2023年9月8日(金)…週遅れ
白露 旧暦八月節気(新暦9月8日頃)
残暑も感じられる中、次第に秋の気配が濃くなってくる時期です。
白露とは「しらつゆ」の意味で、野山の草にしらつゆが宿り、秋気が本格的になることを教えています。
中秋の名月もこの頃が多く、虫達のすだく声も既に盛んです。日によっては朝晩、秋の趣きを肌で感じられる時候です。
(『和の暦手帖』P.74-75)
七十二候
白露初候 草露白(くさつゆのしろし)新暦9月8日~12日
白露次候 鶺鴒鳴(せきれいなく) 新暦9月13日~17日
白露末候 玄鳥去(つばめさる) 新暦9月18日~22日
台風13号の接近・通過で、白露の趣とはかけはなれた豪雨の一日となった。どっちみち二十三区内では、虫のすだく声を聞くすべもないが。
「すだく(集く)」
1 虫などが集まってにぎやかに鳴く。「草むらに―・く虫の音 (ね) 」
2 群れをなして集まる。むらがる。
2 群れをなして集まる。むらがる。
「露霜の秋に至れば野もさはに鳥すだけりと」〈万・四〇一一〉
出典:デジタル大辞泉(小学館)
原文は大伴家持の長歌である。末尾に全文を転載しておく。越の国と聞けばまず新潟を連想するが、敦賀から庄内の一部に至る広い一帯を指したもので、もとは高志と書いた。「越と名に負へる 天離る 鄙にしあれば」とは見くだしているようだが、続く叙述からはむしろ田舎の自然を讃仰するもののように読める。自慢の鷹が飛び去ってしまったのを惜しみ、恋焦がれる歌である。作者の夢に現れた親切な娘は誰だろう?
鶺鴒(セキレイ)は通勤途上でも旅先でもよく目にする馴染みの鳥だが、声に注意を払ったことはなかった。ネットには、オスが求愛や縄張り主張のために出す声について「春から夏にかけての繁殖期の間にだけ鳴くものが多い 」との解説が見える。白露次候にあてられるのは、涼しい地域に暑さを避けていたセキレイが、秋になって雪の降らない地域に移ってくることによるものか。これも今ではまだ少し早いようだ。
思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌]
【原文】
大王乃 等保能美可度曽 美雪落 越登名尓於敝流 安麻射可流 比奈尓之安礼婆 山高美 河登保之呂思 野乎比呂美 久佐許曽之既吉 安由波之流 奈都能左<加>利等 之麻都等里 鵜養我登母波 由久加波乃 伎欲吉瀬其<等>尓 可賀里左之 奈豆左比能保流 露霜乃 安伎尓伊多礼<婆> 野毛佐波尓 等里須太家里等 麻須良乎能 登母伊射奈比弖 多加波之母 安麻多安礼等母 矢形尾乃 安我大黒尓 [大黒者蒼鷹之名也] 之良奴里<能> 鈴登里都氣弖 朝猟尓 伊保都登里多C 暮猟尓 知登理布美多C 於敷其等邇 由流須許等奈久 手放毛 乎知母可夜須伎 許礼乎於伎C 麻多波安里我多之 左奈良敝流 多可波奈家牟等 情尓波 於毛比保許里弖 恵麻比都追 和多流安比太尓 多夫礼多流 之許都於吉奈乃 許等太尓母 吾尓波都氣受 等乃具母利 安米能布流日乎 等我理須等 名乃未乎能里弖 三嶋野乎 曽我比尓見都追 二上 山登妣古要C 久母我久理 可氣理伊尓伎等 可敝理伎弖 之波夫礼都具礼 呼久餘思乃 曽許尓奈家礼婆 伊敷須敝能 多騰伎乎之良尓 心尓波 火佐倍毛要都追 於母比孤悲 伊<伎>豆吉安麻利 氣太之久毛 安布許等安里也等 安之比奇能 乎C母許乃毛尓 等奈美波里 母利敝乎須恵C 知波夜夫流 神社尓 C流鏡 之都尓等里蘇倍 己比能美弖 安我麻都等吉尓 乎登賣良我 伊米尓都具良久 奈我古敷流 曽能保追多加波 麻追太要乃 波麻由伎具良之 都奈之等流 比美乃江過弖 多古能之麻 等<妣>多毛登保里 安之我母<乃> 須太久舊江尓 乎等都日毛 伎能敷母安里追 知加久安良婆 伊麻布都可太未 等保久安良婆 奈奴可乃<乎>知<波> 須疑米也母 伎奈牟和我勢故 祢毛許呂尓 奈孤悲曽余等曽 伊麻尓都氣都流
