月刊「祭御宅(祭オタク)」

一番後を行くマツオタ月刊誌

328.鯉から龍へ。好まれた地域と説話の生まれた背景(月刊「祭」2021.3月2号)

2021-03-26 15:33:00 | 民俗・信仰・文化-伝承・信仰-
今回は鯉の滝登りについてのお話です。
物語の出典やその解説は、他サイトにおんぶに抱っこです^_^;

●鯉の滝登り刺繍が好まれた地域
 この屋台は昭和初期に彫師・井波の川原啓秀、大工、縫師は共に淡路の人で、それぞれ柏木福平、梶内近一という錚々たる顔ぶれで製作されました。鯉の布団締めは当然、梶内近一によって作られたものです。


↑東這田屋台とその布団締め

 この図柄は、どうやら淡路や讃岐(香川県)で好まれた図柄だったようです。下の写真は香川県高松市牟礼町宮北落合太鼓台の布団締めで、鯉の滝登りがモチーフになっています。

↑高松市牟礼町宮北落合太鼓台の布団締め
観音寺太鼓台研究グループ(代表・尾﨑明男)『太鼓台文化の歴史』(ヴォックス)2011より

 さらに、その元をたどると人形浄瑠璃がさかんだった淡路、農村歌舞伎が盛んだった讃岐(香川県)などでは、その衣装としても好まれていたことが伺えます。

↑淡路人形浄瑠璃資料館(南あわじ市中央公民館図書館2階)
の人形浄瑠璃衣装

●鯉の滝登りの出典
 鯉が滝を上り切ると龍になるという、立身出世の象徴として用いられる図柄ですが、その出典はどのようなものだったのでしょうか? 
 こちらのサイトによると、「太平御覧」という書物(宋の時代、977-983頃成立、ウィキぺd●ア)に以下のような文章があるとのことです。

辛氏三秦記曰、河津一名龍門……大魚?集門下數千、不得上、上則爲龍。
辛氏の「三秦記」が言うには、(黄)河の一名龍門と呼ばれる滝の下に大魚が集まるが、なかなか上れないが、上りきれば龍になる

という意味で、ここでは魚が鯉かどうかは分かりません。しかし、昔の絵図の魚を見る限り、髭があるなどやはり鯉であることが多いとのことです。

●鯉の滝登りの説話が生まれた理由
 中国の『山海経(紀元前四世紀から三世紀に成立らしいバイwikiぺdia)』では、
「龍、鱗蟲之長」とあります(参考 周正律「漢代における龍の属性の多様化について」『東アジア文化交渉研究8』2015)。
龍は鱗がある動物・鱗蟲の長とされており、鯉を含む魚はその鱗蟲に属する事になります。昔の中国の動物の分類の考え方が、魚が龍になるという説話を生んだと言えるでしょう。

編集後記
 播磨国明石郡小寺のめでたき門出を迎えた若き友たちに、この拙文を捧ぐ。







327.狭間、欄間の立体感(月刊「祭」2021.3月1号)

2021-03-11 21:05:00 | 屋台・だんじり・神輿-装飾の工芸、新調、改修、修復-
●言うは易し、やるは難しの立体感考
今回は「立体感」のある狭間、欄間とはどういうものかを考えていきます。
 ここでは、「立体感がある」というのは、「立体的に見える」という意味で使います。


二次元(絵)の立体感の出し方
 まず、絵の場合はあらゆる工夫が必要となります。思いつく限りでは、①影をつける。②奥行きなどの線を一定の決まりに基づいて引く。という2つの方法があります。
 
①影をつける
 影をつければ、円が球のように立体感を持って見えてきます。





②奥行きなどの線を一定の決まりに基づいて引く
  アの絵は正面から見たビルです。
 イは奥行きの線を1つの点から出した線上に表す、一点透視図法を使ってみました。このようにすれば、立体感を感じる表現になります。
 絵の場合、平面に描く以上、なんらかの工夫が立体感を得るためには必要となってきます。



●「いい狭間、欄間彫刻」の絶対条件-立体感
 さて、ここからが本題です。狭間、欄間彫刻において、どうしても欲しいのが「立体感」です。これが感じられる彫刻が、いい彫刻となるための必要条件になると言えるでしょう。
 そのためにはどのようにすればいいのでしょうか??
 それは、「立体的」に彫ればいいと思われます。
 
立体的に彫るためには?
 「立体感を出す」ための方法が「立体的」に彫るということです。立体的というのは、実物の大きさと同じ比率で彫ることです。つまり、横幅と高さを20分の1にしたならば、奥行きも20分の1にすることです(下図B)。逆に、横幅と高さは20分の1なのに、奥行きだけ40分の1にしてしまうと立体的な彫刻は不可能になります(下図A)。
 
 


 彫刻の場合、想像を絶する努力で彫る技術を身につけることができたならば、横幅、高さ、奥行きを全て同じ比率で縮小(拡大)して彫ることで、立体的な彫刻は可能になります。
 
●狭間、欄間の工夫
 本文の前に
 この記事より、この書籍の方が、この記事で言おうとしていることを、正確に詳しく理解できます。
 
 
狭間、欄間の立体感はスペース確保の歴史
 
1 狭間に高さのない屋台
 上の写真は加古郡稲美町住吉神社印西屋台の狭間です。非常に精巧な彫刻で、狭間はおそらく一枚板で作られています。現在三木、姫路、高砂などで見られる多くの屋台よりも狭間の高さはそんなにありません(おそらく20センチ以下)。精巧で見事な彫り物ですが、狭間の高さが限られているので人物もその大きさに、合わせて作られています。
 そこからさらに大きな人物を彫るための工夫が生み出されます。

2 大きな人物を彫るために
 
 結局大きな人物を彫るには、狭間の高さを高くしないといけません。しかし、狭間の高さを高くするだけでは、上の図のAのようになってしまいます。
 そこで、板を合わせるなどして奥行きを出し、結果、前面にせり出す構造の狭間が作られるようになりました。
 上の写真は、加古川市日岡神社の旧大野屋台(現在は加古川総合文化センター所蔵)のものです。下から撮影すると狭間がせり出しているのが分かります。
 
まとめ
①狭間、欄間で「立体感」を出すためには実物と同じ比率の高さ、奥行き、幅の「立体的」なものをつくるのが、シンプルな方法です。
 
②より大きな人物をつくろうとするために、狭間の高さを高くすると、それにともない横幅を大きくし、さらに、奥行きも出さないといけない。そのためにせり出した構造のものが生まれた。