あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

チャリンコ野郎達 2

2010-05-25 | 
そんな絶好の景色の家に、南島を回っている山小屋がやってきた。
ヤツはこのテラスで「うお~、なんまらすげえ」と叫びながら写真をパシャパシャ撮っている。
僕はビールを出してきて、ヤツに手渡して言った。
「どうよ?この景色?」
前回ヤツはユースホステルに泊まり、僕がそこへ遊びに行ったのだ。ユースは湖のすぐ脇にあるのでこんな景色はない。
「いいねえ。うわあ、オレ幸せ。こんな景色見ながらビール飲めるなんて」
「そこだ!その感覚、それを味わうためにオレ達は生きてる。今、この瞬間、一番大切なことは、オレがいてオマエがいてこの景色があり、2人でビールを飲んでいる。シンプルだが大切だろ?」
「うんうん」
「この感覚って、山歩きとか、パウダースキーに共通してると思わないかい?」
「確かにそうかもしれないな。うわあオレ、幸せだあ」
「よかよか」
おっさんもそこに加わり、さらにビールは進み、山小屋クィーンズタウン到着の夜は更けていったのだ。
ちょうど山小屋が来ている数日間、僕は休みだった。天気も良いときている。
これは神様が「せっかく人が遠くから来ているのだから、たっぷり遊んでもてなしをしなさい」と言っているようなものだ。こういう啓示には素直に従うべきである。
僕らはそれから数日間、山に登ってビールを飲んだり、軽いハイキングに行ったついでにワラビを取り(その後のアク抜きは山小屋がやった。ヤツはマメな男だ)それをつまみにビールを飲んだり、フリスビーゴルフに付き合わせた後パブに行き(僕らの間のルールでは負けた人がビールをおごることになっている)ビールを飲んだり、家のテラスで山に沈む夕日を見ながら七輪でラム肉を焼きながらビールを飲んだりした。



次に会ったのはKさんである。Kさんは60に手が届くであろう年齢で、1人で南島縦断の旅をしていた。
ツアーの途中、僕はお客さんと一緒だったのだが、峠のてっぺんでうまそうにタバコをふかしていたKさんと話が始まり、連絡先を教えクィーンズタウンの家に招いたのだ。
話を聞くと、ドイツなどでも1人で自転車で回ったと言う。
Kさんの目は生き生きと輝き、中年特有のくたびれた感じはなく、体全体から『オレはやってるぜ』というオーラがあふれていた。
日程の都合上、Kさんは1回だけ食事を共にしただけだが、僕らは良く飲み良く食らい、楽しい一時を過ごした。
夏も中盤にさしかかった頃出会った、と言うより見かけたのは自転車で回っているであろう、1人の日本人男性だった。
僕はその時、お客さんを連れてキーサミットという所のハイキングを始めるところだったが、自転車を降りた彼にはとても話しづらいオーラがただよっていた。
『自分はこの足で回っているんだぞ。あんたたちのように楽してここまで車で来たんじゃない。一緒にしないでおくれ』というような雰囲気が感じられた。
彼もそこからハイキングを始め、歩く行程もほぼ一緒。彼はぼくらの少し前を行く。僕らはゆっくり歩くのだが、彼も写真を撮りながら行くのでつかずはなれずといった感じでキーサミットに登った。
頂上でも彼は『自分はがんばっているんだぞ』オーラを出しまくり話しかける余地を与えない。
僕はガイドなのでどこにどういうコースがあり、どう歩けばよりこの国を楽しめるかを知っている。
話をすればそういった情報をあげられるのだが、彼は自分でカラを作ってしまった。
こんな時、山小屋ならば軽~い挨拶から始まり、現地ガイドから貴重な情報を得られるだろう。
さらにヤツならば自分の経験を面白おかしく話にして、他のお客さんとも仲良くなり「アラアラ、あなたがんばってるわね、まあこれでも食べなさいよ」とおばちゃんたちがハイキングの時に常備している日本のお菓子をご馳走になるであろう。
旅のやり方は人それぞれなので、何が正しくて何が間違っているということはない。
ただ僕はその人を見て、悲しいなと思った。

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