ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2016.11.30 「再発患者の日々の生活を踏まえた診療へのニーズ」について思うこと

2016-11-30 21:27:13 | 日記
 先日、所属する患者会の会長さんから「再発患者の日々の生活を踏まえた診療へのニーズ」について、会報に載せたいという依頼があった。
 会報に載った後に、自分のブログにも記事としてアップしてよいでしょうか、と尋ねたところ、私のブログなので、いつでもどうぞ、というご返事があった。
 思いのほか長くなってしまったので、このまま会報に載るかわからないが、そこで書いたものの全文、私が再発治療へのニーズに関して思うことについてを、今日の記事にしたい。

※    ※    ※        

 2008年2月、再発・遠隔転移を機に初発治療をした病院から転院し、8年半以上通院している現在の病院、主治医を初め医療関係者の皆さんの対応には基本満足しているので、とりわけこれといったニーズはない。
・・・と言ってしまうと、この後が続かないので、そう言えるように至るまでのことを簡単にメモしておきたい。

 まず、再発治療を進める上で、自分にとって何が一番大切なのかを明確に意思表示することが大切だと思う。
 それがうまく先方に伝わっていないと、前提条件が不明確なままコミュニケーションにいちいち齟齬が通じ、要らぬストレスを感じるのではないか。
 初発治療は、再発を防ぐためにどうしてもやっておくべき決まった治療があり、辛くても徹底的に叩くのがセオリーだ。けれど、再発治療はエンドレス。いかに自身のQOLをキープしながらより長く延命するかということが目的になる。

 あくまでも自分の人生、残された人生を自分がどう生きたいのか、日々をどう過ごしていきたいのかを伝えずして治療は始められないと思う。
 もちろん、色々な治療を続けていくうちに若干の方向転換をし、微調整しながら進んでいくことは多々あるだろうし、最初に決めたことは絶対覆せない、というわけではない。けれど、自分として絶対に譲れないこと~私の場合は、出来るだけ長くフルタイムの仕事を続けること、細く長くしぶとく今の普通の生活を続けること~を明確に伝え、理解して頂くことが大切だと思う。

 だから、主治医にお任せします、というスタンスはありえないと思う。主治医から色々な治療の選択肢が示されると思うが、それが全くチンプンカンプンでは立ち行かない。自分で出来る限り勉強して、どういうことを言われているのか理解すること、(完全に理解するのが難しくても、どういう状況なのか提示された治療についてなんとなく判るくらいまでもっていくこと)するのが大切ではないか。
 先生のおっしゃるとおりに、と言いつつ、いざ上手く行かないとなったら、先生が言ったとおりにしたのに、というのはあまりにお粗末だろう。

 どんな名医でも、ある患者にとってこの治療が効くかどうかは、遺伝子検査に基づいたプレシジョン・メディシンのフルオーダーメイド医療でない限り、やってみないとわからないのである。
 最終的には提示された選択肢から自分が納得して決めたのだ、という姿勢でいれば、結果は自分で引き受けられると思う。
 自分のニーズだけを必要以上に主張するよりも前に、まず自分自身が自分自身の足でしっかりと立てる患者力が必要ではないか。

 乳がんの再発治療は他の部位のがんと違ってとりわけ長い。長期戦だからこそ、勉強する時間もあるし、考える時間もある。
 実はいかがわしい広告宣伝にしか過ぎないネット情報や、耳障りの良い情報にばかり引きずられることは精神衛生上も良くないと思う。

 患者であることに一生懸命になりすぎず、患者以外の自分の時間を是非充実させたい。
治療が長くなれば、歴の浅い医療関係者に遭遇することもあるが、それもまた今後の患者さんたちが少しでも困らないよう、練習台になってあげるような暖かい目で見守ってあげたい。

 私自身、今は3週間に1度カドサイラの点滴を、6週間に1度ランマーク注射の治療を続けている。カドサイラの投与は来年2月で2年になる。副作用の悪化により10回目以降8割に減量しているものの、それでも薬が溜まってきているのか、今まで出なかった副作用も出ているし、マーカーも上昇、画像上の影が大きくなり続けている。けれど、がんそのものに起因すると思われる自覚症状はそれほどではないので、引き続き経過を注意深く観察しつつ、なるべく今のまま粘りたいと思っている。

 というのもこの後、まだ使っていないいわゆる狭義の抗がん剤がどのくらい効くのか、そしてどのくらいの副作用が出るのか、それにこれまで数々の治療によりある意味痛め続けてきた自分の身体はどこまで耐えられるのかは、やってみないとわからない。そうした不確定要素が余りに多いからだ。

 当然、日々の体調や服薬状況などはノートにメモしているし、治療日記は記録としてブログにも残している。再発治療開始以来、ノートは10冊目になった。これを診察前にざっと見直し、突出した症状や相談すべき事項を組み立てながら、診察に望む。3週間に1度、長くても10分あるかないかの主治医との大切な時間だから、無駄には出来ない。

 主治医の毎回の診察では面談だけで、触診されることは、ほぼない。けれど、それについても特に不満はない。主治医は乳腺外科医ではなく、腫瘍内科医なので、おそらく触診については専門科ではないからだ。これについては年に1度、職場の検診を利用しているし、本当に必要だと感じれば、自分から依頼すればよいし、主治医が必要だと感じれば、乳腺外科への受診がセットされるに違いない。そういう時はこれまでも対応してくださってきたので。

 これまで、治療の度にあれこれ出た副作用のために速やかに院内連携を取って頂き、皮膚科、婦人科、口腔外科、脳神経内科にもカルテがある。大きな病院だからこそ、のチーム医療に支えられていると感謝している。

 通院が長くなり、お世話になる化学療法室の看護師さんたちの異動も激しいが、以前お世話になった化学療法認定看護師さんが、病棟から出張してきて待ち時間に話を聞いてくださることもある。気にかけて頂けるということが伝わってきて、有難い。
 また、治療薬が変わるときには薬剤師さんも化学療法室にやって来て、説明をしてくださるし、様子も見てくれる。これも有難い。

 自分や家族にとって、自分はOnly oneの存在だから、どうしても医療者に対する要求が大きくなってしまう。これは人間だから誰でもそうなのだと思う。けれど、だからこそグッと堪えて、自分は患者のうちのOne of themだということをもう一度冷静に考えると、却って上手くいくような気がする。

 道理をわきまえないような我儘はそうそう出なくなるだろうし、もし自分が多忙な医療関係者の立場だったらどうするか、と想像を巡らせれば、自分のことが全て、自分を最優先に扱ってくれ、とあれこれ要求する患者さんに対するよりも、自分の立場をわきまえて、必要以上の無理をいうことなく、冷静に自分の希望を伝える患者さんに対して、私だったらより力になってあげたい、と思うだろう。

 突き詰めれば、人対人のこと。コミュニケーション能力を磨くことが必要ではないか。医療関係者も人の子である。だからこそ相手の立場を尊重しながら、徒らに声高に自分のニーズを振りかざし、それが叶わなかったら文句を言うのではなく、淡々と冷静に自分の言葉で繰り返し伝えること、これこそ長い再発治療を心穏やかに乗り切っていく極意のような気がする。
コメント
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