あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

マウント・アルフレッド 2016

2016-02-18 | 
前々回でも書いたがフラットメイトのユキノは山歩きをしたくてニュージーランドに来た。
4年前にカナダにワーホリで行き、そこで山が好きになった。
先日はルートバーンを歩き、今度はミルフォードトラックを歩く。
明日からミルフォードを歩くという日でも、仕事が休みで天気が良いなら山に行きたい。
その日は僕も仕事が朝のうちに終わったので一緒に山に行こうということになった。
友達のカナも休みだというので3人で山に向かった。
カナは僕と同い歳で子供の歳も同じ、何かと馬が合い兄妹のような関係だ。
彼女に言わせると彼女がお姉さんで僕が弟なんだそうな。
四十の手習いではないが、30代後半で山に目覚め、勢いでハイキングガイドになってしまった。
彼女がガイドになる前にトレーニングをしたのが僕なので、今でもたまに僕のことをセンパイと呼ぶ。
もともとピアノが得意で週に何回かはピアノを教えているし、タロット占いもするので僕は彼女のことを黒魔術の女と呼ぶ。
ブラック マジック ウーマンという昔の歌が好きなのでね。



マウントアルフレッドに最後に登ったのはいつだったろうか。
もう十年ぐらい前になるかもしれない。
山頂からの眺めは素晴らしく、この山は晴れた日に行く山だ。
天候によっていく先を選べるのは地元のアドバンテージである。
登り始めは緩やかに斜面を横切るように登るが途中から直登となる。
景色は開けず単調な登りは精神的に参る。
一人でこういう所を歩くと何か修行のようだが、女の子のおしゃべりを聞きながらだと多少気もまぎれる。
女のおしゃべりもたまにはいいのだな、たまにはね。



森林限界を超えるとこれまた急な坂が待っている。
だがやはり景色が見えると気分も変わる。
下から見上げると「うへえ」と思う坂もいざ歩いてみるとあっという間に登ってしまった。
山頂付近はかなり急な斜面で転げ落ちたら痛いでは済まないだろう。
高所恐怖症の人は登れない。
友達のエーちゃんは高い所が苦手で、女の子と行ったバンジージャンプで女の子は飛んだが自分は飛べなかったという苦い経験を持っているのだが、お約束のようにその場所で断念した。
僕から見ればなんてことない斜面も、他人から見れば恐怖で足がすくんでしまう。
足がすくむので腰が引けてしまい、ますます危なくなる。
この怖さは当事者にしか分からないものなのでどうしようもない。
ただ僕は自分が感じない恐怖を持つ人を臆病者と言う言葉で片付けたくない。
それは傲慢であり、人の心が分からない大馬鹿者であり、自分の心が持つかもしれない恐怖が見えない盲だ。
どうしようもないものはどうしようもない。
かわいそうだが仕方がない。
ただそれだけのことである。



かわいそうなエーちゃんが挫折した場所を登りきると尾根の上へ出た。
尾根上は当然ながら景色が良い。
氷河を見ながら尾根道を歩き山頂に着いた。
何百回も歩いたルートバーンの谷間もはっきり見えるし、大好きなレイクシルバンの森も見える。
この山はどこからでも見える山であり、当然ながらそういった場所が山から全て見える。
毎回ルートバーンの仕事の時には必ずこの山を見るのだが、やはりたまに登って角度を変えて地形を見るのもいいものだ。





下りはユキノの人生相談を聞きながら下る。
彼女も将来に対する漠然とした不安を持っているようだ。
そこはそれ、酸いも甘いも味わったカナが上手く話を聞かせる。
ユキノの頭には漠然と『長野』と『自給自足』というキーワードがあるという。
山歩きが好きで自給自足という考えを持つ人が僕の同居人になるのは自然のなりゆきだ。
今の家に来てひと月になるが、我ながら立派な家庭菜園ができている。
この場所でもこれだけの事ができる、という証を僕は作る。
そして自給自足をしていきたいという人に、不安ではなく夢を与えるのだ。





街へ帰り我が家で皆で食事。
ムール貝のワイン蒸し、タラコスパゲッティ、ガーデンサラダ。
翌日からミルフォードへ入るユキノに栄養をつけてあげるのだ。
山に入ったらインスタントの食事ばかりになるからね。
自家製ビールで喉を潤おし、その後は白ワインへ。
食事の後はカナがタロット占い。
下山の時に話をしたのと全く同じ結果になったのも当然といえば当然なのか。
僕はと言えば疲れと酔いが一気に回り、皆より先にさっさと寝てしまった。
充実した1日というのはこういうことを言うのだろうな。







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