ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2016.11.28 あるタクシー運転手さんとのこと

2016-11-28 22:03:32 | 日記
 先日のこと。思いのほか、買い物の荷物が重くなって、うーん、タクシーに乗ろうかどうしようかと迷った。最寄り駅から自宅までゆっくり歩いて15分。乗るか乗らないかは微妙な距離で、歩こうと思えば十分歩ける。

 普段お世話になるタクシー会社は決めていて、呼ぶ時は必ずその会社だし、タクシー乗り場で見かければ順番を譲ってもその会社の車に乗る。どの運転手さんも親切で丁寧だからだ。ただ、あまり台数が多くもないようで、いないことも多い。
 もし、あの会社の車がいなければ歩いて帰ろう、と思ったら、たまたま乗り場の控えの出車順番待ちのところに1台入ってきた。これ幸いと乗せて頂くことにした。

 行先を言って席に座ると、どうぞ、と懐かしいミルクキャラメルをくださった。「わあ、懐かしい、子供の頃からありましたね、美味しいですよね」と言うと、「80代くらいのおじいさん、おばあさんに差し上げても『子供の頃に食べた、懐かしい』と言われるんです。それで、いつからあるのか調べたら1913年、103年も経っていたんですよ」と仰る。「そんなに長いこと、第一次大戦前ですものね」としばしそのキャラメルの話で盛り上がる。

 そして、ふと思い出す。この光景、いつかも経験したような・・・。そう、父が亡くなって、斎場に納棺して帰る時に、やはりこのタクシー会社を呼んで、母と2人で乗せてもらった。その時には母も私も結構憔悴していたのだけれど、運転手さんから「飴ちゃん、どうぞ」とキャンディを頂いたのだった。その時口に含んだキャンディのほっとする甘さが凝り固まった心をほどけさせてくれたのを覚えている。そして、運転手さん自身、この斎場でおばあ様を送ったばかりだ、という話をされていたのだった。

 もしや、と思って「間違っていたらごめんなさい。運転手さんがみな、こうしてキャンディをくださるなどということはないですよね。実は夏に父が亡くなった時、斎場から母と乗せて頂いたのですが、その時にもキャンディを頂いたんです。もしかしてあの時の運転手さんではないですか。おばあ様を同じ斎場で見送られたというお話をなさっていたと思うのですが」と。

 ビンゴだった。「覚えていてくださって、ありがとうございます。僕です。」と。「確かに夏の間はキャンディでした。塩味だったかな」と。「あの時はありがとうございました。母も私も疲れていて、甘いキャンディに癒されたのですよ」と言うと、「色々大変だったでしょうね。亡くなったのは母方の祖母で、施設に入っていたのですが、自分の母は働きながらよく介護に通っていて、我が母ながらよくやっていると思ってみていたのですが、亡くなった後、あれもしてあげればよかった、こうしてあげればよかった、とよく言っていました。」と。

 そんな話をしながら家の前についてしまったのだけれど、「まだ亡くなる前に遺影の写真をあれこれ探していた母のことを思い出します。どんな気持ちだったんだろうと思うと身につまされて・・・」とのこと。まだ30歳になったかならないかの若い運転手さんである。お名前をチェックしたらKさん。

 「父は急なことだったので、遺影もひと月前にデイサービスで開いて頂いた誕生日会の写真を使いました。古い写真じゃなくて、本当に直前のものが使えたのですよ」と答えた。「だんだん、月日が経って気持ちが癒えますよね。お母様、どうぞお大事に。」と言われ、「またお世話になります」とお礼を言って車を後にした。

 乗っている時間は僅か5分。ずっと喋っていたので、頂いたキャラメルを口に入れる暇がなかった。「夫が好きなので、お土産にします」とバッグに閉まったら、「ご主人がお好きなら」と追加で数個のキャラメルが領収書とともに手の平に置かれた。

 こんな偶然があるのだな、ととても暖かい気持ちになった。不愛想な雰囲気の方も結構いる中で、タクシーでこんな気持ちになるとは、とても幸せなこと。
 やはりこれからもこの会社を贔屓にしよう、あの若いKさんがこれからも沢山のお客さんたちと素敵なやりとりができますように、と思う出来事だった。
コメント (2)
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