【訓読】
大君の 遠の朝廷ぞ み雪降る 越と名に追へる 天離る 鄙にしあれば 山高み 川とほしろし 野を広み 草こそ茂き 鮎走る 夏の盛りと 島つ鳥 鵜養が伴は 行く川の 清き瀬ごとに 篝さし なづさひ上る 露霜の 秋に至れば 野も多に 鳥すだけりと 大夫の 友誘ひて 鷹はしも あまたあれども 矢形尾の 我が大黒に [大黒者蒼鷹之名也] 白塗の 鈴取り付けて 朝猟に 五百つ鳥立て 夕猟に 千鳥踏み立て 追ふ毎に 許すことなく 手放れも をちもかやすき これをおきて またはありがたし さ慣らへる 鷹はなけむと 心には 思ひほこりて 笑まひつつ 渡る間に 狂れたる 醜つ翁の 言だにも 我れには告げず との曇り 雨の降る日を 鳥猟すと 名のみを告りて 三島野を そがひに見つつ 二上の 山飛び越えて 雲隠り 翔り去にきと 帰り来て しはぶれ告ぐれ 招くよしの そこになければ 言ふすべの たどきを知らに 心には 火さへ燃えつつ 思ひ恋ひ 息づきあまり けだしくも 逢ふことありやと あしひきの をてもこのもに 鳥網張り 守部を据ゑて ちはやぶる 神の社に 照る鏡 倭文に取り添へ 祈ひ祷みて 我が待つ時に 娘子らが 夢に告ぐらく 汝が恋ふる その秀つ鷹は 松田江の 浜行き暮らし つなし捕る 氷見の江過ぎて 多古の島 飛びた廻り 葦鴨の すだく古江に 一昨日も 昨日もありつ 近くあらば いま二日だみ 遠くあらば 七日のをちは 過ぎめやも 来なむ我が背子 ねもころに な恋ひそよとぞ いまに告げつる
【訳】
ここは大君の治められる遠い朝廷のひとつ。雪降り積もる、その名も越中、遠く遠く田舎の地。山が高く、川は遠くから白々と流れる。野は広く、草が生い茂っている。鮎が走る夏の盛りになると、島の鳥たる鵜を操る鵜飼いが行われる。流れ行く川の清らかな瀬ごとに篝火をたき、難渋しながら上っていく。 露が木々を濡らし、霜が降りる秋ともなれば、野も鳥たちでいっぱいになり、男仲間を誘って鷹狩りをする。鷹といえば、数々いるけれど、矢形尾(やかたを)の形をした、すなわち矢羽根のような尾羽をもつ、我が大黒{大黒とは鷹の名前である}は自慢の鷹。その大黒に白塗りの鈴を取り付けて朝猟に出る。たくさんの鳥たちを追い立てる。夕猟には勢子たち(追い立て役の人々)が鳥を追い立て、追うたびに鷹が鳥たちを取り逃がすことなく、手を離れたかと思うと舞い戻る。大黒のような鷹は他に得難い。こんな手慣れた鷹はほかにないだろうと、心中得意になってほくそ笑んでいた。そんなとき、ろくでなしの爺い奴(め)が、何のことわりもなしに、どんよりと一面に曇った雨降る日、鷹狩りするとだけ告げて出かけた。ところが、爺い奴(め)は「大黒は三島野を後にして二上山を飛び越え、雲の彼方に飛翔していってしまいました」と、帰ってきてしゃがれ声で告げた。とりあえず大黒を呼び戻す方法も思い浮かばず、どう言っていいかもわからない。心中は烈火のごとく燃えさかったものの、ため息がでるばかりだった。それでも、大黒に会えるかもしれないと思い、山のあちこちに鳥網を張り、見張りをつけた。山を祀る神社に照り輝く鏡と倭文織物を取り添えて祈り続けた。こうして待っていると、娘子(おとめ)が夢に出てきて告げた。『あなた様の恋求める鷹は、松田江の浜を跳び続け、コノシロが捕れる 氷見の江を過ぎ、多古の島辺りを飛び回り、アシガモが群れる古江に一昨日も昨日も飛んでいました。早ければもう二日ほど、遅くとも七日の内には戻って来ますよ、そんなに恋い焦がれなさらなくとも』と。
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