふれている。もちろんわたしたちは叱るが、あまり効果は見られない。叱る側が相好を崩しているのだから、当然と言えば当然である。すぐに失敗を忘れた長男は「ボクやるよ!」としゃしゃりでてくる。
 そのうち面白いことに気付いた。失敗を何回も繰り返したことはえらく慎重に、恐る恐るやっているが、その表情の真剣なこと。見てるこっちがひき込まれそうな気迫である。
 そして、やり方をいろいろ工夫している。工夫といっても体を利用しての単純なものではあるが。
「おい、あいつ、いい目をしてるぞ」
「へえ、あんなやり方もあるんだね」
 感心させられたりでワイワイガヤガヤと見守るわたしと妻。「失敗は成功のもと」なんて、よく言ったものだ。
 子どもらは失敗するために興味を持ち、失敗は成功に至る創意工夫を生み出している。
(神戸・1988年10月1日掲載)
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絵手紙

2015年06月02日 01時08分16秒 | Weblog
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調理場・その3(完結)

2015年06月02日 00時04分29秒 | 文芸
初めてではなかった。調理場にいると、しょっちゅうパートの女性からちょっかいを掛けられる。大半が生真面目な将太を揶揄するものだったが、中には本気で迫る相手もいる。佳美もその一人だった。とてもからかっているとは思えない。その判断が間違っているかどうかは別にして、近頃の将太は求められたら迷わず応じてしまいかねない。
 最近、妻の若菜は三人の子どもの育児に忙しくて、将太の扱いを後回しにする。三人も子供を産ませたら当然の成り行きなのだが、男は好きな女に邪険にされるのには耐えられない。といって、母親になった女は強くなる。下手に口や手を出そうものなら、そのしっぺ返しは容赦がない。結局押し黙って我慢を強いられるしかないのが男のサガである。
 将太は寂しかった。だから、さっき佳美にふらつき掛けたのは自然の理だった。
「どうしたの?」
 佳美だった。トリ小屋から出てこない将太に何かを察知したのだろう。もうひと押しとばかりに、佳美の目は怪しく光って見えた。
「いや、別に。盛り付け場が忙しい時間やで、みんな入ってくるさかい……」
「いいやないの。見せつけたったら面白いで」
 佳美は意味ありげに笑った。マスクで隠れた顔の中で覗いている目が、そう見えた。将太は言葉を失った。めまぐるしく頭を働かせた。防衛本能が危険信号を点滅した。
「もうみんな知ってるもん」
「え?何を……」
「わたしが坂手さんと、おかしいって」
 佳美は「クククッ」と笑った。
 将太はショックを受けた。みんなが知っている……?俺と佳美がおかしい……?冗談じゃない。そんな仲じゃないぞ!
「初心(ウブ)なんだから、坂手さんて。だから好きなのよ。
 佳美の手が伸びて来た。
「やめてくれ!」 
将太は佳美の手を逃れてトリ小屋を出た。
「待ってよ。どうするの?」
「休憩や。胡瓜台が出来たら、もうこっちはええから盛り付けに戻ってや」
 素気なく言ってのけた。大げさではなく魔女の毒牙を防げたと思った。
 将太は調理場の裏ドアから外に出ると、自動販売機に向かった。缶コーヒーを買う。気が動転していたせいでボタンを押し間違えた。熱いコーヒーを飲まないとやってられないほどの寒さの中、将太の手には冷たい缶コーヒーがあった。慌てて小銭を出すと、熱いのを買った。ポケットに押し込んだ缶の冷たさで腿が痺れる。熱いのを飲み干してやっと人心地がついた。冷たさと熱さのやり取りは将太を冷静にさせる薬となった。
 携帯の電源を入れた。作業中は切っている。メールを開けると、若菜からだった。
『いま仕事の真っ最中だよね。お疲れさま。こちらは三人ともやっと寝てくれたよ。みんなあなたにそっくりの寝顔。もうおかしくて。くだらない事メールしちゃったかな?明日の朝、好きなもの作っておくから、食べて下さい。以上です。頑張れ、おとうさん!』
(馬鹿やろう……なにが、おとうさんや)
 将太は軽く毒づいた。その胸の内に温かいものが広がる。早く家に帰って、若菜と子どもらの顔が見たくなった。もうひと頑張りだ。
(……さあ、やるぞ!おとうさんは)
 将太は空き缶を専用箱に放り込んだ。
 調理場に戻ると、佳美がパート仲間と喋りながら胡瓜台を作っている。あれでは仕事ははかどらない。自分が、初心な男がまな板に乗せられて面白おかしく話題にされているのかも知れない。(勝手にやってろ!)
 将太はマグロの刺身にかかった。あと三百切れ。邪魔が入らなければ瞬く間だ。
(おわり)
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