あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

2011-10-22 | 
以前から犬を飼いたいと思っていた。
犬がいれば隣のクソ猫が畑にクソをする問題も解決する。
何をやってもうちの庭でクソをする猫を追っ払うより、自分の犬を飼ってトイレをしつける方が楽だろう。
そしてどうせ飼うなら子犬から育てたいとも思っていた。
こうなればいいな、という想いは実現する。
それにはタイミングは必要不可欠だ。
そのタイミングが合った時に物事はとんとん拍子で進む。



犬が欲しいと言いはじめたのは女房である。
彼女は日本でも犬を飼っていた。女房は犬と話ができるそうだ。
ボクが仕事で家を空けるうちは無理だったが、今年の夏はクィーンズタウンにも行かないことになり、それなら犬を飼いましょうということになった。
そして週末にSPCAに行って見てみようという話になった。
SPCAとは飼い主のいないペットなどを預かり、ペットが欲しい人や貰い手が来たらそこで受け渡すというような場所だ。
午後にSPCAに行くとして、午前はリカトンブッシュのサタデーマーケットに行くことにした。
このマーケットは数年前に始まったものだが、庶民が集まるサンデーマーケットに比べてレベルが高い。
場所柄というのもあるだろうが、そこに来る人もちょっとハイソで売っている食べ物も美味しそうなものが多い。
もちろん値段もそれなりである。
リカトンブッシュにはカヒカテアの原生林が残っており、中を散歩できるようになっている。
ボクがこの街で好きな場所の一つでもある。
ブッシュをフェンスで囲み動物が入れないようにして、中でキウィも放している。ただし夜行性のキウィを昼間見ることはできない。
この国で一番古くからある木、魚で言えばシーラカンスのような生きた化石の木がカヒカテアだ。
そんな木々の合い間を散歩して、マーケットで買い物を済ませ、帰ろうとした時である。
子犬を2匹連れたカップルに出くわした。
漠然と、『あ、これかな』と思ったが後から考えれば、これだったのだ。
世の中に偶然はない。
出会いは全て必然であり、そのタイミングにピンと気づく時もあれば、後から考えて「ああ、あの時な」と思うこともある。
そのカップルに話を聞くと子犬は売りに出しているという。
一匹は茶色のメス、もう一匹は白いオス。生後9週間。
ラブラドールだがハスキーの血も混ざっているそうな。
ハスキーと聞いて女房の目が輝いた。
ボクは茶色い子犬を抱き上げ、聞いてみた。
「オマエ、どうだ、うちの子になるか?」
子犬はペロペロとボクの顔を舐めた。可愛いぞ、これは。
ボクはこの子犬が気に入った。なんといってもこういう出会いのタイミングだ。
深雪ももちろん異存なし、それどころか目をキラキラさせて乗り気まんまん。当たり前だ。
女房は冷静に即決を避けた。
その場で買ってもいいぐらいの勢いだったが、午後SPCAに行くことにもなってるし、ちょっと間を置くことにして連絡先だけもらいマーケットを後にした。



その日はペットショップに行ってブラブラと見たあとにSPCAに行った。
SPCAにも同じくらいの子犬はいたがピンと来ない。
そこの子犬ならリカトンブッシュで会った子犬の方がいい。
家に帰りネットで犬の売買をみたが、やっぱりピンと来ない
そして初めての出会いから数日後、女房が茶色い子犬を買うことに同意した。
そうと決まれば善は急げ。僕はその場でもらった番号に電話して、数時間後に深雪と一緒に引き取りに行った。
子犬は親兄弟から離れた寂しさか、車の中でクーンクーンと鳴き続ける。それを深雪がしっかりと抱きかかえる。
そして我が家に家族が一人、ではないな、一匹増えた。
さて、名前である。
子犬にはリリーという名があった。女の子の名前である。
ボクはこの名前があまり好きではなかった。
リリーは英語でLiLy。英語のLは舌先を前歯に触れるように発音する。
日本語のらりるれろとはちょっと違う。
やってみれば分かるが日本語でりりーと言うのときちんと発音してリリーというのは違う。
犬が正確な発音でなかったら振り向いてくれない、なんてことになったら悲しいではないか。
それにもっと言いやすい名前が良い。
ボクとしてはポチが良かったのだけれど、あえなく却下。
再び家族会議の結果、深雪がつけたのはココア。色がチョコレート色だから。単純でよろしい。
呼ぶ時はココと呼ぶ。まあこれならいいか。



さて犬の住みかだが犬小屋はまだできていない。
なのでダンボールで仮の小屋を作った。
犬を飼うにあたり、犬は家の中にいれない、外で飼う。と宣言をしたのだ。
1日目の晩は寂しいのだろう。外でクンクンと鳴いていたが、心を鬼にして外に出しておいた。
2日目は朝から大雨、それでもガレージに非難場所を作ったりしていたのだが、濡れてブルブル震える姿に女房が負けた。
犬を中に入れてしまった。
「あーあ、入れちゃった」
こうなるんじゃないかな、と心の片隅で思っていたが、やっぱりそうなった。
一度家の中に入れてしまったら、ダメと言ったら絶対ダメというガンコ親父のきびしい愛のムチも使えない。
犬から見れば「さっきは入れてくれたのに何でダメなの~?」と思うことだろう
外で飼うにはちゃんとした犬小屋を作ってあげて、自分の居場所を確保してあげてからだな、と妥協案を出した。
それでも家の中のキッチンは死守せねばならない。
ボクは台所を砦として、入り口に防衛線を張り、入ってこようとする時は大声で怒鳴りつけた。
そのかいあってか、どうやらここは入ってはいけない場所らしい、とすぐに学んだ。
何回も同じ罠で捕まる隣のクソ猫より賢いようだ。



家の近くには大きな公園があり、犬の散歩に最適である。
ココは慣れない首輪が邪魔になるのか、しきりに首の辺りをかいている。
物憂げに首をかく時の顔は、前川清にそっくりである。
犬も散歩になれていなければ、深雪も犬の散歩は始めてだ。
それでも初心者同士、ヨタヨタ散歩する姿を後から眺めるのはなかなか良い。
庭で畑仕事をやっていると、いたずらもするのでその対策も考えなければならないが、隣のクソ猫のクソを始末するよりよっぽどいい。
深雪がハンモックで本を読み、その横で子犬が遊んでいる。
やっぱり幸せはここにあるのだ。
コメント (1)
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