あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

さらばプク

2012-08-31 | 
鶏を飼い始めたのが2年前。
その時の様子がブログに残っている。

庭には二羽ニワトリ

ニワトリが来た。

そして去年、2羽を買い足した。



しばらくは4羽で仲良くやっていたのだが、ある日突然それまで元気に卵を産んでいたペケが死んだ。
死因は不明。そして3羽。
そこに犬のココがやってきた。
子犬のうちはニワトリにつつかれてキャンキャン鳴いていたのだが、体が大きくなり事件は起こった。
ココがニワトリエリアに侵入して初代からいたヒネをかみ殺してしまったのだ。
こういう事件は決まってボクが留守中に起こる。
ボクはヒネの遺体を埋めその上に木を植えた。
残るはミカンとプク。
ココに襲われて殺戮現場を見たからか、ニワトリはぱったり卵を産まなくなった。
その後もココは侵入を試みて、その度にニワトリエリアのフェンスは頑丈になっていった。
ミカンは2度もココに襲われ、瀕死の重傷をおった。
ある日、仕事から帰ってくると犬がミカンの上に乗り噛みついていた。
僕は大声で怒鳴りつけた。
ココが離れてからもミカンは動かず、ボクはもう死んでしまったかと思ったが、しばらくするとヨロヨロと動き出した。
死ぬ時は死ぬし、生きるときは生きるだろうと僕は放っておいたが、その後ミカンは元気になっていった。
さて卵を産まなくなってからはニワトリ達の食事事情も変わった。
それまでは「卵を産むのにたんぱく質は必要だから」と、ドッグフードの切れ端をあげたりしていたが、その後は「庭の菜っ葉でも食っていろ」と庭に雑草状態で生えている白菜や水菜やチンゲンサイなどが主食となり一気にベジタリアンになった。
人間とは現金なものだ。
それでも2羽は元気に育ち、プクなどは丸々太って美味そうである。

冬の初めに若い鶏を買い足そうと思ったが、あっという間に冬が始まり忙しくなってしまった。
これもタイミングではなかったのだろう。
忙しい時が終わり一段落して、さて若い鶏を買おうと思ったが問題はある。
鶏のいじめだ。鶏の世界にもいじめはある。
前回は2羽居たところにヒナ鶏を2羽いれた。
初代からいたヒネとミカンはヒナ鶏を追い回し、コーナーに追い詰めては突っついていた。
網をはって隔離したり、いろいろ世話がやけた。
今回は新しい鶏を飼う前に、今居る鶏を減らそうと思った。
だが僕はあろうことか、とある約束をしてしまったのだ。
初めてヒネとミカンを飼った時に、可愛さのあまり「俺はお前達は食わないからな、死が訪れるまでこの庭で生きてみろ」と、告げてしまった。
ヒネは犬にやられて死んでしまったが、ミカンは二度も襲われながら生き延びた。
死ぬのにも意味があるし、生き延びることにも意味はある。
それにミカンを絞めることは名付け親の深雪が許さないだろう。
鶏といえど一度してしまった約束を破るわけにはいかない。
ミカンには寿命がつきるまで北村家ニワトリコーナーのボスとなってもらおう。
残るはプクだ。
幸いな事にプクとはそういう約束をしていない。
あとは僕の気持ちの問題だ。
今回のことで肝に銘じたことだが、次回からニワトリに名前をつけない。
名前をつけると情が移る。
誰でも自分が可愛がっていた生き物を殺したくないだろう。
生きたまま人にあげて絞めてもらって食ってもらう、という事も考えたが、飼い始めたからにはその死を見届けるというのも責任である。
いいところだけ自分が持っていくというのを、僕は自分に許さない。
やるならば一番人が嫌がるところまで自分でやらなければダメだ。
というわけでプクを絞めることにした。
ネットで調べれば鶏の絞め方はすぐに出てくる。便利な世の中になったものだ。

その日の朝、深雪は何も知らないまま学校へ行き、女房は「ナンマンダブ、ナンマンダブ」と手を合わせ会社へ行った。
僕はプクに別れを告げ、作業に入った。
羽をクロスさせて縛り、足をしばり木にぶらさげて、鶏の頚動脈を切った。
血がたらーっと流れ、プクはほとんど暴れることなくあの世へ行った。
僕はその間、ひたすら手を合わせ拝んだ。
お経が唱えられるならそうしていたことだろう。
ブログのネタになるだろうと思ったが、さすがに写真を撮る気にはならなかった。
血が抜けたら熱い湯に浸けて毛穴を開き毛をむしる。ひたすらむしる。
足を切り落とし、物欲しそうに見ているココにあげた。
ココは喜びバリバリと食べてしまった。
頭はさすがにココにやる気にならかったので、ブドウの木の下に埋めた。
ここまでやれば、見た目には店で売っている鳥と変わらない。
この後は内臓を出す。
ここで板前マサさんがやってきた。
マサさんは新しくできた友達で、この鶏をもらってもらおうと電話をしたのだ。
鶏を絞めるのは自分でやるとしても、僕はこの鶏を食べる気にはならなかった。
自給自足を目指すなどと言いながらも、ボクは自分で飼っていた鶏を食べられない。
人間の弱みか。
だがその弱みも受け入れようと思った。
食べる気にならないんだからしょうがない。しゃあないやん。
ならばそれを喜んで食べてくれる人に譲ればいいだけの話だ。
もし逆の立場だったら、ボクは喜んでいただき、家族で骨も残さず食ってしまうだろう。
マサさんは料理のプロなので鶏をさばくのも大丈夫、というので内臓を出すのは彼に任せた。
きっと美味しく料理をしてくれるだろう。
次回は自分で全てをやってみよう。

その日の夕方、深雪と一緒に郊外の農家へニワトリを買いに行った。
今回は一挙に5羽。
生まれて3ヶ月ぐらいの若鶏を買った。
ボス1羽に若造5羽でたいした混乱もなく、ニワトリコーナーはにぎやかになった。
若鶏の羽を切り、犬小屋を作った余りの木材で巣箱を作った。
ボクは鳥たちに宣言した。
「いいか、お前たち。いずれ卵を産まなくなったらお前らを食っちまうからな。それまで庭の野菜を食べて元気に育ってくれよ」
鳥たちはそ知らぬ顔で菜っ葉をつついていた。


コメント (4)
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